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2021年01月14日19:08

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長編小説 角が有る者達 第228話

『stanpeadー傷を背負う者、絆を背負う者ー』

アイ「今すぐ、殺してやる」

 その言葉が聞こえた次の瞬間、金属が激突する音がバルコニーから響いた。
 果心が日本刀でアイの金棒による攻撃を防いだからだ。
 だが、咄嗟に防いだ防御と全力を込めた攻撃ではどちらが勝つかなんて分かりきっている。
 果心の刀は押され、アイの金棒は進んでいく。
 
果心(ま、まずい・・!
 このままじゃ、押し負けて・・!)

 果心が眉を潜めた次の瞬間、ザラリと果心の横を何か小さな物質が通りすぎ、それはアイの腕に纏わりつく。

アイ「!」
果心「これは・・パーの、塵の魔術・・」

 果心が思わず呟いたのと同時に、背後から巨体の男、ジャン・グールが飛び出す。
 そして大きな拳をアイの腹部にめり込ませ、アイが吹き飛んだ。

アイ「ガァッ!」
ジャン「女王様に気安く触れるな、若造」

 吹き飛ばされたアイは群衆の上を飛びながらも、体勢を直ぐになおす。その瞬間、アイの背後に鉄板が現れアイはその上に着地した。
 それと同時にダンクが指を鳴らし、群衆の真ん中にいる者達の足元に魔法陣が出現した。
 ダンクが呪文を唱えると彼等の姿が消え、群衆の外側に設置された魔法陣から姿を現す。
 やがて誰も最初の魔法陣からいなくなった時、アイはそこに舞い降りた。

アイ「・・・・」
果心「・・・・分かりました」

 果心は刀を仕舞い、バルコニーから跳躍する。そしてアイの正面に着地した。
 それを見たパーが指を鳴らし、塵が果心の背後に出現する。シティが右手を上げてアイの背後から大量の電柱が出現したが・・二人がほぼ同時に叫んだ。

アイ「お前ら、命令だ!」
果心「貴方達、命令です!」
アイ「手ェ出すんじゃねえ!」
果心「手出ししないで下さい!」

 その言葉を聞いて、パーは塵を引っ込め、シティは電柱を戻した。
 それを見てから、アイは笑みを浮かべる。

アイ「へえ、まさかお前がそんな命令を出すとは思わなかったぜ」
果心「貴方こそ、普段から部下に負担をかけてるみたいだから今回も同じようにするかと思いましたよ」
アイ「くくく、まああいつらには悪い事をしたからなあ」

 群衆達は何がなんだか分からず、ただただ二人の会話を聞くしかなかった。
 と、そんな無力な群衆を押し退けてゴブリンズのメンバーと、ライとユーが姿を見せる。
 大罪計画のメンバーもまた、同じように群衆達の最前線に躍り出た。

ユー「パパ・・」
イシキ「嬢ちゃん、止めちゃだめだぜ。
 今、この喧嘩に誰も手を出しちゃいけない」
ユー「な、なんで・・?
 またニバリの時みたいに、皆で虐めるつもりじゃないの・・」
イシキ「いいや違う。
 あんな下らないバカ共の喧嘩と、これから行われる戦いは天と地程に重みが違うんだ」
ユー「でも・・」
ライ「安心しな嬢ちゃん。
 もし何かあったら俺達が全力で止めるから。
 だから安心してパパの勇姿を真っ直ぐ見てくれ」
ユー「・・・・」

 ライが優しくユーに話しかけ、ようやくユーの口が止まる。そしてイシキはライの顔を見た。

イシキ「ライ、お主・・」
ライ「ふっ・・」
イシキ「遂にロリコンに目覚めたのか?」
ライ「んな訳ねえだろクソジジイッ!!」

 ライとイシキが下らない話を広げてる横で、アイと果心が互いに獲物を取り出しながら睨みつけていた。

アイ「・・いっぱいギャラリーがいるな」
果心「彼等には手を出さないで下さいね。
 彼等は我々の戦いには無関係なのですから」
アイ「お前等の方で呼び寄せといてよく言うぜ。それに無関係、て言えば俺自身、お前とも無関係だったんだぜ?
 武器も要らない、恨みも要らない。ただのつまらない人生を歩めた筈だ。
 だがお前達・・いや、お前はそれを許さなかった」
果心「・・・・」
アイ「ルトーから少し聞いたぜ。
 あんた、自身を救う為に人類に対して様々な事をしたらしいな。
 そしてあんたを慕う者も同じように人類を弄んでいた。
 俺から言わせれば、あんた等ほど世界で最も迷惑な存在は危険でしかない。
 この世から抹消させて貰うぜ?」
果心「死なない私をですか?
 殺せない私をどうやって殺すのですか?
 コンクリで固めて海の底に沈めますか?」

 果心は少しだけ呆れたようにアイに睨み付けていく。アイはふん、と鼻を鳴らした。

アイ「そんな面倒な倒し方しねえよ。
 死のうが死ぬまいが気持ちが折れるまで殴って倒す。以上だ」
果心「・・凄い、ばかばかしい倒し方な気がしますがね・・」

 果心の呆れが更に深くなり、アイは笑みを更に深く浮かべていく。

アイ「お前こそバカか?
 今の俺は腹が少し抉れてるし、何十回も殴られてる。鋏やら炎やらあらゆる攻撃を受けてふらふら、体力もない。しかもアイスボムは残り僅かなんだぜ?
 俺を倒すチャンスは今しかねえと思うがなあ」
果心「・・・・へえ」

 果心の表情から呆れが消えた。
 そして、アイと同じように笑みを深くしていく。

果心「言われて見れば、私も少し軽率でしたね。
 私は魔術による攻撃により両足、左手に魔術的なダメージを受けています。
 魔力もいつもの半分以下ですし、仲間を一人失い気持ちが落ち込んでる上に、これからやることを考えると頭が痛くなります。精神的に疲れる闘いも何度もありました。
 私の心を折るチャンスは、貴方には今しか有り得ないでしょうね」

 互いに笑みを浮かべたまま、獲物を構える。
 アイは自身の右腕を武器にした金棒を。
 果心は自身と共に生きてきた日本刀を。

 空は晴れていて、雲は海の向こうへ飛んだ。束縛の無い自由な場所の真ん中で、
 傷を背負った男と絆を背負った女が、
 互いに全力をかけた一撃をぶつける。
 
 キィィィン!!
 
 金属と金属が衝突した音は武器が触れた恐ろしさよりも、まるで楽器のような洗練した音が響いた。
 その一音で、一音だけで全員が理解した。
 二人の闘いを邪魔してはいけないと、誰もが理解した。

アイ「ハハッ良い音が聞こえたなあ!
 お前いま傷心なんだって!?そりゃあこんなボロボロの俺にやられたら恥ずかしいわなあ!」
果心「貴方こそ・・負けた時の言い訳が出来てるじゃないですか!
 装備も体力も万全じゃない状態でラスボスに挑む主人公なんて有り得ません!」
アイ「そんな法則どうでも良い!俺は殴りてえ相手はすぐ殴るんだよ!」
果心「ほんっとに暴力しか知らない人間ですね!
 ユーちゃんの未来、貴方なんかに預けていいか不安ですよ!」

 刀と金棒がガチガチと鳴り響く中、アイと果心は考える間も無く言葉をぶつけ続ける。アイは力一杯金棒に血からを乗せ、果心も対抗していく。

アイ「は、俺の部下は一度や二度裏切っても戻ってくる!だからユーもちゃんと育つに決まってるだろうがバーカ!」
果心「頭の悪い回答ですね!」

 ガァン、と音が響き渡り、互いは距離を取る。背後の群衆達も自然と離れていき、ユーは一歩も動けなかった。
 その緑の瞳を輝かせながら、黙って二人の闘いを見ていた。その背後ではライが叫んでいる。

ライ「な、なんて闘いだ。
 たった一撃、互いにまだ一撃しか出してないのにその凄さが、強さが分かるなんて!しかしアイと果心、何を話してるんだ?」
イシキ「ま、お主にはわからん会話なのに違いはないな」
ユー「パパ・・果心さん・・」

 ユーの視線の先で、二人は一度距離を取る。だが次の瞬間アイは直ぐに攻撃に移る。アイは右足一本の力で跳躍し、果心の首元を狙ったのだ。
 だが金棒は太くて大きいため、その太刀筋は読みやすい。果心は首が狙われてると気付き、アイの攻撃に合わせて攻撃を仰け反ってかわした。
 攻撃後には大きな隙が出来てしまい、果心はそれを狙ってアイの腹部を切り裂こうと刀を振るう。
 だがカウンターを狙っていた果心にはアイの左足が攻撃の直前に着地していた事に気付かなかった。
 アイは左足に力を入れ、素早く跳躍したのだ。
 驚愕する果心の視線の先で、つい先ほどまでアイの腹部を狙った一撃が空を切る。
 跳躍したアイは金棒を肩に着け、ボタンを押すと右腕に戻る。
 アイは空中で一回転し、今度は両腕で顔を覆いながら果心目掛けて降下していく。
 それに気づいた果心は一瞬だけ刀で切り裂こうと刀を振り上げようとするが、散々アイの腕の硬さに苦しめられた彼女はその意図に気づき、攻撃から逃走に思考を転じて攻撃をかわす。
 その次の瞬間、アイの両腕が大地に激突し、地面に丸い衝撃波が広がり、そのせい落ちた隙を狙っていた果心は少しよろけてしまう。
 果心が体勢を直すのとアイが立ち上がるのは同時だった。
 そうして、二人は激突した時と全く同じ場所に立ったのだ。
 この合間、僅か数秒だった。
 そして間髪入れずに闘いがまた始まる。

アイ「『不成者格闘技(ナラズモノコマンド)』・・」
果心「!!」

 その言葉を聞いた果心は素早く刀を握り締める。『不成者格闘技』はアイの得意技で、様々な怪しい技を使うからだ。

果心(何が来る・・!)
アイ「『影鬼』」

 瞬間、アイの姿が消えた。次の瞬間には果心が刀を空に向かって振り払う。
 切っ先は消えた筈のアイの右腕に当たった。

アイ「『ノ歩(ウォー・・)』がはっ!?」
スス「え、消えた筈のアイが果心の上に!?」
ライ「奴め、勝負を焦ったな!
 『影鬼ノ歩(カゲオニ・ウォーク)』は本来、日の無い場所で使う暗殺技だ!
 素早く、音を出さずに跳躍し相手の背後に着地して攻撃する事で無防備かつ確実に大ダメージを与えられるのが『影鬼ノ歩』だが、
 日のある場所で使えば影が見えて何処にいるか分かる危険性がある!
 なのにこんな失敗するなんて、お前は勝負に拘って焦ったな、アイ!!」

果心「貴方の技、見切らせて貰いましたよ!」
アイ「そうかいそりゃおめでとう」

 言ってから、果心は気づく。
 刀がアイから離れない事に。よく見ると刀が食い込んだ部分に無理やり腕を動かして刀を挟ませている。

果心「な・・!」
アイ「技一つ教えた報酬だ。この刀と動きを貰うぜ?
 『アイスボム』!」

 アイが左手を果心に向ける。左手の穴からアイスボムが発射され、真っ直ぐ果心に向かい落ちていく。
 果心は舌打ちをしながら刀を離し、その場から離脱する。瞬間、先ほどまでいた果心が立っていた場所が凍りついた。

果心「・・!!」
アイ「動きは奪えなかったが、刀は貰ったぜ!」

 着地したアイは果心の前に刀を見せ、それを床に投げ捨てた。

ジャン「ウッキィ・・奴め、果心様の大切な刀を乱雑に捨てやがって・・!」
パー「不味い、果心様に武器がない!
 魔術はまだ使えるだろうが、接近戦では・・!」
アイ「女だからって殴るのを躊躇する訳にはいかないぜ!!」

 アイが右手で殴りかかる。
 ダンクですら避けきれないその一撃を、果心はわずかに体を反らしてそれをかわす。続く左からの攻撃も僅かに体を反らしてかわした。

アイ「何っ!?」
果心「私は長く生きた身です。
 これでも一通りの闘い方は出来るんですよ?」

 果心は不適な笑みを浮かべながら、アイの足払いを跳躍してかわす。
 もう一度殴ろうとアイが右手を伸ばし、果心もまた右手を伸ばす。
 生身の腕が金属の腕に挑んでも勝てないのは分かる筈なのに何故、とアイが疑問に思う間もなく、その答えを知る。
 果心は右手でアイの右手を掴み、左手でアイの裾を掴んで足を逆に回す。
 すると、アイの体がふわりと浮かんで果心の背に乗ってしまい、そのまま一回転。
 アイは抵抗する事さえできずに背中から地面に叩き付けられてしまった。
 あまりに綺麗に投げられてしまった為に、見ていた群衆はおろか、アイ自身さえ痛みより動揺の方が全身を走ってしていた。

ライ「な、あれは・・『イッポンゼオイ』!?」
イシキ「イッポンゼオイ。
 東洋の有名な格闘技じゃが能力や才能が発達した現代じゃ滅多に見られなくなった技術だが・・まさか、この場で見られるとは思わなかったぞ」
ライ「あ、あのねーちゃんただの美女じゃねえ。野獣さえ従えさせるすげえ美女だ!畜生ナンパしてえ!」


アイ「ぐ、く・・!」
果心「もう終わりですか?」

 果心が左手で拳を作り、攻撃を仕掛けようとする。右腕は掴まれた上に寝転がった状態では素早く動けない。
 だがアイは既に手を打っていた。肩の解離ボタンをこっそり押していたのだ。果心の拳がアイの顔面に向かった瞬間、アイは捕まれた右腕を外して身をひねりかわしていく。
 果心の拳が地面に触れる直前に止まり、視線が横に向く。そこには果心の刀を握り締めたアイが立っていた。
 
アイ「片手だから上手く扱えない、と思うなよ」
果心「・・次は私の武器が相手、ですか」

 果心はアイの右腕・・金棒を両手で持ち、正眼の構えをアイに向けた。
 アイは片手で刀を振り回しながら果心に近づく。

アイ「でりゃーーーーーーっ!!」

 果心の刀とアイの金棒が再び激突し、音が響き渡る。今度は互いにかわさず、2度、3度と打ち合いが続いていく。
 果心はアイの金棒を横に振り、果心の刀を弾こうとする。だがアイは刀を下から金棒に振り上げて弾き、更に追撃をしようと刀を振るうが、果心は体を横にずらしてかわしながら振り上げた金棒を再度振り下ろし、大地にヒビを入れていく。
 それを見ていたススが、思わず呟いてしまう。
 
スス「な、なんて事なの・・。
 二人とも相手の武器を上手く使いこなして戦っているわ」
ダンク「あいつ、戦闘センスあんなに強かったのか・・」
シティ「わたしとの組み手の時あんなに弱かった癖に!あいつ本気を隠してたわね!」
ルトー「いや単に電柱から逃げるのに必死だっただけなんじゃ・・」


アイ「ち、この刀軽すぎてダメだ!上手く切れねえ!」
果心「私も、両手持ちなのに重くて仕方ありません!
 こんなの邪魔なだけですので、返します!」
アイ「俺もだあ!」

 互いに獲物を投げる。投げた先は当然元の持ち主だ。二人は走りながら投げられた獲物を掴み、素早く構える。
 そしてまた、大きな衝突が始まり、今度はその衝撃に耐えられなかった人達が何人も吹き飛んでしまう。

アイ「やっぱりこいつが一番てめえを倒しやすいなあ!」
果心「私は負けません!
 負けるわけには・・いかないんです!」

 大罪計画の『色欲(ラスト)』果心とゴブリンズリーダー『氷鬼』アイ。
 
 二人の対決は、まだ始まったばかり・・。

続く
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