『緩やかな朝食』
スス(おはようございます、ススです。
突然ですが私は今非常に困っています。
昨日、アイと果心の戦いが終わった私達は疲れ果てて、この城で一夜を過ごす事になりました。
少し前まで罠やら危険な物ばかり置いてあった筈の城はいつの間にか綺麗に整理されていて、私達はふかふかのベッドで眠る事が出来ました。
そして朝、朝食を食べるため食堂に降りたのですが・・)
ススの眼前には、机に座る二人の姿が見えていた。
一人はダンク。普段は包帯と中身空洞だから表情が良くわからない筈なのに、ススの目の前にいる彼は机に上半身を載せてぐったりしていて、とても疲れている状態になっている。
一人はシティ。いつも朗らかな笑顔を浮かべる彼女ですが、今日はいつも以上に素敵な笑顔を見せている。
まるで今まで願い続けた夢が叶った時の少女のように無垢で綺麗な笑顔を見せるシティを見たススは悪寒で背筋が震えそうになるのを黙っていた。
スス(そう、そういう事なのね。
二人とも、遂にそんな関係になったのね・・)
シティ「ススー、おはよー!
ここのパン凄く美味しいわよ!早く一緒に食べましょうよ!」
スス「・・あ、それより赤飯炊いた方が良いわよ。それと酸っぱい料理も用意した方が良いわね、シティさん」
シティ「スス?何を言って・・え、シティさん??」
スス「さあて私はちょっとご馳走作りに言ってくるわ。『あの』シティに、遂に、遂に、遂に恋人が出来るなんて・・・・!
早く皆に伝えなきゃ!
あと超・豪華な赤飯を用意しなくちゃ!!」
シティ「ま、待ってスス!
いや本当に待って!?なんか凄く危険な誤解をしているわああ!!」
ダンク「(動かない。ただの包帯ミイラのようだ)」
皆が泊まっている部屋に走り出すススと、それを急いで止めようとするシティ。
二人のおいかけっこが、いま始まった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
スス「なるほど、つまりシティはダンクに昨夜の晩に今まで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすごとくおもいっきり殴り続けて、
朝方まで殴ってようやくスッキリしたわけなのね。
なんだ、それならそうと早く言えば良いのに」
シティ「ぜぇ、ぜぇ、貴方がトチ狂った結論を出すからこうなるんでしょうが・・!
あ、あんた能力を使わなくても凄い早いから、息切れがきつい・・!」
ダンク「す、スス・・!
今の俺は、痛覚が暴れまくってツッコミ入れられないくらいキツイんだ・・!
まさか、シティがリーダーの何倍もの力と速度で何時間もラッシュしてくるとは思わなかった・・!」
シティ「ふぅ、ふぅ、ふ・・ふふふ。
私は濃厚で最高に楽しい時間を過ごせたわ!
出来ればもう一回殴(や)り合いたいぐらいだけどね!」
ダンク「勘弁してくれ・・」
ススがダンクの包帯で出来た体を良く見ると、あちこちに拳の跡が浮かび上がっている。
たとえ痛覚があったとしても、柔らかい素材の包帯をいくら強く殴ろうがダメージは微々たるものの筈だ。
なのにその体中に刻まれた拳の跡はよほど強く、何回も何百回も殴られた事を示している事に気づいたススは心の底からシティを怒らせないように誓った。
スス(うわあ、私は絶対にシティの怒りの買わないようにしよう)
シティ「所でススは何を皆に伝えるつもりだったの?」
スス「あ、シティが遂にダンクに告白をしたのかなと」
シティ「・・・・っ!?
ち、ちちちちちち違うわよ!そ、そそそそんな訳無いじゃないそんな事するなんて恥ずかし、いやえーと、あれよ私達は永遠に殴り合う立場にいるからそっちの話題は絶対無いったら無い、いや少しぐらいならあるかもしれないけどそれは誤解の範疇でありつまり私が言いたいのは・・!
わ、私とダンクはまだそんな立場にならないって事よ!分かった、スス!」
スス「・・・・ええ、分かったわ」
ススはとてもとても楽しそうな笑みを浮かべながら、心の中で立てた誓いを投げ捨てていた。
そうして三人が改めて椅子に座った時に、食堂の扉がまた開いた。
黒山羊「メェ!
皆・無事!我・歓喜!」
スス「あら黒山羊じゃない。
確か白山羊を修理する為に戦線離脱してたみたいだけど・・白山羊の調子は大丈夫なの?」
白山羊「私なら、大丈夫だ・・」
黒山羊の巨体の背後から白山羊が顔を出す。ハサギに腹部を撃ち抜かれていたが、見た所あまり痛みを見せていない。
白山羊「私はアンドロイドですからね。
こんなの故障箇所を取り替えればすぐに復帰出来るんですよ。
なのにこの黒山羊ときたらあんなに慌てて・・」
黒山羊「め、メェ・・。
申し訳・ない・・でも、白山羊・無事・・我・安心・・我、家族、白山羊だけ・・」
白山羊「・・・・ふ。たしかに、私達はいつも『ふたり』で頑張ってきましたからね。
まあ、礼だけは言わせて貰いますよ。
ありがとうございます、黒山羊」
黒山羊「メ、当然・・メェェー」
シティ(あれ、今何か違和感が・・?)
白山羊の礼を聞いて、黒山羊は嬉しそうに笑顔を作る。白山羊は「アンドロイドが笑っても愛想よく見えませんよ」と小さく釘を打ちながら席に座った。
スス「白山羊、あんたが無事で良かったわ」
白山羊「あらスス、貴方までアンドロイドの私達の心配しなくても・・」
スス「心配するわよ。
白山羊は私の料理仲間なんだし。いつも助けてもらってるし、なにより、あんたとまた会えて嬉しいもの」
白山羊「・・・・・・」
白山羊は少しだけ笑みを見せようとして、すぐに仏頂面に戻る。
それでもススは白山羊が一瞬だけ笑みを見せてくれた事がほんのり嬉しかった。
その時、また食堂に誰かが入ってくる。
ライが包帯だらけの男、アイの肩を背負いながら食堂に姿を現したのだ。
ライ「おはよう、麗しき美しき素晴らしきレディー達!
今日も世界一のイケメンサイコパス、ライが挨拶に来た、ZE!(前歯キラーン)」
スス「うわ、あ、いや、おはよう・・」
白山羊「(無視)」
シティ「おはよー、ライ。
あんた誰を担いでんのよ」
ライ「ふ、これはな。
俺達のリーダー、アイだ」
アイ「きゅう・・」
スス「リーダー!?
ちょっと、何してんのよ!重体の男を運ぶなんてどうかしてるわ!」
ススが怒るのも無理はない。
何故ならアイは昨日、何度も何度も激闘を繰り広げたせいで疲労と傷がたたり、ダンクの全力の治癒魔法をかけて尚、1ヶ月は動けない状態だったのだ。
そんな彼を食堂まで運ぶなんて、ゴブリンズが許すわけがない。
ライ「なんだお前達、こいつの生命力のしぶとさを知らねえのか?
ほれ、アイ。飯の匂いだぞ?」
アイ「め、めし・・」
アイが包帯だらけの顔の間から薄目を開けて目の前のパンを見据える。その瞬間、彼の目がカッと見開き、傷だらけの体をぴょんと飛び上がらせて走り出した。
アイ「うおおおお、飯を食わせろおおお!」
スス「ギャアアアアリーダーがゾンビになったああああ!!??」
アイ「飯イイイイ!飯イイイイ!
ハアアアアラヘッタアアアアアア」
ダンク「やべえ、あいつ俺よりミイラゾンビになってやがる・・!」
シティ「おのれ、私のパンを食べさせてたまるかアアアア!!
勝負だリーーダアアア!!」
アイ「グワオオウウ!!
メシイイイイ!!」
怪物化したアイとシティが激闘を繰り広げる中、ライはフフンと鼻を鳴らす。
ライ「どうだ、驚いたか!
こいつはどんな重傷でも飯の時間だけは忘れねえんだよ!
そして飯を食わないとゾンビ化して食堂の飯を全て平らげてしまうんだ!」
黒山羊「解説、時間、違う!
誰か、アイ、拘束!!」
黒山羊が手を伸ばすが、アイは軽々と黒山羊の背丈の上まで跳躍し、黒山羊の頭を踏み抜いて食堂に直進していく。
黒山羊「メェっ!?
我の頭、踏み台にしたっ!?」
白山羊「な、なんて身のこなし・・!
あの人主人公なのに闇堕ちし過ぎでは!?」
アイ「メエエエエシイイイイ!!!」
アイが食堂、その台所に飛び込もうとした瞬間・・大量の白い毛糸がアイの全身に絡まり、アイはあっさり毛糸の玉の内側に呑まれてしまった。
アイ「のわああああっ!?」
「白糸罠『蜘蛛雲』にかかりましたね。
全く、飯は椅子に座って待つのが礼儀です。
台所に侵入するなんて野蛮人以外の何者でもありませんわ」
シティ「ナイスよ、チホ!」
台所に立っていたのはチホだった。
いつものメイド姿に割烹着をかけ、じろっとした目で糸玉のアイを睨み付ける。
アイ「飯イイイイ!タベルウウウ!
ガウウウウ!」
チホ「完全に野獣ですわ。
御姉様の上司様がこんなんでワタクシ、本当に心配です・・」
スス「それは、その、ごめんね・・?」
ライ(こいつの上司も大概じゃねえか、というツッコミは無しでいいな・・)
一緒、バナナを大量に頬張る巨体の男を思い浮かべたライはしかし、目の前の女性に気遣い思うだけで留めた。
黒山羊がアイの入った毛糸玉をむんずと掴んで食堂に戻し、一番奥の席にがんじがらめに縛り付けた後で顔の部分だけ毛糸を引きちぎると、
中からガルルルと唸るアイが顔を出していた。
アイ「ガルルル、俺、飯、タベル・・!」
白山羊「おいたわしや、リーダー。
遂に欠片しかない知性まで捨てたのですね。ささ、私が食べさせてあげますから口をあーんしてください」
アイ「メシイイガボッ!」
アイが口を開けた瞬間、白山羊はスパゲッティを無理矢理口に突っ込ませる。
更に何処から出したのか大きな「ろうと」を口に突っ込ませ、あらゆる料理を流し込ませる。
アイ「モガッ!?モガガガガガっ!!?」
白山羊「さあて、ここからは質から量です!
シェフ・チホ!じゃんじゃん料理を持ってきなさい!全てこいつにぶちこんでやります!」
チホ「え、それはもしかして野蛮な殿方上司を亡き者にして御姉様を手に入れるチャンス・・?!
分かりました!じゃんじゃん運びますね!」
アイ「モガアッ!?」
白山羊「ほらほら、美女からのあーんで美味しい朝食が食べられるんですよ!?
喜びなさい讃えなさい感謝しなさいさあさあさあ!」
黒山羊(あ、やべ。
久しぶりに白山羊のドSスイッチが入った)
アイ「モガガガガガッ!モガッモガアアアアっ!!」
白山羊が次々に料理をろうとの中にぶちこみ、アイはそれを次々に凄い勢いで食べていく。
白山羊「オーッホホホホッ!!
さあさあさあさあ!
食べて食べて食べなさい!じゃんじゃん食べてしまいなさい!」
アイ「モガッモガアアアアッ!」
食べ続けるアイ。
詰め込み続ける白山羊。
皆が固唾を飲んで見守る中で勝ったのは、アイだった。
アイ「モガモガモガアアッ!!」
白山羊「な、なに!?
こいつ、全ての料理を瞬時に平らげて・・!?く、料理が間に合わない!」
チホ「ば、バカな!
あれだけの料理を全て平らげるなんて・・!?」
アイ「モガアアアアっ!!」
アイは全身に力を入れ全身を包む毛糸玉を突き破って破壊した。
アイ「モオオオラアアアアアっ!!
俺、完・全・復・活っ!!」
全員「エエエエエーーーっ!?」
アイ「フーッハハハハハ!!
いやあ美味しい料理をありがとうイナカシェフ!お陰で元気いっぱい力一杯だぜ!」
白山羊「ば、バカな・・あれだけの量を全て食べるなんて・・!」
アイ「いやあ本当に上手い料理だ!
お陰で体力全快、怪我も回復・・」
ルトー「脇腹ツン!!」
アイ「ぎゃあああああああっ!!?」
元気よく立ち上がろうとしたアイの脇腹を、ルトーが脇腹をツンと触っただけで悲鳴をあげて転がった。
ルトー「ヨシ!
リーダー、まだ傷や怪我が治ってないんだから安静にしなよ!
昨日、皆でアイの身体を治療しまくってようやくそこまで回復出来たんだからさ!」
アイ「だ、だからってお前わざわざ骨折してる部分をつつくなよ・・イテテ!」
ルトー「食堂で暴れるからさ、全く。
朝ごはんを食べる時は静かには常識でしょ、ほら、白山羊やチホや皆にも後できちんとお礼を言うんだよ」
アイ「お・・おう・・」
あれだけ暴れそうな雰囲気だったアイがしゅんとしながら席に座り、小さく白山羊とチホに『ありがとな』と礼を呟いた後に黙々と飯を食べ始める。
それを見ていたシティは小さな声でススに話しかけた。
シティ「ね、ねえスス。
ルトーがアイにあんなに強気に出るなんて珍しいわね・・」
スス「ホントね、いつもならアイにへーこらへーこら従うのに・・まるで今のルトーは、何か大きな使命を背負った戦士のような貫禄があるわ・・」
シティ「ルトーも結構頑張ってたし、男として成長したという事かしら・・?」
ルトー「・・さて、始めようか」
二人「!!」
ススとシティが見ている前でルトーは机に向かい、ポケットから黒くて小さな箱・・テープレコーダーを取り出す。
そして服の内側から取り出したのは、ちょっと古くさいテープ。
シールには『☆盗聴テープ☆』とデカデカと描かれている。
それをテープレコーダーにセットし、イヤホンマイクを耳にはめる。
ルトー「さあ、スイッチ・・」
スス「ゥオオラアアアア!!!」
ルトーがスイッチを押す直前、ススが何の躊躇もなくテープレコーダーを蹴飛ばした。テープレコーダーは宙に舞い、壁に当たって中のテープごとぐしゃぐしゃに破壊されてしまう。
ルトー「ぎゃあああああああっ!
何をするだぁーーっ!!」
スス「何するだーじゃないわよ!
あんた、なに皆の前で堂々と危ない事してるわけ!?
というかあのテープ、誰の何を盗聴したのよ!事と次第によっちゃあ流石の私も怒るわよ!まさか、破廉恥な事を考えてるわけじゃないわよね!?」
ルトー「な!?ななななそんな訳無いじゃないかかか!?
ぼ、ぼぼぼボクはただ果心の部屋に誰かが話してる声が聞こえたから盗聴テープを扉の前に仕掛けただけだよ!破廉恥な気持ちは決してない!」
スス「ギルティよバカ!
女性の部屋を盗聴するなんてサイテーもサイテーだわ!」
シティ「ルトー、それは私も切れるわー。
あんた半世紀ぐらい地下に沈ませてやるぐらいキレるわー」
ルトー「うわあああ待って待って!
なんか真剣な話が聞こえたんだよ!それを聞きたくて盗聴をしただけだよ!」
ライ「お、おいちょっと待て!
じゃあ今壊れたのはビューティー果心の夜会話なのか!?
おいおいアダルティな香りがするじゃねえか!俺が責任持って修理するからそれ寄越せ!」
スス「はーい始末するバカが増えましたー!くたばれエロガキどもおおお!」
ススが二人に向かい蹴りを入れようとした瞬間、ルトーは横にいるダンクの、ライは背後にいるアイの肩を掴み、無理やり前に引きずり出す。
ダンク&アイ「へ・・?」
キョトンとする二人に、容赦ないススの蹴りが炸裂する。
ダンク「ぐはあああああ!」
アイ「ぎゃあああああ俺達無関係イイイっ!」
ライ「必殺、『コワイノカベネット』!」
ルトー「隠し技(コマンド)『ミテコイ・カルロ』!仲間は死ぬ!」
アイ「死なねえよ!?死ぬ程痛いけどな!」
ダンク「うぐぐ、昨日から痛覚ばかり感じて・・これが、生きるという事なのか、生を実感するという事なのか・・?」
スス「違うからね!?
あなたがそっち(ギャグ)いったらツッコミが私一人しかいなくなるから正気を戻して!」
シティ「あんたも大概ひどいわよ・・」
ライ「そんな事より、ビューティー果心のアダルト・アダルティ・アダルティックな会話は俺がもらーーう!」
ルトー「やめろー!
果心の秘密はボクのものだーー!!」
アイ「なんかよく分からんが、乱闘ならいつでも大歓迎じゃオラーー!」
スス「ああもう滅茶苦茶だー!」
朝食食べる皆の憩いの場、食堂の真ん中で、バカVSバカVSバカの三つ巴合戦が始まる・・かに見えたが、
三人が飛び上がろうとした瞬間、その中心に黒山羊並みの巨体を持つ男・・ジャン・グールが割り込んだ。
その後ろにはパーも怒り顔で睨んでいる。
ライ「げ!」
ルトー「え!」
アイ「やべ!」
ジャン「貴様らああ!
果心様の根城で暴れるのは、ワシがゆるさあああん!!」
パー「ワシも許さんな!全員泣かす!」
怪我で負傷しているアイ、ロクな装備を持ってないライ、皆が見ている前のルトー。
そして相手は素手でビルを壊せる程の肉体系と塵を操る魔術師。
だれが勝負に勝ったなんて、もはや書き記すまでもなかった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
ユー(おはようございます、ユーです。
突然ですが今私は非常に困惑しています。
昨日、私は果心と一緒に布団に入りました。大人の女性と一緒に眠るなんて初めてだったので凄く嬉しかったです。
そして、朝になって果心は『私が皆と食べたら気を遣わせちゃうから個室で食べるわ、あなたは皆の前に顔を出して食べなさい』と言われたので食堂に来ました。
確かに、食堂には皆揃っていました。
白山羊さんに黒山羊さん、ライさんにシティちゃんにススちゃんにルトーくんにダンク・・。
そして、パパ。
皆の顔を見れてそれはとても嬉しいんです。嬉しいんですが・・)
アイ『私は食堂で暴れました』
ルトー『私は食堂で果心の盗聴テープを聞こうとしました』
ライ『私は食堂で果心のテープを奪おうとしました』
ユーの眼前に映るのは、食堂の片隅で正座させられ、ご丁寧に何をしでかしたか分かる看板を手に持っていた。
ユー(何この状況。
なんでパパとオカマとライさんが一緒に座ってるの、おかしくない?
しかも果心の盗聴テープ?もしかして昨日の話が聞かれてたの?
もしそうなら私は今すぐ引き返した方が良いのかな?そうした方が良い気がしてきたよし引き返して果心と一緒にご飯食べよう)
果心とご飯を食べようと決意するまでの時間、僅か0・5秒。
ユーが回れ右して食堂を出ようとした瞬間、三人が声をかけてきた。
アイ「お、ユーじゃないか、おはよう」
ライ「うーっす」
ルトー「おはよー」
ユー(う、挨拶されちゃった。
正直無視したいけど、挨拶されたら返さない訳には行かないよね・・覚悟を決めなきゃ)
ユーはまた回れ右して三人の前に顔を見せ、精一杯笑顔を作りながら挨拶する。
「お、おはよう、三人、とも・・。
なんで、正座、してるのかな?」
ルトー「いや、まあ昨日果心がなんか話してるのが聞こえて、盗聴したんだけどさ・・」
ユー(え、盗聴?
もしかして私達の話、聞かれてたの?
それは凄い不味いような・・)
一瞬、昨夜の会話を思い出してユーの背筋が冷えていく。
ライ「でもよー、他の奴等がズタボロに壊してポイしちゃったから結局内容聞けてないんだぜー、未遂なのに罰を受けるのはひどくねー?」
ユー(あ、まだ聞いてないんだ。
それなら安心していいかな)
それを聞けてユーの背筋が温かくなる。
アイ「俺はまあ暴れたくてつい・・」
ユー(昨日あんなに大暴れしたのにまだ暴れたりないの、パパ、本当に凄い体力をしてるんだな)
アイの話を聞いてユーはその体力に驚いていた。そして驚いただけで特に悪い事してない気がしたので、ススに話しかける。
ユー「ススちゃん、パパは解放しても良いんじゃないかな・・?
流石にみてられないというか・・」
スス「うーん、そうね。
リーダーもさすがにユーちゃんの前で暴れないだろうし、まあ今回は許してあげるわ。
ジャンさんもそれでいい?」
ジャン「ワシはあまり許したくないが、まあ娘さんの話なら聞いてやるか。
ただしアイ、おまえまた暴れたら城どころか国の外まで投げ飛ばしてやるからな」
アイ「ああ、分かったぜ・・」
ダンク(マジで投げ飛ばせそうな気がして怖い・・)
アイ「とりあえずまた立ち上がろうかね、まだ飯を食う余力はあるんだし・・おっと」
ユーの願いを聞いて、アイは立ち上がろうとして・・両足が痺れて倒れそうになる。
ふらりとした所を支えたのは、ユーだった。
ユー「パパ、大丈夫?」
アイ「・・・・・・」
アイは目を丸くしながら自分を支えてくれたユーをしばらく見つめていたが・・すぐに笑顔になった。
アイ「いや・・なんでもねえさ。
ありがとな、ユー。そんなに痺れてねえからな、もう大丈夫だ」
ユー「良かった・・」
アイはユーに軽く笑みを見せた後、食堂に目を向ける。そこにはありふれた朝の風景が見えていた。
スス「ルトーとライはまだまだ正座のままね」
ライ「おいおい、俺も足が痺れてヤバイんだよ誰か助けてくれよサイコパスは足の痺れが弱点だって知らねえのかよ」
ルトー「ボク初めて聞いたよそんな弱点・・」
ダンク「モグモグ、旨いなこのスパゲッティ」
シティ「そうね、本当に美味しいわ。
ありがと、チホ」
チホ「そ、そんな・・御姉様からお褒めの言葉を頂き、チホは嬉しゅうございます・・」
ジャン「チホー、ワシにバナナを百房くれんかの〜」
パー「お前、少し・・いやだいぶ食い過ぎじゃないか」
白山羊「ふむ、この料理の作り方を後で教えてもらいましょう」
黒山羊「モグモグ、料理、うまい」
ユー「・・パパ、どうしたの?
いきなり黙っちゃって」
アイの視界に、ユーが入り込んでくる。
そこには何のわだかまりもない、普通の女の子の顔がそこにあった。
それを見たアイは笑みを浮かべてユーに応える。
アイ「・・・・・・ああ、悪いな。
俺は、俺達は、皆を本当に守る事が出来たんだな・・」
ユー「・・!」
アイ「さて、ユーもお腹すいただろ?
ここの飯は旨いらしいからな、いっぱい食べようぜ」
ユー「うん!」
父と娘は、皆(ゴブリンズ)達が待つ食堂で一緒にご飯を食べ始める。
合言葉は当然、皆の知っている言葉。
「いただきます!」
そうして、皆は美味しそうに食事をし、雑談したりふざけあったりと緩やかな時間を楽しんでいた。
そして、その中の誰一人として、
『影鬼』の存在を思い出す者はいなかった。
続く
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