その1はこちら
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ーーー陽が、暮れていた。
夜が降りてくる中、森の中に伸びるアスファルトの道路の上を、1台の車が走っていた。
ヘッドライトは暗闇に隠れた道を照らし、ススとサイモンを乗せた車は目的地に向かっていく。
サイモンはハンドルを慎重に操作し、アスファルトから飛び出さないよう注意しながらも隣の席に座るススに慎重に訊ねる。
サイモン「・・つまり、あなた方の組織を半壊させたのは、オカミー、ワラート、コナロの三人という事ですか
スス「はい・・。
あっと言う間にみんな人形にさせられて・・私もなんとか人形を取り返す事を出来たんですけど、肝心の能力者を倒す事が出来なくて・・それで、
私一人じゃ倒せない相手で、他に頼れる人もいな・・くて・・」
サイモン「私の所に来た、という訳ですか・・。
スス、私は堅気(オモテ)側の人間です。
裏側のあなたの頼みを聞く事は出来ません」
スス「・・・・!
で、でも、隊長先生!
私、私にはもうどうすればいいか分からないんです!敵は強いし、皆を助けるにはどうすればいいか分からないし・・」
サイモン「君の命を守る事を最優先に考えるなら、警察に逃げ込むのが一番だ。
幸い君は犯罪者、すぐに牢獄に閉じ込められれば、奴等からの追撃を完璧にまく事が出来る」
スス「そんな・・」
サイモン「私が今、貴方を車に乗せて移動しているのは、学校に騒ぎを持ち込ませたくなかったからです。
そして明日、君を警察に届けるつもりでいる。それが一番、君の安全に繋がるからです。
もう少しで、私の新しい自宅に到着します。今日はもう遅い。
ここで君は一旦休息をとってください」
スス「・・・・」
サイモン「到着しましたよ。
ここが新しい私の家です」
車が止まり、二人が降りた先には二階建ての白い木製の家が見えていた。
周囲に住宅は無く、草原だけしかないかに思えたが、家の背後には少し遠くではあるが海が見えた。
スス「ここが、隊長先生の新しい家なんですか・・?」
サイモン「私の財産は軍人時代にかなり稼いでましたからね。
その中から少し使ってここに家を建てたんです。
ここならあなた達も安全に休む事が出来るでしょう」
サイモンは鍵を取り出し、白い扉の鍵を開ける。
キイ、と音を立てて開けた扉に、二人は吸い込まれていった。
そしてその様子を、草原の向こう側から一匹の狼が見ていた。
サイモンの自宅の中は広く、とても綺麗に掃除されていた。
ただ部屋のあちこちにある器具は左利き用に調整されていて、ススは少し不思議に感じずにはいられなかった。
スス「隊長先生、たしか右利きでしたよね。何故左利き用の道具があるんですか?」
サイモン「・・右手を少し怪我しててね。
しばらくは左手で生活しないといけませんから、そのために調整しただけです。
風呂場は部屋の奥にあります。今の泥だらけの状態ではつらいでしょう。着替えは・・私の服しかないですがそちらを使ってください」
スス「すいません・・」
サイモン「服を着替えたら食堂に来てください。君は一応は客なので、振る舞い料理を出させていただきますよ。
さあ、早く行くんだ」
スス「・・」
ススは沈んだ表情のまま風呂場に向かう。風呂場には体全体を映す大きな鏡が設置されていて、ススは初めて自分の姿を目にする。
鏡には大きなリュックを背負い、料理用に着ているエプロン服に大量の泥や埃が着いていた、汚れだらけの自分が立っていた。そのエプロン服もボロボロに破れている。
アジトからサイモンのいる学校まではとても距離が離れてる上、能力を何度も使用したために服が耐えきれずあちこちが裂けていたのだ。
スス「私、こんな姿で隊長先生に会ったんだ・・みっともない・・恥ずかしい・・」サイモン(私はオモテの人間だ。
裏側の君の言うことは出来ない)
サイモンの声が、ススの頭に響き、体に浸透していく。
ススはリュックをおろし、チャックを開ける。中にはゴブリンズメンバーと全く同じ姿の人形が揃っていた。
ススはリュックの中の人形に話しかける。
スス「安心してね、皆。
私が絶対に皆を取り戻すから。
隊長先生の話は正しいけど、聞くわけには行かない。明日になったら隊長先生から逃げて、もう一度一人であいつらに向かうから・・」
ススは全員の人形が入ったリュックを強く握りしめる。8つも入った人形は少し重かったが、ススは気にしなかった。
スス「必ず、必ず皆を取り戻すから・・!」
その後、ススがシャワーを浴びる為に服を脱ごうとした時、リュックのチャックがひとりでに閉まった事に、ススは気付かなかった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △
〜食堂〜
サイモン「さて、とりあえずこれぐらいですかね」
少し古びた机の上にサイモンが作り上げた料理・・ではなく、どんぶり型のカップラーメンが2つ置かれる。
サイモン「申し訳ありません。
まだ備蓄も何も無く、料理の準備が何もできてないんですよ」
スス「い、いえ全然そんな事ないです。美味しそうです!」
サイズの大きい白いワイシャツとジーンズに履き替えながら、ススは慌てて頭を横に振る。そしてススの気持ちは本心でもあった。
今まで長い事、自分の料理を自分以外が作ってくれた事が無いため、サイモンが料理を用意してくれた事が本当に嬉しかったのだ。
スス(カップ麺なら、あまり深くかしこまらなくても大丈夫だしね。
ああ、麺の味が染み渡りますわ・・)
サイモン「味が合ったようで良かったです。
警察に連絡は明日の8時頃にするとして・・今日は二階のベッドを使ってお休みください。私は下で寝ています」
スス「い、いえそれは隊長先生のベッドじゃない!そんなの出来ません!
私が下で寝ていますから・・」
サイモン「ダメです。
今日は二階でお休みください。
君は自分がとても疲れている事にまだ気づいてない」
スス「・・っ!
し、しかし・・」
サイモン「話はこれだけです。
私は組織同士の闘争に興味はありません。戦いにまた身を置く気もない。
明日の8時まで、しっかり休んでください。いいですね」
スス「・・!」
ススはサイモンの元部下だ。上司の命令には必ず服従しなければいけない。
それが身に染みついてるススには、サイモンに反論する事がどうしても出来なかった。
スス「わ、分かりました・・・」
サイモン「・・・・」
スス「カップラーメン、おいしい、です・・」
それいこう、ススは黙ってラーメンを食べ、サイモンは少しだけススに目を向けつつも静かに食事を食べ続けていた。
家の外は静かで明かりもなく、虫の声と波の音だけが、聞こえてくるだけだった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
〜深夜2時〜
一日中走り続けた疲れからか、ススは目を閉じてぐっすり眠っていた。
その横にはゴブリンズメンバーの人形が並べられている。
眠るススは自分の寝ている部屋が防音されている事も鍵をかけられている事も気付かないまま、穏やかに安心して眠っていた。
その頃、白い家の外にはサイモンが立っていた。外は満月で雲も無いため、綺麗な夜空に草原が照らされている。奥からは波の音も聞こえてくる。
サイモンはしばらく草原を見渡していたが、やがてポケットに隠し持っていた手榴弾のピンを外し、適当に草原に向けて投げた。
手榴弾は弧を描いて夜空を飛び、草原の真ん中に落ちる。それに気付いた狼が素早く場を離れた次の瞬間。
ズドオオオオン!!
手榴弾が、爆発した。
狼はギリギリで爆風に巻き込まれなかったものの、衝撃で吹き飛ばされていく。
防音設備機の整った室内に爆音は響かず、ススは気付かず眠りこけていた。
しかしすぐに体勢を戻して着地し、草原の中に隠れようとするがその前にサイモンの声が聞こえてくる。
サイモン「隠れても無駄ですよオオカミ君!
君がススを狙ってるのは分かってる!君が君の仕事で彼女を狙うのは結構だが、彼女は今、非常に疲れている!
よって私が相手をしようじゃないか!
どこからでもかかってくるがいい!
だが、まだ逃げ隠れするなら・・今度は何十個も手榴弾を投げよう!」
オオカミ「るるる・・ち、仕方ないわね。
能力解除」
オオカミから野太い男の声が響いたかと思うと、オオカミが筋肉隆々の大男に変化した。そして今度は高速移動でサイモンに向かい走り出す。
オカミー「そして能力再発動、『送り・狼』!ククク、言われた通りかかってやるわ!アチシの超高速移動でねぇーー!」
弾丸並みの速度でオカミーは走り出し、サイモンに向かう。サイモンは速度に反応できず無防備のまま立っている。
そしてオカミーが拳を震わせようとした瞬間、その手を止めた。
オカミー「む!?
こいつ、全身に手榴弾を巻き付けている・・っ!」
サイモンの体のあちこちに手榴弾が装着されていて、全ての安全ピンがギリギリ外れそうになっていた。
自分の拳がサイモンに触れた瞬間、安全ピンが一斉に外れてしまうのは目に見えていた。
オカミー「こいつ、まさか自爆する気!?
冗談じゃない、距離を取らないと・・!」
オカミーは素早く草原の方に向かい、能力を解除する。そしてオカミーがナイフを取り出した瞬間、サイモンは大きく口を開けて笑った。
サイモン「ふ、ふはははははは!!
やはり、距離を取ったな!」
オカミー「何!?」
サイモン「おおかた私の体に巻き付いた爆弾を恐れて距離を取ったつもりだろうが・・これは全て偽物だ!」
サイモンが体に巻き付いた手榴弾を適当に外す。オカミーが目を凝らしてよくみると手榴弾のように見える物体の中に、明らかにどんぶり型のカップ麺の容器に色を付けてくっつけただけの模造品が転がっていた。
オカミー「な、なによそれ・・!」
サイモン「私は元軍人でしてね。
超高速移動能力者の戦い方も、その弱点も熟知しているんですよ」
オカミー「な、なんだと・・っ!」
サイモンはゆっくりとオカミーに近づきながら話しを続けていく。オカミーの手にはナイフが握られていたが、サイモンはそれが見えていながら気にも止めていなかった。
サイモン「超高速移動能力者はその強すぎる力ゆえ、遠距離攻撃が出来なくなる事、接近攻撃しか出来なくなる事、そして自分の目でしか真偽を確かめる手段がなくなってしまう事。
最後に・・」
オカミー「こ、この・・喰らえ!」
右手に隠したナイフを煌めかせサイモンに立ち向かおうとした瞬間、サイモンは右手でナイフを持った手の手首を掴み、左腕を折り曲げ、肘打ちをオカミーに食らわせる。
オカミー「ぐはっ!」
サイモン「・・一度使ってしまうと、しばらく同じ能力は使えなくなってしまう事。
さて、君は切り札を使えなくなった訳だが・・まだ戦うかね?」
オカミー「く、ぐぅぅ・・き、キサマ!
なぜ!?あんたアイツらとは関係無い筈でしょ!
なぜアチシ達と戦おうとするのよん!」
肘を顔面、それも鼻頭に打ち付けられ血を流しながらもオカミーはサイモンに訊ねる。訊ねながら、ナイフを持った手の爪が伸びていく。
サイモン「確かに私は貴方達に何の関係もありません。闘争に勝ち残る気もない。
ですがね・・」
サイモンはぐり、と右手の手首を外側にねじ曲げる。
オカミーは恐ろしい悲鳴を上げ、じたばたと暴れるが・・彼の破裂しそうな程膨らんだ筋肉を持ってしても、サイモンの拘束が弛む事は無かった。
サイモン「私の部下が酷い傷だらけの姿で助けを求めに来たのに、手を伸ばさないのはあんまりじゃないですか。
私は貴方達を許しません。貴方の仲間も同じように許さない。
教えて貰いますよ、貴方の仲間がいまどこにいて、どんな力を持っているかを」
オカミーの掴んだ右手に更に力を入れて脅しかけていくサイモン。
その痛みに耐えながら、オカミーは笑った。
オカミー「う、うるるふふふ!
あ、アチシを舐めないでよね!
これでもプロよ!どんな時でも弱音ははかないわ、このロートル!」
サイモン「そうですか。
では本当に耐えられるか、試すとしましょう。
簡単に音を上げないでくださいね、ルーキー?」
そして、オカミーの右手首が破壊される音と、絶叫が部屋中に響き渡った・・。
▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
サイモン「おはようございます、スス。
昨日はよく眠れたようですね」
スス「あ、お、おはよう、ござい、ます・・隊長先生・・」
朝、サイモンとススはばったり顔を会わせた。ススはこっそり逃げようとリュックを背負っていたが、サイモンの前でつい頭を下げてしまったのだ。
スス(ま、不味い・・私とあろうものが寝過ごすなんて!夜中に起きたかったのにすごいフカフカベッドの誘惑に勝てなかった!
勝てなかったわちくしょー!)
サイモン「朝ごはん出来てますよ。
とりあえず話は食べた後にしましょうか」
スス「はい・・あれ?
今日は、色々と並べられてますね」
ススの目に映る料理は美味しそうに焼けたスクランブルエッグや、味噌汁やらパンやらいろんな料理が並べられている。
サイモンは少し恥ずかしそうに頬をかきながらススの質問に答える。
サイモン「はは、実は昨日、少し整理してたらよく焼ける鉄板とフライパンを見つけましてね。おかげで色んな料理を作れた訳ですよ。
其れでは・・つっ!」
サイモンは不意に右手のフォークを落とす。それは一瞬の光景だが、ススの記憶を思い出すには充分な光景だった。
サイモン(右手を少し怪我しててね・・)
スス(隊長先生、手が痛いのに料理なんて無理して作ってくれるなんて・・)
「・・隊長先生」
サイモン「ん?」
ススはリュックを壁際に置いて、椅子に座り笑顔を見せる。
スス「一緒に食べましょう!
こんな沢山食べるの久しぶりだから、私も気合いいれるわ!」
サイモン「・・ありがとうございます、
よく焼ける鉄板を見つけて良かった。
ええ、ほんとに」
少し含みのある言葉が聞こえたが、ススは対して気にしなかった。
こうして、二人は静かに朝食を食べ始めるのであった。
時刻は7時半、ススが空を見上げる二日前の小さな休息時間だった。
続!
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