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2020年08月15日16:51

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角が有る者達 特別短編小説『夢違え』 その3

『その男、隊長にして、先生』

 その2はこちらから

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〜前回までのあらすじ。




 ススが空を見上げる3日前、ワラート、オカミー、コナロ・ウィスルの三人組によりゴブリンズのメンバーは皆人形に変えられてしまったが、
 ススだけはメルの機転により人形になった仲間を連れて脱出に成功する。
 そして彼女は1日走り続けて向かった先はススの元上司にして教師、サイモンだった。
 必死の彼女が助けてと懇願するも、サイモンは『警察に助けを求めた方が安全だ』と聞く耳を持たない。
 疲れた彼女を癒すため一晩だけ彼女を寝かすが、
 その間にサイモンはオカミーを倒し、情報を聞き出す事に成功するが、それをススに悟らせようとはしなかった。
 スス、サイモン。
 この二人はこれからどうなるのだろうか・・。


第3話 『空の果てまで届け、君の声』
 
〜サイモンの家・7時50分〜

 食事を終えた二人は、これからどうするかを話しあおうとしていた。
 ススの足元には仲間の人形が詰まったバッグが置いてある。

スス「私は、人形にされた皆を一刻も助けたいんです!隊長先生、どうか私と一緒に来てくれませんか」
サイモン「ダメです。
 今の貴女はただの被害者だ。
 なら警察も貴女を守ってくれる。彼等に守って貰えた方が貴女は安全なのです。
 それに私は右手を痛めている、組織と戦うには危険な存在なんですよ」
スス「でも、私にはもう誰も、頼れる人は・・」

 ススは言葉を詰まらせて目線を下ろし、サイモンは時計を見る。
 時刻は7時50分。そろそろ彼女を警察まで案内しなければ、と決意を固め始めていたその時、第三者の声が聞こえてくる。

「ま、待った!
 待つんだ二人とも!」
スス&サイモン「「!!」」
 
 二人同時に椅子から立ち上がり、ススはナイフを構えサイモンは気配を感知しようとするが、人の気配は感じない。
 二人の緊張を壊すように、第三者の声が響いてくる。

『お、俺だよオレオレ!
 ダンクだ!皆の頼れる魔法使い、ダンクだよ!』
スス「ダンク?」

 ススは人形が詰まったバッグのチャックを開けて中身を確認すると、そこにはダンク人形だけがじたばたと動いていた。

ダンク人形『ああ、良かった、スス!
 やっと会話できるようになった!』
スス「だ、ダンク?
 貴方、なんでその状態で喋ってるのよ?

ダンク人形『俺は元々、巻物に魂が憑依した存在だ。体を人形になっても魂までは縛れなかったみたいでな。
 この姿で喋ったり動いたりするためにいちいち新しい魔法をかけ続けるのに時間がかかったが、何とか出来たようだ!』
スス「・・・・!!
 だ、ダンク・・!良かった、良かったよ・・!」

 ススはダンク人形をぎゅっと抱きしめ、警戒を解いたサイモンは椅子に座り、ダンクに話しかける。

サイモン「ダンク・・だっけな。
 はじめまして、私はサイモンだ」
ダンク『俺はダンクだ、だが詳しい自己紹介は後だ。
 奴等、こちらに近づいている!』
サイモン「・・!」
スス「なんですって!」

 ススから離れたダンク人形は軽やかに跳躍し、机の上に居座り、話を始めた。

ダンク『この状態だと奴等の動きが見えてくるんだ。奴等、こっちに向かってくる。
 急いでここを離れないと、この家が戦場になっちまうぞ!』
サイモン「・・・・。
 それは危険ですね、早く警察まで向かわなければ・・」
スス「隊長先生!」
サイモン「スス君、私を誰だと思ってる?
 正義の味方か?全てを凌駕する超人か?
 違う、君の兄弟と私の仲間を守れなかった役立たずだ。
 しかも私は手を怪我している、君を満足に守れない!
 警察に行くんだ、スス。
 そっちの方がずっと安全だ。
 ・・私なんかよりもな・・」

 「これから街へ向かいますよ」と呟くように、しかし有無を言わせずサイモンは再度椅子から立ち上がり、自分の部屋に向かっていく。
 それをススは追う事ができず、目線をダンクに向ける。

スス「ダンク・・」
ダンク『お前の過去の事は知ってる。
サイモンとお前の苦しみは同じだが、彼は責任が大きいんだ。
 お前と同じ過去を背負ってる分、理解できるのもお前だけだ。なるべく寄り添ってやりな。
 生きてる奴にはまだ、会話できるチャンスがあるんだからな・・』

 ダンクはリュックの中に入り、ススはそれを背負う。
 そして部屋を出ようとして、昨日は気付かなかった部屋が幾つかある事に気づいた。
 そのうちの一つを覗いてみると、そこはまるで大きな都市の図書館の中に入り込んだと錯覚してしまう程、沢山の本棚と敷き詰められた本が置いてあった。

スス「隊長先生、こんなに沢山の本を集めていたんだ・・」

 どんな本や知識を集めているか気になったが、背中の重みが現実を思い出してくれた。そして結局、その中に入る事がないまま、ススはサイモンの家を出てしまった。


△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

〜港町〜

 港から様々な人が訪れるこの港町には、常に誰かの喧騒が聞こえてくる。
 その中でススとサイモンは、並んで歩いていた。
 人通りの多いこの場所では何処から来るか分からないが、逆に相手からも見つからないという理由で探し歩いていたのだ。

サイモン(本当は私が前を歩きたいんだがな・・)
スス「ダンク、どう?
 近くに敵を感知できる?」
ダンク『うーん、いないな。
 奴等、俺達が移動した事にもまだ気づいてないみたいだ。
 家の方に向かってるぜ』
サイモン「なら、私達はまだ安全ですね。
 早く警察に向かいましょう」
スス「・・・・」
 
 ススは、サイモンの顔を見ようとして見れなかった。
 すぐ横に並んで歩く男の顔を、恥ずかしくて見れなかったのだ。

スス(サイモン隊長先生。
 貴方はあの頃の苦しみを、忘れてないんですね・・)

 ススは思い出す。
 かつての戦争時代、新入りとして入ったススと、その上司であったサイモン。
 通称『拍手部隊』と呼ばれたチームは、敵の手により壊滅されてしまった。
 ススの兄セキタ、姉スミーも、仲良くしてくれた仲間達も、敵の手により死んでしまったのだ。
 当時新兵だったススと、隊長のサイモンを残して・・。

スス(ゴブリンズに入ってから、私は二度と仲間を失いたくない思いを抱えて生きていた。
 だけど隊長先生は?
 みんなをずっと守って生きてきた隊長先生は仲間を作らず、教師として生徒達に平和な世の中を伝え、自分の心の傷の痛みに耐え続けていた。
 私は、そんな彼の気持ちに気付かずに手を伸ばしてしまったんだ・・。
 仲間を失った傷みに苦しむ彼に・・)
サイモン「着きましたよ」

 サイモンの声が聞こえてきて、ススが見上げるとそこには四階建て少し古い建物がそびえ立っていた。
 入り口近くには『警察署』と書かれている。

サイモン「貴女はここで事情を話して保護してもらって下さい。
 そしていざとなったら脱走する準備も忘れないように」
スス「たい・・サイモン先生。
 待って・・わ、私は・・」
サイモン「行きなさい。
 私が一緒に入るわけには行きません。
 君は、君の安全を守る事だけを考えていればいいんだ」
スス「サイモン先生、待って!!」

 そう言って、サイモンはススに背中を向けて街中へ歩いていく。
 ススが追いかける間もなく、大きな背中が人混みに紛れて消えてしまった。

スス「サイモン先生・・」
ダンク『スス・・』

 ふと、背後の鞄からダンクの声が聞こえてくる。

ダンク『・・なぜ、追わないんだ。
 あんたに守ってもらいたい、あんたなら安心できるって、言えばいいじゃないか。
 いや、もっと他にも言葉がある筈だ、交渉の方法ならいくらでもあるだろう。なぜ、それを考えようとしない。
 今からでもいいから、追いかけろ』
スス「・・それは・・。
 ダンク、行きましょう」
ダンク『お、おいまてスス・・』

 ススはダンクの言葉を無視し、警察署に向かっていく。
 足を止めて振り返れば、何処かで隊長先生が見てくれているのではないか、と淡い期待を持たないように足に力を入れて走るように警察署の中に入っていく。
 警察署の中は、みんな書類仕事で忙しいのか意外と静かで誰もススの事を気にしていないようだった。 
 部屋は綺麗な内装ではあるが、部屋の左側の奥には頑丈な造りの廊下が見える。右側には階段が見えて、地下と上に登り降り出来るようだ。
 建物の四隅にある四角い窓からは日光や外の景色が良く見えた。

スス「・・・・」
ダンク(しかし、あれだな。
 ふだん警察から逃げてる俺達が警察を頼る時が来るなんてな。
 まあ、今はただの一般人として振る舞おうぜ・・ん?)

 ダンクが上を見ると、今ススが入った扉の隙間から、凄い勢いでシャッターが降りてしまい、あっという間に扉が塞がれてしまう。

スス「え!?」

 ススが振り返る間もなく、建物の窓も次々にシャッターが降りてきて、重苦しい金属音と共に塞がれる。
 日光が無くなった世界を照らすのは、天井から輝く蛍光灯の光だけだ。
 
スス「な、なに・・?
 一体、何がおきて・・」
ダンク『スス、罠だ。
 この警察署は敵の・・いいや、ワラートの罠の巣なんだ!』
スス「・・て、事は!」

 ススがナイフを構える。
 警察署の奥から、警察服を着た男性・・に見える人形が一体、二体と立ち上がる。
 良く見るとそれは全て藁人形で、藁の部分は全て肌色に塗られていた。
 藁人形警官は、ぎこちない動きでススに近づいてくる。

スス「ち・・能力を使ってこいつらを」
ダンク『待つんだスス!
 敵はこの二体だけじゃない!
 廊下の奥からいっぱい気配が・・!』

 ススが二体の人形にナイフを向けたまま左側に目線を向けると、ぎこちない動きで藁人形警官達がこちらに向かっていた。
 全員が防弾服やアーマーで武装されている上に、手には拳銃や棒、さすまたが握りしめられている。

スス「な、なにいいっ!?」
ダンク『不味いぞ、奴等は完全武装でこちらに向かってくる!これ警察署の中の奴ら全員が人形化してるんじゃないか!?』
スス「わ、ワラートの能力はここまで強いの・・!?」
ダンク『スス、能力はまだ使うな!
 脱出手段を見つける前に使ったら、間違いなく死ぬ!』

 ダンクの声に、ススは無言で頷きつつも逃げ場を探していく。幸い、階段から降りてくる人形は見えない。

スス(私の能力は一瞬で倒す速攻戦向きの能力。
 対して相手は人海戦術を使う持久戦向きの能力・・相性が悪すぎる!)
ダンク『とにかく今は自分の身を守る事を最優先にするんだ!』

 ススは素早く階段に向かい飛び出していく。瞬間、人形達が次々に発砲し扉や壁に穴が開いていく。

スス「ええ、分かってるわダンク。
 まずは身を隠せる場所を探さなきゃ・・!」
サイモン(君は、君の安全を守る事だけを考えていればいいんだ)
スス「・・サイモン先生。
 まさか、さっきの言葉の意味は・・!」

 ススが階段を駆け上がりながらサイモンの言葉の意味を一瞬だけ考えてしまう。
 だが目線を上に上げると、大量の人形が階段上に集まっていた。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

〜港町・広場〜

女の子A「キャアアアアッ!」
女の子B「ま、まさかこんな寂れた街で『COViD・1or9(コービッド・ワン・オア・ナイン)』よー!」
女の子C「こっち向いてー!」

 女の子達の目線の先には、ギターを掲げた細身の男性、二人組が立っていた。
 彼らは人気アイドルグループ『COViD・1・9』。
 一人はボーカル『コナロ・ウィスル』。
 もう一人は『ワラート・ディスタンス』。
 本当はドラムの『オカミー・クラスター』もいるが、人気があるのは二人だけだ。
 その二人が広場に到着しただけで、彼等のファンが集まり黄色い声援が送られていく。
 『COViD』は世界中に人気なアイドルで、とある国では百万人以上のファンが彼等に夢中で熱狂しているようだ。
 ワラートはギターケースからギターをとりだし、軽く爪弾いた。
 それだけで五人位の女の子達がメロメロになってたおれてしまう。
 彼等が歌った曲、『人混みの中で愛を叫ぶ』は6ヶ月ずっとランキング一位の超・人気曲だ。

女の子D「ああ、ワラート様がギターをつまびくだけでなんて神々しいの・・!」
女の子E「わたし、尊すぎて素顔で見るなんてできないわ・・誰かマスクか、フェイスシールドを下さい・・」
女の子F「熱が・・あの二人、尊すぎてわたくしお熱が上がりっぱなしですわー!」

 広場に黄色い声援が集まり、ワラート・ディスタンスとコナロ・ウィスルの周囲には常に人だかりが築かれていく。
 なぜなら彼らは世界中の人形ミュージシャン、『COViD・1or9』なのだから。
 そんな熱狂的なファン達が集まる中、一人の男性がゆっくりと歩いていく。
 だがミュージシャンの近くにいたい女性達は決して離れようとしなかったので、男は女性達に近づかず左手を握りしめ拳を振り上げ、小さく呟く。

「能力発動、『膨張(パンプアップ)』」

 男の左腕はみるみる内に巨大化し、やがて女性達を大きな影が覆っていく。 
 そして影に気づいた女性達がビル程に巨大化した左腕を見て、アイドルに向けるやのとは違う叫び声を上げ、逃げていく。
 拳は振り下ろされ、その先には有名ミュージシャンの二人が笑みを浮かべ佇んでいた。

女の子G「ああ、『COViD』様が狙われているわ!」
女の子K「ワラート様あああー!
 コナロ様々アアァァー!」

 女の子達が必死の表情で騒ぎ出すが、二人は笑みを崩さない。
 ワラートがパチンと指を鳴らした瞬間、ギターケースから大量の十センチ程の小さな藁人形が飛び出し、二人のミュージシャンは倒れてしまうが、その背中を沢山の藁人形が持ち上げ、二人は倒れたまま藁人形が移動し、
 結果として誰もいない場所に拳が振り下ろされ、広場に円いヒビが入った。

 男・・サイモンは特に慌てる様子もなく左腕を元のサイズに戻していく。
 女性達は半分近くが逃げたが、もう半分は二人のミュージシャンを探し、無事な姿を見つけて安堵した。
 二人は既に立ち上がり、ワラートは笑みを浮かべたままサイモンに訊ねる。

ワラート「やあ、乱暴な君。
 一体ぜんたい、この俺達に何の理屈があって俺達を攻撃するのかい?」
サイモン「君とコナロ、そしてオカミーが私の部下の仲間を皆殺しにされそうになりました。
 私の部下も今現在、殺されようとしています。
 故に貴方達の悪行を止める。
 その命を止めて私の平和がもう訪れないと分かってでも、私は部下の平和を守ろう。『膨張(パンプアップ)』」

 サイモンは両足を巨大化させ、二人を蹴り飛ばそうとする。まるで橋のように巨大な足が二人を襲うが、ワラートは手にしたギターを軽く爪弾いた。
 その瞬間、ワラートの周囲にいた女の子達が一瞬で藁人形に変化され、ワラートの盾となって吹き飛ばされていく。

サイモン「む・・!」
ワラート「フフフ、ハハハハハ!
 まさか、俺達の裏の顔を知る者がいるなんてな!
 オカミーめ、俺達を裏切ったな!
 だとしたらお前はなんて恐ろしくなんて愚かな奴だ!」

 ジャーン、とワラートがギターをかき鳴らした瞬間、周囲の女の子が全員、身長と服装がそのまま藁人形に姿を変えられてしまった。

サイモン「・・!」
ワラート「俺の能力は『ギターを聞き続けた者を人形化させ、操る』能力!
 そして、手作りの人形に人の体を閉じ込めさせる事だって出来る!!
 それもオカミーから聞いた筈だろ!
 なら、今俺を狙うのは危険な筈だと分かってるだろうに・・お前は大馬鹿者だなあ!」

 高笑いするワラートの前に、サイモンが何かを投げた。
 笑いながらワラートが観ると、そこには人の足の親指、人差し指、中指が鉄串に刺さった状態で落ちていた。
 熱せられた状態で刺さったからか、指のあちこちに火傷の跡がついている。

オカミー「!!」
サイモン「あなたこそ愚か者ですよ、ワラートさんにコナロさん。
 私はあなたの仲間を拷問し、情報を吐かせた男だ。
 あなたを殺すと宣言した男が目の前に立っているんだ。
 もう少し、警戒した方がいい・・」
ワラート「・・!!」
サイモン「全力でかかってきなさい。
 私は貴方達に全力を出すつもりですからね!」





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