角が有る者達 第25+75+5=105話
『マンボウ合唱団とシャボン玉』
マンボウ合唱団の唄が聞こえ始める、少し前。
一階のテラスに、一人の怪人のような者が海中から這い出てきた。
銀色のアーマーを着け、背中に巨大なバズーカを背負った男性・・・ライだ。
彼の事を忘れてる80パーセントの読者の為に解説すると、ライは『ネオゴブリンズ』を名乗る傭兵で、『雷を操る能力』を使い巨大なバズーカを武器に戦っている・・・筈の男だ。
ライ「げほげほ!死ぬかと思った!
なんでいきなり電柱が現れたんだ?一体何が・・・おい、誰か連絡しろ!」
ライは必死に連絡マイクに向かって叫ぶが、全く音が聞こえない。
イライラしたライはヘルメットを脱ぎ捨て、金髪の整った顔を見せる。しかし頬には縦に裂けた古い切り傷の方が目に付くだろう。
ライ「ああくそ、まさかこいつら海中に落ちたから壊れたんじゃないよな!?
冗談じゃねーぞ、ったく・・・ん?
なんだあれは?」
ライがふと気になって海の方を見ると、
化物軍団が無数の船によって蹂躙されている姿が見えた。ライは激しく動揺し、驚きのあまり腰を抜かしてしまう。
ライ「な、なんじゃありゃあ!?
あれ?仲間も敵もいない?皆どこいったんだ?
なんだ?この船の外で何が起きている?」
ライは辺りを見渡してはいるが、周囲に人の気配をまるで感じない。始めこそ雰囲気に呑まれ震えていたが、やがて笑みが零れる。
ライ「へ、へへ・・・誰もいないなら、好都合だ。早くユーってガキをさらって依頼主の所へ届けないと。
報酬は俺のもんだ!」
今、船内に一人の鬼が舞い降りた。
彼がこれからどんな活躍をするのか、それは誰も知らない。
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WGP号ダンス・ホールではスス一人、必死に叫んでいた。
スス「お願い!誰か、誰か船を動かせる能力者はいませんか!?
このままでは皆大変な目にあってしまうんです!」
観客「そうは言っても、このデカイ船を動かせる能力者なんて、そうそういないよな・・・」
観客「スタッフが船の管理してるし、そこはスタッフに聞くのが一番なんじゃないの?」
スス「そんな悠長な事言ってられないのよ!
シティが本気出したら、本当に酷い事になるんだから!それにスタッフも監視員カメラを通して見てるわ!
お願い、自分でも無茶な事言ってるのは分かる!だけどそうでもしないと、さっきの暴動より酷い事になるわ!」
そして監視カメラの向こう側ではイシキが顎に手を当てながら難しい顔をしていた。
イシキ「そうしたいが・・・まだ何処に敵が潜んでるか分からない以上下手に動けないしなぁ・・・さて、どうしたものかの」
イシキの呟きはススには聞こえない。
だが本能が感じ取っていた。このままでは危ないと。ススは頭を下げて懇願する。
スス「お願い!仲間に殺されるなんて、私、嫌よ・・・!」
「ススちゃん!」
不意に、若い声が聞こえてくる。
そこにはユーが立っていた。彼女もまた必死に声を振り絞り、ダンスホール中に声を響かせる。
ユー「いたよ!船を動かせる人!」
スス「本当!一体誰が・・・!」
そしてユーの後ろから、フードを被った人物が現れる。紫のフードを被った人物は人混みの中を歩き、ススの前に立つ。
スス「・・・貴方が、船を動かせる人なのね?どうやって、船を動かすの?」
「・・・その前に、見せなければいけないものがある」
スス「え?」
「俺の、素顔だ」
ススは首をかしげ、男はフードを両手で取る。その顔は、包帯で覆われていた。
フードを取った両手も、包帯でぐるぐるに巻かれ皮膚が見えない。
観客の一人が叫ぶ。
観客「なんだその包帯は!?
早く素顔を見せろよ!」
スス「・・・違う」
ススはそれを否定する。彼女は知っていた。
この包帯まみれの姿こそ、彼の素顔だと。
スス「・・・なんで、貴方がここにいるの?ダンク。貴方、乗船の時何処にもいなかったじゃない・・・!」
ダンク「・・・今は船を動かす事が先だ。
準備は良いか、マンボウ合唱団」
ダンクは天井に向かって訊ねる。
すると、天井から映像が映し出され筋骨粒々の太陽が描かれたウェットスーツを着た男が現れる。
だがその顔は、マンボウだった。
全員「え。」
マンボウ男「大将!俺達の準備は完璧だ!何時でも出来るぜ!」
ダンク「良いぞ、進路は3時の方向だ!全速前進!」
マンボウ男「聞いたかお前等!3時に向かって全速前進!
行くぞぉぉぉ!!我等マンボウ合唱団の底力を見せる時!!」
「「「魚(ウオ)オオオオオオぉぉぉ!!!」」」
映像が変わり、船底が映し出される。
そこには太陽が描かれたウェットスーツを着た顔だけマンボウ集団がびっしり張り付いていた。
それを見たユーは楽しそうに微笑む。
ユー「す、凄い!私、マンボウ始めてみたわ!
ススちゃん!マンボウって凄いね!」
スス「・・・ユーちゃん、あれはマンボウじゃないわ。マンボウの皮をかぶったケダモノよ・・・」
ユー「ケダモノってなーに?」
スス「怖いお化けの1つだと思えばいいわ・・・。
この非常に何かを間違えたファンタジーを作れるなんて、世界ひろしといえどダンク以外いるわけない・・・」
ダンク「進め!マンボウ合唱団!」
マンボウ達「「「魚(ウオ)オオオオオオオオオオオオ!!!」」」
マンボウ達は船底を掴み、足をじたばたさせる。それに合わせるかのように船が動き始め、ダンスホールが揺れ始める。
ユー「う、わ、わ、わ」
スス「ユーちゃん、何かに捕まって!
人力で船動かすとか、何時の時代の考えよ全く・・・」
映像の中では無数のマンボウ達が必死に船を押している。
スス「うわぁ(ドン引き)」
ダンク「ふっ・・・、歌えぃ!
マンボウ合唱団!!」
▲突然だけど始まるよ!マンボウ合唱団▽
ダンク「さあ、皆も歌にあわせてマンボウ風に唄おう!」
ユー「おー!」
スス「えぇー・・・」
ダンク「メロディ振り付けノリリズム全て適当!!
皆思い思いに歌っちゃいなYO!!」
♪マンボウの歌〜太陽とカモメとビニール袋♪
♪マーンーボーウ!マーンーボーウ!
たーいよーうのさーかーなーー!
♪たーいよーうがみーまもーるうーなばーらでー♪
♪たーいよーうとカーモメーがうーたってるー♪
♪カーモメーよとーんでとんでつーかれーたかー?♪
♪そーれなーらわーたしーのかーらだーにとーまりーなさーい♪
♪わーたしーのかーらだーでやーすみーなさーい♪
♪そーらーがこーんなーにきーれーいだーかーらー♪
♪いーっしょにうーたでーもうーたいーましょー♪
♪マーンボーウ♪マーンボーウ♪
♪たーいよーうのさーかーな♪
ダンク「良し、リピートアフタミー!!
もう一度歌うぜ!!」
観客達「お、おー!!」
歌を歌いながら筋肉モリモリの大群が船を動かし、シティ達から離れていく。
最初はドン引きしていた客達も、歌に合わせて歌い始めていく。
不安も恐怖もへんてこな歌に消えて、やがて彼等はマンボウと共に合唱を奏でていく。
その景色にススは少しずつ目を丸くしていく。
スス「凄い・・・皆から恐怖や不安が消えていく・・・」
ダンク「歌の力は祈りの力。
皆の思いが重なる時、どんな困難も越えられるのさ」
スス「・・・そんな、ちょっとこっぱずかしいセリフが吐けるって事は、本当に貴方、ダンクなのね?」
ダンク「そうだ」
スス「・・・今まで、何をしていたのよ。皆心配していたわ」
ススはあくまで観客達の方を見ながら訊ねる。
ダンクもまた、観客の方を見ながら答える。
ダンク「・・・すまない、今までどうしても顔を見せる事が出来なかった」
スス「謝るならまずシティからにした方がいいわよ」
ダンク「え、なんで?」
ダンクは首を僅かにススに向け、ススは僅かに含ませた言葉で答える。
スス「・・・・・・多分、シティが一番ダンクの事怒ってるわ。
だから早く謝らないとビルが百個落ちてくるわよ」
ダンク「う・・・確かに、急いで謝らないとな。あの連続攻撃は受けたくない」
スス「やれやれ・・・ちゃんというんだよー」
ススは僅かに肩をすかしながら、観客達を眺める。彼等はとても楽しそうに歌を唄っていた。
だが、憤怒の炎は全く鎮火していない、
全員がその事に気付くには、あまりに遅すぎた。
ドックン!
ダンク「ぐっ!?」
スス「ダンク!?」
ダンクが突然、苦しみ始めたのだ。
頭を抱え、床に蹲ってしまう。
ススが思わず手を伸ばそうとしたが、ダンクは無理矢理突き放した。
スス「きゃっ!ダンク、何する」ダンク「痛い!痛い!ぐぅぅ!」
スス「え・・・?」
ダンクの言葉に、ススは眉をひそめる。
ダンクは包帯が姿を為した存在であり、味覚痛覚は彼の体には無い。
それなのに、今彼ははっきりと『痛い』と宣言したのだ。
混乱するススを横目に、ダンクの主張は強くなっていく。
ダンク「痛い、痛い、痛い!
ちく・・・しょう、痛みが我慢できない!
やめろ、まだ俺は『シロウサギ』としての役目を・・・ぐあああああ!!」
スス「ダンク!し、しっかりして!呼吸を整えるのよ?」
ダンク「ばか・・・それは人間のリラックス法だ・・・俺にそんなの・・・ぐうううう!!」
スス「ダンク!どうしたのよ一体!?」
ユー「ススちゃん・・・?」
ダンクの声が聞こえたからか、ススの言葉が届いたのか、とかくユーがススの近くに近付く。それを見たダンクは叫んだ。
ダンク「ユー!!」
ユー「は、はい!?」
ダンク「ぐうううう!は、早く俺から逃げろ!早くしないとお前、アタゴリアンに・・・ぐああああああああああ!」
スス「落ち着いてダンク!
気をしっかり持つのよ!」
ユー「・・・・・・」
スス「ユー、少し離れていて!今のダンクはなにかおかしいわ!」
ユー「・・・アタゴ・・・リアン・・・?
あ
れ・・・?なに、何か、
わた、し・・・覚え、
て・・・思い、出して・・・・・・な、に・・・?」
スス「ユー!!」
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
WGP号〜海上〜
怪物達が逃げ惑う戦場と化した海上で、シティとダンスは対峙していた・・・筈だった。
だが、突然ダンスが苦しみ始めたのだ。
ダンス「ぐうううう!き、貴様ァ・・・!」
シティ「え、なに?どうしたの?
え、えい」
シティはダンスの足元に鉄板を出現させる。そこに倒れるようにダンスは着地した。顔は青ざめており、今にも気を失いそうだ。
シティ「だ、ダンク、どうしたのよ?
病気なんてあんたバカだからかかった事無いじゃない・・・」
ダンス「バカはお前だ!俺をダンクと呼ぶなと何度も言っただろうが!」
シティ「とりあえず体さすらないと・・・あ、今そっち行くけど妖精邪魔しないでね」
シティは上空で飛び回る妖精に睨み付ける。だが妖精達も心配しているのか、シティに構う気配が全くない。
ダンスもまた、妖精に構っていられないのか悶絶している。
ダンス「ぐうううう!うう!うああああ!!」
シティ「ちょ、ちょっと何なのよこれ・・」
ダンス「うわあああああああああああああああ!!!」
〜WGP号 三階デッキ〜
アイ「ん?なんだ?動きが止まったぞ?」
ジャン「ウキ?なんじゃと?執事、双眼鏡持ってこい!」
執事「どうぞ」
執事が取り出した双眼鏡をジャンが持ち、アイがそれを奪おうと手を伸ばし、に、三度頭突きしあった後片方ずつ見る事になった。
執事もまた自分の双眼鏡を使い様子を伺う。
ユーキ『それを彼等に渡せば良かったんじゃないかなぁ・・・?』
ユーキの呟きは、風に流され消えていった。
〜WGP号・ダンスホール〜
ダンスホールはもはやダンクの叫びによって全てが台無しになっていた。
誰もがダンスの様子を伺い、動く事が出来なかった。
だが、そこに運悪くメルが到着する。
メル「ススさん、聞いてください!
今この船に大変な事・・・が・・・?」
カスキュア『あれあれあれ?
なんか大変な事が起きているみたいね』
メル「この叫び声・・・ダンクさんの声!?
い、急いで行かないと・・・!」
メルは人混みの中を走り抜けていく。
そのメルの心の中で、カスキュアが悪魔のような笑みを浮かべる。
カスキュア(フフフ・・・。
始まった。遂に始まったんだ、大罪『憤怒』の叫びが、遂にこの世に響き始めた。
もうこの叫びは止まらない。声を聞いた者全てに伝染し、洗脳される!
アハァ!楽しい楽しい絶望の時間がやって来たァ!!
ヒヒヒヒヒ!ヒーィッヒヒヒヒヒ!!)
カスキュアの笑い声は誰にも聞こえない。
代わって響くのは、ダンクの叫び声。
ダンク「ぐううううわあああああ!!」
ダンス「きいいいやあああああああ!」
ダンク&ダンス「「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ヤメロ!!ヤメテクレ!!
モウ、オレヲウバウノヲヤメテクレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」」
スス「『俺を』・・・?」
シティ「『奪う』・・・?」
ダンク、ダンスの叫びはしばらく続いた。
艦内に、地平線の果てに、空の果てに、海の底にまで届きそうな叫び声が、しばらく続いた。
だがそれは突然、まるで風が吹くかのように止まってしまう。
騒音の後の静寂は、安心感より恐怖を心に浸透させていく。
やがて、ダンスホールでダンクは立ち上がる。
だがそこに、先程までの優しさは何処にも無かった。
〜続く〜
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