第214話『 RAGE』
この物語にはグロ表現が存在します。△▼△▼の後に描写が始まりますので、気持ちを悪くされたらすぐ戻るボタンを押す事をオススメします。
*今回、特に暴力的表現または悪口があります。気分を悪くされたらすぐに読むのを止める事をおすすめします。
それでは、始まります。
物語は、数百年前から始まっていた。
まだ人間だったダンスが、ある魔術の研究を進めていた頃・・。
彼の家の扉を誰かが叩いた。
急いでダンスが扉を開けると、そこにいたのは髪の少ない初老の男が立っていた。
ダンスの部下である魔法省役員、ドナルド・デビットだ。
ドナルド「ダンス様、貴方様の耳に入れたい事があって来ました。
中でお話しても?」
ダンス「む・・まて、今、中は秘密研究中だ。庭に椅子と机がある、そこで話をしよう」
ドナルド「かしこまりました」
秘密研究の多い魔法使いは研究中、何人たりとも家の中に入れてはいけない法律があった。
そのためいざという時の会合の為に、魔法使いの家の庭には必ず机と椅子が用意されている。
二人はそれに倣い、ダンスが魔術で厳重に鍵をしめた後に庭に移動する。
花壇にたくさんの白い花が咲く庭の中心に置いてある白く簡素な机と白い椅子に腰かける。
ダンスが接待用の魔術を発動させ、お茶と菓子を用意した所でドナルドは神妙な面持ちで話を始めた。
ドナルド「先ずは報告を、魔法使いの中の六分の一の人間が魔術を放棄し、現代世界で生活する事を選びました。
その殆どが、まだ血筋の浅い者や余所者と結婚した者のようです」
ダンス「よかった・・。
そういう者達ならばまだ外や科学への理解が高い。すぐには馴染まないだろうが、いずれ科学を崇拝するようになるだろうさ。
もう、魔法の時代は終わったんだ。
貴方も俺に対し敬語は使わなくていいんだぜ?」
ドナルド「・・いいえ、まだ私はダンス様に敬語を使いましょう。
何も終わってはおりませぬ故に」
ダンス「・・・・?」
少しだけ男の雰囲気がドナルドは懐から小さな石を取り出す。よく見ればそれはネズミの彫刻だった。
ダンス「この石は?」
ドナルド「我等が現在、研究を進めている身体保存の術によって固められた生きたネズミです」
ダンス「生きてる?
これが、か」
ドナルド「はい、これが、でございます。
あと少しで術式は完成します。そうすれば向こう数百年、いや数千年は死が訪れる事はないでしょう」
ダンス「数千年だと、そんなにか!?」
ドナルド「はい。
この術式さえ完成すれば我々は科学が浸透した時代で絶望のまま死なずともよいのです。
魔法と違い発展しか知らない奴等は、いずれ自滅するでしょう。
その時の為に誰かが人類に正しい道を教えてやらねばなりません」
ダンス「・・・・・・」
ドナルド「その時こそ、我々が目を覚ます時です。
我々が彼らを正し科学の愚かさを説き、魔術で世界を救うのです。
六分の五の魔術師がその道を選ぶ事を決めました。
残るは、貴方様だけです」
話を聞いたダンスは一度頭をくしゃくしゃと書いた後、ゆっくり話し始める。
ダンス「・・・・この時代に生きる人々を捨て、未来の愚かさを期待し、それまでの間死に続ける。
それが、お前達六分の五の魔術師達の選択、というわけか」
ダンスは目を閉じた後、興奮したドナルドがまくし立てていく。
ドナルド「はい。
私どもはこの時代に死ぬのは嫌なのです。科学、科学、科学!
自然を犠牲にし利用できる部分を利用し尽くしておきながら奇跡に感謝の一つもしない愚者の使い潰しの技術!
この国の王はそんな愚者の言いなりになった哀れな人形、その民は人形を綺麗に飾るための使い捨ての掃除道具!
崇高なる知識を預かり持つ我等がこんな腐った社会の中で無様に死ぬなど、誇り高く生き続けた先祖様に申し訳ない!
故に、我等はこの時代を捨てるのです。 科学に毒された人類を捨てるのです!
そして更なる魔術の繁栄を望むのです。
それこそ、魔術師としての使命。
ダンス様、誰よりも魔術に傾倒した貴方様なら、我等が使命を理解出来ない筈がないでしょう」
初老の魔術師は手を差し出す。
それを掴めばどうなるか、ダンスは気付いていた。
だから握手の代わりにダンスは立ち上がる。
ドナルド「大臣?」
ダンス「・・ついてこい、ドナルド。
お前に見せたいものがある」
ドナルド「何を見せるのですか?」
ダンス「お前達の誘いへの答えさ。
来い、秘密研究の中身を見せてやる」
ドナルド「・・分かりました」
ダンスは笑みを浮かべたまま立ち上がり、ドナルドもそれに従う。魔術で椅子と机を戻した後に二人は家の前まで歩き、厳重な結界をダンスは全て解除していく。
そうして二人が家の中に入り、二、三の扉をくぐり、部屋を確認するとドナルドは小さく声を上げる。
まず、部屋の大きさが異常だった。
二階建ての小さな家の玄関だと思ったら、まるで大会堂に入ったかと思うかのような錯覚に襲われる。
それに慣れたかと思えば、広すぎる部屋の壁一面に並べられた本の数々に言葉を失いそうになりそうになる。
一冊一冊が魔術師が半生かけても手に入るかどうか分からない希少本で、それが広すぎる壁一面に並べられているのだ。
この本を手に取る、中身を調べたいという欲求だけでもこの部屋の主を殺す動機にさえ成りうる程の好奇心が心の中で跳ね回る中、ダンスがドナルドに声をかける。
ダンス「その本達なら、
後で自由に読んでもいいぞ」
ドナルド「ダンス様!?
宜しいのですか!」
ダンス「ああ、ただし見るのは俺の秘密研究を見てからだ。
ーーーついてこい」
ダンスはすたすたと広すぎる図書室を通り過ぎていく。
ドナルドは二度三度周囲を確認してから、ダンスの後についていく。
次の部屋に入ると、大量の置物が置いてあった。木や石で出来た像がところせましに置かれ、その下には白く輝く魔法陣が描かれている。
長年魔術を嗜んだドナルドでさえ、この魔法陣の効果が全く分からなかった。
ドナルドが「これがみせたいものですか」と訊ねると、ダンスは真面目な顔で「ああ」と答える。
ダンス「俺が今研究しているのは、魂移動の術だ。魂をAからBに移動させ、何年生存出来るかを研究している。
あの置物にネズミの魂を移し、魔法陣の内側だけ数千年も時間を伸ばしている」
ドナルド「す、数千年!?
千年単位の時間伸ばし術なんて、我等の力でも不可能だというのに・・!」
ドナルドは再度、置物に目を向ける。
大量の像の下全てに、白い魔法陣が描かれている。どれ程の魔力を込められればそんな事が可能なのか、ドナルドには計算のしようもなかった。
絶句ばかりもしてられないと、ドナルドは軽い調子で訊ねてみる。
ドナルド「だ、ダンス様・・!
貴方、もしや正体は人の姿を借りた魔神なのではありませんか?」
ダンス「ただの人間さ。
お前達と同じ、ただ魔術の天才なだけの・・人間だ」
ドナルド「これは『天才』などという凡俗な言葉で片付けられるものでは」
ダンス「片付けろ。
今はお前に見せなければいけないものの説明をしたいんだ。
無駄話をする時間はない!」
その言葉を聞いてドナルドはハッとした表情を作り、頭を下げる。
ドナルド「・・・・失礼しました。
して、魂移動の術を研究をなぜ私に見せてくれたのですか?」
ダンス「お前達の試みには、二つ足りないものがある。それは外側を見る者と、お前達を見守る者だ。
科学が発達し、荒廃し、自らを殺すまでに愚かになった時、誰かがお前達に助けを求めなければいけない。
そしてその間、変わり続ける世界からお前達を守らなければいけない。
誰かが来なければ、お前達はそこらの石と変わらないままこの世界と共に滅ぶ事になる」
ドナルド「た、確かに・・。
しかし、その役目を誰が果たさなければいけないかが問題になります。
数百、数千年もの間生き続け、魔術を狂信し、我等の味方であり続けなければいけない。
そんな人間を二人も、何処にいるのでしょう」
ダンス「俺がその二つの役目を果たす」
ドナルド「・・・・はい?」
ダンスが軽く床を蹴ると、銀色に輝く魔法陣が出現した。これもまたドナルドの知らない魔法陣だ。
ドナルド「!」
ダンス「これは知恵の悪魔を呼び出す魔法陣だ。人体を代償に知恵をくれるのだという。
これを使い、俺は人を辞める。
人である事を辞め、魔術と魔法の世界を研究しながら外の世界を監視していく。
だが、悪魔に人体を持ってかれる前にお前達が俺の体を奪い、そこにお前達の魂を注ぎ込む。
そうすればお前達は俺の体を操り、自身を守らせる事が出来るようになる。
そうして、科学が荒廃し世界を潰す可能性を見出だしたら、外側にいる俺がお前達にお前達に頼り、俺とお前達、共に人間として甦るのだ。
一緒に魔術の力で世界を救おう」
ダンスは右手をドナルドの前に差し出す。
ドナルド「・・本気なのですね、ダンス様。科学への復讐に燃えた我等以上に、魔術を本気で愛していらっしゃるのですね」
ダンスは表情を変えないまま、静かに頭を縦に降る。しかしその目に輝きはなかった。
ダンス「俺は、世界に魔法を伝え、世界中の誰もが魔法を使える世の中を作りたい。
その為なら、どんな事だってやってやる。
これが、お前達の誘いに対する答えだよ、ドナルド・デビット」
ドナルド「・・世界中の誰もが魔法を使える世の中を作りたい・・ですか。
正直に言えば貴族思想に生きた我々には、受け入れがたい信念だと思っていましたが・・今は・・」
ドナルドは、ダンスの前にひざまづき、その足元に口づけをしてから笑みをダンスに見せる。
ドナルド「私は、貴方様の思想に近寄りたいと心底思います。
貴方様に出会えた事こそ、人生最上位の幸せです」
ダンス「俺もだ。
魔術を愛し、世界を魔術で染め上げる為に、互いに頑張ろう」
ドナルド「はい・・!」
そうして、半年後。
魔法省は完全解体され、科学を研究する機関が設立される。人々の心の中に魔術の奇跡は単なるお伽噺の輝きだけに残され、魔術を捨てた者はみな科学を信仰していく。
そして、魔術を狂信する者達は闇の中で動きだした。
その祈りは一人だけの者ではないと信じて、その心に宿った正義は世界を救うと信じて。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
そして、物語は現在・・『地獄』へ。
ダンク「そうして世界を救う為に俺は身も心もお前達に捧げたんだ。
魔術研究も何もかもお前達に渡し、世界を救う為に科学の腐敗を外側から見続けて数百年も生き続けていた。
ユーの魂さえ、旅で無くさないようお前達に厳重に保管してもらうよう頼んだんだぞ。
生体蘇生の術を完成する為には大変な時間と魔力がかかるんだからな。
おかげで膨大な魔力を溜め込まなければいけなかった・・」
ダンス「ぐ・・!ぐぅぅ!」
今、ダンクは仰向けに倒れて動けないダンスの上に座りながら一人ゆっくりと話を続けていた。ダンスは必死に立ち上がろうともがき続けるが、体が痺れて思うように動けない。
そんなダンスを見下しながら、ダンクは話を続けていく。左手にはダンスが使っていたレイピアが握られていた。
ダンス「うご、けない・・!
貴様、何を、した!」
ダンク「何もしてねえよ。
ここはお前達の元々の存在が眠る場所。
群体(レギオン)であるお前達の魂がそれぞれの存在に戻りたがってるんだ。
それでいて、互いに深く深く繋がり過ぎたせいで離れる事が出来ない。
結果として、お前の体は動く事が出来ないし俺と魂交換する事も出来ない。
まるで『沼』そのものだ、だからお前は『沼男(スワンプマン)』なんだよ・・さて、話を戻すか」
ダンクはダンスのレイピアをゆっくりと眺めながら話を進め、そのしたでダンスは僅かにでも動こうと必死に体を震わせている。
ダンク「長生きするのはとても大変だったぜ?
世界中の魔術を研究し、科学をちょっとずつ見張りながら生きて、それで何かが得られるわけじゃない。
感情のない俺には、使命しかない俺にはそれが叶う日までただただ生きて生きて生き続けていくしかなかった。
そして、Gチップが完成し、全人類が改造され、その上で戦争が起きて、更に戦争が終わってもまだ世界を好き勝手に改造しようと考える愚か者がいる。
なら、俺達が動くのは今じゃないかと今こそが俺達が甦る時期なんだと信じて。
こいつらを甦る為に必要な魔力もたんまりこしらえた。
満を持して俺はこの国に訪れたんだ。
そうしたらさあ」
ダンス「があああ!」
ダンスが悲鳴を上げる。
ダンクがレイピアでダンスの右膝を刺したからだ。膝小僧の割れる音が響いたがダンクは全く気にせず話を続ける。
ダンク「お前達は俺との感動友情話を忘れて、自分が本物のダンス・ベルガードと信じ込んで、俺を失敗作と罵った上に敵とみなし何度も何度も殺そうとして」
ダンス「がはっ、ああ!ぎゃああっ!ううっ!わあああっ!」
ダンクは何度も何度も右足をレイピアで刺していく。その度にダンスが悲鳴を上げるがダンクは一切気にしない。
ダンク「それでも手持ちぶさたで帰るわけには行かないから、何とかユーを奪還して、仲間に話をしたらさあ大変、
アイとシティはユーを突っぱねた状態で無謀にも喧嘩を売ろうとするし、お前達の強さを知らないから誰かに相談しようとする。
冗談じゃない、ユーはアイの親にならないといけないんだ。
ナンテの息は既に世界中の組織にかかってる、誰に相談しても敵に情報が渡ってしまう。
どれほど厄介な敵を相手にしたか分かってないんだ」
ダンス「ぎいいいやああああっ!!がああああああああっ!!
き、貴様あああ!ぎざまああああ!!」
ダンスの足に刺さったレイピアをグリグリとねじり回しながらダンクは話を続ける。
ダンク「だからゴブリンズは全て忘れさせなければ行けなかった。
全て知らないまま、あいつを大切な奴と受け入れさせなければ行けなかった。
かなり危険な博打だったが、アイはやってくれたよ。博打の結果としてユーは俺達の呪縛から剥がれ、自由に生きる権利を得たんだ」
ダンス「ゆ、ユうううっ!
ぎざま、ぎざまのせいで俺のユーがあああっ!」
ダンク「黙れよ偽者」
ダンスはレイピアを刺したまま立ち上がり、ダンスの頭を思い切り踏みつける。息が飛ぶ声と何かが割れる音が聞こえたが、ダンクは気にするつもりもなく話を続ける。
ダンス「ふぐ・・むぐぐ!」
ダンク「それにしてもお前は何様のつもりなんだ?
ただの魔術師の分際で大量の人間を変身させた挙げ句、腐敗しきった科学の象徴である大罪計画の奴らと仲良くなって!
大切な大切なユーを科学の力で甦らせ、あまつさえ捨てたり心を破壊したり最低最悪な処遇をして!
しかも、俺の体で結婚するだと?世界に魔術を浸透させるだと?アタゴリアンを復活させるだと!?
ああ、ちくしょうが。
感情が無くなった筈の俺でさえ、怒りを感じない事はなかった!
ずっとずっと感情が爆発してたんだ!こんな、中身の無い俺がな!
もう一度だけ聞くぜ、お前、一体何様のつもりで俺に刃向かっていたんだ?
自分が何者さえ忘れていたくせによ」
ダンス「が・・は・・」
ダンクは何度も何度も頭を踏みつける。中身の無い包帯の足に、強化魔術をかけた状態で思い切り力をこめて踏みつける。
ダンスの顔から血が流れていくが、その一滴でさえダンクには憎しみしか向けていなかった。
そして、ダンスは心の中で否定し続ける。
ダンス(嘘だ、嘘だ・・嘘だ!
俺が偽者だった?
この石像が俺の元だった?
みんな甦る事が出来た?
俺の経験した何もかもが、無意味だった・・?)
ダンスの記憶に、自分が大切にしていた記憶が断片的に甦る。
最初に甦るのは、自分が始まった数十年、ただの人でない事に気づき、おぞましい孤独と狂気に苛まれ続けた日々だ。
自分は世界最後のアタゴリアン人で、ユーを甦らせ、この国をもう一度魔法で満たしたいとだけ願っていた。
次に甦る記憶は実験に暮れる毎日だ。
これが何かの役に立つ、ユーを助けたり国を復興する足掛かりになると信じながらひとり、人体実験を続けていた。
そうして独自に技術を鍛えながら、目標に近づくのを感じながら、それでも誰かを犠牲にする意味はあるのかと悩み続けて、それでも止まる事が出来ない自分が嫌で嫌で仕方なかった。
そんな時に我が友であるナンテが訪れた事。
ナンテ『不思議の国のアリスを読め!
全ての答えはそこにある!』
ダンス(あいつのやかましさは無かった・・そして、あいつに紹介されてカスキュアペットに入り、世界の現状を知って・・。
それで、俺は果心林檎に恋をしたんだ・・)
ダンスはいつしか現実ではなく自分の記憶の中をみていた。
それに気づいたダンクは、少し黙った。
ダンス(林檎なら、あの永遠の女性なら、俺にさえ手を差しのべてもらえるかもしれない。そして俺も彼女の、心の隙間を埋める事が出来るかもしれない。
そう、願うのは、間違いじゃない筈・・)
ダンク「ああ、そうか。
夢の中なら誰も攻められないから大丈夫だと思ってるんだな」
ダンクはゆっくりとダンスの首に右手をかけ、魔術で腕力を強化してから握り締める。
ダンスの意識が一瞬、トンだ。
ダンス「がはっ!」
ダンク「なら現実を教えてやるよ。
部外者である俺がどうしてお前の拷問から逃げ出し、ユーを連れて逃げられたと思う?
手助けしてくれた奴がいたからだよ」
ダンス「が・・・あぁ・・!!」
ダンク「一人はニバリ・フランケン。
もう一人はナンテ・メンドール。
正真正銘の、本物のな」
ダンス「!?」
強く首を絞められるダンスの記憶に浮かぶのは、嬉しそうに好きな本や知識を話す友の姿が映った。
映ったが、それは直ぐに崩れていく。
ダンス「う・・そ、だ・・」
ダンク「そして。
俺はさっきお前に話した事を果心に話した」
ダンス「!?!?」
ダンスの体に、力が入る。
無意識に左腕が動き、ダンクの首を締める腕を掴み抵抗する。
首を絞められ続けたせいか、ダンクの背後に果心の笑顔の幻覚がダンスには見えてきた。
ダンス「ぎざ、まあ!!」
ダンク「果心林檎はこの一件においては、完全にただの被害者でしかないからな。
お前の下らん妄想に付き合わされ、自らの体を捧げなければいけないなんて馬鹿な真似をさせる訳にはいかないんだ」
ダンス「ごろじでやる!
おまえなんが、ごろじで」
ダンク「奴は、俺の話を肯定した」
ダンス「 」
言葉が、出なかった。
ダンクの言葉の意味がわからず、男は何もかもが停止してしまった。
ミイラの首を絞める力は止まらず、現実も止まらない。
相変わらずダンスの瞳の中で果心は微笑み続ける。
ダンク「果心は、お前が偽者だと理解し、納得したんだ。
そしてお前はここに来た。果心にこの場所に行くようお願いされてな」
ダンス「・・・・ぁ・・・・」
男は気付く。
ダンクのいる場所を教えてくれたのは、他ならぬ果心林檎だ。
力が、抜けてしまった。
自らを殺そうとする腕を、否定出来なくなってしまった。
男の腕が虚空に伸びる。
その虚ろな視線の先にはただただ微笑み続ける果心の幻影しかなかった。
ダンス「う、そだよな?
お前が、俺を、否定した?
俺を、愛して、くれなかった?
嫌だ、あああ、そんな、そんなの嫌・・」
ダンクは力を抜き、男を床に落とす。
もはや男は何も見えなくなっていた。
伸びた左腕の先にある、左手の薬指だけを見つめていた。
指輪をまだはめてない、左手を男はただただ見つめていた。
ダンス「うそだ・・林檎、うそだ・・」
ダンク「分かったろ、偽者(スワンプマン)。
お前なんかに・・」
ダンクは右足を上げ、足に再度、強化魔術を込める。その先にはダンスの左手が力なく開いていた。
ダンス「嫌だ・・林檎、見捨てないで・・」
ダンク「・・お前なんかに、指輪の幸せなんか似合わないって事がよ」
ダンクは男の左手を、魔力と憎悪を込めた右足で、一切の躊躇なく、
もはや力の入ることがない左手を、踏み潰した。
ダンス「ーーーーー!!!」
悲鳴が、今日一番の大きな悲鳴が『地獄』に響き渡る中だというのに、木乃伊の声がハッキリと聞こえた。
ダンク「さあ偽者(スワンプマン)。
本当の地獄に落ちるのはこれからだ」
続
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