〜『ある存在との決着』〜
〜イシキ、俺は戦争が終わったらゴブリンズを名乗らせてもらうぜ〜
〜名乗るのは勝手だが、何故受け継ごうとする?戦争は終わった。我等『侵略者(ゴブリンズ)』の役目も終わっただろう?
お前はもう自由になって良いんだ。
今のお前なら、世界を救った英雄としてあらゆる場所で愛されるだろう、あらゆる場所で敬われるだろう。
お前はもう、自由になって良いんだ〜
〜いや、自由にはまだなれない。
少なくとも俺は、まだ自由になっちゃいけないんだ。
俺は・・〜
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
アイが手にしたのは先程まで振り回していた腕の金棒を、凍り付けてふた回り大きくした氷棒だった。
アイはそれを手に持ち、果心を睨み付ける。
アイ「果心、これは試練さ。
お前がこれから俺達以外にも沢山の恨み辛みを背負って立てるかという、試練だ」
果心「・・私は、この国を豊かな場所に変えると決めました。
その誓いが嘘偽りでない事を、これから証明して見せましょう」
二人は対峙し、素早くアイが動き出す。巨大な氷棒を軽々と振り回し、果心の頭を潰そうと上から振り下ろしていく。
果心は両手で刀を持ち、横に構えて上に上げる。
アイ(受け止める気か!?
いや、これは・・)
果心「はぁっ!!」
氷棒が刀に触れそうになる瞬間、果心は刀に触れたまま左手の力を抜いた。
刀の切っ先は左斜めに向かい、下に向けて振り下ろされた氷棒は滑り台と化した刃に乗り方向を変えられてしまう。
そして結果として果心のすぐ横に氷棒が振り下ろされていく。
アイ「くっ・・!」
果心「『柔よく剛を制す』!
このままがら空きの体に一閃・・」
アイ「うらぁあああああっ!!」
アイは雄叫びを上げながら更に氷棒に力を込めていき、果心のすぐ横の地面に叩きつける。
その瞬間、あまりの衝撃に叩かれた部分の地面が陥没し、果心の足元が崩れてしまう。
果心「う!?」
アイ「今だぁっ!」
アイは氷棒を離しながら右足を勢いよく上げ、果心の右耳に上段蹴りを入れていく。体勢を崩された果心はもろに頭に食らい、体が吹き飛ばされていく。
果心「ガハッ!」
アイ「『剛よく柔を制す』!
俺の武器をなめるなよ果心!」
果心「つっ・・今の、は良い一撃・・ですね!
『怪(かい)』・・」
果心は刀をアイに向けて構える。その切っ先に風が集まっていく。異変に気づいたアイが氷棒を握り締めた次の瞬間、果心の刀の切っ先に風の玉が出来上がっていた。
果心「一旦、距離をとって貰いますよ!
『風(ふう)』!!」
果心が風の玉を射出させ、アイの腹部に直撃させる。
アイはなす統べなく吹き飛ばされ、20メートルは離れた建物に背中から叩きつけられた。
アイ「がはぁっ・・ふ、吹き飛ばし術か・・!やっぱ魔法使える奴と戦うってくそ面倒だ・・!」
果心「ならこの一閃で終わらせてあげますよ!」
アイと果心が再度刃と棒を振り回し、戦いを開始する。
その様子を、イシキはユーの後ろから両耳を抑えながら黙って観戦していた。
イシキ(ふぅん、あの小僧。
なかなか動けるようになったじゃないか。ワシの元にいた頃とは気合いも技術も何もかもが違う。
よほど沢山の鍛練を経験したと見える。
だが、心は浅いな・・)
イシキの目線が少しだけ下にずれ、ユーに向けられている。
イシキの視線からはユーの表情は見えないが、彼女はピクリとも動こうとしなかった。そしてあちこちから応援する声が聞こえてくる。
ライ「あいつめ、『成者格闘術』をここまでマスターしていたのか!?
凄く的確な動きだ・・!」
スス「リーダー、頑張れー!!
果たせなかった私達の想いも、貴方に託してるんだからねー!」
パー「果心様アアア!
あんな若造なぞ、けちょんけちょんにしてしまって下さいましねー!」
ジャン「うおおおお!
頑張れ果心様ー!気合いを出せよ若造ー!」
シティ「いけぇ、そこだ!
頑張れリーダー!気張りなさいよ果心!」
ダンク(ビビりながら)「け、怪我だけはするなよ二人とも・・」
ユー「・・・・・・」
イシキ(耳を塞ごうが、これだけ外野が騒げば聞こえない筈が無い。勘の良いこの娘がアイの慟哭を理解出来ない筈が無い。
彼女もまた、戦争の怒りに呑まれるだろうな。自分の家族を傷つけ引っ掻き回し続けた迷惑極まりない存在、戦争を許せないよな・・)
イシキの瞳はまるで七十を越えた老人が、若い子の気持ちに寄り添うために優しそうな瞳になっていくが、
その口はまるで大好きな料理を目にした幼子のように、あるいは悪魔の如く深まっていく。
イシキ(そうして、戦争の火は続いていくんだよな〜〜!
許せないから壊す、迷惑だから立ちはだかる!そうして終わった物語(モノ)に何時までも難癖続けてストレス溜まって、やがてどうしようもないタイミングで大爆発!
また、戦争が始まる!
そうして愚かな民衆は同じ言葉を天に叫ぶのさ!
『誰も戦争なんかしたくないのに』となあ!!
戦争!また戦争の焔が見れる!
半世紀もワシの全てを火照らせた戦争の焔が、また燃え上がるんだ!!)
イシキという男の本性を、アイは理解していなかった。この男こそ、半世紀前に能力者達に単身で戦争をしかけ、世界の半分を相手に戦い続け、勝利した鬼。
鬼の中の鬼、故にその名は意志鬼(イシキ)である事を、アイは知らなかった。
イシキ(ワシには分かるぞ。
世界中の人々にまた角が生えている事を。
Gチップの創始者にして不老不死の能力者、果心林檎。
そんな美味しそうな戦争の火種を、世界が見逃す筈が無い!
しかもこいつらはニバリ騒動の中心地点にして、汚職しまくっていたナンテ達の仲間。どれ程の人間が怪物になるか、想像すらつかない・・また、また赤々と輝く地獄を見れるとは!)
イシキの心は既に現実のアイと果心の戦いから離れ、沢山の人々が赤く染まりながら倒れ伏す地獄の姿を映し出していた。
死体の山を築き上げ、地獄を降臨させる事を望むこの男の野望の焔が燃え上がろうとして・・。
「イシキさん」
イシキ「・・・・あ?」
ユー「手が、耳から離れそうです。
もう少し強く抑えてください」
イシキ「ふむ、すまんな。
ああ、ユーちゃん。一つ聞きたいんだが・・ん?」
イシキが軽くユーを戦争に向かわせるよう誘惑しかけようとしたが、その時に初めて気づく。
ユーの肩が、ずっと震えている事に。
イシキ(なんだ、こいつ・・怖がっているのか?まあ、憧れの父親があんな情けない慟哭をしたんだ、ショックなのは分かるが・・ならなぜ体を動かそうとしない?
見たくないなら目を背けるなり声をかけるなりなんかの行動を起こしそうなものだが・・?)
イシキはふと疑問に思い、体をくぐませ顔を覗いてみる。そしてすぐに疑問は解消された。
ユーは、目を閉じていたのだ。
恐怖から逃れるように固く瞑るのではなく、何かが訪れるのを待つかのように黙って柔らかく瞼を閉じていたのだ。
それでも恐怖を完全に隠す事は出来ず、肩が少しだけ震えていた。
言ってしまえばただそれだけなのだが、それはイシキにとって大きな衝撃だった。
イシキ(まさか、この娘・・。
途中から、見るのを止めたのか。
アイが耳を塞げと言った瞬間から、目を閉じてこの戦いを見るのを止めたと言うのか!?
アイが、父親が今にも死にそうなのに、アイの言葉をそのまま信じたと言うのか!?)
驚愕するイシキの前では、アイが『成者格闘術・韋駄天桂馬(ナイト・オブ・イダテン)』を使い、超高速突進で果心に衝突し、果心が壁まで吹き飛ばされていく。
だが強力な技の反動で自身にもダメージを喰らい、青いジーンズが赤く染まりながらも氷棒を持って襲いかかっていく。
果心も逃げ出そうとするが、右腕が壁にはまり抜け出せず、アイの氷棒の直撃を受けた・・かに見えた。
しかし、果心はハマった右腕を自ら切り落とし、攻撃をかわしていた。
攻撃直後のアイに切り裂くためでなく、吹き飛ばす為に峰打ちをアイの腹部に入れ、アイもまた少し後ずさっていく。
その隙に果心は斬られた腕を回収し、切断面に繋げると腕は元に戻っていく。
その一連の戦いを、観客達は一々反応し、一喜一憂していく。
だが、この戦いを最も見守りたい筈のユーだけがそれを見ようとしなかった。
目を閉じて、耳を塞がせて、黙って座っているだけだった。
ただ、後ろ髪に結わいた髪を胸の前に起き、装飾品の一つである白いイワツメグサの花を両手で黙って持っている。
イシキ「・・・・ユーちゃん。
お主の父親は、頑張って戦っている。
それを見届けようとはしないのか」
ユー「パパはいつでも頑張ってる。
私と戦った時だって、城の中で色んな人と戦った時だって、パパはいつでも誰かを気にしていた」
ユーは見ていた。
自分と戦った時も憂さ晴らしの為に観戦している人々に怪物を差し向けたら、アイは素早くそれを対処しに向かっていたのを。
蜘蛛人形と戦った時も操られた仲間を傷つけられず、黙って死ぬ覚悟を決めていたのを。
ニバリと戦った時も、怪物化された仲間の為にニバリを殺していいか迷いながら必死に戦っていた。
ユー「パパはね、誰よりも優しくて誰よりも強いんだ。だからこの戦いも、必ず私の元に帰ってくる。
私は優しいパパを知ってるから、パパが教えたくない事を知りたくないの」
イシキ「・・・・!」
イシキは知っている。
アタゴリアンに向かう前、船内でユーの過去を明かさなきゃいけなくなった時のアイの様子を。
アイ『え、ユーの過去?
い、いやあ皆が知ってるなら俺は別に知らなくてもいいかな〜って・・』
スス『バカ、知らなきゃ話しが進まないでしょ!いいから黙って話を聞きなさい!』
アイ『は、はーい・・』
イシキ「・・全く、そう言う所はもう似てるんだなあ。これじゃあもう誘惑のしようがないじゃないか」
ユー「え・・」
イシキ「いや、何でもない。
親子って羨ましいなあと思っただけさ・・ん?」
ふと、横に目を向けるとライやシティ達が目を丸くして驚いている。
どんな激しい戦いが繰り広げられているのかと目を向けると、目前に馬鹿デカイエネルギーの塊が2つ、輝いていた。
イシキ「・・・・はい?」
ライ「ふ、二人とも逃げろー!
ビューティー果心とアイの馬鹿が、互いに最強の大技で決着を付ける気でいるんだよ!
ここにいたら俺達まで巻き込まれちまう!早く逃げるんだあああ!」
イシキ「・・・・。
はあああああっ!!??」
イシキが立ち上がって下を覗くと、
果心とアイがぼろぼろの状態で睨み合いながらも、全身から漲る力をぶつけあっていた。
魔力を蓄えながら果心は叫ぶ。
果心「私の信念は誰にも折らせはしない!
貴方が何度も抗っても、世界が何度でも否定しても、私は必ず、償いを果たしてみせる!」
轟々と台風のように吹き荒ぶ魔力の中で、果心は叫ぶ。
それに対峙するアイもまた、傷だらけの体を気力だけで奮い立たせ、自身に残された力を全て右腕の氷棒に込めながら応えていく。
アイ「ならば俺は、お前がこれからの人生で一切の悪事が出来ないよう、俺の人生で背負った全てをぶつけてやる!
これから何百年、何千年先になろうとも今日の戦いを昨日のように思い出させる為に!!
『成者格闘術(セイジャコマンド)』!」
アイが氷棒を掲げると、風が棒に集まってくる。轟々と果心の魔力が高まる側で、豪々とアイの氷棒もまた、唸り声を上げていく。それを見たイシキは驚愕を隠せなかった。
イシキ(あ、あれはまさか・・!
ワシが戦術の考案をしつつ、結局は諦めた技・・。宝を持つ鬼が憧れた、宝の中の宝・・!)
アイ「『奔鬼之王手(ホンキ・キングアーム)』!」
果心「焔の『轟火剣乱』、水の『魔ヶ潮』、風の『怪風』、土の『土崑城』。
四つの魔術を組み合わせた時、初めてこの術式は完成する。
『真・火潮楓月(カチョウフウゲツ)』。」
果心の周囲に、炎、水、岩が風に乗っていつの間にか吹き荒れていく。
その岩の欠片がイシキの側を高速で通り過ぎ、屋根に穴を開けた。
イシキ(なんだ、今のは・・!?
まるでライフルじゃないか!それがワシの側を通り抜けたんじゃないのか!?
た、確かにこんな危険な場所にはいられない!早く逃げなきゃ・・)
イシキが逃げようと背を向けそうになるが、目を閉じたまま動かないユーを見てハッと気づき、叫んだ。
イシキ「な、何をしておる!?
お主も早く逃げろ!目を閉じてようが肌で危険性が分かるじゃろ!?
早く逃げるんじゃ!」
ユー「・・・・嫌です」
イシキ「何?」
ユーは目を閉じたまま、肩を奮わせながら叫ぶ。
ユー「ぜっったい嫌!
私はパパが勝つまで絶対、ここから離れない!」
イシキ「な、なんじゃと!!
バカをいうんじゃない!」
ユー「絶対に、嫌!」
ユーは目を閉じ、動こうとしない。
それを見たイシキはち、と軽く舌打ちをしてユーの側まで走りより、
ユーの前に立った。
イシキ「嬢ちゃん、このままだと死ぬぜ?今の二人はお前が見えてない、殺されてもいいのか?」
ユー「・・・・・・」
イシキ「ち、聞く耳なしか。
なら無理矢理・・・・」
アイ「果心、俺は!」
不意に、アイの叫びが聞こえてくる。
轟々豪々と唸り声を上げる空間で、アイは叫んだ。
アイ「俺は、もっと沢山の冒険をしたいんだ!仲間とバカをしたり、笑ったり喧嘩したりしてぇんだ!
だから絶対、お前に勝つ!勝って、皆とまた笑うんだ!」
その言葉を聞いたイシキは思わず振り返ってしまう。血塗れ、傷だらけで体中がズタボロになりながら尚、太陽よりも爛々と輝く瞳を持つ青年に、老人は驚愕した。
何故ならその言葉は、ゴブリンズを継承する時に彼が宣言した言葉、そのままだったからだ。
イシキ(アイ・・あいつ、やはり本音は果心を憎みきれなかったんだな。
数えきれない沢山の恨み辛みを背負いながら、それでもGチップの開発者たるその女に、殺意を抱けなかったんだな!
ああ、畜生が、ワシはなんてバカなんだ!これじゃどうやっても戦争なんて起こせないじゃあないか!!)
イシキは、アイを見たまま静かに両手を広げる。背後にはユーが黙って座っている。だから彼は両手を広げたのだ。
それに気づかないライが叫ぶ。
ライ「何してるんだクソジジイ!
早くユーちゃんと一緒に避難するんだ!」
イシキ「・・嫌じゃ」
ライ「は?」
イシキ「ワシは元ゴブリンズリーダー、『意志鬼』のイシキ!
そのワシが、若造のちんけな攻撃にビビって逃げるなんてみっともない真似出来るかぁ!」
ライ「はああああっ!?
何言ってんだジジーっ!!
ユーちゃんも逃げろぉ!」
ユー「・・・・・・」
ライ「無視されたァ!?
しまった、好感度が低い為に無視されてしまったのか!やはり幼女だからとナンパを遠慮したのが間違いだったか!
仕方ねえっ!」
ライもまた、イシキの隣に躍り出ていく。すぐ側を巨大な岩が通り過ぎたが、彼はもう気にしなかった。
それに気づいたススが声をかける。
スス「あ、あれ?
三人ともそこで何してるの!?
早く逃げなきゃ!」
ユー「・・・・・・」
イシキ「嫌と言ったら嫌じゃ!
ワシはあんなちんけな攻撃こわくも何ともないからな!」
ライ「俺も拒否するぜ!
無力な幼女を一人残して逃げるなんて、サイコパスの名折れだからな!」
スス「あんたらふざけてる場合じゃないでしょ!逃げずに全滅なんて私は絶対いやなんだからね!・・あれ、シティは?」
シティ「能力発動、『コンクリート・ロード〜天蓋硬独〜』!」
三人の回りに突然、大量の鉄板が落下し盾のように周囲を覆っていく。
その後ろでは、シティが笑みを浮かべていた。
シティ「スス、悪いけど私も逃げないわ!だって、こんな凄そうな攻撃を間近で見るチャンスなんてそうそうないもの!」
チホ「お、おおおお姉さまが逃げないなら私も逃げませんが、もう少し屈みましょう!?
岩やら何やらが飛んできて危ないです!」
ダンク「おお、俺も同じ意見だがシティがそう言うなら全力でガードに回る!
スス、ルトー、お前も来い!こうなったら逃げるよりこっちの方が安全だ!」
スス「皆・・分かったわ。
私も、腹を括る!さあ行きましょうルトー!」
ルトー「嫌だああああボクは逃げたいいいい!!腹を括りたくないいいい!
なんでゴブリンズにはバカばかりしかいないんだああああ!!!」
ススが無理矢理ルトーをダンクの側まで連れていき、ダンクは防御結界を張っていく。
全員の周囲が結界に覆われた次の瞬間、果心とアイの攻撃が始まった。
アイ「果心、これが俺達の全てが籠った一撃だ!受けろおおおお!」
果心「私も逃げません、全てに、立ち向かってみせる!ハアアアアア!」
ギャラリーズ「ギャアアアアアアア!!」
強大なエネルギーがぶつかり合い、その余波だけで周囲の建物がまるでちり紙のように吹き飛んでいく。
ダンクも頑張って結界を維持し続けていくが、ヒビが直ぐに入ってしまう。
チホは素早くゴブリンズをリボンで縛り、皆がバラバラに離れないようにしていたが・・まとめて飛ばされてしまった。
チホ「お、おおお姉さまあああ!?」
シティ「嘘、ダンクのバリアがもう砕けたの!?くううっ!!私の盾は壊されてたまるかああ!」
ダンク「すまん皆、俺の今の魔力ではこれが限度だ・・!
あと本当にすまんシティ、いまお前から離れると俺は世界の裏側まで飛ばされる!
俺はお前と離れたくないんだ!」
シティ「ば、馬鹿!
そんな嬉し・・いや凄く嬉し・・じゃなくて恥ずかしいセリフを言いながら私の腕に包帯をがんじがらめにしないで中身空っぽミイラアアアア!!」
轟々豪々轟々豪々轟々豪々轟々豪々。
豪々轟々豪々轟々豪々轟々豪々轟々。
強大な力が吹き荒ぶ中で各々が叫んだり喚いたり悲鳴を上げたりする中、
ただ一人ユーだけは黙って花を握りしめていた。
ユー「パパ・・!!」
しばらく、強力なエネルギーがぶつかり合い、あらゆる物が破壊されていく。
やがて風が止んだ時、周囲の建物はほとんど破壊され、バリアはボロボロになり、その中心地点ではアイと果心が未だに倒れずに立っていた。
しかし果心の刀は折れてしまい、アイの左腕もまた原型がギリギリ見える程度まで損壊していた。
アイ「・・・・・・・・」
果心「・・・・・・・・」
二人は同時に武器を投げ捨て、ゆっくり歩み寄る。果心が右手を差し出すと、アイもまた左手を差し出した。
金属の腕と不死者の腕。
片方は人生の大半を絶望と殺戮と共に過ごして来た。
もう片方は長過ぎる人生を終わらせたくて足掻き続けてきた。
左手の持ち主は新たなゴブリンズを作り、沢山の夢も希望も失った者を引っ張ったり、引っ張られながら頑張って生き続けてきた。
右手の持ち主は世界を変えてでも自分の未来を輝かせる為に戦い、それを見てきた者達により救われた。
二人の背後、あるいは過去には沢山背負う者があり、未来には沢山の絶望と困難が待ち受けているだろう。
だが、現在(いま)この時は、
この一瞬だけは、二人はお互いを分かり合う事が出来たのだ。
その証拠を互いに確かめる為に、二人の手は一瞬、本当に一瞬だけ繋がった。
そうして一瞬の後に今まで溜まりにたまった疲労や痛みによって、二人は同時に気絶した。
それと同時に、ボロボロのバリアが破壊されて中にいたアイの関係者やこっそり隠れていた果心の関係者が一斉に飛び出し、
二人をありったけの手段で傷を癒していく。その声を聞いて、初めてユーは目を開けて、微笑んだ。
それは彼等が長く長く続いたアタゴリアンの戦い、半世紀続いた戦争、五百年続いた過去の苦しみ、それら全てに決着が着いた瞬間だった。
ゴブリンズ、大罪計画、そして三人の少年少女。
彼等はみな正義の為に戦ったのでも悪の為に戦ったのでもなく、
己を縛る檻から解放される為に戦い、そして勝ったのだ。
ーーーーーー続く
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