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2015年05月05日12:03

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角が有る者達 第96話

第96話 豪華客船WGP号史上最も激しき憎愛のワルツ。


〜WGP号・一階ダンスホール〜


ユーは鎌を手に駆け出した。
狙いはアイの首一つ。

ユー(アイツの首を切り落とせば、私の苦しみも私の怒りも全て終わる!!)
アイ「ユー?
何だその鎌?そんなに俺のオカマ姿が嫌なのか?」

アイはユーが殺意を持って走っている事に気付いてないのか、驚くそぶりを全く見せていない。
好機と見たユーは一気に鎌を振り上げた。

「リーダー、危ない!」

誰かが叫んだのがユーの耳に入る。
だが今からではもう遅い。
思い切り降り下ろせばそれで、終わりだ。

ユーは鎌をアイの首目掛けて降り下ろそうとし…鎌が降り下ろせない事に気付く。
ユーが見上げると、自分より少し背の高い少年が鎌の柄を握りしめていた。

メル「ま、間に合った…ユー!
止めるんだ!
あれは君のお父さんなんだよ!?」
ユー「メル…?何で…あれ?
貴方は誰?」

ユーはメルの目を見る。
その内側に、メル以外の誰かが居る事に気付いた。

カスキュア『ぅあっ!?
アイツ、私の存在に気づいた!?
ヤバい!!』
ユー「貴方が私の邪魔をしないで」

ユーがぼそっと呟くと、メルの背後に怪物が現れる。
そしてそれに気付けたのはカスキュアだけだ。

カスキュア『なにこの怪物!?
あの子の僕(しもべ)!?
メル、後ろに敵がいるよ!』
メル「後ろ?後ろに誰も居ないよ?」
カスキュア『アハハハ!
あたしの僕(しもべ)は役立たず!』
メル「いつから僕になった、の!?」

メルとカスキュアがコントをしている最中に、怪物はメルを爪で切り裂く。
しかしメルには外傷は見当たらない。

メル「ん?今何か来たような…」
カスキュア『アハハハ!
メルのバカ。
もうアタシ等やられたよ』
メル「カスキュア、何を◇◆◇、◇◆、◇◆◇◆!?」

メルの言葉が全て◇◆に変わる驚愕に対し反応を見せる事もなく、アイに振り返る。
もうアイはユーに対して警戒心を見せていた。

アイ「ユー、今メルに何をしたんだ?」
ユー「……黙れ、そして死ね」
アイ「ユー!?」

ユーに近付こうとするアイの目前に、鋭い刃の付いた鎌が向けられる。

アイ「……」
ユー「この日が来るのをずっと待っていた。
殺してやるよ、ぱぱ」
アイ「ユー……うわっ!?」

アイの首目掛けてユーは鎌を振下ろす。アイはギリギリでそれをかわし、数歩離れるがユーは一気に近付き、緑色の柄をアイの腹部に突き刺す。
アイの体内からミリッという音が響いた。

アイ「ぐっ!?」
ユー「その首貰い受ける!」

ユーは再度鎌を振り上げ、呻くアイ目掛けて降り下ろす。
アイは銀色の掌を鎌に向け、掌の射出口から銀色の球体、アイスボムを射出する。
降り下ろされる鎌にぶつかり、小さい爆発を起こす。
驚いたユーが数歩離れて鎌を見ると、鎌の先端が凍り付いていた。

ユー「……凍っちゃった」
アイ「ユー、これは一体なんの真似……」
《もしもし、もしもーし、アイ、聞こえてる?》

突如、アイのポケットに隠していた血染め桜の枝から声が聞こえる。
アイはユーから目線をはずさないまま、一歩後ずさる。

アイ「ユウキ?」
ユウキ《そう、君が愛した愛したユウキさんなのじゃー……ああごめん謝るから木の枝折ろうとしないで》
アイ「で?
一体どうしたんだ?今俺は愛しき娘に首刈られそうで危ないんだが」

目の前のユーは鎌から氷を剥がそうとするが、氷は取れない。
諦めたのかユーはそのままアイを殴りつけようと襲いかかる。

ユウキ《そっか、それは良かった》
アイ「良かった?」

アイはバック転しながらその攻撃をかわす。

ユウキ《いやいや、こっちの話だよさて、それより君に一つ、手助けしてあげる》
アイ「手助けだぁ?」

に、3回バック転をした所でアイは思い切り足を伸ばし、近付くユーの足を軽く蹴飛ばし、ユーを転ばせる。
立ち上がりながらアイはユウキに話す。

アイ「お前の手助けなんか無くても、これくらい簡単に捌けるぜ」
ユウキ《うーん、確かに百戦錬磨のアイならこれくらいの戦いは楽なのかもしれないけど、
今回はそれじゃダメなんだよ?》
アイ「ダメ?
何ださっきからダメダメって、何かして欲しい事でもあるのか?」
ユウキ《いやんして欲しいなんて自分は何時でもウェルカ……ごめんマジごめん謝るから木の枝踏み潰そうとしないで!》
アイ「そ・れ・で?」

アイはユウキをぶん殴りたい衝動を抑え、話を急かさせる。
ユウキは静かに答えた。

ユウキ《君に一つだけ手助け。
自分の愛しい愛しいアイに、更に愛しいユーの世界を少しだけ見せてあげる》
アイ「あ?」

不意に、後ろから気配を感じる。
振り返ると3メートルはある茶色い毛むくじゃらの怪物が、太い腕をアイめがけて降り下ろしてきた。

アイ「!」

アイはさっとしゃがみ、その直ぐ上を太い腕が通りすぎていく。
そのタイミングを見計らい、アイは勢いよく跳躍し巨大な怪物の肩に乗った。
そしてこちらに振り向く怪物の顔面にアイスボムを叩き込ませ、顔を凍りつかせたのを確認してから飛び降り、怪物から距離を取る。

アイ「な、なんだこの怪物は!?」
ユウキ《流石アイだね、しっかり安全を確保した後にリアクションしてくれたよ》
アイ「ユウキ、何か知ってるんだな?」
ユウキ《あれはユーが作り出した怪物さ。名前を付けるなら『クリティカルビースト』(侵襲する獣)と言った所かな》
アイ「そんな大層な名前付けなくても怪物でいいだろ、怪物っぽいんだから。
この怪物を見せるのが手助けか?」
ユウキ《そうだよ、彼等はユーが作り出した、ユーに殺される為だけに作られた怪物。
だから本来、ユーにしか見えないんだ》

顔に付いた氷を剥がそうともがき苦しむ怪物を見つめながらアイは呟く。

アイ「なんにせよ、この程度の強さじゃ俺は絶対に倒せねぇぞ、ユー。
くく、ふふふ、フハハハハハハ!!」

悪役の三段笑いで高笑いしながらのけ反るアイ。それを見て、ユーは小さく舌打ちした。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


〜WGP号・コントロール室〜


ルトー「血染め桜の秘密?」
イシキ「ああ、血染め桜には秘密があってな。
あの枝を折ってなにかを願いながら投げると願いが叶うんじゃ」
ルトー「枝を投げると願いが叶うってそんな眉唾な話が」
イシキ「お主の願いは『強くなりたい』じゃろ?」

ルトーの嘲笑をイシキは遮り、初対面の男に願いを当てられたルトーは目を丸くする。

ルトー「!?」
イシキ「そう願ったからこそ、こいつは現れた。
血染め桜に支えし侍がな」
アーサー王「俺はお前達が望んだ強さの形に近い偉人の記憶・能力を完全にコピーできる。
お前が望んだのはアーサー王のような高潔な強さだった訳だ」
イシキ「儂は昔兵法の強さを望んだ。
そしたら、『宮本武蔵』が現れた訳だ。
こやつの兵法は昔のゴブリンズの戦いに非常に貢献したんじゃぞ?
いわば、ゴブリンズの教官じゃ。
しっかりこやつの話を聞いて強くなるんじゃぞ?」
白山羊「この鎧が昔のゴブリンズを鍛え上げた……」

白山羊はまじまじとアーサー王の鎧を見つめる。
すると、乗組員から連絡が入ってきた。

乗組員A「船長!
ユーを一階ダンスホールで発見しました!」
イシキ「何!?」
乗組員A「現在アイという名の男と交戦中です!」
イシキ「映像回せ!」

イシキが命令するのと同時に映像が写し出される。
そこには緑色の鎌を持って戦うユーとオカマ姿のアイが高笑いしている映像が映し出されていた。

ルトー「アイイイイイ!?
あんのバカリイダアアアア!!」
白山羊「何て破廉恥な姿をしているのです!?
あんな姿したらそらユーも鎌持って殺しにかかるに決まってますわ!
ああ主(メル)が感化されないか心配だわ!」
イシキ「いやまあ、あれでもアイはアイなりにユーを思ってやってんじゃよ、多分」

ユーが見つかった事よりアイのバカな服装に激昂する二人。
一応映像を通して一部始終を見ていたイシキは冷や汗を流しながらアイの弁解をする。

イシキ「そうじゃ、良い事を思い付いた。
この映像を船内中に流そう!
ユーの姿を見れば皆安心し、暴動も収まる筈じゃ!
おい、映像を船内中に回せ!」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

〜安全フィルター〜

一般客「おい早くここから出せ!」
一般客「早くしろ!
あのユーってガキを捕まえるんだ!」
乗組員F「皆さんどうか落ち着いて!」

安全フィルターの入口付近では相変わらず一般客が騒いでいたが、不意に壁に設置されたテレビが輝き始め映像を映し出し始めた。

一般客「ん?何だ、急に映像が……」
一般客「おいあれを見ろ!
ユーが映ってるぞ!」
一般客「本当だ!ユーだ、ユーがあそこにいる!」

一般客は入口から壁に設置されたテレビに集まる。
そこには鎌を持って殺しにかかるユーの映像が映し出されていた。

一般客「なんだあれは……」
一般客「あいつ、遂に虐殺を始めたのか!?
なんで俺達を殺そうとするんだ!」
一般客「危険な奴はどこまでも危険って事か!?
ユーめ、ここに来い!逆に俺が殺してやる!」
一般客「ユーめ、死ね!死ね死ね死にやがれ!お前達のせいで皆ひどい目に会ったんだ!」

悪口を叫びながらテレビを見つめる一般客。
その後ろで傷だらけの男が倒れていたが、ふらふらとテレビに目を向ける。
そこには、画面の端で無傷で立っているクイラの姿も映し出されていた。

お父さん「クイラ……クイラ……無事だったんだな…。
お前が無事で、父さんは、嬉……し、い……」

血まみれの顔から涙が溢れ、歯が二三本抜けた口で、父は痛みも忘れ笑みを浮かべた。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

WGP号内・廊下

テロリスト「おい今の映像見たか!?」
テロリスト「ああ、ユーはダンスホールにいる!」
テロリスト「行くぞ!」
政府機関「ダンスホールだ!
ダンスホールに奴等はいる!」
政府機関「急げ、なんかオカマが戦っている!
奴等に捕まる前に俺達が捕まえるんだ!」

テロリストと政府機関の連中は同時にダンスホールに集まる。
だが、二階三階と吹き抜けになっているこのダンスホールには既に何十人もの行列で一階部分が見えなくなっていた。

テロリスト「な、なんだこれは……!?」
政府機関「こんなに沢山、ユーを求め歩き回っていたのか?」
いや違います「そ、そんなのもう関係ない!」
彼等の名前は「そうだ、今は」
野次馬ズ「「ユーを殺すよう応援しないと行けないんだ!」」
野次馬ズ「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」


アイ「何だ?
いきなり沢山人が集まってきたぞ?」
ユウキ《誰かがユーがここにいるって伝えたんだ!
この状況でこれはまずい!》
アイ「え?」


ユーはキョロキョロと辺りを見渡していた。
何時の間にダンスホールには沢山の人達が集まり、全員がユーを憎しみを込めた目で見下ろしている。

ユー「……っ!!」

いつか、クイラという少女が叫んだ言葉が頭の中に響き渡る。

クイラ『 あんたが、あんたみたいな嫌われ者がこの世に居なければいいんだよ!』
クイラ『 あんたみたいなグズ、消えちまえ!
あんたみたいな奴、死んでしまえばいいんだ!
お前のせいだ!
全部お前のせいなんだよ!地獄の底に落ちて、落ちて堕ちて!!
阿鼻地獄中に響く程大きな声で私と、私のお父さんに謝り続けろ!!』

ドクン…。

ユー(皆……皆、私がここにいてはいけないって、思っているのかな?
皆、私が騒いでも意味が無いって考えているのかな?
目の前に立っているこの男も、そう思っているのかな……)

ドクン、ドクン。

気付くと、ユーの視線は周りのギャラリーに目を向けるアイに向けられていた。

ドクン、ドクン、ドクンドクンドクン…。

ユー(思っているに違いない。
こいつは、そう考えているに違いないんだ。
だってこいつは私の敵だもの。私が殺さないといけない敵なんだもの。
決してこいつは、私の味方にはならないんだ……。
ああ、なんだか心がざわつく。
痒くて痒くて仕方がない)
「憎い…」

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!

ポツリ、とユーは呟く。
アイは視線をユーに戻した。
緑色の鎌からは無数の細い蔦が延び始め、ユーの体に絡み付いていく。
そしてユーは、感情の限り咆哮した。

ユー「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
アイ「ユー?」
ユー「痒いのよ!あなたが憎いと心が痒くて仕方ないの!
でも凍った鎌じゃ殺せない!だからもっと強くなる!」

気づけば、緑色の鎌は姿を消し蔦はユーの全身を包んでいた。蔦からは蕾が無数に現れ、白い花を咲かせていく。

ユー「うわあああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
アイ「何だ、ユーから花が無数に咲き始めたぞ!?」
ユウキ《あの花は……シロツメグサ!?
ああよりによってそいつが咲くのかよ!》

白い花が無数に咲き乱れ、ユーの体は見えなくなる。
そしてアイの目の前に立ちはだかるのは、全身にシロツメグサを咲かせた怪物だ。
怪物は飛びかかり、アイの腹を殴ろうとする。
アイはギリギリの所でかわし、ドスッという鈍い衝撃が走るのを聞いた。

アイ「っ!?」

気付けば、自分の脇腹に白い鎌の刃が刺さっている。
シロツメグサが鎌に変化し、アイの脇腹を刺したのだ。

アイ「ぐううう!!」

アイは反射的にユーを銀色の拳で殴り飛ばす。
吹き飛ばされたユーはくるりと回転し、綺麗に着地する。
だがよく見れば、その花一輪一輪が全て鎌に変化していた。

アイ「あの花全部……武器になるのかよ!」
ユー「憎い、痒い、殺す!
貴方が憎い!私を怪物に変えた貴方が憎い!殺す、殺してやる!
ああ心が痒い、痒くて痒くて仕方ない!
あああああああああああ!!!」


ユーは叫びながら、再度アイ達に襲いかかった。

シロツメグサはクローバーの花だ。
その花言葉は、「幸福」「約束」「私を思って」「私のものになって」。
そして、 『復讐心』だ。


つづく。



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