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2018年01月25日14:32

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長編小説 角が有る者達 第177話

第177話 再会する数百年前

〜またいつもの独りきりの時間が訪れる。
行くべき場所のあてもなく、家庭も友達という存在すらない。 
 ましてや話しかける相手すら、夜が私を包み込んだ今・・私は彼がここにいると思い込むの〜

〜数百年前、アタゴリアン
 シロツメクサの丘〜

 一人の男が丘に置いてある小さな石にしゃがみこむ。その石の前には、シロツメクサの花束が置かれていた。

「・・ユー、まず謝らせてくれ。
 俺は、お前を守れなかった。
 お前の気持ちを知っていながら家族を説得できず、ただただお前を絶望の中に死なせる事しか出来なかった。
 そしてこの国もまた、死ぬ。
 外の毒の空気に呑まれて、魔術国家は終わってしまうんだ。
 俺が、俺がもっと賢ければ・・俺がもっと、強ければ!
 ああああああああ!!うわああああああああああ!!」

 男ーーダンス・ベルガードの口から出てくるのは、憤怒の叫びだった。
 魔術師としてこの国を変えようとひたすら努力した。努力し努力し努力し続けた。
 魔術師の学校では常にトップクラスの成績を叩き続け、更に国を変える立場になる為に、必死に政治の勉強もした。
 王国に気に入られる為沢山の技術と交渉術を学んだ。自分を妬み、邪魔する奴等も沢山いた。
 そんな浅はかな輩がぐうの音もでない位、勉強し努力し成績を残し続けてきた。
 その甲斐あって、二十代で魔法大臣の地位を得られた。凡才どもには考えられない程の大出世を果たした。
 これでベルガード家の名前は永遠に名誉あるものとして残り続ける。たとえ、ダンスが生涯独身を貫き続け、この身で家系が途絶えてもその栄誉は国中の人間に子々孫々の代まで語り継がれていくのだ。
 語り継がれていく、筈だった。
 あの忌まわしく愚かしい、外国から来た科学者という奴等さえ来なければ。

ダンス「うわああああああああああ!わああああああああああ!あああああ、あ"あ"あ"あ"あ"あ!」

 喉が激しく痛む。血が出てきそうな程強く叫ぶ。それでも彼の中の憤怒は湧き続けた。外国の人間が見せた科学の数々は、アタゴリアンの国王を驚かせた。
 そして国民に科学の必要性を説いた。
 今まで選ばれた少数のものしか使えなかった魔法とは違い、万民が奇跡をおこす事ができる科学の輝きは、魔法を操れない国王と国民の瞳にどれぐらい綺麗に映ったか。
 あまりに呆気なく、国は魔法より科学を選んだ。選ばれた少数の者だけが使える魔法は、一気に廃れていく。
 そして一ヶ月後には、魔法省の解体が決定された。これがなければ魔術師たちは生活出来なくなり、科学に手を伸ばさざるを得ない。魔術師である事を捨てなければならない。
 もはや貴族以上の誇り高い民族だった魔術師は、存在しないのだ。
 これを嘆かずにいられようか、怒らずにいられようか。ダンスの眼の中にはかつての夢が浮かんでいた。
 選ばれた少数の者だけでなく、万民が魔法を操れるようにしたい、魔術で奇跡を作れるようにしたい。
 その為に建てられた計画が、『科学』によって潰されていく。ダンス・ベルガードの全てが、消えていく。

ダンス「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ!
 ああ・・・・!
 ・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・全て?」

 ダンスはガバッと起き上がる。
 その目線の先には見慣れた海と空が見えた。それに目を向けず、ダンスはニヤリと笑う。

ダンス「全てが消えていった・・?
 違う、違うぞダンス・ベルガード。
 まだ全ては消えてない・・ここに、俺が一人残ってるじゃないか・・。
 ははは、そうだ!アタゴリアンは終わってなどいない!まだこの俺がいる!
 ダンス・ベルガードがアタゴリアンを蘇らせるんだ!」 

 ダンスはばしりと自分の頭を叩く。
 その目は半分狂気に呑まれていた。
 そしてもう半分の心が、死んだ妹に向けられていく。

ダンス「ユー、見苦しい所を見せてすまないな。
 俺はアタゴリアンを・・この魔法国家をこのまま終わらせたくない。
 だから、俺はお前のいない世界の奴等に協力できるよう頼もうと思う。
 これはダンス・ベルガードとしてお前に会える、最後の挨拶だ」

 ダンスは小さな墓石の前にひざまづき、その石に触れる。すこし石を撫でた後、彼女が好きな白い花を置いてから、彼は立ち上がる。

ダンス「さらばだ、ユー・ベルガード。
 俺はこれから地獄にいく。お前は天国で、幸せと喜びに囲まれて・・どうか俺たちの事を全て忘れてくれ・・」

 その言葉を最後にダンスはシロツメクサの花畑を去っていく。
 この日の夜、ダンスが悪魔と契約し、体を捨てて世界中の魔術の知識を手に入れる・・。
 それは、ダンク誕生の瞬間でもあった。

▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

〜現在・ダンクサイド〜

ダンク「『アリスの姉』。
 チホこそ、アリスを救う為にどうしても必要な存在なんだ」
パー「なに、アリスの姉、だと・・!」
チホ「私が御姉様の、御姉様に・・?」

 二人は目を一瞬だけ白黒させるが、パーはすぐに頭を横に振り、ダンクの提案を蹴飛ばしていく。

パー「そ、そんなの受け入れるわけないじゃろう!貴様の勝手を受け入れられるか!」
ダンク「『不思議の国のアリス』計画自体、お前達の勝手だろう。
 それに俺一人では『アリス』を救出できる自信はない。
 俺にとっては、どうしてもチホは必要なんだよ」

 ダンクはパーの怒りに静かに、しかし有無を言わせぬ口調で返していく。とはいっても誰かが反応する罠をしっかり残してはいた。
 その罠に反応してくれたのは、今まで黙っていたペンシだ。

ペンシ「む?貴様、今なんと言った?
 一人で救出できる自信がない?
 完全無欠の貴様が、何を言っている・・?」
ダンク「悪いな、全部を説明する時間がない。
 見せた方がわかりやすいよな?」

 かかった。ダンクは内心笑みを浮かべつつ、そして悔しさを噛み締めつつ、今まで隠していた秘密の一部を見せる事にした。
 そうして彼がしたのは、服を脱ぐ事だった。今までずっと着ていた紫のローブを、上半身だけはだけさせていく。
 事情を知らないパーは眉をひそめ、意味に気付いたケシゴとペンシは息を呑む。

パー「おい、なんで服を・・」
ペンシ「貴様ァ!!
 ど、どうしてそんな姿になって・・!成り果ててしまっているんだ!」

 ダンクが見せたのは、ローブの内側にある自分の素肌。この姿になってから、彼の素肌は白い包帯だけだった。
 だが、今はそれも半分以上なくなっている。紫のローブから出てきた手と顔を除きほとんど空洞と化していた。数本の包帯だけがこのミイラの骨組みを僅に形成させている状態となっている。

ケシゴ「・・そう言えばお前、前に会った時は何時も上半身は裸だったな。
 それなのに今回は紫のローブを着ている・・その理由は、その穴を隠す為か」
ダンク「それだけじゃないさ。この紫のローブには魔力を貯蔵し、肩代わりする力がある。俺の魔力不足を肩代わりしてくれる」
ペンシ「なんだ、なんだ、この体・・!
 お前、包帯が自分の全てなんだろう?
 その半分以上を捨ててまで、ここまで戦ってきたというのか!」

フォト



 ペンシとケシゴは震え上がり、だいたい事情を察したパーはダンクを睨み付ける。

パー「・・貴様にとって、その姿を晒す事は非常に危険なことなんじゃな?
 じゃが、『白兎』の役目は果たさせてもらうぞ。貴様だけがアリスを助けにいくんだ!」
ダンク「いいや、一人じゃ無理だ。
 俺はもう、最低限の事しか出来なくなっている。
 どうしてももう一人、必要なんだ。俺の補助をしてくれる存在が。
 そしてそれが出来るのは、チホ。お前しかいないんだよ」

 チホは少し息を呑んだ後、牢屋の中から小さく、震える声で訊ねた。

チホ「ダンク、様・・。
 あなた、私の父を助ける時に自らの包帯をちぎっていましたね。
 今までも、ずっとそうやって自分の体を犠牲に皆を助け続けていたんですか・・!」

 チホの言葉にダンクは答えようとしなかった。ただ顔にある虚空の二つの穴が、虚空の握りしめた拳を見つめている。

ダンク「・・ここは、もう滅んだ街だ。
 滅んだ文明だ。全て終わった場所で、また地獄が作り出されたんだ。
 パー、頼む。チホを連れていかせてくれ。チホでなければ、シティを救えない」

 パーは少し目を閉じて考えるそぶりを見せたが、すぐに頭を横にふってダンクに向き直った。

パー「ダメだ。お前さんの事情なんか、知るもんか。
 ワシはただ計画通りに事を成すだけだ。
 全てを押し進ませるだけだ。
 だいたいシティが『アリス』かどうかも分からんのにそんな事許可できん」
ダンク「そうか・・。
 なら、仕方ないな・・」

 ダンクがそう呟くと同時に、ダンクの右腕が紫色に輝きはじめる。パーは眉をひそめ、ダンクは虚空の目をパーに向けていく。

ダンク「それなら俺は、俺の全てをかけてこのアタゴリアンを終わらせる。
 俺一人でダメならゴブリンズを、ゴブリンズだけでダメならWGPを、WGPがダメなら世界中を引きずり込んででも!
 俺は、この地獄を徹底的に叩き潰す!」

 ダンクの言葉は少しずつ、いつもの声でなくなり始めていた。まるで地獄の底から響くような恐ろしさと、執念が彼を包み込んでいく。魔力が異常に高まっているのがパーには分かった。

パー(まずい!)「『怠惰する悪意(スロウス・オブ・マリス)!』」」

 パーが叫ぶと同時に塵の壁が形成されていく。それを見て尚、ダンクの魔力は高まっていく。

ダンク「オレハスベテヲオワラセル!
 ジャマヲスルナ、ワカゾウガ!!」
パー(ダメだ、この盾じゃ守れない!)
ダンク「クタバレエエエ!!」

 ダンクが腕を突きだす。その腕に魔力が充填されていき、全身の包帯が朽ち始めていく。

ペンシ「な!?」
ケシゴ「あいつ、俺たちを倒す為に全魔力を注ぎ込むつもりか!?やめろ!そんな事したらお前も・・!」
ダンク「アアアアアアア!!」

 ケシゴの言葉はもはや聞こえない。
 ダンクは包帯に貯蔵した魔力を腕に集中させ、殺意を込めていく。それは腕の周りに紫色に輝く光となって現れていた。
 一方パーもまた盾に塵を集めていくが、もはやこれで防げない事を悟っていた。

パー「この場にある塵を全て集中しても、これは防げん!
 く、ケシゴ、ペンシ!お主たちだけでも・・」

 そう言おうと叫ぶパーの横を、誰かが横切る。それは、チホだった。
 薙刀をダンクに向けて構え、パーの前に立ちはだかる。

パー「チホ!?」(しまった、盾に塵を集中しすぎて牢屋の分まで削ってしまったのか!)
チホ「ダンク様、その殺気をお納めください!貴方の敵は彼等では無い筈です!」
ダンク「・・・・!
 チ、ホ・・!」

 ダンクの腕に込められた魔力は輝き、包帯が少しずつ燃え上がっていく。魔力を抑える事はできない。チホは一瞬だけ目を閉じたかと思うと薙刀を投げ捨て、
 魔力が今にも爆発しそうなダンクに向かい走りだし、その弱々しい体を抱きしめた。

フォト



ダンク「!!」
チホ「わ、私は・・チホは!
 あなたをもう、否定しません!
 私の気持ちから逃げません!だからお願い・・!もう自分を傷つけるのは止めて!」

 チホはさらに強くダンクの体を抱き締め、ダンクの手の光が少しずつ弱くなっていく。
 そして、光が消えた時にダンクはようやくチホの顔を見た。
 その顔は赤く、その目から涙が出ている。ダンクは少し息を呑んだ後、チホに訊ねた。

ダンク「チホ・・何故、お前が泣く・・?」
チホ「ダンク様が涙を流せないからです!
 泣けない貴方様の代わりに、私が涙を流すのですわ!」
ダンク「・・すまないな。チホ。
 本当に、すまない・・」

 魔力が抜けた腕で、ダンクはチホの肩を抱いた。チホはしばらくダンクの体を抱き締めていたが、やがてパーたちの視線に気づき顔を真っ赤にしながら素早く離れる。

チホ「み、皆様、その、あの、こ、これは!」
パー「あー・・・・面倒になってきたな。
 元々やる気ない仕事だったから余計に・・」

 パーは腰を下ろし、頬を掻いた後にごろりと寝転んだ。そしてチホとダンクに背を向ける。

パー「分かった、ワシの敗北。
 お主ら勝手に先に行くがいいー」
ダンク「パー・・。
 行くぞ、チホ」
チホ「え、あ、は、はい!」
パー「ああ、まてまて、お前らだけで行こうとするな」

 そう言うとパーは胡座をかきながらケシゴとペンシに向き直る。その表情は真剣で、先程までの間抜けさは何処にもない。
 
パー「ケシゴ、ペンシ。
 お前らはあの二人についていけ」
ケシゴ「パー・・!?」
パー「言っとくがこれは大罪計画のワシとしてではない。アンリ(フォース)の一人としての進言じゃ。
 若いもんは若いもん同士でつるんだ方が楽しいじゃろ?それに、あの二人じゃどうなるか心配だしな」
ケシゴ「・・ここまで連れてきた事、感謝する。パー」
パー「ふん、ワシは何もしとらん。
 お主が勝手に転がり込んで勝手に組織立ち上げて勝手に騒いでただけじゃ、
 最後までお主の勝手に生きろ」
ケシゴ「そうするぜ・・行くぞ、ペンシ」
ペンシ「ああ」

 パーは胡座をかきながら、ペンシ、ケシゴ、チホ、ダンクの四人が集まり、ダンクが呪文を唱え、一瞬で姿を消した後まで、パーは黙って見ていた。
 そしてそれから、ため息をつく。

パー「・・これで、ワシにできる事は全て終わった。帰る場所もないし、果心様の所にいくわけにもいかん。
 ここはジャンの所に加勢しにでもいくかの。あやつ、情に甘いからなぁ・・ん?」

 ふと、壁に耳をすましてみるとバゴン、バゴンと大きな音をたててなにかが近づく音が聞こえてくる。パーは一瞬まゆをひそめ、嫌な予感がして少し離れ、塵で壁を作り様子をみる。
 バゴン、バゴンという音は大きくなり、遂に目の前の壁まで破壊された。
 砕かれた壁の中から出てきたそれを見て、パーは心の中だけで悲鳴を上げる。
 それは、今まで見てきた中で最も大きく、最も恐ろしい魔力を放っていた。
 それは、巨大な怪物だった。毒々しいオーラで半身を覆い、目に当たる部分だけが赤く爛々と輝いている。


フォト



 それは、パーに気づく事なく反対側の壁を破壊していき、来たときと同じようにバゴン、バゴン、という音をたてながらどこかへ行ってしまった。
 パーは何がなんだか分からず、暫く固まっていたが、やがて小さく呟いた。

パー「・・・・な、なんじゃ、今の、は・・?ま、まさかあれが、ジャンの言っていた・・」
 
 
続く

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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2018年01月26日 14:09
    ダンク誕生の瞬間、凄まじいものですね。
    今まで魔法で栄えてきた国が科学が入ってきたら
    ほんの僅かな時間で魔法が衰退していく。
    魔法人口数の割合から考えると仕方ないかもしれませんが、
    今までそれに賭けてきた側にはとんでもないですね。
    中盤のチホが涙を流すシーンがとても良いなと思いました。
    挿絵もあってイメージがとてもしやすく、感動的でした。
    ただ抱き合ってるところはシティは見てはいけないかなとも思いました。
    最後に出てきたのは絵的に見てもとてもヤバそうですね。
    こんなの出てきたら即座に逃げ出します!
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2018年01月27日 20:56
    > mixiユーザー コメントありがとうございます。ダンスは特に魔法にのめり込んでしまっていた為に科学を完全に受け入れられない性格になってしまいました。
     チホとダンクが抱き締めたシーンをシティが見たら死合が始まりそうです・・!
     最後に出てきたのはなんか恐ろしい存在ですね。次回を楽しみにしてお待ちください。

mixiユーザー

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