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2017年06月05日22:13

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Retros on Weekends(20)

(19)Thierry Le Gleuher(diagrammes 102 07-09/1992, 1st Prize)
フォト
どちらの手番か?(7+6)
Monochrome Chess

 黒が最終手を指したとすれば、それはPxa1=Sか、Pg7xf6のいずれか。以下では、最終手がPb2xa1だったと仮定して考察し、背理法を用いて現在黒番であることを証明したいと思う。(Pg7xf6が最終手ではあり得ないことは、手順を追えば自然に納得できる)

 取られた駒を数える前に、まずは成駒について考えてみよう。2枚の白Rのうち1枚は明らかに成駒であり、一寸考えればそれは白Rg2であることが分かる。また、黒Sa1も殆ど自明成駒である(ルール上、初形で配置されたSは動けない)。よって、なくなった駒は白がQRBBSSPPPの9枚で、黒はQRRBBSSPPPの10枚ということになる。
 これらの取られた駒が、どの色の桝目の上にいたかが重要である。白の取られた9枚のうち、白桝にいたのはQBSPの4枚で、黒桝にいたのはRBSPPの5枚。黒は成Sを作るのに最低4枚黒桝で駒取りをしていて、更にf6でも1枚取っている。5枚だとちょうどぴったりのように見えるが、実はそうではない。白が取られた黒桝上の駒のうちSg1はf6へは行けないし、S成にも関与できないからだ。すると、このままでは計算が合わないのではないだろうか?
 しかし、ここで帳尻を合わせる旨い手段がある。そう、en passantだ!つまり、a1でSに成った黒Pはc筋で白桝Pを1枚取っているのだ。すると白の取られた駒のうち白桝にいた駒はあと3枚しかないので、黒はこれ以上成駒を作っていないことが判明した。

 同様に、白側の駒取りについても考えてみよう。白の成Rを作るのに4枚駒取りがあり、f3,g3でもそれぞれ1枚駒取りがあるので、ここまでで白は最低6枚駒取りしている。では、更にもう1枚成駒を作ることは可能だろうか?枚数だけならあと4枚駒取りを残しているのでできそうに見えるが、実はこれは不可能だ。何故なら、10枚全部白Pで取ることになるので、白Pf7xSg8=Rが必然。ところが、この成Rを外に出す為にはPg7xf6とする必要があり、更にその前には白Rf7を配置しなければならない。だがそうすると、黒Kがg8へ行くことが出来なくなってしまう(白Pf7の時点でチェックがかかるので、黒はキャスリングできない)。以上より、白はR以外の成駒を作っていないことが示された。

 上の手順より、Pf7xSg8=Rというのは不可能であることが分かったので、白PはSg8を取っていない。しかし、黒の取られた駒のうち白桝にいたのはRBSPPの5枚。f3での駒取りも考慮すると1枚足りないように思えるが、こういう状況が解決法は既に分かっている。白もまたen passant captureしているのだ。白Pは黒Pf7も取る必要があるので、この黒PはPf7xe6xd5と2枚駒取りをしてからd5で取られていることが分かる。白の取られた駒のうち白桝にいたのはQBSPの4枚で、このうちPは黒にen passantされるので、黒Pf7が取れるのはQBの2枚に確定する。また、黒側のen passant captureが起こったのはc3以外ない。従って、Rに成ったのはe筋の白Pだ。つまり、白の成Rは
(a-1)黒Pf7xQe6xBd5
(a-2)白Pe2-e4xPd5xc6(e.p.)xPb7xRa8(or xBc8)=R
という順で発生していることが分かった。

 一方、黒の成Sはa筋のPが成ったもので、
(b-1)白Pxc3xb4
(b-2)黒Pa7-a5xPb4xc3(e.p.)xPb2xRa1=S
の順で発生していることになる。黒の取られた駒のうち黒桝にいたのはQRBSPの5枚だが、このうち白Pd2が取れるのはQRBの3枚。しかし、黒Rh8がg3で取られることは不可能なので、黒Rはb4,c3のいずれかで取られていることになる。(そして、g3では黒Q/Bのどちらかが取られている訳だ)この事実から、更に深い分析が可能になる。

 さて、今度は目を右上に向けてみよう。一見すると、このような形を作るには
(1)黒Kをf7からg8へ
(2)白Rをf5からf7へ
(3)黒Pg7xf6
という順しかない様に見える。しかし、このように進めると、黒Rh8が外に出ることができなくなってしまう。正しくは、
(1)白Rをf5からf7へ
(2)黒Pg7xf6
(3)黒Bf8を外へ
(4)0-0!(Rf7はf8への利きを持たないので、これはillegalではない)
という順で進んだのだ。

 すると、新たな疑問が発生する。黒の0-0を可能にするためには、それより前に黒Sg8を取らなければならないが、この黒Sを取ったのはどの駒なのか?QやBで簡単に取れそうに思えるかもしれないが、これらはいずれも黒Pf7に取られているので、黒Pd5となった時点ではもう残っていない。かといって、黒Pe6の時点で取ろうとしても、どうしてもチェックが掛かってしまう(黒はcastlingしているので、Kはそれまで不動でなければならない)。
 だが、確かにこの取りを可能にする駒が1つだけある。それは成Rだ!このことから、白成Rの発生→黒Sg8を取る→黒の0-0→黒Sの発生というアウトラインが見えてきた。ここからは、これに沿って初形局面からの手順を考えてみよう。それは例えば、次のようなものであるに違いない。

(1)1.Pe4 Pa5から白QBをPf7に取らせる(黒はRを動かす)
(2)白Pe2-e4xPd5xc6(e.p.)xPb7xRa8=Rとして成Rを発生させる
(3)Pf2-f4としておいて、黒QにSg1を取らせ、白Rh1をf7へ
(4)Pd2xQc3としてから、白Bc1をf6で取らせる
(5)成RでSg8を取り、g4へ
と進み、以下のような局面を得る。

(図1)
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 さて、ここから黒はBf8を動かしてキャスリングする筈だが、このままではキャスリングした後、Rをb4へ運ぶことができない。この解決は簡単で、白Kが遠征してSb8を取ってしまえばよい。よって、図1以後の手順は

(6)白Kで黒Sb8を取る
(7)Bg7としてキャスリングし、黒Rをb4で取らせる
(8)Pa5xPb4とし、更にen passant captureする
(9)黒Bで白Sb1を取る
(10)黒Bをf3へ捨てる
(11)Rg4-g2-e2と移動する

(図2)
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と進み、この後黒Bg7をg3へ捨てるいう展開が予想されるが、実はこの手順中には1ヶ所不備がある。どこがオカシイのか分かりますか?

 この手順では、Pg2xBf3以降、白がRg4をe2へ動かす間の黒の手が存在しないのだ。具体的には、Pg2xBf3の後、Pc3xPb2 Rg4-g2 Pb2xa1=Sとするしかなく、これは仮定に反する。つまり、黒がBをf3に捨てた後の黒の手を作ってやる必要があるのだ。この時点で動ける駒と言えば他にはBg7しかないが、これはピンされている。でも、これをアンピンするMonochrome Chess特有の奇想天外な解決策がある。それは次のようなものだ。

(6)白Kで黒Sb8を取る
(7)Bg7としてキャスリングし、黒Rをb4で取らせる
(8)Pa5xPb4とし、更にen passant captureする
(9)黒Bで白Sb1を取る
(10)Ra1をg5へ運ぶ

(図3)
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「Rの利きをRで遮断する!」というのが、他のルールではまずお目にかかれない珍手筋。白Rg5(黒桝)はg8(白桝)への利きを持たないので、確かにこれは遮蔽駒として機能している。これでBf3を取られた直後の黒の手が生じたので、白Rg4をe2に持っていく余裕が生まれた。その後は、

(11)黒Bをf3へ捨てる
(12)Rg4-g2-e2と移動する
(13)Rg5をa1に戻す

 と進めれば、無事図2に到達することができる。

 出題図に至る手順構成が判明したので、最終的な矛盾を導くことはもう難しくない。即ち、出題図においてRetract:-1...Pb2xRa1??と戻すと、以下
-2.Kd2-e1
-2.Ph2xBg3
-2.Re2-g2 Pc3xPb2 -3.Ph2xBg3

のいずれの場合も、黒がretro-stalemateに陥り、合法的に図2に辿り着くことは不可能。(ちなみに、白からなら-1.Kd2-e1 Pb2xRa1 -2.Ph2xBg3 Bh4-g3 -3.Re2-g2+...という逆算が可能である)よって、出題図は白が最終手を指した局面であり、現在黒番であることが示された。Q.E.D.

 簡素な配置に埋め込まれた、かくも重厚な論理。Monochrome Chessの深遠な世界の一端を垣間見た気がする。
 
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(20)Leonid M. Borodatow(Europe Echecs 373 01/1990)
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#1(9+11)
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