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2018年02月11日19:24

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長編小説 角が有る者達 第179話

第179話 再会するまでの狭間に〜後編〜

〜アイ・???サイド〜

 
「『百目鬼贋作地獄廻り』!、新しくなったケシゴの『恐怖』をその身で味わうがいい!」

 ケシゴそっくりの男の全身から目が開き、アイ達はそれを直視してしまった。
 ケシゴ本人は、目を直接あわせると全身を恐怖が襲い、動けなくなってしまう。
 それをアイの話から聞いていたユーは全身に襲いかかる恐怖がくると思い目をつむったが、恐怖が全身を襲う感覚はまだ来ない。不思議に思って目を開けると、そこにはアイが立っていた。
 その傍らではケシゴを名乗った怪人が倒れている。アイは優しそうな笑みを浮かべながらこちらに向かって歩いてくる。

アイ「はっはっは!なんだこいつ、全然たいした事ないな!」
ユー「パパ凄い!あいつ、簡単に倒しちゃったんだね!
 あー良かった、早くシティちゃんを助けにーーー」
アイ「帰るぞ、ススー。
 俺もう腹減っちまった」

 アイは、ユーを無視して歩いていく。ユーが振り返るとそこには皆が立っていた。スス、シティ、ルトー、メルが優しそうに微笑みながら、アイだけを見ている。

スス「仕方ないわねー、今日はハンバーグにしますか」
シティ「私、チーズフォンデュが好きだわー、あのとろとろ最高なのよ!」
メル「僕は野菜炒めかな、少なめに食べたいし」
ルトー「は、メルお前どんだけ菜食主義なんだよ?男ならガツンとサバだろサバ!」
アイ「よし、今日はパーティーにするぞ!みんなー、最後までぶっ倒れんなよ!」
全員「おー!」
ユー「え、ちょ、ちょっと待ってよ、皆・・?」

 みんな、ユーを無視してどこかへ向かって歩いていく。ユーは何がなんだか分からないままアイに向かってついていこうとして、足が動かない事に気付いた。
 ユーがどれ程足に力を入れても、足はぴくりとも動かない。そうしている間にもアイ達は遠くへ歩いてしまう。
 ユーは喉が裂けそうな勢いで叫ぶ。

ユー「嫌、いや!いやいやいやいや!待ってよパパ!私を置いていかないで!離れないで!冗談は止めてよ!
 私は、あなたの娘なのよ!どうして置いていくの!?お願い、ねえ!パパ!パ・・」
ユウキ「スタアアアップ!ストップ!」

 不意に、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。振り返ると、ユウキが綿の詰まった手でユーの肩を握りしめている。
 ふかふかした感触が肩に触れたが、今はそれどころじゃない。ユーはこのおもちゃを投げつけてでもアイの動きを止めようと手を伸ばす。
 だが、ユウキが丸い頭をぶんぶん横に降る。

ユウキ「待って待ってユーちゃん、ユー!あれは幻、幻影だよ!」
ユー「嘘だ、嘘言わないでよ!
 あれは本物のパパ・・え?」

 ユーが再度アイがいた方を見ると、そこにはただ樹木があるだけで、アイの姿は何処にもない。

ユー「あ、あれ・・?」
ユウキ「ま、間に合って良かった。
 ユーちゃん、今、君は幻を見せられていたんだよ」
ユー「幻・・。今のが、幻・・?」

 ユーは改めてアイが立っていた方を見る。だがそこはただ木々が生い茂っているだけで、人の姿は見えない。
 本当に幻だったと気付いたユーは、小さく息をつく。それでも手の震えが止まらなかった。

ユウキ「ユーちゃん・・」
ユー「わ、私、さっきパパの偽物が殺されかけた時、凄い怖かった!
 その後にこんな幻みせるなんて、ひどいよ・・」
ユウキ「うん、うん、そうだね。ひどい奴だよ、あいつは。それなら早く倒さないと!」
ユー「うん・・うん?
 あれ、皆は?本物のパパは?」
ユウキ「あー、後ろにいるよ・・幻に取り込まれてる状態だけど」

 ユーが後ろを振り返ると、全員が虚空の目で見えない何かと話したり叫んだりしていた。

スス「嫌、いやあああ!拍手部隊の皆があああ!」
ノリ「は、ハサギさん!ケシゴさん!ペンシさん!目を覚まして欲しいッス!ボク達は警察としての誇りを忘れちゃダメッス!止めて、皆を傷つけないで!」
ユー「み、皆・・!」
ユウキ「多分、あいつの目を見られたらその人が一番恐怖する幻を見せつけられちゃうんだ」
ユー「皆を元に戻せないの?」
ユウキ「やりたいけど、それをするには魔力が足りない。
 今の自分、アンテナ一本で動いてる携帯みたいなものなんだ!血染め桜(本体)から遠い外国の、しかも魔力妨害の罠をかいくぐってここまで魔力を飛ばすの結構大変なんだよ」

 ユーの鞄から聞こえてくるユウキの声は怒りに満ちていた。ユウキは鞄ごしに幻を見る二人を見つめながら話を進めていく。

ユウキ「悪い。今の自分じゃユーちゃんを正気に戻すのが精一杯だ!
 アイは特にひどい事に・・!」
ユー「パパ!?」

 ユウキの言葉に思わずユーがアイに目を向けると、アイは他の二人より酷く震え上がっていた。

アイ「ぐわああああああ!やめ、やめろおおお!シティイイイ!ススウウウ!ダンクウウウ!もう悪戯しないから!電柱とナイフを投げつけるのは止めてくれええ!
 げえ、家計が赤字!?アジトが半壊!?新しい機械が失敗した!?魔法の失敗で変な怪物が出てきたァ!?待て、待つんだ、ギャアアアアアアア!」
ユウキ「アイ、君って奴は・・!
 どれっくらい仲間からトラウマもらってんだい!?」
ユー「パパ、もしかして凄い苦労人だったの・・?」
アイ「謝る、お金勝手に使ったの謝るから毎晩お粥と梅干しだけは勘弁してくれええ・・!」

 幻に向かってペコペコと頭を下げるアイを見て、ユーは拳を強く握りしめる。
 そして森の中を睨み付けた。いつの間にか凍りついたペンシの偽物も、ケシゴの偽物も何処にもいない。

ユー「許さない。パパの弱い所を見せびらかして面白がるなんて。
 出てこい、その頭ぶったぎってやる!」
「ふははははははははは!
 たかが小娘の分際で、よく啖呵きれるな!だが一度幻を破ったぐらいで俺達を倒せると思うなよ!」

 声が聞こえてくるが、姿は見えない。
 ユーは袖から葉の刃を飛び出させ、何時でも切りかかる態勢を作っていく。

ユー「私にかくれんぼだなんて、良い度胸してるわね!見えない敵なら私にも作れるのよ!でませい、『侵食(クリティカル)する獣(ビースト)』!」

 ユーが叫ぶと同時に、影の中から茶色い毛で覆われた猿のような怪物が姿を現す。だがこの怪物の姿は、ユー以外には見えない。

ユウキ「ユーちゃん、これは船で見せた怪物・・!」
ユー「安心してユウキちゃん!私はもうこの力を制御できるわ!いけ、怪物!」
怪物「GUOOOO!」

 ユーの声に呼応するように、茶色い怪物が動きだす。怪物が腕を振るうと大木がへし折られていき、視界が広がっていく。

ユー「良し、そのまま森を薙ぎ倒して、獣(ビースト)!」
ユウキ(凄い、この子。
 自分さえこの力を使いこなすのに時間がかかったのに、この短時間で怪異の力を使いこなしている。
 ユーちゃんを助けてくれた医者の話だと寿命が伸びた代わりに才能も能力も失った、て言ったけど・・!)

 ユーが作り上げた獣が咆哮し、森を破壊していく。それを見ながらユーは辺りを注意深く確認していく。

ユウキ(・・それは、『人間』視点の尺度で見た場合の話だよね。それ以外のモノの視点から見れば、もうこの子は天才の領域に、いいやそれすら越えようとしている!
 こんな事言えばアイに怒られそうだけど、君の中に眠る成長の可能性にワクワクしてきたよ、私は!)

 ユウキはユーの成長を喜ぶように、ぬいぐるみの体でユーの背中に体を預ける。小さな息づかいと温もりが伝わってきた。
 そしてユーはユウキがそんな事考えているとは露にも思わず探索を続けていく。そして大木を五、六本破壊した所で上から小さな声が聞こえてきた。

「ハアアアアアアア!!」

 猛る声に誘われるように上を見上げると先程アイに凍り漬けにされた筈の女性、ペンシがユーに向かい真っ直ぐ飛び降りてきた。両方の拳を握りしめ、ユーめがけ振り下ろすつもりでいる。
 だが、ユーとペンシの間に獣(ビースト)が割り込み、獣がペンシの一撃を受け止めた。

獣「GAAAAAAAA!!」
「む、なんだ!?私は今、何を・・?」
ユー「今だ!」

 獣の後ろがわからユーはペンシめがけて走りだし、刃を作り出す。そして一瞬の隙が生まれたペンシの脇腹めがけ、刃を振り上げた。

ギイイイン!

ユー「!?」
「ぐ、不可視の壁か何かを作るとは、やはり貴様もただ者ではないな!」
ユー「あなた、今私の刃を・・?」
「ふ、私ももう、人の身ではないということだ・・見るが良い!」

 ペンシがスーツを脱ぎ捨て、ワイシャツを腕の部分を捲り上げる。そこに肌色の皮膚は無く、代わりに銀色の鎧と見間違えてしまうような鉄の肌が見えていた。

ユー「・・そう、あなたもここの被害者だったのね」
「貴様は呑み込みが早いな。
 元々ここで作られた存在の一人だからか?
 私も貴様と同じ、奴等の身勝手な実験で生まれたもの・・。
 だが、私達は奴等に忠誠を誓い、貴様は反逆した。その時点でお前と私では望むべく夢が違う事だ」

 ペンシはワイシャツを戻し、白いスーツを睨み付けたあと、それを思いきりふみつけた。

ユー「!」
「我等の目的は一つ、本物(オリジナル)を殺し、我等こそが本物のペンシとケシゴに成り代わる事だ。
 我等は所詮紛い物。本物を消さねば、私は私と世の中で謳う事さえ出来ないのだ」
「そして、俺達は任務を達成させる。
 そうする事で、奴等に近づけるならな!」

 ユーの背後に、いつの間にかケシゴがたっていた。全身にある大量の目玉が、ギョロリとユーを睨み付ける。ユーは一瞬だけ恐怖に駈られたが、すぐ調子を取り戻し「・・ふざけないで」と切り返した。

ユー「あなた達の目的なんて、私はどうでも良い。私はパパと一緒にいる為にそれを邪魔するあなたたちを許さない」
「だそうだ、どうするペンシ。
 俺の恐怖眼をやぶる術を持つこいつを、無傷で会場まで連れていけるか?」
「いや、確実に抵抗する。そして互いに無意味な痛みを貰う事になるな。
 ここで、3回殴れば大人しくなる筈だ」
「だよなあ。お前ならそう答えてくれると思った。さあ嬢ちゃんこれが最後の警告だよ。2対1で勝てると思うか?諦めな」
ユー「・・嫌、よ!
 私は、私の夢を諦めたくない!またあんな悪夢を見てたまるか!絶対、あんたたちを倒してパパを助ける!」

 ユーは刃の葉が仕込まれた両手を二人に向ける。それを見たペンシは黙り、ケシゴは嘲笑う。

「フハハハハ、素晴らしい返しだ!こちらも躊躇いなく殴れる!
 ペンシ、思いっきり殴っていいぞ!こいつは不死身らしいからな!」
「分かった・・行くぞユー!」

 ペンシが拳に力を込めていき、ユーは構える。ケシゴは笑みを深くし、ユウキは鞄の中であわてふためく。
 そして誰かが動き出そうとした瞬間・・。

「待ったァ!」

 廊下中に、声が響いた。
 それは三人が、その内二人は特に聞き慣れた声だ。三人は動きを止め、その人物を見て息をのむ。二人は特に動揺し、一人が訊ねる声が震えてしまう。

「お、お前は・・ノリ、なのか!?」
ノリ「そうッス!ボクは、あなた達のコピーされた仲間、ノリだ!
 あんな幻影なんかに、惑わされるボクなんかじゃないッスよ!二人とも構えを解くッス!」
ユー「ノリくん・・!」
 
 ユーの前に立つのはノリだった。
 拳銃を構え、銃口をケシゴに向ける。
 ケシゴは銃に全く目を向けず、拳を握りしめた。

「貴様・・貴様ごときが、俺に勝てると思っているのか?」
ノリ「思っているッスよ!ボクは、ボクだけはお前達を許さないッス!
 ケシゴさんやペンシさんの姿をしている癖に!彼等の価値観や正義を知ってる癖に!人を傷つける悪人の仲間になるなんて言語道断っ!!
 ボクは、ボクがお前を捕まえてやる!」
「バカが!
 貴様がもう一度俺の『恐怖』に囚われるんだよ!」

 ギョロリ、ギョロリとケシゴの体中から目玉が出現し、ノリを睨み付ける。見たもの全てを恐怖に捕らえる瞳に、銃口を構えるノリの姿が映し出された。

「もう一度地獄に落ちな!」
ノリ「・・もしあなたが本当のケシゴさんなら、二度も『恐怖の魔眼』なんか使わないッスよ。なんでか分かるッスか?」

 瞳に映るノリは静かに語り始める。ケシゴは眉をひそめた。普通なら目に映し出された瞬間、恐怖に囚われ幻に呑まれる筈なのに。

ノリ「彼は、世界で一番自分の才能の弱点を知っているからッスよ・・」

 ノリは引き金に指をかけ、笑みを浮かべる。対して焦りを見せ始めたのはケシゴだ。恐怖の目でじっと見続けているのにこの男は未だにその兆候すら見せない。

「キサマ、何をした!?何故震え上がらない!」
ノリ「お前には分かるものか!
 魔眼に囚われ溺れたお前には、彼と一緒に戦い続けたボクを倒す事は決してないんだ!この偽物が!力に溺れた愚か者が!」
「き、さ、まあああああ!!」

 ケシゴは飛び上がり、腕力を強化させてノリ目掛けて襲いかかる。ケシゴは全ての力を込めてノリは逃げようともせず、じっとケシゴを睨み付けたまま立っていた。
 そしてケシゴは、全力でノリが映し出されたガラスを破壊した。

「なに!?」
ノリ「ただのガラス板も見抜けないようじゃまだまだッス!『捕縛銃』!」

 ノリが撃ち込んだ弾丸は空中で四散し、網となってケシゴの体に絡みついていく。
 その弾丸を、四発立て続けに撃ち込み、全身が網に包まれ体が動けなくなってしまう。

「むぐ・・!ぐぐぐ!」
ノリ「対ゴブリンズ用の捕縛銃。ダンクだって自力ではその網から逃げる事は出来ないッスよ」
「キサマ、たかが、たかがハサギの腰巾着の分際で俺に逆らうんじゃあ・・!」

 ダン、と本物の銃をケシゴの耳元で撃ち、その音でケシゴを気絶させてしまった。
 それを見ていたユーは、思った事をそのまま声に出してしまう。

ユー「す、凄い・・!」
「何故だ、何故ケシゴの魔眼が奴には通用しない!?」
ノリ「その問いを最初に投げれば良かったのに・・ケシゴの魔眼は、直接見る事で効果を発揮する。ガラスや何か遮蔽物があれば、その効力は失われるッスよ。
 力に溺れたあなた達はそんな事も忘れたみたいッスね」
「く、う・・うおおおおお!!」

 ペンシがノリ目掛けて走りだし、殴りかかる。
 だがノリは慌てず拳をよけ、少し屈みながら右腕の裾と首の近くを掴み力を込めてペンシの体を全身で持ち上げる。

「な・・!?」
ノリ「うわああああああああああ!!」

 一本背負いを決められ、ケシゴの体が宙に浮き、床に叩きつけられる。
 ノリは手を離さずに手錠を取り出し、手首に錠をかけた。

ノリ「確保!もう逃げられないッスよ!」
「な、何故だ・・きさまは、『推理』の天才。柔道なんて、使えない筈・・!」
ノリ「昔はね!
 だけどペンシさんから格闘術を学んだッス。本物のあなたから教えて貰った技が、偽者のあなたを止めたんだ・・!」
「く・・!ふ・・、ふふふ・・。
 私達は、偽者のケシゴとペンシとして造られ、多くの同類を手にかけた。
 だから私を止められるのは本物だけだと思っていたが・・」

 ペンシは、自分をじっと見つめるノリを見て、嬉しそうに微笑んだ。

名も無き女性「本物をずっと支え続けてきたあなたに止められるなら、それでも良かったと思う事に・・するわ・・」

 そう言った後、満足したかのように女性は目を閉じた。ノリはふぅと一息ついた後、女性と男性をそれぞれ別の場所に寝かしてからユーに振り返った。

ノリ「大丈夫ッスか・・ユーちゃ・・ん?」
ユー「の、ノリさん・・凄い、カッコいい・・!
 あ、あの、ノリさんって、何か仕事してるんですか!?」
ノリ「え、前は警察で、今はWGPかな。それがどうかしたッスか?」
ユー「わ、私!大きくなったらWGPに入りたいと思います!率直に行って、あなたの部下になりたいです!」
ノリ「えええええええええ!?」
ユウキ「えええええええええ!?」

 ノリとユウキ、全く同じ悲鳴とリアクションをあげてしまう。だがすぐに調子を取り戻したのはノリだ。

ノリ「い、いや待ってユーちゃん、君はその、家業の問題があるしボクはその、ええと・・」
ユー「大丈夫!好きなら全部乗り越えられます!」
ユウキ「(言葉を失って何を言えばいいか分からない。読者は好きな言葉を考えてね)」
ノリ(ま、まずい、この子、周りの事が見えなくなるタイプッス!ええいこの際正体がばれてもいいからちゃんと話さないと・・!)
アイ「ユー!ノリ!皆無事か!?」
スス「二人とも大丈夫!?怪我はない!?」
ユー「パパ!ススちゃん!」

 幻から目を覚ましたアイとススが走り寄ってくる。ユーはアイに笑顔を振り撒きながら近付く様子を見て安堵し、嬉しそうにノリの戦いを話していく。
 
ユー「聞いてパパ、ノリさんが皆を助けてくれたんだよ!」
アイ「な、あいつが!?」
ユー「もうスッゴいんだから!
 見ただけで震え上がる強敵に全く動じず『フフ、どうしたケシゴ、怖いのか?』『おめえなんか怖かねえ!うあああああ!』なんてやり取りしてからの返り討ち!
 しかもパパの氷から脱出した女の人も技で倒しちゃって!その技もカッコいいの!私、もうシビレちゃった!」
アイ「(お目目ぱちくり)マジか。
 あ、あのノリがそんな凄い戦いを・・?」
ノリ(違ーう!言いたいけど、言いたいけどユーちゃんの目がキラキラしすぎて言えないッスー!)
ユウキ(ノリ、本音は隠しちゃうタイプなんだね・・将来は苦労しそうだ)

「おおーい、皆の衆ー!
 ここにいたかー!」

 ふと、森の奥から声が聞こえてくる。
 皆が振り返ると全身を銀色の鎧に包んだ騎士がルトーを背負ってはしってきた。
 ルトーは気を失っているのかもしくは寝ているのか、目を閉じて動こうとしない。
 ユウキ以外全員がその男を見て首をかしげる。

全員「誰だ?」
アーサー王「おお、そういえば皆の衆の前に姿を晒すのは初めてであるな!我はアーサー王!
 ルトー殿の『強くなりたい』という願いから生まれた騎士にて候!」
アイ「つ、強くなりたいって願いから生まれた?って事はお前さん、血染め桜の力の一部という訳なのか!」
アーサー「如何にも。
 今までルトー殿が負けないようサポートに徹していたが・・ジャン・グール殿との戦いで・・引き分けになってしまった」
スス「引き分け・・!
 る、ルトーは無事なの!?」
アーサー「怪我は無い、互いに武器破壊を狙った戦いだったからな。
 ルトーは新しい武器の半分が使えなくなり、ジャンは鎧を壊された。
 勝利こそ得られなかったが、この者は立派に戦った事を、我はしかと見届けたぞ」
アイ「お、おー、そうか・・」

 アイは少し複雑な表情をした後、ルトーの手に紙が握られている事に気付く。

アイ「それは何だ?」
アーサー王「これはジャンから・・奪ったものだ。『不思議の国のアリス計画』の一部がここに記されている」
アイ「ルトー・・全く、お前は目立つとポンコツな癖に目立たない所で手が早いんだよな。
 ちょいと見せて貰うぞ」

 アイがルトーから手紙を受け取り、その内容を読んでいく。ススが訊ねた。

スス「何が書いてあるの?」
アイ「今回の計画の『配役』だな。
 アリス役が誰か分からないが、他の奴等の配役が書かれてる。
 えーと、『イカれた帽子屋』はスパイダー伯爵で『双子』がタイム&クロック。
 なんかカスキュアペットが多いな」
ユー「・・アリス役、今までの流れからするとやっぱり私なのかな・・。
 この中で『少女』は私だけなんだし」

 呟くユーの背中は、少し震えていた。
 ユウキがユーの鞄に入り、何も言わず背中に抱きつく。アイはそれを知ってか知らずか、手紙を素早く読んでいく。

アイ「『ヤマネ』・・スリーパー。
 『白兎』・・ダンク。
 ん、これはニバリ・フランケンか・・役名は『小さくなる飲み物と大きくなる食べ物』そして・・」
スス「そして?」
アイ「ニバリは二重配役(ダブルキャスト)らしい。もう1つの役名については別紙参照・・」  
スス「リーダー?」
アイ「別紙は何処だ?
 ジャンめ、大切な部分は守ったようだな。味方なんだか敵なんだかいまいちわからんやつ・・」

 不意に、何処かの壁が破壊される音が聞こえてきた。全員音が聞こえた方に目を向けると同時に壁が砕け、中から黄色に黒のまだらという不思議な模様の怪物が姿を現した。よくみれば黒の模様は全て『kill』という文字になっている。

フォト


 
 その怪物は、たった今話をした人物に非常に似た姿をしている。全員が思わず息を飲むのも全く気にせず、怪物は壁からその身を晒し、向かいの壁を破壊し、どこかへ消えていった。
 
アイ「・・今のは、まさか」
ユー「パパ、急ごう!早く結婚式会場に向かうんだ!」
アイ「あ、ああ、分かった!」

 アイ達は急いで通路を走り抜けていく。途中広い場所に出たが、そこでは同じ顔の騎士達が全員倒れ、気を失っていた。一行はそれを無視して走り抜けていく。

アイ「急げ、急げ、急ぐんだ!
 早く奴等に会わないと・・!?」

 叫ぶアイの眼前に、『結婚式会場』と書かれた札が見えてくる。だが、アイは立ち止まり、全員同じように動きを止めてしまう。
 結婚式会場、と書かれた立て札の先にあったのは、赤と黒の大きな布と、ピンクと紫色の電光板で描かれた看板。
 その看板には英語で『ようこそフリークスサーカスへ』と書かれていた。

  紳士及び淑女諸君。今こそ、再会の時が来た。
 果心に?ダンクに?シティに?ナンテに?カスキュアに?ダンスに?ニバリ・フランケンに?
 答えは全て違う。
 我等が再会するのは、彼等ではない。
 この物語の根源に潜む狂気に、今こそ我々は再会する時が来たのだ。

次回へ続く
 




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