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2020年07月27日06:41

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長編小説 角が有る者達 第221話 

『Setubunーそして『怪物』は消えていくー』

〜アタゴリアン・噴水広場前〜

 白山羊が狙撃された。
 ニバリにさえ易々と穴を開ける程の威力を持つ弾丸を腹部に命中され、撃たれた所から中の機械の部品やら液体やらが噴出している。
 黒山羊は急いでかけより傷口に手を乗せて白山羊の確認を取る。

黒山羊「メ・・!!
 身体確認(バイタル・チェック)!
 危険信号・赤!直ちに修理・必要!
 修理コード『アマルテイアの山羊乳』発動!
 白山羊!安心、しろ!
 我、絶対、修理、するから!」

 言うが早いが黒山羊の翼が大きく広がりながら艶やかな黒色に変色していき、白山羊ごと二人を覆う殻となってしまった。
 その一部始終を、ライだけが見ていた。

ライ「あ、ああ・・そんな!そんなぁぁぁぁっ!」

 ライは震え上がりながらも球体に近づき、その2メートル前で膝をついてしまう。

ライ「お、俺のせいだ!
 俺が白山羊に話しかけたから、あいつの気が逸れて、攻撃に気づけなかったんだ!
 俺のせいで白山羊が、アイの仲間が酷い目にあったんだ!
 す、すまねえ・・すまない!」

 白山羊の入った球体に、ただ一人頭を下げるライ。だがその耳にハサギの笑い声が響いてくる。

ハサギ『ふはははははは!!
 ゴブリンズ、今ので分かっただろう!
 ニバリに情けをかける事が、どんなに愚かな事か!
 そんな怪物に肩入れするからそうなるんだ!お前達もまた大罪人だ、世界に処刑される前に俺がここで処刑してやる!それで世界は幸せに包まれるんだ!
 Good by bad end(さようなら悲劇)!
 Welcome happy end(ようこそ幸せな結末)!
 ワーッハハハハハハハ!!』

 広場中に響く笑い声、それもゴブリンズを蔑む嘲笑を聞いてシティが黙ってる筈が無い。

シティ「ハアアアサギイイイイっ!!
 能力発動、コンクリート・ロードォッ!」

 シティが右手を上げると同時に、上空に百や二百で収まらない、おびただしい量の電柱、バス、鉄板、ビル、テトラポットが出現し、声のする方向に向けて次々に落としていく。
 周囲の建物がテトラポットやビルに押し潰され、その際に飛び散った破片にさえ電柱が押し潰していく。
 小さな地鳴りや破砕音が響き渡り、埃や建物の破片が舞い散る中でシティは叫ぶ。

シティ「笑ったな!
 私の目の前で、仲間を侮辱したなっ!
 殺す、殺してやるっ!
 ハサギイイイイッ!!」

 シティが建物を次々に破壊していく。
 幸い、狙撃手を恐れた兵士達が近くにいなかったので人に被害は無かったが、理屈の無い怪物達はシティの暴走に次々と飲まれ、消えていく。
 なのに、ハサギの声は一向に焦る気配も止む傾向も見せなかった。


ハサギ『いくら叫ぼうが暴れようが無駄だ!
 お前達の小さな意見なんか、精一杯の主張なんか、世界の誰も聞く訳無い!そんな世界に害しか与えない化け物を、誰が許すと思っているんだ!
 俺を越えた所で、こいつは世界に殺されるだけの害悪でしかない!
 ゴブリンズ、もはや意味は無いだろうが忠告する。
 失せろ、そしてこんな化け物の事を忘れてしまえ。それだけがお前達が世界で平和に生きられる道だ!』
 
 ハサギの声を聞いて、ススとシティが果たして忠告通りに行動する可能性なんか無かった。ユーがハサギに恐怖する弱さを見せる訳が無かった。
 ススはナイフを構えたまま、ハサギが何処にいるか探し、シティは感情の限り叫びながら超能力で街を破壊していく。
 ユーはニバリの傍から離れようとせず、ただただニバリの破損した腕に抱きついていた。
 それを見たある人々は嘲笑った。「あいつらはバカだ、あの怪物が自分達を食い殺そうとする機会を伺ってるのに気づいてない」、と嘲笑い続けた。
 ある人は同情した。「彼女達は自分達が世界から孤立してるから、同じ立場のあの怪物に肩入れしているんだ。なんて情けないんだろうね」、と哀れむ目で彼女達を見つめた。
 しかし、ライは彼女達を見なかった。
 高笑いするハサギの方を、心の底から残念そうな目を向けながら呟く。

ライ「なあ、ハサギ。
 正直、お前の言ってる事は正しいよ。
 百人がお前の言葉を聞けば、百人が言い訳一つせずに頷く程、正しい言葉だ」

 そこまで言って、ライの目に感情が宿る。そこには心配でも悲しみでもなく、猛々しい憤怒が宿っていた。

ライ「しかし、醜いッ!!
 仲間の言葉に耳を貸さず、その体を撃ち抜いて平気で高笑いするお前は今、俺がこの国で出会ったあらゆる化け物より醜い!
 百人中百人が正しいと言っても、千人中千人が奴を支持しても、俺はあんな醜さを支持しない、賛成しない、認めない!」
 
 ライは怒りで全身を震わせながらバズーカを手に取り、構える。いつもの人を殺す武器の重さとは全く違う重みを感じながら、ライはかつての仲間に向かい叫ぶ。

ライ「テメエは、俺が止める!
 俺があいつを殺して世界の歯車ごと、歪んだ正義を止めてや・・」
「待つんだ、ライ」

 ライが自分が世界の悪になってでもハサギを止める覚悟を決めた次の瞬間、背後から声をかけられる。
 てっきり暴走している自分を誰かが止めに来たのだと思い、怒りの感情のままに振り返る。
 そして、声をかけた男の姿を見て、轟々と燃え盛る怒りよりも、驚きの方が上回ってしまった。

ライ「おま・・な、ぜ、ここに・・」
「そんな事はどうでもいい。
 時間がない、俺を喧嘩に混ぜろ・・」
ライ「・・そうか。
 分かった、こっち来い。
 あのバカ殴る作戦なら出来てるんだよ」

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

〜アタゴリアン・ハサギの部屋〜 

 あちこちから破壊音が聞こえてくるのを聴きながら、ハサギは弾を込めていた。
 ハサギが弾を込めている部屋には大砲の砲頭が出ている以外に窓はなく、扉はバリケードを築いて塞いでいた。
 念のためにニバリ達がいる付近にはカメラが設置されているが、それにユー達が気付いた様子はない。
 ユーは相変わらずニバリの壊れた腕にしがみつき、自分を盾にしているつもりでいる。
 その映像を一瞬も確認しないまま、この部屋で唯一生きている歯車であるハサギは弾を込める作業を進めていた。
 本来なら弾込め役がいなければ行けないが、今回は一人しかいないために一発撃つ度に時間と体力をかなり消耗していく。
 それでも、ハサギの心に燃える炎は収まることがなくむしろ更な緋色に燃え上がっていく。

ハサギ「あの化け物、首を撃たれても目を撃ち抜かれてもまだ動けるのか・・もっと、全身に弾丸を撃ち込んで奴の原型すら無くしてやる・・!」

 振動が絶え間なく続き、爆撃と聞き間違えそうなシティの攻撃は未だに止まない。
 だがハサギは一向に焦る気配を見せずに弾を込めていった。

ハサギ「ゴブリンズ、俺は忠告したんだ。
 そいつを肩入れするなと、忘れろと。
 だがそうしなかった。
 だったら撃ち殺されても文句はねえよな」

 ハサギは次の狙いをススに向けていた。
 弾を込めたあと、自らの記憶を呼び覚まし脳内に立体的な広場を建設、そしてススやシティを配置させる。
 ハサギはその記憶が見せた景色を参考に大砲の砲口を微調整していく。

ハサギ「これでよし。後は・・」

 ハサギはスピーカーのスイッチを入れ、小型マイクに向かい、語りかける。

ハサギ『スス、聞こえるか。
 白山羊の次はお前を殺す』

 映像の中のススがハッと気付いた表情で辺りを見渡し、急いで建物の影に隠れる。
 その位置こそ、記憶でススが立っていた場所そのものだった。
 ハサギは内心で笑みを溢しながらも、怒りの声を上げる。 

ハサギ『残念だ、本当に残念だよ。
 お前達はいつまでたっても誰かの思い通りに生きてくれない。
 そんなお前に正義なんかない。
 ニバリと同じ、ただ生きているだけで害悪だ』

 ハサギはマイクに向かって喋りながら上がったレバーを握りしめる。これを下ろせば爆音が鳴り響き、部屋が一際大きい振動で震えた後に、ススを簡単に殺す事が出来る。
 映像の中でユーやシティが何か喚いてるが、ハサギはそれを聞く気は無い。
 レバーを握る手に力を込めながら、一言別れを呟いた。

ハサギ「さよならだ、クズ」

 ドガアアアアアンっ!!

 爆音が響く。
 部屋の中が一際大きい振動で震え、爆音が鳴り止んだ時に、ハサギは気付く。
 まだレバーを下ろしてない事に。
 ハサギがゆっくりと映像を見ると、建物の影に隠れたススをシティが無理やり引っ張りあげていた。
 ススの体の何処にも傷はない。
 その奇妙さにハサギが疑問を浮かべる間もなく、ハサギと映像の間に誰かが姿を現した。

「よう、大バカ野郎」

 声が聞こえたと同時にハサギの顔面を思い切り拳がめり込んでハサギは吹き飛び、大砲から転げ落ちてしまう。
 そして立ち上がろうとするハサギはもう一度辺りを見渡すと、部屋の右側に大穴が出来ていて、そこから光が漏れていた。
 その光が、ハサギを殴った男の顔を映し出す。それと同時に、ハサギと男の会話はスイッチを入れたマイクによりスピーカーを通してユーとニバリに聞こえてきた。

ハサギ「お、お前は・・」

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

〜広場〜

ハサギ『お、お前は・・』
ユー「うん・・?
 誰か、助けに来てくれたの・・?」
ニバリ「・・・・」

 ニバリは今、目が見えなくなっていた。
 両目を撃ち抜かれた衝撃で機械の体に接続された視神経にダメージが入り、本体の目に絶え間なく激痛が続いているからだ。
 更に喉も撃たれた事で機械の体で会話する機能も使えなくなり、中にある本体は会話が可能だが、その声を外に出すマイクは設置されてないので結局ユーと会話する事は出来ない。
 結局の所、聴覚と機械の体に設置されたレーダーでしか周囲の状況を理解出来なくなっていた。
 音しか届かなくなってしまった世界に、昔から何度も聴きたかった声が届いてきた。

『俺を忘れたか、ハサギ。
 かつてお前やライ、ユウキと共に戦った仲間である、『悪魔』と呼ばれた男を。
 セキタと呼ばれたこの俺を!』

 セキタ。その一声を聴いた瞬間、ニバリの全ての激痛が吹き飛び、ニバリの全ての恐怖や圧力(ストレス)が重さを失った。
 機械の顔を声のする方に向けて、中の首が感情を絞り出す。

ニバリ「セキタ・・!」
ユー「せ・・セキタっ!?
 どうして、どうして彼がここにっ!?
 あのサーカスからここまで飛んで来たの!?」
スス「に、兄さん!?
 いや、いや違う、これはメルの・・でもこの声は・・」

 機械の体の外でユーやススの声が聞こえてくる。
 ニバリは思わず目を開けるが、視界は暗闇のままだった。仮に世界が見えていても、スピーカー越しだからその姿をニバリは見る事が出来ない。
 その姿をはっきり確認出来たのは、セキタを撃ったライと、ハサギだけだった。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 ハサギは、セキタの姿をはっきり見た。
 それは人の姿をした人ならざる者の姿だった。
 頭からつま先までまるで乾いた粘土細工のようにヒビが入り、その隙間に血がこびりついている。
 特に腕の損壊は激しく、先ほど自分を殴ったであろう左手はぼろぼろで、薬指は欠け落ちていた。

ハサギ「な、なんだお前、お前の、その姿は・・ヒビだらけじゃないか。
 もう、死ぬ直前じゃないか」
セキタ「これが、ニバリを傷つけた銃か。
 こんなもの・・」

 セキタが大砲の砲口を操作するバルブを睨み付け、砕けた左手で殴ろうとする。
 セキタの意図に気づいたハサギが立ち上がる前に叫ぶ。

ハサギ「や、やめろっ!それを壊すな!」

 だがセキタは止めなかった。
 ヒビだらけの拳を振り下ろし、後少しで円いバルブをひしゃげさせようと力を入れた瞬間、拳が突然破裂してしまい、空の腕が振るわれただけに終わってしまった。

セキタ「・・!」
ハサギ「くそ・・俺は、
 あんたを撃ちたくなかったのに!」

 セキタが見ると、ハサギの右手には拳銃が握られていた。七発弾を込めているブローニング銃だ。小さな銃口から薄く煙の柱がたっている。セキタが撃たれたのに気づいたと同時に、その胸、足に二発ずつ撃たれてしまい、吹き飛ばされた。

セキタ「ぐっ!!」
ハサギ「世界の、運命がかかってるんだ。あいつを殺さないと、世界は壊れてしまうだけなんだ・・!
 誰だろうと、俺の邪魔はさせない!」

 ハサギは立ち上がり、カメラに目を向ける。ススは既に移動していたが、ニバリは動いていない。
 ハサギは素早くセキタに視線を向けると、セキタはすでに立ち上がり右手の拳を向けていた。
 セキタの拳とハサギの顔面、その距離僅か5センチ。どうやっても避ける事は出来なかった。

 二度目の拳を顔面に叩き込まれたが、今度は倒れなかった。ハサギはあえて殴られたのだ。殴られる方向に体をずらして痛みを軽減させていた。
 ハサギは素早く銃をセキタの顔面に向けると、躊躇い無く二発発砲した。

 バンバン、とセキタの顔に弾丸が撃ち込まれ、一発は眉間に、もう一発は鼻の横に円い穴が空いた。
 だが、その穴から血が噴き出る事はなく、穴がゆっくりと消えていく。

ハサギ「な・・!?」
セキタ「無駄だ、ハサギ。
 俺は鉄よりも固くもなれるし、泥よりも柔らかくなる事が出来るんだぞ。
 銃で俺は殺せない」

 驚愕するハサギの腹部に、セキタの膝打ちが叩き込まれる。
 ハサギは体が「く」の字に曲がり、操縦席から転がり落ちてしまった。
 胃液を吐き出しながら悶絶するハサギを見下ろし、セキタは一言呟く。

セキタ「俺の女に手をだすな」

 そして、振り返り様にカチカチに固めた拳をバルブに殴りつける。
 『Welcome Bad End』『Good by happy End』と刻まれたバルブが拳と共に砕け散り、足でレバーを破壊する。
 両腕が砕け散り、満身創意のセキタはもう二度とこの大砲を使えない事に安堵し、操縦席から降りていく。
 そして何度も咳き込みながら立ち上がろうとするハサギの顔面に蹴りをいれ、今度は確実に気絶させた。
 倒れ伏したハサギを見下ろしながら、セキタは改めて自分の体を見る。
 すでにヒビは砕け初め、背中から体が砕けていくのが見えていたが、セキタは少しも動じなかった。
 そして映像の中のニバリに目を向ける。
 セキタは向こう側のニバリに、静かに語りかける。

セキタ「ニバリ、お前には聞こえて無いだろうが・・」

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 セキタは気づいて無かったが、ハサギのマイクのスイッチは入ったままだった。
 なので今までのやり取りは全て、広場中に響き渡っていた。
 ハサギが決死に戦い、負けた事、そしてセキタが今にも死にそうな事も、広場にいる全ての人間は察していた。
 そんな中、セキタの独白が広場に響き渡る。

『ニバリ、お前には聞こえて無いだろうが・・俺は、本当はもう死んでいるんだ』
ニバリ「・・」
スス「っ!!」

 ススはニバリに視線を向ける。
 ニバリは声を黙って聞いていた。

『俺はメルの力で造られた存在だ。あの少年は最後の最後に君との約束を果たしてくれた。
 しかし俺はもう歩けない。両足が砕かれているからだ。手を翼に変化させる事も出来ない。両腕はお前を殺す機械を破壊する為に使ってしまったからだ。
 だから俺はもうお前の前に立つ事は出来ない・・すまない』

ニバリ「・・違うよ。
 セキタ・・」

 怪物の中、首だけの本体であるニバリはセキタの謝罪を受け入れていた。
 ニバリは既に知っていた、セキタが既にこの世にいない事も、自分がセキタの前に立てるような姿でない事も。
 スピーカーから声が響いてくる。

『世界はひどい事になっている。
 世界中がお前を否定し、お前を殺そうとしている。
 そしてお前は当然のように世界に、人間に憎んでしまうかもしれないが・・。
 俺は中身まで怪物になったお前を見たくない。だから・・』
ニバリ「分かってるよ、セキタ・・。
 ニバリは、誰も憎まない。誰も傷つけない。皆の怒りを、ニバリは受け入れるよ。
 でも、仲間を傷つけられたら怒るけどね」

 ニバリはわずかに笑みを浮かべながらセキタの言葉に返す。その声はすぐ近くにいるユーにさえ伝わらなかったが、セキタにはまるで届いているかのように話題を替えてくれた。

『・・ああ、俺はもうダメだ。
 両足が完全に砕けた。立ち上がる事すら出来ない。
 ニバリ、お前は世界を守ってくれ、『あいつ』が好きだった世界を、もう一度愛してくれ』
「うん、大丈夫だよ。ニバリもこの世界は好きだ。必ず守ってみせる。だから・・君は安心して、眠って・・いいんだ・・」
『・・・・体が、砕けた。
 ああ、出来れば君に、明るい君に、もう一度、会いたい・・』
「必ず会うよ。
 向こう側で、必ず君を見つけてみせる。
 だから、だから・・」
『・・・・・・・・』
 
 マイクから何の声も聞こえなくなった。それは、セキタが消えた事だと理解したニバリは笑おうと口元を歪ませようとして・・開かない瞼から、涙を溢さずにはいられなかった。

ニバリ「泣かない、よ・・。
 ニバリは、笑うんだ。
 君に、会うときは・・笑って、あいだいがら"・・う、うう・・」

 涙を溢しながら、ニバリは自分の機械の体に命令を下す。
 『ここから離れて、自分の役目を果たそう』・・と。

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 マイクの鳴り止んだ広場には、ニバリの巨体を取り囲むように人々が集まっていた。全員が武器を持ち、ニバリに向けて構えている。
 ススとユーがニバリの前に出ていた。

ユー「やめて!」
兵士1「うるせえ!
 ハサギの旦那がダメなら、俺達がニバリを殺す!あいつのせいで、世界は滅亡するんだ!あいつは生かしちゃおけねえ!」
スス「だからニバリを殺したら逆に止める方法が無くなるのよ!
 さっきから何度言えば分かってくれるのよ!」
兵士2「それならどうすれば止まるんだよ!
 それにお前達こそ知ってるのか!?
もう、仲間や家族が何人あの怪物にさせられ、犠牲になったか分かってるのか!」
兵士3「ニバリを殺せ!
 あの怪物を殺さないと、俺達の憎しみは晴れねえ!」

 兵士達は既に銃を構え、いつでも発砲するつもりだった。誰もユーの声が聞こうとしなかった。
 ユーはもう一度叫ぼうとして、足元に何かを踏みつけてしまう。見るとそれは、
 白い封筒だった。封筒の端に「節分鬼から、ユーちゃんへ」と書かれている。
 それにユーが気付いたのと、兵士達がニバリを撃とうとしたのと、
 ライが叫んだのは同時だった。

ライ「邪魔だ、てめえらあああ!」
兵士「ライさん・・!?」

 今まで最前線で戦い続けた戦友の声に、兵士達が思わず振り返ると、
 ライがバズーカを投げ捨てていた。
 代わりに手元にはU字型の磁石が二つ、I字型の磁石が四つ握られている。

ライ「ニバリに・・人の女に手を出すんじゃねえよっ!!
 ナンパの基本だろうが!」
兵士3「え、ナンパ?」
兵士4「ライさん、俺達はこいつを殺さないといけないんだよ!じゃないと世界は平和にならないんだ!」
ライ「俺はサイコパスなんでな!
 世界の安全よりモテる事の方が大事なんだよ!人の女を理屈こねて傷つけるとかモテねえしクソ気持ち悪い事するより守った方がモテるしカッコいいだろ! 
 『芸術的(ライ)な嘘(アート)』!」

 ライが磁石を宙に投げる。
 そして、ライが磁石に電撃を流した瞬間、磁石を中心に雷が流れだし、雷の蜘蛛が作り出された。

ライ「『カミナリグモ(神成蜘蛛)』!!」

 そう叫んだ瞬間、兵士達が持ってる銃やヘルメットが蜘蛛に引き寄せられて、集められていく。
 
兵士1「な、何っ!?
 武器が全部・・!」
兵士2「これじゃ、ニバリを倒す事が出来ないぞ!」
兵士3「そんなバカな!
 ライさん、なんて事を・・!」
ライ「ヒーヒャヒャヒャヒャヒャ!
 さあ、ニバリ・フランケン!
 もうてめえを傷つけるモノは何もねえ!早くその翼を広げて逃げちまえ!」

 ライが言った瞬間、ニバリの背中にある翼が拡がり、虹色に輝き出す。
 そして虹の両翼をはためかせ、ニバリは空を飛び上がろうとしたが、何故か動かなかった。

ライ「あ、あれ?」
兵士4「まさか、あの磁石グモの磁力のせいで逃げられないんじゃ・・」
ライ「え、マジ?
 そういやあいつの体メカメカしいわ、やっべえ!」

 飛び出せないニバリを見て、手紙を懐にしまったユーが急いでニバリの巨体を押し出そうとする。

ユー「く、に、ニバリちゃん・・!
 早く、逃げて!」

 しかし、ユーの小さな体でニバリの巨体を押し出せない。それを見たシティとススもユーに加勢し、三人の乙女が必死に押し出そうとするが、それも無意味だった。
 ニバリは必死に翼を動かし続けるが、だんだん神成蜘蛛に体が引っ張られていく。

スス「ちょっとシティ、あんたの能力で何とかならないの!?」
シティ「ダメ、私の電柱も鉄板も全部、あのグモに引っ張られて使い物にならない!
人の力で押し出すしか・・」
スス「こんな巨体、三人で押せるわけ・・」

 その瞬間、背後にいた兵士達が一斉に走り出す。武器の無い兵士達は、ニバリまで一気に走り出す。
 ニバリも三人も無防備だったが、誰も傷つけようとせずに、まるで当然のようにニバリの体に触れ、そして三人と同じように押し出した。

「押せ、一斉に押せーっ!」「オー、エス!オー、エス!」「オー、エス!オー、エス!」「かい・・彼女を何としてもこの磁力から抜け出させるんだ!行くぞてめえら!!」「ウオーっ!!」

 オー、エス!オー、エス!と声が広場に響き渡り、少しずつニバリの体は押し出されていく。
 ススもシティも、兵士もユーも、みんな一丸となってニバリを磁力の世界から押し出していく。
 それを見たライは、少しだけ呆れた後に「なあんだ。みんな、英雄(サイコパス)じゃねえかよ」と呟き、自身の能力を解除する。
 磁力の蜘蛛が姿を消した瞬間、ニバリは翼を広げ、大きく羽ばたいた。

フォト


 機械仕掛けの武器は全て音を立てて落下し、兵士達はみんな前倒しになって倒れる中、ニバリは目が見えないまま、声を上げないまま雲がひしめく空に向かって飛び続け、そしてニバリ・フランケンは消えていった。

 それを見た兵士達は、少しだけ静寂のままニバリが消えるのを見守り、消えた瞬間に大歓声を上げた。

「わあああい、やったああ!」「あの怪物がいなくなったぞー!」「ニバリだよニバリ!間違えんな!」「ばんざーい!ばんざーい!」

 兵士達がみんな手を広げて喜び、ススとシティが安堵する中、ユーは喜びの感情をさらけ出した兵士達の姿をしばらく眺めていたが、やがて懐の手紙を取り出して読み始める。

ユー(『こんにちはユーちゃん。節分鬼のニバリ・フランケンです。貴方には一つ隠していた事をここに話そうと思います。
 実はニバリは・・』)

兵士「お、おい!あれ見ろ!
 なんだあれは!」

 兵士達がハッとした顔で向こう側を見る。広場の奥に、たくさんの怪物が姿を見せていた。
 武器の無い兵士達は急いで武器を取りにいったり、拳を構える。
 だが、怪物はみんな襲おうとはしなかった。
 それどころか、その姿がグニャリと変化し始めて・・。


 続く

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