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2020年11月30日19:32

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長編小説 角が有る者達 第225話

『転がる命』

〜アタゴリアン・市場の影〜

ライ「ちくしょーっ!
 何なんだこの人混みはー!こいつら今まで何処いやがったー!俺をもみくちゃにして良いのばグラマラス美人のねーちゃんだけだ!
 ジジイもババアもオッサンもお断りだバーカ!!」

フォト



 人混みから少し外れた所で、ライはぐちぐち言いながら背後に振り返る。
 そこにはシティ、スス、ユーの三人が力無く座り込んでいた。

ライ「とりあえず、大丈夫か?
 嬢ちゃん達」
ユー「・・あ、はい。
 人混みから私達を助けてくれて、ありがとう・・。
 あと、ぐらまらす?じゃなくてごめんなさい」
ライ「あー、良いよ良いよ。
 将来ムフフなボインになれる可能性のレディを守れたと思えば、まだライお・兄さ〜んは頑張れる!」
シティ(お兄さんだけかなり強調したわね・・)
スス(私の胸に一切目が向かない事にものすごくもの申したいなあグギギギギ)

 ススがシティの影でもの凄い形相で睨み付けているが、ライは気づいてない。
 ユーは目線をライから外し、ポケットに目を向けた。
 そこには少しシワが入り歪な形の、ニバリからの手紙が収まっている。

ユー「・・・・・・・・」
ライ「さて、これからどうする?
 あの群衆が何者か調べるか?」
スス「・・いいえ、彼等に興味はないわ。
 それよりもう一度あの城に入る方法を考えましょ」
ユー「・・そうだね。
 パパとダン・・クが心配だし、ルトー君がどうなったのか知りたいし・・」
シティ「ルトー君・・?
 そういやあいつ男だったわね。最近あいつ女装ばっかしてたから忘れてたわ」
スス「忘れちゃダメでしょ・・」

 ユーは何気なく広場に目を向ける。
 城には依然として、『果心様、女王様、陛下万歳』の声が鳴り響いている。

ユー「パパ、大丈夫かな・・」
シティ「そういやダンクもまだ姿を見せてないわね。何処いったのかしらあいつ」
アイ「あのバカならすぐそこにいるじゃないか」
スス「まだ分からないわよ。
 今まで出てきたーと思ったらすぐ消えるんだから。
 今回のダンク、本当に神出鬼没よね」
アイ「あいつ、本当にお化けみたいだからなあ」
ライ「その点、俺は『イケメン』で『頼れる筋肉』があるから大丈夫さ、そうだお嬢さん達、俺とメクシィやフェイスグッドやライスやインスタントグラムを交換しないか?」
アイ「ほう、親の前で娘をナンパするとはいい度胸だなコラ。おもて出ろや」
ライ「ハハハずいぶん反逆的なお嬢さんもいる・・な・・。
 ・・・・・・・・・・・・」

 へらへらと笑っていたライの表情が凍りつく。背後にはアイがしっかり立っていたからだ。腹部を包帯で巻いてるし、全身から血の滲みが出ているが、
 アイがしっかりと大地に立って、キョトンとした顔のまま四人を見つめている。
 そのすぐ後ろでは、ダンクが凄い気まずそうな顔で全員を見ていた。

アイ「・・・なんだ、俺の顔をじっと見て。ススもシティもなんでそんなに目んたま丸くしてんだ?
 てかなんだこの騒ぎは?一体全体、城の外で何が起きてるんだ?」
スス「あ・・」
シティ「え・・」
ユー「へ?」
ライ「あ、あああああ・・!?
 アイイイイイイイ!!??
 となんか包帯男オオオオ!うわなんだこいつ中身ねえええええ!!
 お、オオオオ化けえええエエエエ!!
 のわあああああああああ!オワアアアアアア!ギャアアアアアア・・キュウ」

 ライはダンクの姿を見てひとしきり叫んだ後、気を失って倒れてしまった。
 それを見たススは少しだけライに同情した。

スス(良かった、私と一緒で暗がりに中身空っぽミイラに出会う怖さが分かる人がいた・・)
ユー「パパァーっ!!」
アイ「よう、戻ってきたぜ!
 久しぶりの地上は騒がしいなあがっはっはっ!」

 ユーはアイのお腹に飛び込み、アイはユーを優しく抱擁する。
 ユーの体に冷たい感触が広がり、アイの体を暖かい感覚が包み込んだ。
 その後ろから、ダンクが気まずそうに話しかけた。

ダンク「・・・・・・その、なんだ。なんで俺達がここにいるか、俺が解説しなきゃ多分みんな納得しないよな」
アイ「おう、俺の頭悪い説明じゃ無理だ。だからびしっと言ってくれ」
ダンク「・・そうか。
 あー、WGP(ワールド・グレート・ピース)号でシティに渡した木箱あるだろ。
 あれ実はアタゴリアン王国の魔道具の一種で、2つある箱の片方にいつでも瞬間移動出来るようになってるんだ。一種のワープ装置だな。
 この戦い、俺は背後からお前達をサポート出来るよう、そしてもしもの時にお前を助けられるようにあの箱を渡したんだ。
 スリーパーがお前達を操った時も、それですぐ助けに行けた・・。
 だ、だが・・」

 ダンクは言葉が詰まる。
 ダンクの気持ちを少しだけ代弁するなら、彼はシティが持ってると思っていなかったのだ。
 何度も騙したし、ダンスのせいで服を着替えさせられたり、友人でもある果心を刺して自分に愛想を尽かしてしまえば、シティが一度でも開かない木箱を手放してしまえば、それでダンクは城の中から逃げられなくなるからだ。
 だが、いまアイとダンクは城の『地獄』の部屋から地上の皆のいる場所に戻っている。
 つまり、シティはダンクに何度も騙され、撃たれたり着替えさせられたり襲われそうになったり、その後の激しい戦いの中でさえ、その木箱を大切に守っていた事になる。
 そう考えると嬉しい反面、自分が恥ずかしい気持ちや情けない感情に押し潰されそうになって言葉が出なくなりそうになっていた。

アイ「・・・・俺が説明しようか?」
ダンク「・・いや、俺が言う。
 俺が言わなきゃ駄目なんだ。
 俺達がここに来れたのは・・シティ。
 お前が俺の渡した木箱を、ずっと大切に持っていてくれたからだ。
 ありがとう、シティ」
シティ「木箱・・。
 あ、あの時の・・」
スス「あの時の木箱?
 確かシティが気を失ってた時に転がってた木箱の事かしら?シティ、それを持ってたの・・あれ、シティ?」
シティ「・・・・・・」

 今度は、シティが固まった。
 顔が真っ赤になり、カチカチに緊張している。
 ユーはそれを見て、首をかしげた。

ユー「シティちゃん、どうしたの・・?」
シティ「あ、あああ、その、えーと。えーと!
 どうもしてないでございますワヨ!?」
ユー「口調がおかしくなってるよ!?
 ほ、ホントに大丈夫!?」
シティ「ダージョーブダージョーブ!
 ワタシツヨイレディダカラゼンゼンヘイキネー!」
 
 言いながらシティがぎくしゃくとダンクに向かう。
 シティは最初、ダンクに出会ったら殴り飛ばすつもりだった。
 『なんで果心を刺した!なんでダンスを殺そうとした!なんで私達に本当の事を言わなかった!』
 心の底から叫んで、気のすむまで殴り続けるつもりだった。
 なのに、彼が生還できた理由がずっと大切に隠し続けていた木箱だと知ってしまったら、彼がその事に感謝したのを見てしまったら、
 今まで口から出そうとしてた気持ちが心の何処かに吹き飛んでしまったのだ。
 代わりに舞い降りてきたのは、彼が戻ってきた喜びと、嬉しさと、シティ自身もよく分からない沢山の感情の嵐。
 それを処理出来なくて、シティは顔が真っ赤になる。
 それを見たダンクもまた、体の奥で何かがざわつくのを気にしていた。

ダンク(・・なんだろうな。
 こいつを見てると、妙に安心出来る。
 だが、同時にもう少し近づきたい、いやその体に触りたい、という衝動が体の内側から溢れてくる。
 一体、この気持ちは何だろう、分からない・・)
シティ(わ、分からない!わ、私どうすればいいの!?え、ちょっと待って来れどうするのが正解!?『このバカヤロー!てめえが考えてる程ゴブリンズは甘くないんだ今すぐ失せろテーヘンバカ!』
 それとも『いいえダンク、貴方が帰って来ただけでよかったわ!私は嬉しい!』
 あ、あわわ・・!
 ふ、普段の私ならどっち選ぶんだっけマジで分からない!)

 結果としてダンクとシティ、二人ともガッチガチに固まったまま向き合い、何も言えなくなってしまった。
 それを見たススは静かにつぶやく。

スス「・・私達おじゃまかしら?(小声)」
アイ「いやあの二人が赤面するの面白いからもう少し見てようぜ(小声)」
ユー(目隠し中)「パパ、何で両手で私の目を隠すの?
 もしかして二人とも恐ろしい戦いを始めちゃったの・・?(小声)」
アイ「んー、あー、確かに恐ろしいっちゃ恐ろしいな。
 ユーにはまだ早いから奥に行こ・・」

『お取り込み中悪いけど!
 おはなしいいかな!?』

 全員の目線が、一点に向けられる。
 それはユーの抱いている人形から、大きな声が聞こえてきたからだ。
 アイが目の色を変えてユーの持つ人形に話しかける。

アイ「ゆ、ユウキ!?」
ユウキ『ヤッホー、アイくん!
 君の愛しのユウキちゃんだぜい!
 所でここ何処?君が自分の人形を知らない誰かに渡すなんて珍しいねー!』
アイ「あ・・」

 その言葉を聞いて、アイは思い出した。
 ユウキは皆を助けるために自身の存在を犠牲にした事を。だが魂が消えたわけじゃなく、ここ数日の記憶を失ってしまったのだという事を。
 だから、ユウキが抱き締めている少女は、今のユウキにとって見知らぬ存在なのだろう。
 アイは自分の気持ちを落ち着かせる為に、ユウキに話しかけた。

アイ「・・ユウキ、お前話があったんだよな。まずそれを聞かせてくれ。
 今の状況については、後で話すから」
ユウキ『あ、うん。
 ダンクにかけたシティの願いについて、少し説明しようと思ったんだよ』
ダンク「・・俺にかけた、シティの願い・・?」
シティ「・・・・(///-///)(意訳・恥ずかしすぎて赤面したまま硬直してます)」
アイ「あ、あいつの願いって確か・・『ダンクが元に戻るように』、だったっけな。
 だからダンクは俺が殺しかけても蘇れたんだろ」
スス「え、殺し・・」
ユウキ『そうなんだけどね。
 この願いはまだ続いてるんだよ。
 ダンク、君は少し前から自分の違和感に気付いてるよね。前より自分の気持ちに素直になってる事に』
ダンク「・・あ、ああ。
 確かに、体の奥がざわついたり温かくなったり、忙しくて仕方ないな。
 一体、これがシティの願いと何の関係が・・?」
ユウキ『君はね。
 いま、『元に』戻り始めてるんだよ。
 腐り果てた魂が少しずつ蘇り、ダンス・ベルガード時代の肉体が君に戻り始めてるんだ』
ダンク『魂が甦る!? 
 魂魄蘇生技術はアタゴリアンの魔術でさえ不可能な筈だぞ!』

 思わず、ダンクはアタゴリアン語で驚いてしまった。
 魔に変化した魂を蘇生する。それは当時のアタゴリアンのあらゆる魔術でも不可能だと断じられた技術だったからだ。
 出来るわけがない、と魔法大臣としてのダンクが首を横に振る。 
 そしてユウキ人形は首を縦に振った。

ユウキ『その通りだよダンク魔法大臣。
 普通なら自分の力でさえ君の願いは叶えられない。そもそも私、死者を蘇らせる力は無いからね。
 でも、君は端から端まで普通じゃないし、条件は揃っていた』
ダンク「・・条件、だと?」
ユウキ『まずは君の異常性から話そう。
 そもそも君はこの数百年、『死んでいない』のさ。
 簡単に説明すれば君は他人に自分の肉体を明け渡し、数百年幽体だけで生活していただけなんだ。
 だから君は少し前まで『死んでないし生きてない』状態だった』
アイ「死んでないし生きてない・・うわあヘンテコな奴」
ダンク「ドン引きするな、俺だって驚いてるんだから。
 それで?」
ユウキ『だけど、ついさっき君の肉体から、『幽体』だけが消えた。
 けど君の肉体自身が死んだ訳じゃない。
 肉体はボロ雑巾になるまで酷い状態になったけど、まだ肉体自身は死んでない。
 だから、君の『幽体』に肉体が少しずつ戻る事が出来るようになった。
 喜びなダンク。君はこれからゆっくり『人間』に戻っているのさ。
 長年さ迷い続けたせいでぐじゃぐじゃに醜くなった魂も、元に戻り始めている。
 少しずつ様々な感情や感覚が取り戻され始めてるのは、その証拠だよ』
ダンク「・・・・・・」
  
 人形から放たれた言葉をダンクはゆっくり理解する。そして自分の手・・そう見えるだけの包帯を少しめくろうとする。
 アイとの戦いで何度も感じた、痛覚を感じた。

ダンク「・・・・!」
ユウキ『なんか、ここ数日間の自分の記憶が無いんだけどさ。
 逆に言えば『血染め桜たる私が記憶を代償にする程』大変な戦いをしていたのは分かるんだよね。
 ダンク・・自分が思うに、君はアイ、スス、シティ、後新入りのメル君を影から守りながら戦っていたんじゃ無いのかな?』

 その言葉に、ダンクは小さく息を呑み、ススとシティは驚き、アイは納得していた。
 
アイ「・・ふぅん、やっぱりそうか。
 あれだけ派手に戦ってる割に増援やら援軍やらが少ないからおかしいなーとは思ってたし、俺と戦った時にもずいぶんボロっボロの姿してたしな。
 そういう事してたんじゃねえかと思ってたんだよ。中途半端ミイラめ」
ダンク「つ・・!」
シティ「ダンク・・!」
ユウキ『やっぱりそうか。
 なら、人間化は今回の戦いとして大人しく受けとればいい。
 ただ、数百年離れている上に何故か肉体の損傷が激しいからね、君は少しずつ、長い時間をかけて人間に戻る事になる。
 そこは理解してね』
ダンク「あ、ああ・・」
スス(よかったねダンク、これで君は人間に戻れるんだね、本当に良かっ・・。
 ま、て、よ?)

 ススはふと、思い直し、ユウキに恐る恐る訊ねる。

スス「ね、ねえユウキ・・」
ユウキ『ん、なんだい?』
スス「その、長い時間かけて元に戻る、という事はさ・・。
 戻る段階のダンクは、どんな感じになるの?」
ユウキ『ああ、それは勿論、修復が完了した部位から彼の幽体に移される訳だから、比較的損傷の少ない内蔵あたりから君の幽体に戻る事になる。特別サービスで君の体が完全に修復されるまで血染め桜の魔力で守ってあげるよ』
ダンク「そ、そうなのか・・」
アイ「はー、良くわからんが人間に戻れるのは凄いな」
シティ「どうしたのスス、青い顔しちゃって」

 それを聞いて、アイはふーんと納得し、シティは喜びでワクワクし、ススは絶句した。

スス「それってつまり、
 中身空っぽミイラに中身が入ったまま生活するって事じゃ・・」
全員「あ"」

 全員が想像した。
 胃や肺をチラ見させながらすたすたとアジト内を活動するダンクの姿を・・。
 
 以下、妄想。
アイ「よおダンク!今日もお前の横隔膜は元気だな!」
ダンク「だが胃袋がさっきからキュウキュウ鳴るんだよな。
 朝飯いただきまーす!」

 もぐもぐと食べる飯が細かく砕かれ、胃袋の中に入るのを見ながら一緒に朝食を食べる所を想像するアイ。

ダンク「いっけなーい!遅刻遅刻ー!」
スス「えーとこの資料はここに・・きゃ!」

 廊下の曲がり角でぶつかり、包帯から内蔵がぼろぼろと飛び出す。

ダンク「あらー、十二支腸が落っこちちゃったー!治さなきゃ、いそいそ、いそいそ」
スス「もーこのドジッ子さんー!」

 飛び出た内蔵をいそいそとしまう所を想像したスス。

ダンク「シティ、今日も夕陽は綺麗だな・・」
シティ「そうね、やはり戦いあった後に見る夕陽は最高だわ・・」

 二人で静かに夕陽を眺めるが、ダンクがおもむろに顔に手を伸ばし、眼球を取り出す。

ダンク「いけね、すこし目に汚れがついたみたいだ。ハンカチで拭かなきゃな。ごしごし、ごしごし」

 自分の目玉を丹念に掃除するダンクを、容易に想像してしまったシティ。
 
以下、妄想終了。
 それらの妄想が事実になると気づいた三人は、同時に悲鳴を上げる。

三人「「「ギゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」」」
ユー「え、何!
 みんなどうしたの!?(今まで目を閉じてた)」
アイ「ダンク!
 お前魔法で何でも出来るんだろ!?
 なら今すぐ内蔵を透明にしろぉ!
 いや、もっときちんと治してから体を返せよぉ!」
スス「そうよ、私はへらへら笑いながら腸をしまうダンクなんか見たくない!」
シティ「ごめん、流石の私も人体模型とは付き合いたくないわ!!」
ダンク「お前ら何を想像したんだ!?」
ユウキ『あちゃー、気付いちゃったかー。もう少しイイハナシにしたかったんだけどなー』
アイ「てめえわざと黙ってたなあ!
 いくらお前でももし仲間がグロテスクパズルになったらキレるぞ!」
ユウキ『えー、仕方ないなあ。ならダンクの体が完全に修復するまで戻さないよ。
 ただし感覚や痛覚は別だ。
 君はこれから眠くなる、味の美味しさを感じる、暑さ寒さを感じる、痛みを感じるなど様々な感覚を味わう事になる。
 それは、君が人間に戻る為のリハビリだと思って受け入れて欲しい』
ダンク「ああ・・分かったぜ」

 ダンクは小さく頷いた後、ゴブリンズに向き直り、頭を下げた。

ダンク「皆、いままで色々と迷惑をかけてすまなかった。
 もう一度、お前達と一緒に行動していいか・・?」
アイ「・・そんなの、当たり前だろ。
 た・だ・し」

 アイ、スス、シティは薄い笑みを浮かべながらダンクに向かう。
 ダンクは少し眉をひそめた。

ダンク「・・なんだ?」
アイ「今まで散々、さんっっっざん理不尽な目にあったからな。
 お前をボコさないと気がすまない」
スス「私は一回死んだみたいだし、あなたにも同じ位の痛みを与えなきゃね」
シティ「私も結構うっぷんが溜まってるからねぇ・・。
 楽に死ねると思うなよ?」

 全員、凄まじい殺気を放ちながらダンクに近付いてくる。
 本人はこれから訪れる痛覚の嵐に、恐怖を覚えずにはいられなかった。

ダンク「ま、待て待て待て・・俺は今、痛覚があるって知ってるよな?
 殴られたり蹴られたりしたら・・おいまてシティ武器を持つな。そのメリケンサックをしまえ!」
アイ「いやー本当ワケわからん事一杯でさあ、サンドバッグ欲しかったんだよねえサンドバッグ」
ダンク「く、こいつら目がマジだ・・!
 このままじゃあやられ・・」

「ぱ、パパっ!!
 皆も聞いて!」

 不意に、背後からユーの声が聞こえてくる。声色から緊張してるのが分かり、全員がユーに目を向ける。

アイ「ユー、どうかしたか?」
ユー「わ、私・・実はニバリから手紙を渡されていて・・」

 ユーの手には、小さな手紙が握られていた。それを見た全員の目の色が変わる。

アイ「ニバリからの手紙、だと・・?」
ユー「ニバリが撃たれた後に残した手紙だけど・・私・・1人で見るのが怖い。凄く怖いの。
 もしこの手紙の中に書かれた文章が、『お前はバカだ、騙されてる』なんて文章だったら・・もし、『この手紙を読む時は、ニバリは既にこの世にいない』だったら・・私は、怖くて開ける事が出来ない・・」

 アイは知っている。
 ユーはハッキリしている子だ。自分の考えを通す為に、世界にさえ刃向かえる強い意思を持っている事を、アイはニバリとの戦いの最中で嫌という程知っている。
 だからこそ、この手紙を恐れたのだ。
 信じた者が裏切っていたのではないか、何かを背負わせる為にこの手紙を残したのではないかという、僅かな猜疑心が彼女の体を震わせたのだ。
 
ユー「わ、私・・怖いの。
 この手紙の真実を知る事が、ニバリちゃんの本音を知る事が、怖いの・・。
 お、お願いだよパパ。
 一緒に、この手紙を読んで・・」

 ユーは手紙を見せる。
 一緒に、という以上、まだユーは逃げるつもりが無いのだと気付いたアイは、笑みを浮かべる。

アイ「仕方ねえなあ・・。
 スス、シティ、ダンクにユウキ。
 お前らも一緒に読むぞ」
スス「・・ええ」
シティ「そうね、ダンクを殴るのは後にしましょう」
ダンク「あ、それはずっと後でいいですよ」
ユウキ『さあ、読もう!』

 ユウキの言葉に全員が頷き、アイは手紙を広げ、一番上の文章を読み始める。
 そこに書かれた言葉は、
『騙されたな、バカめ』ではなく、
『君がこれを読む頃には私はいない』でもなかった。

 『ユーちゃん、必ずこの手紙をメルヘン・メロディ・ゴートという人物に渡してね。これから君が読む文章には、
 メルヘンの父親、ドリーム・メロディ・ゴートがいま何処で生きているか書かれているから』


 続く
 
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