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2017年07月11日22:59

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長編小説 第153話 ニバリ・フランケンの紫色の記憶

*この話には一部人を差別する言葉や読み手を傷付ける文章、または気分を害する内容が有ります。不愉快に感じた方はすぐに読むのを中断して下さい。



カスキュア「あーあ、全く、つまらない事したよ。
 このアタシが真面目に勝負だなんて。
 しかもお互いに相思相愛の相手と来た。
 アタシ、恋愛事にだけは首をつっこまない主義だったのになー」
シティ『だったら・・私に体の主導権返しなさいよ』
カスキュア「げ、あんたもう気が付いたの!?ライフルで腹をぶち抜かれてそれって・・ま、それでも今はアタシに操られた方がいいよ?
 あんたの体を少しずつ癒す闇を出せるのはアタシなんだ。
 アタシがいなきゃとっくに死んでるんだから・・少しくらい感謝しなさいよ?」
シティ『すると思う? 
 勝負はまだついてないんだから。今回はただの水入りよ。
 治ったらすぐにぶち殺してやる』
カスキュア「おお怖い怖い。
 流石は恋する乙女、阻む者は神すら殺す、てね。あんた見てるとアタシの好きな話を思い出さずにはいられないよ」
シティ『話?』
カスキュア「『かわいい女』っていう、少し昔の小説さ。
 簡単に内容を説明すると、器量はあまり良くないが純粋すぎる女が、色んな男と恋に落ちる話。
 あんた、その主人公に良く似てる」
シティ『下らない。
 それ、あんたの方が合ってるんじゃないの?言葉一つで皆を脅すしか能のない、いざとなれば簡単に他者を切り捨てて生き延びる。
 あんたの方が『かわいい』女だわ』
カスキュア「クスクスクス・・。
 さて、着いたわよ。
 我が別荘、アタゴリアン城に」


   ▽    ▲    ▽


〜避難所前〜

 ダンクはしばらくシティが飛び去った方を見つめていたが、やがて魔法陣を作り始める。
 ススははっと気付き急いでダンクに問いかける。

スス「な、何をしているの!?」 
ダンク「決まってるだろう。
 アタゴリアン城に乗り込むんだ。
 こちらは既に準備は出来ている」
スス「ま、待ってよ!
 せめてリーダーや皆を連れてこないと・・」
ダンク「奴等はもう城に潜入している」
スス「え?」

 目を丸くするススに、ダンクは包帯の中から地図を取り出す。地図をよく見ると小さく人の名前が描かれていて、それは少しずつ動いている。ダンクが城の位置を指で軽くつつくと、怪物と対面しているアイとルトーの姿が映し出された。

スス「な、なにこれ!?地図からリーダーの姿が出てきたわ!」
ダンク「色魔法『アースグルーグ』。
 これを使えば皆の様子がすぐに分かるんだ」
スス「はー、便利な魔法ね。
 リーダーが掃除サボった時に役立ちそう。
 いや、それより何でリーダーとルトーは城に潜入しているの!?」
ダンク「そこは分からないな。
 気が付いたら城に潜入していたんだ」

 ダンクは地図をしまい、足元の魔法陣を確認する。作り上げた魔法陣はダンクから見て完璧に描かれていた。

ダンク「よし、急いで・・」
スス「待って、私も連れてっ・・」

フォト



 て、と言う言葉が引っ込んでしまう。
 ススに顔を向けるダンクの包帯は良く見ると非常に汚れていて、黒ずんでいる部分が多い。それでいて目の部分の穴の奥には、瞳が無い筈なのに、確かにそこには何かが輝いているのが分かった。

スス「ダンク・・」
ダンク「スス、お前はここに残ってくれ。
 あの城の中は凝縮された地獄だ。
 何か来た時、お前を助けられる事は出来ない。
 足手まといだ、ついてくるな」

 ダンクの一言一言は短いのに、その重みはとても重い。脅しというよりは命令のようなものだ。
 しかしススも退く気は無かった。
 まさに怪物のような凄みを見せるダンクに、彼女は更に睨み付けた。

スス「そんな脅しで、私が退くと思う?
 あなたの目の前にいるのは、一度仲間を失い復讐の為に生きていた女よ」
ダンク「・・・・」
スス「それを変えてくれたのは、貴方よ?メルと戦って、止められなかった私を止めたのは、貴方。
 恩人である貴方を、ここで死なせるわけにいかないわ」
ダンク「・・お前、一度ダンスに殺されたのを忘れたわけじゃないだろう」
スス「・・っ!それは・・・・あっ!」

 ススの目が一瞬、揺れ動く。
 その隙にダンクが移動魔術を発動をしようと手を魔法陣に伸ばしていく。
 一度発動すれば一瞬で移動できる魔法だ。ダンクに躊躇は無かった。  
 しかしその手を誰かに掴まれてしまう。白い肌からして、ススの手ではない。
 しかしダンクはそれが誰の手かわかっていた。

ダンク「・・お前も、俺の邪魔をする気か?
 チホ」
チホ「はい。
 私は、貴方と共に御姉様をお助けに参りたいと決めましたので」

 ダンクは顔を僅かに上げ、チホの顔を見る。その表情には覚悟が込められていた。

チホ「私は、御姉様を守りたいのです・・。
 私が御姉様の傍に居ればあの時の喧嘩が起きる事もありませんでした。
 私が御姉様の事をもう少し信じていれば、御姉様を止める事が出来たかもしれない・・父を刺してしまう事も・・。
 お願いします、ダンク様!
 チホを同行させて下さい!」
ダンク「駄目だ。
 お前じゃまたカスキュアに騙されるぞ」

 ダンクは捕まれてない手でチホの片手を離そうとするが、チホも必死に掴み、離そうとしない。

チホ「お願いします!私では力不足だという事は重々承知しています!お助けする資格がない事も、分かっています!
 御姉様のお傍に居たいのです!
 見守るだけでもいい、私を、私を連れてって下さい!」
ダンク「向こうの危険性を知らない奴が行っても邪魔なだけだ、離れーー」
「そういう訳には行かないッスよ」

 チホの手を掴む手が、誰かに掴まれる。
 ダンクが睨み付けると、そこにはノリが笑みを浮かべながらダンクの手をチホから離そうとしていた。

チホ「貴方は、ノリ様・・!」
ダンク「ノリ、てめえ何をふざけた事をしてやがる!さっさと離れろ!」
ノリ「・・・・・・」

 ノリは何も言わず、顔を上げた後、ダンク目掛けて思いきり頭突きをかました。 
 中身が無いミイラの顔がベコン、と凹んでしまう。

ダンク「く・・!」
ノリ「ぐだぐだぐだぐだぐだぐだぐだぐだ!
 さっきからうっせえッスよ中身空っぽミイラが!
 女性が必死に懇願してるのに無視するなんて、それでも男ッスか!」
ダンク「・・お前に言われたくねえな」
ノリ「ああ!?
 今度はボクの弱味を言って黙らせる気ッスか!上等ッスよ!ぶちまけたきゃ好きなだけぶちまければ良いッス!それでもボクは手を離す気はないッスけどね!
 早くその手を離すッス!」
ダンク「お前も下らない事は止め・・」

 ダンクがノリを離そうと立ち上がるが、今度はススがダンクの背中を両手でしっかり掴み、動きを封じてしまう。

スス「わ、私も連れてってよダンク!
 今度はやれるわ!私だって、ダンクの手助け出来るんだから!」
チホ「ダンク様!
 チホを連れてって下さい!
 御姉様を、必ずやお助けしたいのです!」

 チホにより右手が体全体でにしがみつかれてしまう。そして左手はノリが手錠をかけていた。ノリもまた自分の右手首に手錠をかけている。
 
ノリ「これでボクと一蓮托生ッスね。
 逃がしはしないッスよ」
ダンク「お前らふざけてる場合か、さっさとはなれろ!」
ノリ「ふざけてるのはどっちッスか!
 船でもここでも、ボク達は皆ダンクに助けられたッスよ!
 なのに礼の一つもさせずにさっさと地獄に落ちようとするなんて、酷すぎるッス!」
ダンク「黙れ!お前達は弱い人間だろう!
 怪我すれば動けない、毒を飲めば弱まる!回復も強い力もない!
 これからの戦いはそれらが出来なきゃ迷惑なんだよ!」
ノリ「ならお前はそうなっても良いッスか!?
 そんなボロボロで戦って、一人で潰されてぐじゃぐじゃな弱々しい姿で、皆を守ろうとばかり考えて!
 少しは周りの人達を信じやがれッス!」

 三人が強くダンクを睨み付け、ダンクは遂に黙り込んでしまう。そして深い溜め息をついた後、小さく呟いた。
 
ダンク「・・もう一度だけ確認する。
 向こうは地獄だ。何があっても助けられる保証はない。
 それでもお前達はついていくのか」
スス「当然よ。
 大体、私がいないで誰がゴブリンズのブレーキ役を出来ると言うの?」
チホ「地獄に堕ちる覚悟は元より出来ていますわ。私は今この世にいる大切な人を助けられない方が辛いのです」
ノリ「ボクを舐めないで欲しいッス。
 絶対、何もかも取り戻してやるッスよ」

 三人の言葉を聞いて、ダンクは静かに頷いた後魔法陣に手を伸ばす。

ダンク「ならば俺にしっかり掴まれ。
 ここから先は地獄なんだからな」
三人「勿論!!」

 ススはダンクの背中を抱きしめ、チホは右手を握りしめ、ノリは左手の手錠をしっかり掴む。
 ダンクが魔法陣に触れた瞬間、四人の姿は一瞬で消えていき、後には緋色に輝く魔法陣だけが残った。



▽      ▲       ▽



〜アタゴリアン城内・手術室前〜

 アイが氷の壁を割ってルトー達の所に戻ると、ルトーがニバリの前で本を読みながら唸っていた。
 ニバリの切断された首は繋がっており、代わりに首輪のような物が付けられていた。
 しかしその体はピクリとも動かない。
 アイは少し眉をひそめながらルトーに話しかける。

アイ「ルトー!
 こっちは終わったぜ」
ルトー「リーダー!
 こっちも終わった・・筈ッス」
アイ「ニバリの奴、動かないのか?」
ルトー「そうなんだ・・説明書通りに完璧に治した筈なんだけど・・」

 アイがニバリの頭をコンコンと叩くが、ニバリは動く様子を見せない。腕の中に閉じ込められていたワイドハンドが首をひねる。

ワイドハンド「ああ?
 ニバリの奴、なんで動かないんだ?
 死んでねえ筈なんだが・・」
ルトー「ん、なんか今、リーダーの腕から声が・・?」
アイ「ああ、さっきスパイダー伯爵を倒したらこいつが出てきてな。
 どうやらこいつが本体らしい。今は腕の中に閉じ込めてある」
ルトー「え!?
 なら早く潰さなきゃヤバイじゃん!
 なんで閉じ込めてあるのさ!」
アイ「いやー、まだこいつからなんでニバリを殺そうとしたか聞いてないしな」
ルトー「リーダー、甘すぎだよ・・」

 ルトーは溜め息をつきつつも、それに強く追求する気はないらしい。アイは心の中で教えてくれたらプチっと潰すんだけどなと思っていたが言わなかった。
 ふとルトーの読んでる本が気になり表紙に目を向ける。

アイ「ニバリ・フランケン義体修理書・・義体?」
ルトー「リーダーの義腕と同じ奴なんじゃないかな?ニバリは元々人間だって聞いてたし」
アイ「え、こいつ、元々は人間だったの!?」

 アイは改めてニバリの体を見る。
 三メートルはある巨体は人というよりは完全に怪物のようにしか見えない。
 ルトーも溜め息をつきながらも本をパラパラとめくる。

ルトー「僕も最初は驚いたけど、どうやら本当にそうみたいだね。
 実際彼女の過去を知ってる人もいたみたいだし・・」
アイ「こいつ女だったのか・・だけどなんで起き上がらないんだ?」
ルトー「今説明書を読み直してるんだけど・・あーもう、首切られた時の対処法くらい書けよ!」

 ルトーが何度もページを読み直してるのを尻目に、アイは改めてニバリの姿を見る。
 三メートルはある巨体には、よく見れば沢山の小さな傷が付いていた。アイはそれを少しなぞりながら、小さく呟く。

アイ「こいつ、女だったんだな・・」

 アイがニバリの体を少しさする。
 その瞬間、アイの頭にカスキュアの声が聞こえてきた。

カスキュア『カスキュアペットの諸君!!
 また同志が死んだぞ!スリーパーが、ニンゲンの卑劣な手によって爆発に巻き込まれ殺されたのだ!
 だが安心しろ!このカスキュアが貴様達に更なる力を与えてやる!
 君達は仲間が死ぬ度に強くなるんだ!
 さあ、ニンゲンを憎め!ニンゲンを殺せ!ニンゲンをその力で叩き潰せ!』
アイ「・・ッ!?
 な、何だ、この、声、は・・ッ!」

 不意にバリン、と音が聞こえたかと思うと義手の小物入れの扉が開き、ワイドハンドが腕の中から飛び出した。
 アイが思わず腕を見ると、氷が粉々に砕けているのが見えた。

アイ「ワイドハンド!」
ワイドハンド「ひひゃひゃひゃ!
 また強くなれたぞ!どうやらまだ俺には運が有るようだ!」
ルトー「な!?蜘蛛が喋った!?」

 ルトーが目を丸くしてワイドハンドを睨み付ける。小さな蜘蛛は8つの目をルトー向けた。

ワイドハンド「ああ、俺は喋れる蜘蛛さ!
 ゴブリンズ、俺は逃げさせて貰うぜ!」
アイ「てめ、待ちやがれ・・!」

 アイは手を伸ばそうとするが、ワイドハンドは既に天井の通気孔に入り込み、逃げ出していた。

ワイドハンド「キキキ!
 もっとだ、もっともっと強くなってから奴を殺してやる!
 せいぜい生き延びろよゴブリンズ!
 キキキキキ!」

 笑いながら、仲間が死ぬ事を望みながらワイドハンドは闇の中へ消えていった。
 アイは少し溜め息をついた後、上から真正面に視線を戻すと、
 目の前にニバリの大きな口が開いているのが見えた。
 
アイ「いぃっ!?」
ニバリ「ふわあぁ・・あ、アイとルトー、おはよー」
ルトー「ニバリ!?
 大丈夫なのか!?」

 目を丸くして呆然とするアイを蹴飛ばしながら、ルトーが声をかける。
 ニバリは静かに縦に頷いた。

ニバリ「大丈夫だよ、ルトーちゃん。
 オイラはまだまだ、皆の知ってるニバリだよ」
ルトー「・・ッ!」

 ルトーは『良かった』と言えなかった。
 何故ならニバリの腕はブルブルと震え、口からは涎のようなものが垂れてきている。
 自分を必死に抑えているのは、明らかだった。それでもニバリはルトーとアイに優しく話しかけてくる。

ニバリ「ルトーちゃん、アイ。
 君達が助けてくれたんだね?ニバリ、凄く嬉しいよ。
 おかげでユーちゃんの手術は上手くいくよ、ありがとう!」
ルトー「う、うん・・どうも・・。
 でも、何でさっきは目が覚めなかったの・・?」
ニバリ「多分、安全装置が働いていたんだと思う。もう少し待ってても起き上がれたんだけどね。
 はは、ごめんごめん。
 心配させちゃったみたいだね」
ルトー「・・・・・・」
アイ「ニバリ、聞きたい事がある」

 ルトーはニバリから僅かに目を逸らし、アイはニバリを真っ直ぐ見て訊ねる。

ニバリ「なんだい・・?」
アイ「カスキュアの声が、聞こえたな?
 あいつに、何かされたんだな」
ニバリ「!」

 ニバリが真っ直ぐアイを見た。
 空気が変わったのを肯定と受け取ったアイは話を続ける。

アイ「あいつ、仲間が死ぬ度に強くなる、なんて言っていた。ワイドハンドがお前の首を狙ったのは、お前を殺して更に強くなる為だったんだ」
ルトー「そんな・・」
アイ「ニバリ。
 お前、本当は限界なんじゃないか?
 あいつらに憎しみを埋め込まれて、苦しいんじゃないのか?」
ニバリ「・・・・少し、石炭を食べさせて・・・・」

 それから、ニバリは大きな手を後ろに伸ばし、石炭袋を掴んで口元に持ってくる。

ニバリ「フフフ、ニバリはね・・。
 石炭が、大好きなんだ・・これを食べると、良い思い出が見えてくるんだから・・」
アイ「・・・・」
ニバリ「本当に君達を傷付けたくないんだ・・。
 この石炭は、その証なんだよ・・」

  アイは石炭を食べるニバリの前にどかっと座る。そして僅かに笑みを浮かべた。

アイ「良ければ、聞かせてくれ。
 何で石炭が好きなのか」
ニバリ「良いよ・・。
 ニバリも、消える前に・・・・誰かに自分の事を話したかったんだ・・ガガガッ!」

 ニバリの左手の爪が蠢きはじめ、右手でそれを強く握りしめる。アイはしばらくそれを見た後、小さく呟いた。

アイ「ニバリ、大丈夫か!
 しっかりしろ!
 お前、俺の娘の友達になるんだろ・・?」
ニバリ「ふ・・ぐぅ、あ・・!
 ふ、フフフ・・そう、だね。ごめん。
 先ず、ニバリの昔の事を、話そうか・・。
 ああ、あの日を思い出す・・これはニバリが、ゴミバコと呼ばれていた時の事だ・・」
 

▽  ▲  ▽  ▲  ▽  ▲

 十数年前〜フリークス・サーカス〜

「ゴミバコ、おい、ゴミバコ!
 ここに埃が落ちてるぞ!」
「あうあー、う?」
「早く食べやがれ!俺達が病気になったらどうするんだ!」

 あの時の私は、本当に最低の生き方をしていた。読み書きや言葉をろくに教えて貰えず、大人からはゴミバコと呼ばれ、タバコや酒瓶や埃を食べて生きていた。
 ボクは『何でも食べる能力』の持ち主だから、食費には困らない便利なゴミバコだってぶくぶく太った団長がそう言っていたのを覚えている。
 オイラの役目はいつも色んな人が落としたモノを食べて部屋をきれいにする事。
 麻薬の甘ったるい毒の中で生きてきたワタクシにはそれはとても普通の事だった。
 座席の足元でゴミや埃を食べる間、ミーが上を見上げるとサーカスを見に来た人達が楽しそうに笑ったり悲鳴を上げる声が聞こえてくる。
 それを聞くたびに思うんだ。僕ちゃんはいつになったらあの上を見る事が出来るのかなって。
 アタシはいつになったらがあの人達の世界を見る事が出来るのかなって思っていた。

 団長の息子のジョンは優しい子だった。
 我輩が動けなくなったり死にかけたりすると助けてくれるんだ。
 君は優しいねと言うと、『この場所に一人になりたくないだけ』と顔を見ずに答えてくれる。
 そうだよね、ゴミバコが死んだらここに子どもは君一人しかいなくなるもんね。
 そんなの、辛いよね。
 ゴミバコも辛いんだ。いつも口を開けてるゴミバコは、誰かがいなけりゃ腐るだけなんだ。ハエやウジは友達になりゃしない。
 君はゴミバコの汚れを気にしてくれる。
 君はゴミバコの痛みを気にしてくれる。
 それだけでいい。それだけでいいんだよ。

 ある日団長が死体を引きずってきた。
 数日前まで一緒に生きていた仲間だ。だけどクスリが欲しい、欲しいと言ってあっさり死んだ人を、団長がズルズルと引っ張ってくる。
 ワシの前で死体を置くと、団長はいつものようにこう言ってきた。

『これを食べろ』

 ゴミバコは静かに頷いて、その死体を食べたよ。一気に食べようとして肌や血が口の中に詰まって軽く吐いた。
 それでも園長が怖いからゴミバコは食べたんだ。血を啜ったり、爪で肌を切ったり、色んな方法を試した。
 首筋は血が沢山出てきたし筋肉が盛り上がってる部分は固くて仕方なかったけど、それでも食べたよ。
 骨は固かったからそのへんの石やら何やら固いもので叩いて細かくしてから食べた。
 凄く長い時間をかけて食べた。
 舌はヒリヒリ痺れたし噛みすぎて口は痛いけど、ゴミバコは食べたんだ。
 死体を片付けたよと団長に報告すると、団長は凄い嬉しそうにしていた。

『フフフ・・やはり、お前は売らなくて正解だったよ。
 お前、これから死体を沢山食べられるようにしてやるぞ。後で戦争屋に死体を持ってくるよう連絡してやる。
 戦争屋に新しい仕事も出来て、ゴミを捨てられて・・能力者というのは最高だな』

 それからだ。ゴミバコって名前から『ニバリ・フランケン』って名前を呼ばれるようになったのは。
 皆の前で死体を食べると、皆きゃーきゃー言ってくれたのをよく覚えている。

『ニバリだ!人喰い鬼ニバリだ!』
『死体を食べてるわ!気持ち悪ーい!』
『おい、そいつの肉の色を見せろよ!
 もっともっと死体を食べてくれよ!』
 
 ああ、おかしいかい、皆?
 ニバリは仲間を食って生きようとしているその姿は、面白いのかい?
 ニバリは面白くないよ。楽しくないよ。
 ニバリは生きるために死体を食べるんだ。
 一体それの何処が、滑稽なの?
 ニバリは、それが不思議なまま、毎日死体を食べて生きていたんだ。

▽     ▲     ▽
 

アイ「・・・・・・何でお前、
 人間を憎まないんだよ・・?」
ニバリ「ああ、ごめんごめん。
 少し前置きが長かったね」
アイ「いや、今のが前置きって・・」
ニバリ「ボクは毎日あそこで嫌な思いしてたけど、それでもあの時は誰も憎まなかった。
 彼等の方が、滑稽だったからかもしれないね・・」
アイ「・・」
ニバリ「ある日オイラは見たんだよ。
 あのサーカスの闇の外側から出る事の出来た少年に・・。
 彼は外側に出た時、昔の名前を捨てた・・だから今、彼はこの名前で生きている筈なんだ・・」
アイ「・・その、名前は?」

 セキタ。
 セキタって言うんだよ。
 石炭のように力強く輝きながら、皆を引っ張る存在になれるようにって願いを込めてこの名前にしたんだって。



続く
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