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2021年06月04日06:31

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中編小説 石鹸怪獣へドラ 承1

承 1

 各地で水道水からオタマジャクシが発生していると報告を受けたカエルの学者が発見したオタマジャクシを調べると、それはオタマジャクシではなくへドラの幼体である事に気付き、政府に報告した。
 その報告を聞いた政府は急いで水質調査を始めた所、幾つかの工場から流れる排水からへドラが発生している事を突き止める。
 そして、その工場は全て夫婦の開発した兵器、『対怪獣用溶解液』を作っている工場だった。
 怪獣発生の原因が自分達の作っている兵器が原因だと気付いた二人の科学者は代替案を考えなければいけなくなり、科学研究所に籠ってしまいますます家に帰れなくなってしまった。
 そうしている間にも、
 科学者の家ではマサルとトモの穏やかな生活が続いていた。
 マサルは勉強こそ出来たが、コミュニケーションがうまく出来ず他の生徒に虐められていた。
『マサル、お前背が小さくて子どもみたいだよな!ママから美味しいご飯食べさせてもらってねえんじゃねえの?』
『そんなチビじゃあ一生大人になんかなれねえぞ』

 家に帰っても慰めてくれる両親はいない。しかし『トモ』がいる事で彼の心は壊れず、彼は今日もゴミの弁当をトモに食べさせ、オタマジャクシがゆっくりゴミの弁当を食べる所を見守っていた。
 ある日、マサルはゴミの中から使ってないタバコを見つける。親がタバコを使ってる所を見ていたマサルは、
 『大人は子どもを育てるから大人なんだ、僕はトモを育ててるから大人になれるんだ、大人ならタバコを吸う事だってできる筈だ』
 そう思い一度は真似しようとするが、ライターを頑張って火を付けてみたものの火を口元に近づけるのが怖くて思わずライターを投げてしまう。
 ライターは運悪くトモの水槽近くにあるゴミ袋に引火してしまい、メラメラと燃え始める。
 驚いたマサルは火を消す為に急いで風呂から水を汲んで火を消そうとするが、そこで不思議な光景を見てしまう。
 なんとゴミ袋から燃え上がった炎の煙が、トモのいる水槽に吸い込まれていくのだ。まるでそこに穴があるかのように水槽に煙が飲まれていく事を思わず見ていたマサルだが、すぐに正気に戻り火に水をかけて消化した。
 
 火を消したマサルがトモを見ると、トモは少し大きくなり、燃えカスになったゴミをじっと見ている。
『もしかして食べたいのかな』
 そう思ったマサルは燃えカスになったゴミを水槽に入れると、オタマジャクシはそれをパクパクと美味しそうに食べ始めた。 
 ゴミを美味しそうに食べるオタマジャクシを見て、マサルは少し嬉しくなった。
『トモは、焼いたゴミと煙が大好きなんだね』
 そう思ったマサルは、沢山あるゴミを少しずつ食べさせようと決めた。
 その頃、科学研究所ではへドラの研究が進められていた。
 へドラは昔この国を襲った事があり、ゴジラ並、或いはそれ以上の脅威として恐れられている存在だったのだ。
 早速、政府はへドラ発生地帯の水質調査を始め、まだ幼体のへドラを駆除していく。
 へドラは乾燥と電流に弱い事を知っていた為に、駆除方法は研究者夫婦が前に開発していた電気銃が使用され、へドラの幼体は次々に駆除されていく。
 そして、その調査区域にはマサルの家も含まれていた。
 マサルは何も知らずに家で少しおおきくなったオタマジャクシを見ている。
 そして、調査員がマサルの家の玄関まで向かった時、突如緊急ベルが周囲一帯に鳴り響いてしまう。
 ゴジラが現れたのだ。それもマサルの家の近くで。

 調査員はすぐに住民に避難を促すため、マサルの家の扉を叩く。
 マサルはチェーンをかけて扉を開けると、屈強な男が必死な表情で叫ぶ。

『ゴジラが現れた、君は急いで避難するんだ!この家には他に家族はいるか!』
『ぺ、ペットならいるけど・・』
『ダメだ、ペットは連れていけない!
 案内するから必要最低限のものだけ持っていくんだ!』

 その言葉を聞いて、マサルは震え上がった。
 もしゴジラが家に来たら、トモが潰されてしまう。
 マサルはペットボトルを幾つか持っていき、その中にこっそりトモを入れようとすると、何故かトモはとても熱くて一度は手を離してしまう。
 最初は驚いたマサルだったが、すぐに手袋をしてトモを水の入ったペットボトルに移して家をでて、大人と一緒に走り出す。
 急いで避難所まで走る途中、調査員が排水溝を小さなへドラの幼体を泳いでいるのを発見し、即座に電気銃で駆除する。
 それを見たマサルは驚き、調査員になぜこんな酷い事をするのか尋ねた所、
『こいつらはへドラという危険極まりない怪獣なんだ、だから潰さないといけないんだ!』
と怒鳴るように返され、何も言えなくなってしまう。
 そこには沢山の幼体へドラが住んでいるように泳いでいて、それを見た調査員が次々に電気銃で駆除していくが、それを見たマサルは恐怖で震え上がり、こう思うようになる。
『大人は怖い。いつも僕達子どもを傷つける理由を考えているんだもん』
 そして、それを見たのはマサルだけではなかった。
 トモの入っていたペットボトルが急に煙を噴出し、その勢いで蓋が外れてしまったのだ。
 マサルは何とかトモをこぼさずにいたが、煙は止まる気配が無く周囲が煙で覆われてしまう。
 調査員は突然現れた煙に思わず驚き、マサルはその隙に調査員から逃げ出してしまう。すぐに追いかけようとした時、
 おぞましい咆哮が街中に響き渡る。
 ゴジラは既に、市街まで侵入していたのだ。
 政府、怪獣対策班達は慌てていた。
『なぜゴジラが入り込んでいるんだ!』
『市街地が近く、避難が完了してない事で殺傷能力の高い武器が使用できず、ゴジラの侵入を許してしまって・・!』
『ゴジラめ!生きた大災害め!』

 マサル少年は一人煙を吐き出すペットボトルを大切に握りしめながら走り続けていたが、やがて怪獣の声に怖くなってしまう。
 マサルが見上げると、ゴジラがビルに向けて熱戦を吐き出し次々と破壊していた。
 生まれて初めて生きた大災害を見て、マサルはこう呟かずにはいられなかった。

『怖い、まるで大人みたいだ・・!』

 黒いペットボトルの中では、トモもまた同じようにゴジラを見ていた。オタマジャクシにはないはずの赤い眼を煌めかせながら。

承2に続く
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