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2015年10月18日12:50

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角が有るもの達 第106話

角が有る者達 第106話
『ドッペルゲンガー』
 

賢者が叫ぶ。
 その姿はあまりに恐ろしく。おぞましく。まるで怪物のように、自分の中に溜め込んだ感情全てを吐き出すように、叫び続ける。
愚者が咆哮する。
 その姿はあまりに哀れで。愚かしくて。まるで赤子のように、自分の中に溜め込んだ知識全てを吐き出すように、咆哮し続ける。
誰にも理解出来ない主張が止まる時、二人は立ち上がる。
 まるで闇に潜む全てを理解したかの如く。
 まるで陽を浴びた全てを否定するかの如く。
 誰にも理解出来ない憤怒を掲げて、二人は立ち上がる。
 だがその二人は、姿も歴史も同じなのだ。
 これから始まる物語は、同一でありながら違う者の、物語・・・。
 



WGP 〜海上〜


シティは目をぱちくりとする。
先程までずっと叫び続けていた男性が今は静かに立ち上がっているからだ。
 男性は自分の両手を見つめた後、自分の頬を触り、肩を触り、足を触った。
 そして再度自分の両手を見つめ、くるりとシティの方に目を向ける。

シティ「・・・な、何?
 まさか私を攻撃する気?言っておくけど、私の全力はこれからなんだから!
 船だけが全力だと思わないでよ!」
「・・・・・・アタゴリアン第三海軍、第三空軍にアタゴリアン最高司令官ダンス・ベルガードから直々に命令する」

その言葉に、シティはハッと後ろを振り返る。無数の怪物達が徘徊しながらも、男性の声を聞こうと耳を傾けていた。

シティ(いつの間に・・・!?)
「我等の計画は失敗した。これより体勢を建て直すため全軍直ちにアタゴリアンへ帰還する。
 怪我した者は全員回収し、全員帰還せよ。
 私を守る妖精達も、同様に帰還する事を命ずる」

その言葉を聞いて、数百数千の怪物達は一瞬で姿が消えてしまう。
 あまりに一瞬に消えてしまった為に荒事に慣れたシティでさえ、冷や汗をかかずにはいられなかった。

シティ「な、なんで、敵が撤回・・・?
 まさか、秘密兵器かなんか出す気じゃ」
「すまなかった、シティ」

シティが手にした棍棒を振り上げるより早く、男性は頭を下げる。
 あまりに予想外な出来事にシティは棍棒を振り上げた姿勢のまま固まってしまう。

シティ「・・・え?
 貴方、何を言ってるの・・・?」
「すまない、シティ。
 今更幾ら謝っても許されるとは思ってない・・・だが、お前には一番に謝りたかったんだ」
シティ「・・・貴方、誰?
 さっきのヘタレじゃ、無いわよね・・・?
・・・雰囲気が違いすぎるわ」
「・・・。
 時間が惜しい。
 船に戻りながら話すぞ」
シティ「・・・ええ」

先程とは全く違う雰囲気に呑まれ、シティは素直に従う。
 二人を乗せた鉄板が船へ向かっていく。
男性は少しずつ近づく船を見ながら、話し始めた。


ダンス「ああ、そうだ。さっきまで話していたのは、『ダンス・ベルガード』。
 ・・・この体の、持ち主さ」
シティ「それってダンクじゃないの?」

男性は顔を上げる。その表情は何処か皮肉めいた笑みが見えた。
 だがすぐに表情を引き締め、真っ直ぐシティを見つめる。そしてはっきりと告げた。

「いつもならその解釈で合ってるんだけどな。今は違う。俺はダンク。
 お前がよく知っている、中身の無いミイラだよ」



WGP号〜三階デッキ〜

アイ「なんだ?
 怪物達が消えたぞ?シティも何を話してるんだ?」
ジャン「・・・・・・」

アイとジャンは双眼鏡を片方ずつ使いながら二人の様子を見つめていたが、ジャンが静かに語り始める。

ジャン「なあ、若いの・・・ここはワシに任して、お主の娘の所に向かえ」
ユー『おいおい、君は何を言ってるんだ。君は大罪計画『強欲』のリーダー、ゴブリンズの敵じゃないか。
 そんなの聞くわけ・・・』アイ「ありがとう。助かったよ」
ユー『そうそう、助かるわけ・・・え?』

ユーが聞き返そうとした時、アイはもう双眼鏡から離れていた。

アイ「さっきはアドバイスありがとな」
ジャン「ふん、あんなんアドバイスでもなんでも無いわい。
 それよりさっさとダンスホールに向かえ。まだなにかしら騒動が起きてるみたいだからな」
アイ「ああ!」

そう言って、アイは三階デッキから出口に向かって走り出していく。ユーが『ええ!?あいつ信じちゃうの!?あの猿を!?』とか何とか言っていたが、誰もそれを聞こうとはしなかった。
 残されたジャン・グールは静かに双眼鏡でシティ達の姿を見ている。

ジャン「執事、いるか?」
執事「はい」
ジャン「奴等の会話、読唇術で分かるか?」
執事「はい、全て伝えられます」
ジャン「一言一句全てワシに伝えろ、一言も聞き漏らすな」
執事「はい、私から見える全ての言葉を、ジャン様に伝えます」
ジャン「よし・・・頼んだぞ」


アタゴリアン〜食堂〜

ナンテ「どういう事ですか!?
 何故、何故ダンスは軍を撤退させた!?あの女と一体何を話しているんだ!」
果心「・・・・・・」

ナンテ・メンドールが喚いている間、トレンチコートに着替えた果心は映像を見つめたまま、懐に隠してあるガラス玉に念を送る。
 それは果心が作ったガラス玉で、果心が念を送ると部下K・K・パーと話が出来るようになっているのだ。

果心(パー、パー、聞こえるかしら?)
パー(はい、果心様!
 『怠惰』のパー、何時でも貴方の声にお答えします)

果心の頭の中に聞こえてくる懐かしい声。
 その一声を聞いただけで、果心の心を守っていた緊張が和らぐのを感じた。
 しかし今はそれを気にする暇は無いので、口調を変えないまま話を続ける。

果心(よろしい、こちらの状況を簡潔に伝えるわ。まずナンテ・メンドールが私達を半分裏切ったわ)
パー(ナンテ・メンドール、果心様を裏切るとは・・・しかし、半分、とは?)
果心(あいつ、どうもダンス・ベルガードと呼ぶ男に脅迫されているみたいなのよ。
 だから本心から裏切ったのかどうか分からない・・・)
パー(ですが、油断はしない方がいいでしょう。
 学校を裏切った私からの意見では、一度裏切りを考えた奴はその瞬間今までの友情を全て忘れてしまいますからね。
 そのまま本当に裏切る、なんて事態も考えられます)

パーは昔、教師をしていた。だからだろうか、説明が分かりやすくすっと頭の中に入ってくる。
 果心は知らず知らずに笑みを浮かべていた。

果心(・・・ありがとう、気を付けるわ)
パー(それと、私からも報告があります)
果心(何?)
パー(この国、誰もいないと思っていましたが何処かに複数の生存者がいるようです。
 今彼等の住み処を探している所です)
果心(生きている人がいる?本当はもっと伝えたいけど、これ以上黙ると感づかれるわ)
パー(分かりました、こちらも捜査を進めます。また情報が纏まったら話しましょう)
果心(ええ・・・)

果心は念を送るのを止め、目線をナンテ・メンドールに向ける。

果心(本当は他にいっぱい伝えたい事はある・・・けど、今はこれしか伝えちゃいけない。パーは優しすぎるからね。
 『国中の人間を実験台に使った』なんて聞いたら、例え無謀と分かっていてもナンテを殺しにいくでしょう。
 私だって殺したいのだから)

果心は刀の柄を握り締めながらあわてふためくナンテ・メンドールをじっと見つめる。

果心(しかし、今は出来ない。
 それをしてはいけない。第三者がいると分かった以上、行動は慎重にしなければいけない。
 こうなれば、もはや愚者も被害者も、死者ですら駒の1つとして扱わなければいけない・・・ごめんね・・・)
「ねぇ、ナンテ・メンドール」
ナンテ「は、はい!」
果心「ダンスが何かを話しているわ。
 声は拾えるかしら?」
ナンテ「は、はい・・・」

ナンテ・メンドールは落ち着きを取り戻してリモコンを取りだし、ボタンを押す。
 そこから聞こえたのはダンスの声だ。しかしいつもの狂気は、果心には感じられなかった。

ダンス『全ては数百年も昔から始まっていた話だったんだ。
 アタゴリアンが魔法を捨てて、俺が魔法にとりつかれたその瞬間に始まった、下らない一人芝居さ』


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

ダンク「アイツと俺が出会ったのは、学校に向かう途中、メルの夢を見ていた時さ。
 あいつは、メルの精神世界の中に隠れていた。メルの夢を見た時、道化の化粧をしたダンス・ベルガードが笑っていた。
 それを見て俺は震えたよ。この世に俺が二人いる訳が無い。何か間違いが起きているんだと思った。
 それを確かめる為に、俺は学校の一件の後一人でアタゴリアンに向かったんだ。
 だがそこは、もう地獄に変わっていた」

記憶の中でダンクはアタゴリアンに立ち、その景色を見て絶句する。
 そこには怪物達がひしめきあい、人間が一人もいない地獄と化した世界だった。

ダンク「俺は始め、アタゴリアンで恐ろしい事が起きていると思った。
 そして、怪物達を統べる奴の顔を見た時・・・俺は自分が感情を忘れた怪物で有ることを忘れてしまった。
 そいつは、昔の俺と同じ姿をしていたからな。」
シティ「それが、今私の目の前にいるダンクなのね」

シティはダンクの姿を見つめる。
 輝いている金髪を後ろに結び、整った顔をした青い目の青年は、静かに頷いた。
 
ダンク「ああ、俺はソイツに近付き、問いただした。
 あいつは笑いながら教えてくれたよ。
 もう、この体はお前のじゃないって。それですべて理解した」

ダンクは目を閉じ、話を続ける。

ダンク「俺はダンクに成る際、ダンス・ベルガードの体を悪魔達にくれてやった。
 全世界の魔法の知識を得るため、必要な代償だった。
 ・・・だが、悪魔達はダンス・ベルガードの体を喰わなかった。
 あろう事か、ダンスの体に住み着いたのさ。つまりあいつは俺の体を着た悪魔だた。やがて他の悪魔も俺の体に住むようになり、俺の体には無数の悪魔が住み着くようになった。
 そうなれば、もう俺の体は死ぬ事が出来ない。数百年経った今も、この体の中は時間が止まっているんだ」

ダンクは自分の体を擦る。数百年悪魔に操られたこの体、今では痛みしか感じる事が出来ない。
 一体この体にどれ程の苦痛を与えたのか、ダンクにもシティにも分からなかった。
シティはダンクの姿を見つめる。
 輝いている金髪を後ろに結び、整った顔をした青い目の青年は、静かに頷いた。

ダンク「・・・俺はあいつに決闘を申し込んだ。
 この世に俺以外の俺がいて良いわけがない。お前はお前の時代に戻れ。
 そんな気持ちで一杯になってしまったんだ。あいつもまた、その決闘に応じた。
 あいつにとっても、俺は邪魔だったらしいからな。
 そして、魔術師同士の激しい戦いが始まる・・・筈だった。
 あいつと俺の目が合った時、何かが流れ込んで・・・激しい痛みが全身を襲った。
 あいつもまた、突然の激痛に苦しんでいたんだ」
シティ「それは一体・・・」

果心「考えれば当然よね。
 この世に同一性のモノが二つも存在してはいけない。互いが互いを許せなくなり、争うしかないもの。
 まるでドッペルゲンガーの最期のようにね。
 もし出会えば、どちらも消えるしかない・・・尾ヒレの生えた都市伝説だと思ったけど、まさかこんな形で実現するなんてね・・・」
ナンテ「元を正せば、彼等は一方は魂だけとなったダンス・ベルガード。
 もう一方は肉体に別人の魂が乗り移り成り替わったダンス・ベルガードですからね。
となれば、奴等は消えるしかないのでは・・・?」

ダンク「だが、俺達は消えなかった。
 気がつけば俺はダンス・ベルガードの体に成り、アイツはダンクの体になっていたんだ」
シティ「ど、どうしてよ?
 なんで入れ替わっちゃったの?」
ダンク「恐らく、俺とアイツが同一の存在で有りながら数百年別々に過ごしていた為に、完全に個別な存在になりつつあったんだろう。
 固まり始めた魂と魂が触れた瞬間、互いの存在は入れ替わってしまった。
 気が付けば俺はダンス・ベルガードの体に戻り、奴は今まで俺だった者の体に入っていた・・・最も、暫く時間が経てば元に戻ってしまったけどな。
 そしてそれ以来、俺がダンスを強く意識するか、ダンスが俺を強く意識するかで互いの人格が替わるようになってしまったんだ」
シティ「そういや、あのヘタレ・・・。
 しきりにダンク呼ぶな呼ぶなと言ってたけど、そう言う事だったのね」  
ダンク「・・・やっぱりシティがアイツを俺と勘違いしちゃったかぁ・・・まあいいさ。
 今はそんなのどうでも良い事だ」


ダンクは当時の事を思い出したのか、それとも自身の存在を皮肉ったのか、口元に僅かな笑みを浮かべていた。

ダンク「馬鹿な話だろ?
 今や俺は『私は私である』と主張する事が出来なくなってしまったんだ。
 数百年望んでいた、俺自身の体を手に入れた筈なのにな・・・」
シティ「ダンク・・・」
ダンク「だが今はそんな事どうでも良い。
 ユーが、皆が危険な状態なんだ。
 早く、早く船へ向かわないと!」
シティ「ダンク・・・ねぇ、ダンク。
 こっち見て」

ダンクはシティの顔を見る。
 シティは一瞬悲しそうな顔をして、笑みを浮かべながら右腕を上に上げる。
 その瞬間、ダンクの頭上にタライが現れた。

ダンク「え」
シティ「隙有り」

シティは右腕を降り下ろし、タライはダンクの頭に落下する。
 グワァァン、と良い音が海に響き、ダンクは両手で頭を押さえた。

シティ「アハハハハ!引っ掛かった引っ掛かったー!」
ダンク「う、うおぉ・・・あ、あれ?タライってぶつかってもあんまり痛くないんだな・・・シティ、一体何を」

する、という言葉は無理矢理引っ込まされた。シティの唇がダンクの唇を塞いだからだ。ダンクの瞼が大きく見開く。

ダンク「!?!?!?」
シティ「・・・ん・・・!・・・ちゅ・・・むぅ・・・!・・・んむ!」

シティはダンクの顔を両手で押さえて逃げられないようにし、ダンクはシティを離そうと両手で肩を掴む。
 互いに顔を真っ赤にしながら少しの間、二人にとっては長い時間のキスをした。
 やがて、互いの口は離れ、唾液の橋が作られ・・・消えていった。
 ダンクは自身の心臓が物凄い速度で鼓動するのを感じ、シティはえへへと可愛く笑みを浮かべた。

シティ「どう?凄かったでしょ、私のファーストキス。
 ね、ね、どんな味がした?」
ダンク「な!?な!?な、ななななにをしてるんだシティ!?
 い、いい今はき、キキキキスをしている場合じゃないだろ!?」

両者は顔を真っ赤にしながら、片方は柔和な笑みを浮かべ、片方は感情を露にして両手をじたばたと動かす。

シティ「そうね、貴方のいう通り今はそれどころじゃないわね」
ダンク「だ、だったら早く船へ・・・」
シティ「それでもね、ダンク。
 貴方が貴方を馬鹿にするのを私は許さないわ」
ダンク「え・・・?」

シティは船を一瞬見た後、ダンクの顔を見る。ダンクは両手をじたばたと動かすのを止め、シティを見つめる。

シティ「貴方は数百年待ち望んでいた体にようやくたどり着いたのよ?
 なのにそんな難しい顔をして、悲観してどうすんのよ。それじゃ今までの自分に笑われるわ」
ダンク「シティ・・・」
シティ「せっかく一時的でも元に戻れたんだからさ、どんな時でももっと楽しく笑いなよ。
 今、貴方の側には世界一良い女がいるんだからさ」

シティの笑み、普段のダンクの視界にはただ楽しそうに笑っているその笑みが、
 あまりにも優しそうで嬉しそうで、ダンクの心臓が更に速くなっていく。
 だがダンクはそれを気取られないよう、いつものように僅かに口元を上げてダンクは笑みを浮かべた。

ダンク「・・・そうだな、ありがとうシティ。
 おかげで元気が出たよ」
シティ「良し!じゃあ先ずはダンクの偽者倒しにいくわよ!
 私と貴方がいればどんな敵もちゃっちゃと倒せるんだから!」

シティとダンクを乗せた鉄板は真っ直ぐ船へ向かっていく。
 その映像を見ながら、果心は一人呟いた。

果心「シティ・・・あの子、やっぱり面白い子ね。ダンクが羨ましいわ」

そして、果心の他にもう一人、その様子を見ていた人物がいた。
 シティの父親、ジャン・グールである。

ジャン「あああ・・・・・・!」
執事「以上です、全て伝えました」
ジャン「キキキキキキスしおったぞ、あのアホ!あのパツキン男子にき、キキキキキキキキキキキキスしおった!!
 おのれ、おのれパツキンめえええ!
 きっとあっちこっちフラフラしてるだけのゲス野郎で中身が無い頭空っぽめ!
 儂の娘にキスをするとは、チンパンジーにも劣る低脳だなぁ!
 ウキィィィイイイイイイイイ!!」
執事「そうですね、あの様子ではきっと舌も」ジャン「やかましい!執事!
 あのパツキン潰してくるから空飛ぶ道具持ってこい!」
執事「既に後ろに有ります」

ジャンが振り返ると、そこには真っ赤なアーマーが用意されていた。
 ジャンはアーマーを早速装着し、執事は淡々とアーマーの説明に入る。

執事「その昔、『ポイズンヒーロー』という白兵戦用の武器をこちらで改造した物です。名前は『モンキーヒーロー』とか・・・」
ジャン「ウキィィィイイイ(なんでもいい)!!
 ウキィィィイイイイイイイ(あの野郎をぶっ潰してやる!)
 ウホオオオオオオオオオオ(まってろパツキン野郎!キングコングがお前を踏み潰しにいってやらああああ!!!)」

ジャンはアーマーを完全装着し、ゴリラのような奇声を発すると、アーマーの背後に装着された飛行ユニット(KINNTOUNN)が作動、白煙を上げて空中へ飛んでいった。

ジャン「ア〜アア〜〜アアア〜〜〜(ぶっ潰す)!!」
執事「やれやれ・・・おや?」

ターザンのような奇声を発しながらシティの方へ向かうジャンを見届けていた執事だが、不意に船が震えるのを感じた。
 そしてその直後、四階デッキが破壊され大量の怪物が噴出されてくる。
 それを見た執事は眉をひそめた。

執事「ほう、こちらでも、何か起きている様子ですね。先程向かわせた青年が少し心配になってきました。
 主人も彼の事は気にかけていたようですし・・・ジャン様、執事コキョウ・イナカは少しこの場を離れさせて頂きます」

その言葉を残し、一瞬で執事の姿は消えた。そしてその直後、四階デッキの残骸達が先程まで執事が立っていた所に降り注いでいく。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


WGP号〜ダンス・ホールに繋がる廊下〜

アイ「い、今の揺れはなんだ!?
 くそ、早くユー達に合流しないと」
「そうはいかせないよ」

不意に聞きなれた声が聞こえて、アイは立ち止ま・・・りそうになるのを無理矢理足に力を込めて跳躍する。
 その直後、アイの立っていた所に巨大な鋏が降り下ろされた。

「ちぃっ!やっぱり簡単には殺せないか!・・・止めて!お願いだから!」
アイ「・・・」

アイは鋏を持っていた人物の姿を見て、眉をひそめた。
 そして呆れた声で訊ねる。

アイ「・・・メル。お前何をしてるんだ?」
メル「違う、違うんだアイさん!僕は今、カスキュアに操られていて・・・。
 『ハーイ、貴方がアイよね?はじめましてー!魔法美少女カスキュアでーす』!」

アイの前に立ちはだかっていたのはメルだった。その表情はとても奇妙で、半分泣きながら半分歓喜の笑みを浮かべている。

アイ「魔法美少女、カスキュア?」
メル「『そう、アタシは魔法美少女カスキュア!学校では校長に変装してあんたの腹に弾丸ぶちこんだ張本人でーっす!!
 今、君の仲間のメル君を操って君をバラバラにしようと考えてまーす!』
 止めろ、止めるんだカスキュア!」
アイ「この忙しい時にややこしい奴が・・・悪いが先に行かせて」

アイはメルを素通りして走り抜けようとする。その瞬間メルは自分の左手に向けて鋏を降り下ろした。
ズブシュッと嫌な音が廊下に響き、アイは足を止める。

アイ「!?」
メル「うわああああああ!!ぼ、僕の腕に鋏がああああ!!
 『あー、メルの悲鳴さいっこうに興奮する・・・もっと聞きたいなあ、わざわざ意識を奪わないでおいた甲斐があったもんだわ。
 アハハハハ!』」
アイ「てめぇ、メルを人質にする気か!?」
メル「『当たり前じゃん。今アイツがさいっこうの絶望作ってんのにあんたが来たら全部おじゃんになっちゃうんだもん。
 多少傷を負っても止めないといけないわ。
 あ、傷つくのアタシじゃなくてあんたの仲間だけど。
 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!』
 痛い・・・痛い・・・リーダー・・・ごめん・・・!」
アイ「く・・・カスキュア・・・!」

アイはメルを、メルの奥に潜む見えない敵を睨み付けた。
 カスキュアはそのアイを見て、柔かな笑みを浮かべる。

カスキュア「アーイー?簡単な事だよ?
 ユーを助けに行けばメルを殺す。
 メルを助けに行けばユーは恐ろしい絶望に直面する。
 仲間か娘を選ぶか、それともどっちも助けるとかほざいてあんただけの垂れ死ぬか、好きなの選びなよ。
 イーッヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」


続く!!

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