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2017年07月06日07:18

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ゴブリンズビフォアゴブリンズ 第3話 アジト掃除 前編



〜ゴブリンズ・アジトー中庭〜

 アイが育てた花が咲き乱れる中庭の真ん中で、アイは枯れた桜に寄りかかってぶつくさ話していた。

アイ「全く、ダンクのインチキ発明には困ったもんだよ。
 あやうくゴブリンズ全員、人形にされる所だった」
『はははは、スイーツ指輪の件は面白いね。
 まさか好きな人に告白する事で解決できるなんて、スイーツらしいや』

 風で揺れる枝の音に混じって、中性的な声が聞こえてくる。アイはそれに対し驚く事なく話を聞いていた。

『ああ、それでこの前いきなり『俺はお前が好きだ好きだ大好きだー』なんて言い出したんだね?
 いきなり言い出すからびっくりしたよ』
アイ「あー、そこらへんの話を思い出させないでくれ、恥ずかしい」
『おおユウキ、貴方は何故ユウキなのか!?
 僕は死にません、アナタノコトガスキダカラ〜♪』
アイ「や め ろ」

 アイは苛々を隠すように頭をポリポリとかく。中性的な声はしばらく笑っていたが、やがて別の話を切り出す。

『さて、これで君達はめでたく戻れたわけだけど。
 まだ儲けたりないんじゃない?』
アイ「あったりまえだ。
 ハサギの所に八つ当たりしにいったが、全然気持ちがスッキリしねぇ。
 なんか儲け話でもないかな?」
『植物に儲け話聞かれてもねぇ。
 それなら住宅の義務を果たしてみたらどうだい?』
アイ「住宅の義務?」
『部屋の掃除、アジトの片付け。
 やることは一杯あるじゃないか』
アイ「さ、さあて仕事探しに」
『マ チ ナ サ イ』

 ざわざわと枝が・・いや、木そのものが揺れ出し、アイはピタリと動きを止める。
 アイはこの揺れ方をしている時の木がどれ程危険な存在かを知っているからだ。

『ソウジ、カタヅケ、セイリセイトン。
 シゴトガナイナラデキルヨネ?』
アイ「あ、あはははははははー。
 やります」
『分かればいいのよー。
 今日中にアジトをキラキラにしてねー』

 木は揺れるのを止め、さわさわと優しく枝が揺れる。アイはそれをみて震え上がった。

アイ(そ、掃除しないと・・俺、死ぬ!)
「うおおおお!
 ゴブリンズ全員しゅうごおおおう!」

 アイは後ろを振り向かずに走り出した。


ゴブリンズビフォアゴブリンズ
第三話
アイ『アジト掃除ィィィィ!!前編!!』


〜食堂〜

 ゴブリンズ一同は食堂に集まり、掃除について話を進めていた。
 なにせ元は千人以上が住んでいた大きな施設が、今はたった五人で暮らしているのだから掃除一つが大仕事なのだ。

アイ「このアジトは広い!でかい!使わない場所が多すぎる!
 掃除は大変な仕事だが頑張ろう!」
スス「そうよ、掃除は大変素晴らしい仕事だから頑張ろう!
 皆、雑巾は持った!?」

 冷や汗をかくアイに対し満面の笑顔で賛同するスス。彼女の掃除好きが爆発してるのは傍目から見ても良く分かった。
 対して他の面々は冷や汗が止まらない。

スス「今日は私の誕生日みたいな気分だわ!
 皆!さいっこうの掃除をしましょうね!」
アイ「さ、さいっこうの掃除・・?」
ルトー「ああ、これ日付が変わるまで雑巾持ちそうだ」
シティ「私掃除はあまりした事がないからー・・あまり大きな仕事は・・」

 何とか逃げようとする二人にススは満面の笑みのまま肩をがっしり掴む。

スス「フフフフフ、このアジトで一番好き勝手やってるあなた達が何を言ってるのかしら?
 今日は隅から隅まできれーーに掃除して貰うわよフフフフフー!」
シティ(あ、これ逆らえないわ。うん)
ルトー(よっぽどストレス溜まってたんだなぁ・・)

 ガタブル震える二人の後ろで、アイがこっそりダンクに話しかける。

アイ「ダンク、ダンク!
 こう言うときの魔法(インチキ)だろ?
 何とかしてくれよ」
ダンク「いや、そうしたいんだけどさ・・。
 ススにこれ貼られちゃって」

 そう言いながらダンクがアイに背中を見せる。そこには墨で『魔法禁止(はぁと)』と書かれていた。

ダンク「魔法で簡単にやるとありがたみがなくなるから使うなって止められちまったんだ」
アイ「うわぁ・・」
スス「さあ皆!
 先ずはこの食堂から綺麗にするわよ!」
アイ「はあああ!?
 こ、この食堂をか!?」

 アイは辺りを見渡す。
 食堂も元々百人近く収納できる広さだ。
 ここを掃除するとして、どれぐらい時間がかかるかアイは考えたくも無かった。

アイ「広すぎる! 
 まずは個室からで良いだろ!」
スス「ダメよ!
 掃除は皆で使う場所から綺麗にしなくちゃ!それにあんた達が個室を掃除したら絶対出てこないでしょ!」
アイ「ハハハ、マサカマサカ」
ルトー「ソンナコトナイヨー。
 キチントソウジスルヨー」
ダンク「お前ら棒読み下手だな」
スス「と・に・か・く!
 今日は一日かけて汚れという汚れを全て綺麗にするんだから!」

 ススの笑顔はキラキラ輝いていた。
 それはもう、誰も逆らえないくらい眩しく。
 言い出しっぺのアイは完全に立場を奪われ、シティは完全に意気消沈している。
 ルトーに至っては『即興で作れる掃除器具ないかな』と考えている始末だ。
 それを知ってか知らずか、ススは満面の笑みで叫んだ。

スス「さあ、ゴブリンズアジト掃除大作戦!始めるわよー!」
全員「お、おー・・・・」

▽    ▲    ▽


 シティは雑巾をしぼり、床を拭く。
 その度に埃が沢山出てきて、シティは一々驚いていた。

シティ「うわぁっ!ばっちぃ!」
スス「それが皆が毎日生きる間に出す汚れよ!さあ仕事仕事!」

 ルトーは雑巾で机を拭くが、あまり絞れてないからか水が残っている。
 それを見たススが雑巾を奪い取る。

ルトー「あ、スス!?」
スス「まだまだ水が残ってるわよ!
 もっと強く絞らないと幾ら拭いても意味が無いわ!」

 ダンクは箒で部屋のチリを取っているが、ススはびしい、と強く指差す。

スス「ダンク!
 箒を使うときはもっと静かにやらないと埃が舞うわ!
 それでは部屋を汚してるのと同じよ!」
ダンク「あ、ああ、すまない・・」
スス「そして、リーダー!
 あんたもサボってんじゃ・・・・っ!?」

 すっかりお山の大将になっていたススはようやく気付く。
 ゴム手袋を着用し、使わなくなった歯みがきを使い狭い場所を一生懸命掃除している、我らがリーダー、アイの姿に。
 アイは必死にごしごしと汚れをこそぎおとし、薄い布でこぼれた汚れを拭き取る。
 その掃除姿は正に完璧にして圧倒的な主夫の姿。
 目を丸くしているススにアイは気付き、ふっと優しい笑みを浮かべる。

アイ「なんだ?俺が掃除したら変か?」
スス「い、いやそういうわけじゃないけど・・」
アイ「こう見えて昔は良くここいらの掃除をしていたからな。
 何処をどう掃除すれば良いのか、俺は全て知っているのさ」
スス「そ、そうなんだ・・。
 それなら・・」

 ススもまた、ふっと笑みを浮かべてアイに近づきアイの頭をガシッと掴む。
 完全に虚をつかれたアイは目を丸くする。

アイ「へ?」
スス「普段からやりなさい!」

 ススの突っ込みと同時に強烈な膝蹴りを喰らい、アイは頭を抑えて悶絶する。

アイ「ぐわあああはあああああ!!
 目があああ!目があああ!」
スス「ふん!
 今日の私は厳しいわよ!
 さあ皆も覚悟する事ね!サボった奴にはもれなくこの『罰ジュース』を飲む事になるんだから!」

 そう言って皆に見せたのは、おどろおどろしい色をした飲み物だ。
 溶岩のように泡を吹き出し、透明なガラスコップが今にも溶けそうだ。

シティ「す、ススー、何時のまにこんなモノを・・?」
スス「リーダーが掃除しよーと言った時、いの一番で作ったわ!
 ジュースはいっぱいあるからなくなる心配は無いわ!さあ掃除よ!掃除しまくりなさい!オホホホホホー!!」

 完全にテンションが(おかしい方に)降り上がったススを傍目に、全員が掃除に集中した。
・・・・・・わけなかった。

 数分後、アイ、シティ、ルトーの三人は掃除しながらどうやってサボるか話し合っていた。

アイ「どうする?
 このままじゃあのクレオススラに部下にされるぞ。
 く、なんでこんな事に・・」←言い出しっぺ

シティ「でも一度見つかったらおしまいよ。
 ただでさえススの睨みが凄い厳しいのに、能力を使われたら一瞬で回り込まれる・・。
 迂闊な逃げは危険だわ」
ルトー「僕の個室に行けば、沢山の掃除機械で綺麗に出来るんだけどな。
 鍵を奪われた」
シティ「しかもダンクも真面目に掃除する気満々だからこちら側に引き込み辛いわね。
 どうする?」
アイ「作戦は幾つかある。
 1、全員で逃げる
 2、ダンクを懐柔する。
 3、ダンクに罰ジュースを飲ませる」
シティ&ルトー「3を採用で」
アイ「ククククク、流石同士だ。
 俺も、それをやりたいと思っていた所さ。
 小鬼達(ゴブリンズ)である俺達が真面目に生きるなんて、つまらないからな」
シティ「ダンクに罰ジュースをごくごく・・フフフ、腕が鳴るわね」
ルトー「クケケケケ、悪戯サイコー・・」
三人「フッフッフッフ」

 三人はニヤニヤ笑いながら真面目に掃除するダンクに目を向ける。
 この時ダンクは謎の寒気を覚えたが、まあミイラだから別にいっか、と深く考えなかった。
 

フォト



 それが後に恐ろしい羽目になるとも知らずに・・。


▽   ▲    ▽

 キッチン前、ダンクがシンクの汚れと格闘しているとアイが話しかけてきた。

アイ「ダンクくーん、ちょっと頼みたい事があるんだけど〜」
ダンク「なんだ、猫なで声で気持ち悪い。
 用件あるなら早く言えよ」
アイ「シンクの掃除代わるからさ、この冷蔵庫と壁の間、掃除してくれないかな?」
ダンク「んー確かにその場所は俺以外出来ないな。
 どれどれ・・」

 ダンクがシンクから目を離した瞬間、アイは隠し持っていたカラーボールを取り出す。

アイ(しめしめ、このカラーボールをシンクに投げつけてダンクに罪を擦り付け、罰ジュースを飲ませる作戦は上手く行きそうだ)

 アイはニヤリと笑みを浮かべてカラーボールをシンクに向けて投げつける。しかしシンクに向かって投げたカラーボールは何故か途中で方向変換し、アイの顔面に当たった。

アイ「ほむっ!?」

 顔中がまっ黄色に染まり、アイは何が何だか分からないままぼぅっとしてしまうが、ダンクの声で目が覚める。

ダンク「お、きれいに顔だけ黄色になったなー」
アイ「て、テメエ何か仕掛けたな・・?」
ダンク「お前らが悪戯しないわけないからな。ちゃんとあらかじめ対策魔法をかけていたんだよ。ほれタオル」

 何でもない顔で悪戯を看破され、アイは苛々しつつもタオルを受取り顔を拭いた。
 普通カラーボールの汚れはタオルでは取れないが、ダンクが何か魔術を仕掛けたらしく汚れがどんどん綺麗になっていく。

アイ「ムムム・・だ、だが終わったと思うなよ、第2第3の刺客がお前を待っているんだからな・・」
ダンク「つまりあとはシティとルトーが悪戯に来ると。
 覚えておくぜー」
アイ「ぐぬぬ・・(ポン)」

 ふと誰かに肩を叩かれる。
 アイが気がついて振り返ると、ススがにっこり笑みを浮かべて立っていた。
 その手には禍々しい色の液体がなみなみと注がれたコップを手にしている。

スス「罰ジュース♪」
アイ「い、悪戯に栄光あれええええええ!!!」



 アイの悲鳴は中庭にも充分届いていた。
 血染め桜はそれを聞いて、ゆらゆらと枝を揺らす。

『フフフ、アイがバカでも皆がしっかりやってくれて、自分は嬉しいよ』



続く!!



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