角が在る者達 第124話 君は全てを捨ててでもそれに手を伸ばす事を選んだ。
〜アイアン・ユーキ号内〜
アイアン・ユーキ号内を簡潔に表すならカオスの一言だった。
どの部屋にも窓は無く、扉を開けるとそれぞれ自由にどの部屋にも行き交う事が出来る。
更に部屋の中は常に清潔になっており、必要な物が何でも揃っていた。
製作者であるユーキ曰く、『やっぱり自分の船なんだから自由に装飾したいじゃない!何でも出来る船、最高じゃない!』
とは言ってるが、
乗組員は全員幽霊で操縦席は酒を飲んだくれている骸骨が適当にスイッチを押してるだけという異様な状況に、さすがの私も呆れるしかなかった。
今までの常識が全部破壊された船内で落ち着ける者は少なく、全員が絶句するしか無かった。
アイは遊戯部屋を用意して、そこにアイ、ユーキ、ライ、ハサギの四人が座る事にした。
トランプを握っていたからしばらくは出ないだろう。
メルはイシキとジャン・グールと話がしたいと言って道場へ向かった。
メルがかなり追い詰められた表情をしていたから、重要な話をするのだろう。
スス、ノリ、執事、チホはキッチンへ向かった。
料理の作り方を聞きに行ったのだろう。
最後に残されたルトーと私、シティはパソコン室にいた。
ルトーお気に入りのパソコン部屋で、彼が好きそうなアニメのポスターがあちこちに貼られている。
私はルトーにUSBを見せ、一緒に見てもらう事にした。パソコンの扱い方が良く分からないから、というのは建前。
本音は、一人で見るのが怖かったからだ。
グロ映画だって笑って見れる私なのに、なんで怖いのかは考えたくない。
ルトー「それじゃ、ファイルを開けるよ」
シティ「イヤー助かったよルトー!
私パソコン苦手でさー」
ルトー「僕はいつかパソコン教室開いた方がいい気がしてきたよ。
さて、中身はっと・・あれ?動画ファイルと書類ファイルだな。
どっちから見る?」
シティ「・・書類ファイルからお願い」
ルトー「ラジャーラジャーラジャー」
ルトーは軽い口調でパソコンをカチカチと動かしていく。画面に文章が写し出される。
私は文章の冒頭部分を読み上げていく。
シティ「・・大罪計画『憤怒』の計画の全て・・著者・・ナンテ・メンドール・・」
ルトー「え、これ敵の計画ファイル!?
凄い情報じゃん、シティこれどこで手に入れたの!?」
シティ「・・分からないわ、気絶した私の足元に置いてあったみたいだから・・誰が、置いてったのかしら・・」
ルトー「・・そっか。
後でコピーして皆に見せなきゃな」
ルトーがファイルの中身をコピーしている。私はルトーに言えなかった。
これを置いたのはきっと、ダンクなんだ。
そこには必ず意味がある筈だ。
私がそれを見つけなければ、意味は無いんだ。
ルトー「次は動画ファイルだね。
またこの前みたいに人肉料理とかだったら嫌だな」
シティ「まあ大丈夫よ、今更グロ画像でビビる私じゃないわ」
ルトー「そういやシティそういうの平気だったね・・動画ファイルを開くよ」
ルトーはカチカチと「you 」と書かれている動画ファイルを開く。
そこに映し出されたのは、傷だらけで壁にもたれ掛かっているダンス・ベルガードの姿だった。
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道場
『血染桜』という字が書かれた看板の下で、僕、イシキ、ジャンの三人が話をしていた。
ジャン「話とはなんじゃ、若造?」
メル「・・聞きたい事があります。
大罪計画について・・」
ジャン「・・ウキ、そうかい。
じゃがイシキまで話に参加する事は無かろう?」
イシキ「ワシはただ聴き手に徹するよ。
アイから大罪計画の話を聞いた時はとても驚いたからのう」
イシキは二人から少し離れた所で壁にもたれ掛かっていた。僕とジャンの話から、彼等への対応を聞いていた。
イシキ「・・いいじゃろう。
若造、好きに聞いてみろ」
メル「大罪計画は何故生まれたんですか?」
イシキ「一つは果心様の為に。
もう一つは素晴らしき未来の為に、じゃ」
メル「一つは聞いてます。
果心は不死で死ねず、あらゆる知識を持っている。その代償に共に生きられる人がいない事も」
ジャン「そうじゃ、果心様は仲間を欲した。
永遠に生きられる存在、永遠を共に歩める存在を。
その為に、ワシ等が動き出した。
それは世界を幸せに出来ると信じて。
じゃが、結果はこの状況じゃ。
情けなくて馬鹿馬鹿しいのう」
メル「貴方は『強欲』を担当していると聞きました。一体どんな計画を立てているんですか?」
ジャン「それは、これじゃ」
ジャンが自信たっぷりに僕達に見せたのは、一房のバナナだった。
ジャン「このバナナ、何処で育てたと思う?南極じゃよ。
ワシは世界中、何処ででもバナナを育てる事に成功したんじゃ」
メル「なんですって!?」
ジャン「バナナだけじゃない、
スイカ、リンゴ、さくらんぼに米に稲、ありとあらゆる植物を育てられるのじゃよ」
ジャンがバナナの種を一粒床に落とす。
すると種が一瞬で発芽し、生育され、あっという間にバナナの木が現れてしまった。
メル「うそ・・」
イシキ「なんじゃこれは・・!」
ジャン「ウキキキキキ!
これこそジャン・グール特製、強欲を希望に変える計画!
名付けて『全大陸緑化計画』!
今はまだ完全に完成してないが、あと少し研究を続ければ砂漠を無くす事も可能になる!」
イシキ「植物組み換え計画か・・。
だが、それを何の考えもなしに実践させれば・・」
ジャン「環境・政治・経済の根底が覆される危険性が高い・・故に、まだまだ改良の課題のある計画じゃ、
だからこの計画を他人に見せたのは御主らが始めてだ。悪用されては敵わんからのう」
バナナの木は大量のバナナを落とした後、育った時と同じように一瞬で枯れてしまった。
ジャンは落ちたバナナ一つを拾い上げ、皮を向いて食べる。
ジャン「それでもワシ等は作るのを止める気は無いわい。
昔、飢えて何も食べられずに死にかけた経験があるワシに、その欲求を止める事は出来んからな・・ああ、バナナはやはり旨いな」
僕には、何も言えなかった。
パー校長は僕に大罪計画の魅力を語り、ジャンは自分の夢を楽しそうに話した。
大罪計画の人達は、皆夢を追いかけているんだ。
この計画は、彼等の希望なんだ。
その計画から僕は生まれた。その過程からユーは生まれた。
僕達に彼等を許す義理は無い。
だけど、何故。
僕は彼等に敵意を見せる事ができないんだろう。
ジャンはバナナを食べ終えた後、僕にもう一度顔を向ける。
屈託の無い笑顔のまま、敵は訊ねた。
メル「それで?
まだ聞きたい事がある筈じゃろう?
金稼ぎ以外の事ならなんでも答えてやるぞ!?」
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〜キッチン〜
まるでホテルのように大きなキッチンには何でも揃っていた。
ボク、ノリはスス、執事さん、メイドさんと一緒に夕食を作っているッス。
ボクも料理には自信がある方ッスが皆は凄いてきぱきと動いてビビってるッス。
ボクも花嫁修業、頑張らないと!
スス「あら、塩を皿の回りにかけるの?」
チホ「はい、そちらの方が見栄えが良いですし、味が固まらないですみますしね」
スス「流石豪邸のメイドは凄いわね!
こっちも負けられ無いわよ!」
ススはチャーハンを作っているっスが、凄い大量に作っているのに綺麗に均一に盛り上げているッス。
チホ「凄い綺麗に均一にできるのね。
私達でもそれは作れないわよ」
スス「私は大所帯の中で生きてきたからね。
たくさん作るのは得意技なのよ。
あ、調味料頂戴」
ノリ「あ、はい、どうぞッス」
スス「ありがと!
ノリも料理上手いわねー!
弁当男子っていうの?案外モテそうなスキル持ってるじゃない」
ノリ「も、モテ・・!?
ぼ、ぼぼぼボクはそのあのモテるとかそう言うのはあの」
スス「あはは、そこまでテンパらなくても良いわよ」
ギュイイイイイイン!!
不意に向こうを見ると、執事がハンドミキサーを使いながらケーキを作っていた。
その速度はかなり早く、僅か10秒でホールサイズのケーキが作られている。
イナカ「フハハハハハハハーー!
我が故郷、『ハーイブート』で鍛えたケーキ作成術を、その目に焼き付けるがいいー!!」
チホ「お父さん・・」
スス「(絶句)」
ノリ「す・・凄い!
ボクもあれぐらいやれたら、モテるかな!?」
スス「やめて、ここで貴重な常識人を失いたくない・・あの人も常識人だと思ってたのに・・」
イナカ「ハハハハハハハハハー!!」
キャラ崩壊したイナカを背に、ボク達は料理を作り続けた。
いつかあんな風に甘いケーキを作れたらいいな。
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〜遊戯室〜
アイ「・・・・」
ハサギ「・・・・」
ライ「・・・・」
ユーキ『小鬼達、皆揃って出かけたら』
ハサギ「どりゃあっ!
『勇者一行に、一網打尽』!」
ユーキ「ハサギ、1枚獲得。
ハサギの勝利〜〜」
ハサギ「っしゃあっ!!」
ライ「あ、くそ!勇者の方だったか!」
アイ「魔法使いに毒薬飲まれると一緒だから、とりにくいな」
四人は『百鬼一首』で遊んでいた。
百鬼一首とは迷宮島で住んでいる日本人が考えた遊びで、小鬼や妖怪、怪物をテーマに謳った五十の上の句と下の句が書かれている。
ルールはほとんど百人一首と同じルールであるが、取り上げた者は必ず下の句を読み上げなければいけない。
迷宮島で生まれた子ども達には広く浸透された遊びで、アイ達も昔は良く遊んでいた遊びであった。
アイ「これで三戦1勝ずつだな。
結構遊んだな〜」
ライ「こうして再会出来たのも久しぶりだからな。本当に皆成長したなー」
ハサギ「ライ、お前はまだ傭兵続けてるんだってな。怪我とかはしてないか?」
ライ「ハサギこそWGPになれたって言うじゃないか。俺らみたいな奴等が闊歩しない世界、ちゃんと守れよ」
ハサギ「ははっまあ気を付けるさ」
アイ「いつも俺達に負けてるのに良く言うぜ」
ハサギ「言ったな、次こそは捕まえてやるんだからな!」
アイ「その日が来るのを期待しないで待ってるぜ」
ユーキ(フフっ、アイったら年甲斐もなく楽しそうにしちゃって。
ここは仲良し三人組に任せて、私はクールに去るとしますか)
ユーキは部屋を出て見張り台の幽霊に訊ねた。
幽霊「これはコリハキャプテン!ドーモオソマツサマDEATH!」
ユーキ「怪しい場所や不審な影は無い?」
幽霊「もちもちもちろんでゴザイマァス!
ワレワレが見張ってる限り誰も侵入させやグワー!」
幽霊が不意に何処かに吹き飛ぶ。
ユーキがキョトンとすると、見張り台に誰かが現れた。
その人の姿を見て私は目を丸くした。
ユーキ「あ、貴方どうして・・・・泣いているの!?」
シティ「うる・・うるさい!
私は泣いてない!
泣くもんか!な、泣く・・もん・・!
うわああああああああああああああ!!」
シティは顔を両手で覆いながら、その場に泣き崩れた。
ユーキは何が何だか分からず、ただ側にいてやる事しかできなかった。
続く。
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