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2017年06月28日08:00

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長編小説その2 担うモノ達 マルシーヌ・ローレン

 人形達は僕の目から映し出された映像を終始見続けていた。僕を殴ってきたヤグルマさえ完全に怒りを放り投げて映像を見ている。
 やがて映像が終わり、僕の目から映像の輝きが消えた頃には全ての人形達が一斉に僕に目を向ける。
 いち早く気を取り戻したヤグルマが僕に話しかけてきた。

「お前、名前はあるのか」
「ぼ、くは、ドワ。
 ドワ、だよ・・」
「ドワ、ドワだな。
 おい皆、こいつの名前はドワというらしいぞ。それで、ドワ。
 お前はこれからどうしたい」
「僕、も分からない。
 い、色々なことが、分からないから、それを知りたい」
「つまり勉強がしたいわけか。
 なら決まりだな。おい、誰かこいつを牢屋にぶちこんでこい」
「ヤグルマ!」
「こいつはスパイの可能性がある。
 だったら牢屋に入れるのが筋ってもんだろ?」
「ヤグルマ、あんたどこまで腐って・・」
「落ち着け、リラ」

 尚も訴えようとするリラをキンセンが止めた。
 彼女もまた表情が真剣で、僕を凝視したままヤグルマに賛同する。

「私も賛成だ。
 ドワは最初期の空豆人形(フェーブ・プーぺ)。
 修理するにはかなりの時間と労力、それまで落ち着ける場所が必要になる。
 牢屋ならうってつけだし、誰かに無意味に殴られる心配もないしな」

 最後の言葉を言う時だけヤグルマを睨んだキンセンは僕に近付き、お姫様だっこの体勢で持ち上げる。少し恥ずかしい。

「私が彼を牢屋に連れていく。
 リラ、ジーニア。彼を見つけた場所を後で教えてくれ。ああ、あと地図を持ってきてくれ」
「地図?」
「ガレット工房を探すんだ。
 彼を制作した場所がそこなら、道具もそこにある筈だからな」

 そう言って、キンセンは皆の輪から離れていく。リラとジーニアも僕達を見ていたが、ヤグルマに呼ばれて何処かへ行ってしまった。
 暗い道をしばらく歩いた後、透明なガラス瓶が幾つも転がってる部屋に辿り着く。
 僕達はとても小さくて、ガラス瓶でさえ人形一つ入る分には充分な大きさだった。
 その中に瓶の底が割れて中に入れるガラス瓶を見つけたキンセンは、僕をその中に入れてゆっくりと寝かせた。
 それから僕の顔を少し見つめた後、こう話しかけてきた。

「先程はヤグーが殴ってしまってすまない。
 私はキンセン。空豆人形(フェーブ・プーぺ)の修理業者だ。
 君は、ドワでいいんだね?」
「う、うん。よろ、よろしく、キンセン」
「握手したいが、手が壊れてるな。
 少し見てもいいか」
「お、おねが、い」

 僕が改めて見る両手は、本当に壊れていた。
 右手は五本ある指は二本しかなく、残った指も複雑に曲げられていて動かす事が出来ない。
 人でいう『掌』の部分は穴が開いていていつ崩れてもおかしくない程ヒビだらけだった。
 左手の指も四本程無くなっていて、親指の部分がかろうじてくっついているぐらいだった。
 僕の中に悲しい気持ちと驚く気持ちが同時に出てきて、あまりの酷さにすぐにひいてしまった。

「僕、の手、直せるか、な」
「さて、な。
 材料と道具さえあればすぐに直せるんだが、今は動かさないようにするのが精一杯だ」

 そう言いながらキンセンは自分の腕の上部を軽く叩き、中に入っている包帯を取り出して僕の手に丁寧に巻いていく。

「幾つか質問したいが、それは少し時間を置いてからにしよう。
 君も感情任せに出鱈目な質問をしたくはないだろう」
「う、ん」
「少し目を閉じてくれ。
 声帯や他の部分がどうなってるか、詳しく知りたいんだ」

 僕は言われた通りに目を閉じる。
 喉の部分が触られたり揺らされたりして少し恥ずかしいけど、それでも嫌な気持ちはしなかった。
 しばらく目を閉じている間に僕は少し眠くなってしまって、それに逆らおうとはしなかった。
 そうしている内に、僕は夢を見てしまっていた。


  ▽      ▲      ▽

マルシーヌ「はじめまして。
 貴方が私の旅の同行人、ドワ君ね?
 私はマルシーヌ・ローレン。
 時計を売る仕事をしてるんだけど、旅行が好きでね。
 今日の為に半年も貯めたお金を使ってこの国を訪れたの。
 最初はどんな街か怖かったけど、
 見て、この景色!」

 旅行鞄を肩にせおい、スーツケースを片手に、道を歩きながら金髪のウェーブの女性、マルシーヌが僕に向かい笑みを浮かべる。
 髪を揺らしながら楽しそうに話すマルシーヌの声に従って僕が目線を向けると、そこには確かに美しい街並みがそびえ立っていた。
 建物の看板には洒落た看板が設置され、その足元では観光客や地元民が料理店で食事をとっている。

マルシーヌ「ここはソレイル商店街よ。
 この国の台所にして沢山の店が溢れる名物商店街。
 昼間から酒を飲むのもよし、良いお酒を探すのも良し、隠れた名店バーを探すも良しだけど、先ずはホテルに荷物を預けないといけないわね。
 私は一度ホテルに行くけど、着替えを見ちゃダメだからね。
 えーと、なんて言うんでしたかね。
 ああ、思い出したわ。
 『行けるべき所まで生き、然るべき場所で、歌え』」


   ▲    ▽    ▲

「ドワ、目を覚ましたかしら?
 もう診察の方は大丈夫よ」
「あ、ああ、ありが、とう」
「声帯の方だけど、どこも異常が無いわね。
 体の中にもあまり故障した箇所がないわ。
 ただ、足の部分が根元からないから、最初から作らないといけないわね。
 これは直すのが苦労しそうね」

 声を聞いて、僕は辺りを見回した。
 透明なガラス瓶には汚れがこびりつき、所々にヒビが入っている。

「そ、そう、なんだ。
 ご、めんね」
「謝らなくても良いわよ。
 私は一度準備に戻るけど、次に会うときはヤグーに質問攻めにあうだろうから、今の内に色々答えを考えときなさいな」

そう言いながらキンセンは笑みを浮かべていた。沢山質問するヤグルマの姿を想像したのかもしれない。
 僕はなるべく話を楽しく出来るように、頑張って声を出していた。

「分かった、よ。
 きん、せんはいい、医者、だね。
 おかげ、でいい夢を、み、み、見れた、よ」
「それはどうも。
 そのしゃべり方も、早く良くなるといいわね」
「いま、のうちにれ、れん、しゅーす、するね」
「頑張りなさいよ。
 所で一つだけ、良いかしら?」
「な、に?」
「さっき貴方が言ってたユメって、何?
 私は何も見えなかったけど?」
「え・・?」

 不意に聞かれた言葉に、僕は思わず首を傾げる。さっき見えた映像は、キンセンには見えなかったのだろうか。
 僕がなんて答えれば良いのか分からず困惑していると、キンセンははにかんだ笑顔を見せた。

「ま、今は疲れてるだろうしな。
 ユメが何なのか、後で答えを聞かせてくれよ」

 そう言って、彼女は何処かへ行ってしまい、『牢屋』には、僕一人が残された。

 僕はこれからどうなるか分からず、目を閉じようとしたけど・・それでまた説明できない映像を見るのも、嫌だった。
 だから僕は先程の映像を思い出しながら、小さく小さく呟く事で寂しさを紛らわす事にしたんだ。

「ソレイル・・時計・・マルシーヌ・・酒・・商店街・・ソレイル・・時計・・」


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