帰りの丸い月と偶然に目が合った。
仕事を終えて車に向かう駐車場の真ん中辺りだった。
踏み締めて歩く砂利の音が淡く消える間に
月がどう動いているか少し見詰めていたが、
首が痛くなったのでやめにした。
暖かい夜に今日が終わろうとしている。
十分くらい前の話だ。
残業中に同僚が給付金が40万入ったならそれで
株やFXをやれと勧めてくる。
数週間前までヤバいヤバいと嘆いていたが、
ここ数日で持ち直してきたらしく、
数十万は儲けているそうだ。
本人は経済学部卒で株は得意だとか、同窓生には
有名な証券会社に入った者や倒産した山一証券に居て
大変な目にあった者もいたなどと話して来る。
ちょうど今篠田節子の証券マンの或る男の人生を
書いた本を読んでいた。
作中では東栄証券と言う一流の会社に勤めていたが
倒産の憂き目に遭い人生に翻弄されていく。
偶然だったのでその友人は高澤と言う人ですか?
と訊ねようかと思ったがクライマックスが
薄くなりそうだったので喉仏辺りで止めておいた。
本の内容は涙が出て感動するでもなく、
重いテーマを投げ掛けて来るでも無くひたすら
或る男のありきたりな人生を男の視点で描いている。
作者は女性である。
女性軽視では無い。三人称形式だが正直、
作家は凄いなぁと思った作品だった。
同僚にはギャンブルはやらないと断った
偶然の夜の事。
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