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2020年10月01日19:21

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特別短編小説『夢違え』 その4

その3はこちら。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1976620021&owner_id=10063995

スス「はぁっ!」

 ススは階段を二、三段急いで駆け上がり二階へ向かう。その上にも人形達はひしめきあっているが、頭上には電球カバーがぶら下がってる事に気づいていた。
 ススが懐から柄に何も書かれてないナイフを取り出し、それをカバーの上にある電線に向けて投げる。
 ナイフは寸分違わず電線を切り裂き、電球カバーは人形の頭に降り注いだ。
 突然カバーが頭に落ちて動きが止まった人形に、今度はスス自身が跳躍してその腹部にドロップキックを喰らわせる。
 人形は他の人形もろとも吹き飛ばされ、ススは無事二階に登り上がる。
 素早く立ち上がりながらススは呟く。

スス「やはり困った時はドロップキックに限るわね」
ダンク『いや、その答えはおかしいからな!?何だ今の蹴り、一撃で人形達がもろとも吹き飛んだぞ!
 え、まさかあのバカアイは毎回これ喰らってるのか・・!?』
スス「そんな訳ないじゃない。
 ・・リーダーにはもっと強力な奴を喰らわせてるわよ(ボソッ)」
ダンク『スス、恐ろしい子・・!』

 ダンクがススに戦慄している間にも、廊下から大量の人形が群がっていた。
 中には拳銃をふらふらと持ちながら近付いてくる人形までいる。

スス「やば、コントしてる場合じゃないわ。一気に駆け抜けるわよ!」
ダンク『待て待てマッテ!?
 あの人形込みの中に突っ込むなあ!
 死ぬ気かお前は!』
スス「最初(ハナ)からそんな気ないわ!
 ダンク、チャック閉めて!」
ダンク「え、あ、ああ!」

 ダンクが急いでカバンに潜り込み、チャックを閉めるのをススが確認した直後、ススは先ほどより高く跳躍し、人形の頭を越えた。それを見上げる人形の頭を踏み抜き、もう一度跳躍して大量の人形を越えていく。
 だが、人形は廊下の奥まで詰まっていてこのままでは降りる事が出来ない。
 それを悟ったススは降下しながら空いてない扉に向かい蹴りを入れていき、強引に扉を開けた。
 扉は破壊され、ススが中に転がり込むと中は捜査資料室らしく大量の段ボール箱が鉄の棚の中に押し込まれていた。
 それを見てススは一息つきつつ部屋の奥へ走り出していく。
 
スス「よし、いざとなったら棚を転ばして人形達を下敷きに出来るわ」
ダンク『待て待て、それをやっても他の人形達がお前を襲うだけだ!
 ここはルトーみたいに何処かに隠れた方が良い!』

 ススの声が聞こえたのか、閉じたカバンの中からダンクが騒ぎだす。ススは半分苛つきながらも、ダンクの声に答えた。

スス「そんな事言われても、私はここの地理を知らないのよ!
 それに私、今は暴れたい気分なのよ!
 あのクソ人形使いを見つけなきゃ・・」
ダンク『だったら尚更動くな!
 お前は奴との対決に向けて体力を温存しなきゃいけないんだ!』
スス「だけど隠れる場所なんて・・」
ダンク『あるぜ、そこにな!』

 ダンクがそう言ったのと同時に、部屋に人形達が雪崩れ込んできた。ススは素早く棚の後ろに隠れようとしたが、不意に体が動けない事に気付いた。

スス「え・・!?
 何が起きて・・」
ダンク『ススの体に魔術をかけた!
 これからお前は段ボール箱に変身するんだ!』
スス「待って、いきなり私の体に何してんのよ中身空っぽミイラ!
 て、敵が近づいて・・」

 みるみるうちにススの体は変化していき、そして段ボール箱に変化した。
 その直後に資料棚に人形集団が彷徨いてきたが、大量の段ボール箱がおいてある資料室の中のたった1つの箱がススである事に、誰も気付いていない。

スス(・・本当に気付かないわね)
ダンク(成功した!上手く隠れられたぞ!
 アイの言うことを信じて正解だったな)
スス(え、リーダーが何言ってたの?)
ダンク(ああ、あいつの言うことによると『段ボール箱はな、どんな敵からも欺く事が出来る万能変装道具なんだ。
 俺も戦争(ゲーム)時代では良くこいつに助けられた』だったからな!)
スス(それ絶対モノホンの戦争関係ないわよね。はあ、ダンク、
 あんたたまに騙されやすい部分があるからしっかりしなさいよね)
ダンク(ちなみにこの姿でも動く事は出来る、もしバレそうになったら別の場所にこそこそ移動するんだ)
スス(了解、さて人形どもは・・)

 人形達はススが見つからない事にきづき、少しずつ離れていく。だが一体の人形がショットガンを構え、大量の段ボールめがけて発砲した。

バァン!!

 撃たれた段ボールは中に入っていた資料ごと破壊され、紙片が宙に舞う。

スス「!!」
ダンク(ヤバい、あいつ段ボール箱をまるごと潰す気だ!)
スス(どーすんのよ、更にヤバくなっちゃったじゃない!)
ダンク(く、こうなったら隙をみて逃げるしかない・・!)
スス(く・・見てなさいよ人形野郎!
 私が絶対、アイツをギッタンギタンにしてやるんだからね!)

 バァン!

 人形がまた、無関係な段ボール箱を1つ粉々に変えてしまった・・。

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △


 同時刻・市場

サイモン「能力発動、『膨張(パンプアップ)』!」

 サイモンが能力を発動すると同時に腕が巨大化し、ビル程の大きさを持つ大きな握り拳をギターを構えた青年、ワラートを睨み付ける。
 ワラートもまたギターの弦を爪弾きながらもサイモンから視線を外さない。

サイモン「『剛(ゴウ)』!」

 サイモンが巨大な拳をワラートに向け突き出す。ワラートは逃げずにギターを爪弾くと、周囲の人形達が一ヶ所に集まっていく。

サイモン「く・・!
 戻れ、『縮(シュク)』!」

 人形達が拳に巻き込まれ、更にサイモンも攻撃を中断したためにワラートに攻撃は届かなかった。拳が小さくなるのを見ながら、ワラートはクク、と笑みをこぼす。

ワラート「おいおい、お前さっきは『全力で来い』とか言ってなかったか〜?
 なのに今の攻撃はなんだよ、こんな人形にビビって攻撃を止めるなんて情けねえぜ〜!」
サイモン(・・・・・・)

 サイモンの手が元に戻り、素早く横に走り出す。それに合わせて人形達も向かっていく。

ワラート「ハハハ、まさかこの人形達が傷つくのが可哀想で攻撃できねえのか!?
 とんだバカだぜ、こいつは!
 ソフトクリームが甘くない事を知らないくらいバカでフワフワな思考だ!」

 ワラートはピッチを取り出し、更に素早くギターをかき鳴らしていく。
 それを見ながら、コナロは右手をサイモンに向けて翳した。

ワラート「おっと、待ちなコナロ。
 まだお前は手を出すな」
コナロ「・・・・」
ワラート「お前が手を出すと、この辺り一帯がクソ暑い砂漠に変わってしまう。
 まだこの街には利用価値があるんだ、まだお前の能力は使うな」
コナロ「・・いいだろう。
 ワラート、警察署の方は順調か?」
ワラート「ああ、そっちも万全だ。
 奴等は既に人形化した。のこのこやってきたススも倒す寸前だし、捜査資料もついでに壊してる。
 これで俺達の正体を知るのは、あの目の前のバカだけさ」
コナロ「・・バカ、か。
 本当にそうなら、どれだけよかったか・・」
ワラート「?」
コナロ「ワラート、俺も行くぜ。
 能力発動」
ワラート「あ、おいコナロ!」

 ワラートが静止する間もなく、コナロは右手をサイモンに・・ではなく、地面に向ける。それと同時に右手が赤く輝いていく。

ワラート「コナロ、何を・・!」
コナロ「見ていろワラート、奴は・・ああ見えて、単純な奴じゃあないって事をな。能力発動、『大地熱病(グランド・フィーバー)』!」

 コナロの右手の輝きが地面に移り、消えていく。その次の瞬間、辺り一帯の地面が熱を持ち始めた。
 コナロの能力名は『熱病(フィーバー)』。
 彼が触れた物は、全てが恐ろしい程の熱を持ち、内部から破壊していく。
 生き物に使えばその熱で苦しみながら死に絶え、物質に使えばその熱で誰も触れる事が出来なくなる。
 フライパンに使えばコンロ無しで肉を焼けるし、風呂に使えば水は簡単にお湯に代わる。便利でありながら残酷な能力、それが『熱病(フィーバー)』。
 その熱さを感じる直前、ワラートは素早く背後の噴水のヘリの上に飛び移る。
 

ワラート「マジでやりやがったよあのやろ・・何!」
 
 先ほどまで立っていたワラートの地面から、突如巨大な指が突き上がってきた。
 だがその指はすぐに引っ込み、サイモンの手に戻る。

サイモン「ぐ、ぐうう・・なんだ、急に大地が熱く・・!
 地面も熱い、一体何が起きて・・!」
ワラート「アイツ、人形女と戦わず直接俺を狙っていたのか・・!」
コナロ「見たかワラート。
 奴は本気で俺達を殺す気でいる。
 油断するな。
 丁寧に確実に、奴の心臓を止めなければ俺達が死ぬぞ」
ワラート「・・へ、へへ。
 ご忠告ありがとよ、コナロ。
 警察への力をこっちに回すぜ。
 奴を全力で潰してやる」


▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ 

 ズドン、ズドンと音が鳴り響く毎に、一つずつ捜査資料の段ボール箱が破壊されていく。
 それを見ながら、箱に変化したススはもう逃げたくて逃げたくて仕方なかった。

スス(ちょっとダンク!
 奴等、なんか箱を攻撃してんだけど!?)
ダンク(あいつら、まさか俺達に気づいたのか!不味い、このままじゃ・・)

 ズドン!!

 遂に、ススの横にある段ボール達が破壊され始めた。中の資料が吹き飛び、大量の紙が舞っていく。

スス(もう逃げるわ!
 急いで逃げなきゃ私達もバラバラよ!)
ダンク(まて、今バレたらまた人形に追い回されるだけだ!ギリギリまで耐え偲べば何とかなる!)
スス(何とかですって!?
 具体的にどうなるか言ってみなさいよ!)
ダンク(そ、それは・・ん?)

 ダンクは話の途中で違和感に気付く。
 先ほどまで聞こえてきた銃声が聞こえないのだ。
 よく見ると、人形達が箱の一つに銃を構えたまま動かなくなっていた。
 
スス(・・あれ?人形達が、動かない・・?)
ダンク(止まった、のか・・?
 一度変身を解除するぜ。
 変身解除魔法『ハコハコイヤーン』!)
スス(なにそのクソダサ呪文!?)

 ダンクが呪文を唱えた瞬間、ススは元の体に戻った。人形は相変わらず、動こうとしない。

スス「・・動かないわ。
 完全に止まってる」
ダンク(どうやら何とかなったみたいだな。
 だが普段動かない奴が動くと怖いよな)
スス「あんだが言うな中身空っぽミイラ。
 にしても一体どうして・・」

 ススが人形を調べようと一歩踏み出した時、足元に紙が落ちているのに気付く。
 そこには『容疑者オカミー』と書かれていた。

スス「こ、これ、あいつらの資料よ!
 まだ全部破壊されてなかったんだ!
 ダンク、今の内に資料を集めて!」

 ススは言いながら、紙を探していく。
 だが、たくさん紙が散らばっていて探すのは少し時間がかかるのは明らかだった。
 人形はピクリとも動かないが、銃を構えたままだ。
 それを見てダンクは小さく呟く。

ダンク(お、おい。今の内に逃げた方が・・)
スス「嫌よ!
 このままやられっぱなしで終わってたまるか!
 奴等の情報を少しでも暴いて・・今度はこっちが反撃してやるんだ!」

 
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 ギュイーン、とギターを更に強くかき鳴らしていく。それと同時に人形達が動きを止める。そして人形達に向かいコナロが走り出しながらも能力を解放させ、人形達に両手で触れながら走り抜けていく。

コナロ「能力共同発動・・」
ワラート「『熱暴走(フィーバー・タイム)』!!さあ、俺達と一緒に盛り上げようぜぇ!」

 熱を持ち始め、体の節々から煙を上げ始めた人形達がサイモンに向けて走り出していく。
 それを見たサイモンは眉をひそめた。

サイモン(なんだ、コナロが人形に触れた瞬間、あちこちから煙を吹き上げながら向かってきたぞ!?
 そうか、これがオカミーの言っていたコナロの『熱を与える』能力・・!)
 
 熱を帯びた人形達が、次々に襲いかかってくる。触れれば肉を抉りそうな勢いで殴りか買ってきた人形の右手をサイモンは体を軽くネジってかわし、その体制から人形の背後に回り込み足に蹴りを入れて転ばしていく。その間にもう一体の人形が飛びかかってきた為に今度はしゃがみ、対象をつかめなかった人形は無様な体制のまま地面に衝突してしまう。
 そしてサイモンは一気に攻撃に転じる為に右手を巨大化させ、巨大な掌を人形達に向ける。

サイモン(すまない・・)「能力発動、『掌(ショウ)』ッ!」

 サイモンが巨大な掌を人形達めがけて飛ばし、人形達は避ける事もできずに吹き飛ばされていく。
 それを見ながら、サイモンは眉をひそめた。

サイモン(妙だ、人形達の動きが先程より遅くなっている。さっきは咄嗟に主を守れる程素早く動けたのに、今はまるで錆がかかったかのように動きがのろい。
 一体・・ん?)

 サイモンは妙な感覚を覚える。
 足が、自分の足がだんだん熱くなっているような気がするのだ。
 見ると靴から薄い煙が上っている。
 
サイモン(靴から・・煙が?
 いや、靴だけじゃない!)

 改めて辺りを見ると、辺り一帯の地面から煙がブスブスと上り出していく。
 下から異様な熱気が噴き上がり、気付けば汗が止まらない。
 広場の奥にある建物からは人が慌てて飛び出した。

「ひ、ひいやああああ!」
サイモン「!」
「急に、急に野菜が焦げ始めた!
 坊やのオモチャが、い、いきなり黒焦げにいいいい!
 熱い、熱いよおおお!誰か助けて、地面が火事だあああ!」
サイモン「な、なんだ・・!
 まさか、コナロ・ウィスルがさっき発動した能力が広がっているのか!?しかもさっきよりどんどん熱が上がり続けている!
 奴の能力には、ブレーキが存在しない!!」

 サイモンが驚愕する間にも、人形達がぎこちない動きで近付いてくる。体のあちこちから煙を吹き上げ、熱さに耐えながら向かってくる。

サイモン「ち・・!」
人形『タスケテ・・』
サイモン「!」

 人形達が、ガタガタと体を震わせながら口を動かしていく。唇さえもまともに動けないのに、声だけが人形の中から響いてくるのだ。

人形『タスケテ・・タスケテ・・』
人形『アツイヨウ、イタイヨウ・・』
人形『シニタクナイ、コワレタクナイ』
人形『ワラートサマ、オネガイ、ヤメテ・・』

 人形は、ワラートのファンだった女達は必死に叫ぶ。熱の苦しみ、人形に変えられた悲しみ、自分の意思で動けない絶望。
 その三重苦に苛まれながら、僅かな希望として彼女達の憧れであるワラートに懇願しているのだ。
 その憧れこそが今の絶望を与えている事を理解していても、一途に願うしか無いのだ。
 サイモンの拳が震える。
 全身が血ではなくたった一つの感情で駆け巡り、今まで感じた痛みも暑さも全て彼の頭の中から忘れた。

サイモン「ワラァァァトッ!!」

 サイモンは一気に跳躍し、人形達を飛び越えていく。そして能力を発動させ、拳を巨大化させた。

ワラート「イイッ!?」
サイモン「能力発動!『膨張(パンプアッ)・・』」
コナロ「好機(チャンス)!」

 左腕を巨大化させ攻撃を仕掛けようとしたその時、右下からコナロが跳躍してきていた。その右手は真っ赤なオーラで染められている。

コナロ「地面からの熱と人形に囲まれてるんだ、空中に飛んで逃げるしかねえよなあ!
 俺達の思惑通りによぉ!」
サイモン「しまっ・・」
コナロ「『熱病(フィーバー)』!!」

 コナロがサイモンのがら空きの腹部に殴られる。痛みと共に熱が広がっていくのを感じながら、サイモンは握った拳を離さず、怒りの対象を逃そうとしなかった。

サイモン「・・ッッ『張(アップゥ)』!」
コナロ「何!?」

 サイモンの左腕から放たれた拳がワラートめがけて飛んでいく。ぐんぐん巨大化してワラートに近付いていく。
 ワラートが咄嗟に出来たのは、ギターを隠す事だけだった。

ワラート「しまっ」
コナロ「ワラート!」

 メリリャっ、とワラートの体がサイモンの拳にのめり込み、思い切り吹き飛ばされてしまう。
 ワラートは吹き飛ばされ、広場の奥の建物に背中から激突し、ずるずるとたおれていった。
 しかしその足元も既に熱を帯びた大地であり、その熱さでワラートは失いかけた意識を取り戻してしまう。

ワラート「アチイイイイっ!!
 イテエエエエっ!ち、畜生!
 左腕が、左腕が折れたああっ!」
サイモン「く、気絶まで至らなかった・・か・・は!
 がああああああああっ!!」

 サイモンの全身に怒りの代わりに熱が回り、彼の全身を激痛が襲う。
 受け身もとれずに大地に落ち、痛みと熱で悶え苦しみ続ける。

サイモン「が、があああっ!
 ぎゃああああああっ!」
コナロ「無駄だ、俺の能力は一度発動すれば二週間は止まらない。
 体中の水分が抜け、お前がミイラになっても熱は篭り続け、やがて自然発火し灰になる。
 この街も、そこで転がってる人形女達もな・・」
人形『ギギギ・・』

 人形達は全て倒れてしまっていた。
 地面からの熱で、少しずつ体が焦げ始めている。
 必死に助けを乞おうと手を伸ばすが、コナロはそれを無視してワラートに近寄る。

コナロ「ワラート、大丈夫か?」
ワラート「お、俺は大丈夫だ・・だがしばらくギターは弾けないのはまずいな。このままじゃあの女達や警察官の人形化は解けてしまう。
 それよりコナロ、早く警察署に向かった方が良い。
 ススが逃げてる可能性がある」
コナロ「何?」
サイモン(スス・・!)

 ワラートはフラフラと立ち上がり、右手でギターを支える。だが左手はだらんと垂れ下がったままだ。
 ぎりっと歯ぎしりをしたまま、警察署の方を睨み付ける。

ワラート「操り手の感覚で分かるのさ、あの女を上手く殺せていないってな。
 コナロ、ここは一旦引いた方が・・」
サイモン「く、ククク・・」

 ワラートの話を遮り、サイモンは不敵な笑みを浮かべる。全身が熱に犯されても、その痛みを見せないように笑った。

サイモン「は、ははははは。
 この戦いは、私達の勝ちのようですね・・コナロ!」
コナロ「何・・」

 サイモンもまた、フラフラと立ち上がる。その両手に拳を握る程の力はもうないが、精一杯やせ我慢しながら二人を睨み付ける。

サイモン「あ、貴方達は私達の作戦にまんまと引っ掛かったんですよ・・。
 私はただの尖兵で、彼女が今作戦の本命だと気づかなかった時点で負けているのです・・」
コナロ「作戦だと!
 一体何を言っている!」
サイモン「何って、そりゃあ決まってるじゃないですか?貴方達をこの世から退場ための作戦ですよ。貴方達はもう終わりなのです・・」
ワラート「き、貴様・・言わせておけば!
 俺達は最強のチームだ、誰にも負けねえよ!」
サイモン「な、なら、オカミーさんは何処にいるか、分かりますか・・?
 貴方のギターは、なぜ弾けなくなったのですか?
 最強のチームが、聞いて呆れる。
 最強のチームなんて、何処にもないんですよ、何処にも・・」

 最強のチーム、という言葉に少しだけ憂いを込めて呟くサイモン。
 だが、そんな僅かな感情の変化を怒り心頭のワラートが気付くわけが無い。

ワラート「き、キサマ・・殺してやる!
 もう二度とそんなふざけた口を聞けなくなるようにボロゾーキンにして・・」
コナロ「やめろワラート」

 フラフラするサイモンに殺意を込めて近付こうとするワラートを、コナロが無理やり静止させる。
 
コナロ「今ここでこいつを殺しても意味がない。
 それよりこいつがオカミーにしたように拷問して、ススの情報を吐かせた方が良い」
サイモン「・・!」
ワラート「おお、さすがコナロだ!
 それは名案だぜ!
 こいつの全身に針をぶっ刺して血塗れになりながら情報を吐かせたり、
 体を刻みながら少しずつ死を与えてやろうぜ!へへ・・」

 ワラートはニタニタと笑みを浮かべながらサイモンに近づき、胸ぐらを掴む。

ワラート「ヒヒヒヒヒ、何せこいつはよー、俺達トップアイドル『COViD1or9(コービッド・ワン・オア・ナイン)』のイケメンギタリストをキズモノにしてくれたからよ〜!
 生半可な拷問じゃあ満足できねえぜ!」
コナロ「決まりだな。
 早速、アジトに向かうぜ」
ワラート「そうだな、おら歩けよ、ゴミクズが!」
サイモン「・・・・」

 コナロ、ワラート、サイモンはゆっくりとアジトに向かう。
 フラフラと歩きながら、サイモンは一人心の中で笑みを浮かべていた。

サイモン(よし、これで彼等は私をすぐに殺せなくなった。
 しかも拷問するため、少しでもススを追いかける事が出来なくなる。
 私が生きてる間、彼女を傷つける事は出来なくなった・・。
 今の内に急いで逃げてください、スス。
 貴女は拍手部隊の最後の生き残りなんだ、貴女は幸せにならなくちゃダメなんだ・・)

 三人がゆっくりと街から離れていく。
 それぞれの思惑をいだいて街を出ていく。

 一方その頃警察署では、人間に戻った警察官達が首をかしげていた。
 捜査資料室がむちゃくちゃに荒らされ、二階の電球が破壊されて、
 何故か壁が大きく破壊されていたからだ。人一人分出るには充分なほどに大きな穴が・・。


 続く。

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