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2017年02月16日22:46

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「カピタン」研究(80)

(4)構成派

 詰将棋の趣向詰が同一手順の繰り返しで面白さを表現するように、チェスプロブレムも同一の構想を反復表現することにより美しさを表現しようと云う傾向が前世紀の末頃から生まれた。この流派の主流は英国で、しかも2手詰に於いてその進歩が著しいのだが、3手詰でもエコー(こだま・反響)という手法で同一手順の反復が行われるようになった。エコーが構成派のすべてではないが、エコーの美しさは広く認められ、今日ではひとかどの作品はほとんどエコーや趣向など(洒落のつもり)テーマの反復を含んでいる。

(H)William A. Shinkman
Dubuque Chess Journal 1890
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#3(4+3)

1.Be2!(2.Qe6+ Kb7/Kc5 3.Qa6/Qd6#)
1...Kb6 2.Qa5+ Kxa5/Kc6/Kb7 3.Bc7(*)(a)/Bf3/Qa6(*)(b)#
1...Kb7 2.Qc8+ Kxc8/Kb6 3.Ba6(*)(a')/Qc7(*)(b')#

何れもmodelmateであり、aとa'、bとb'はエコーになっている。盤面を市松に塗り分け、違う色のマス目で詰み上るエコーはカメレオンエコーと呼ばれ、創作が難しい。本題はカメレオンエコーである。

 一寸一服。ShinkmanはLoydと同時代の大家で、Wurzburgの叔父でもある。一頃、アメリカ中の傑作はほとんどこの叔父甥で占められたこともある。彼は少ない駒数、特にPを使わずに好作を作るのに妙を得ており、或る人は、彼が全部駒の揃ったチェスのセットを持っていないのではないかと、一組のチェスの駒を贈った(ユーモア)と云う。3,500題の作品を遺している。

(I)Wolfgang Pauly
Deutsche Schachzeitung 1904
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#3(9+3)

1.Rc1!
1...Kd6 2.Bc3 Kxc5 3.Be5#(*)
1...Kd4 2.Sc3 Kxc5 3.S3b5#(*)

 このユーモアたっぷりの詰上り(!)(modelmate)。しかも、右と左にエコーで味わい深い表現を見せる。(初手に対し、1...Ke4は2.Sc3+(2...Kf4 3.Rf1#) Kd4 3.Se6#迄。又、1...Kf5は2.Re1 Kg5 3.Re5#迄)

 構成型作品なんてこんな程度のものかと早合点されては困る。これらは説明用作品だ。本格的構成作とはどんなものか、一題本物を御目にかけよう。

(J)Robin Charles Oliver Matthews
British Chess Magazine 1957
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#3(12+11)

1.Pb4 (2.Bxb1 --- 3.Ra3#)
1...Bb6 2.Rd5 Bxd5/Rxd4 3.Sb5/Se4#
1...Bc5 2.Rb7 Bxb7/Rxb7 3.Sb5/Se4#
1...Rbxb5 2.Qd5 Bxd5/Rxd4 3.Sb5/Se4#
1...Bb7 2.Rc5 Bxc5/Rxc5 3.Sb5/Bxd4#
1...Bd5 2.Rbb6 Bxb6/Rxb6 3.Sb5/Bxd4#
1...Rhxb5 2.Rb6 Bxb6/Rxb6 3.Sxb5/Bxd4#


 詰方の2手目の焦点捨駒はNowotny(作者の名前)の主題と呼ばれる。本題は、実に6回ものNowotnyをエコーで表現したものである。

 この構成派は、現代チェスプロブレム(3手詰)の本流と云える。構成型の作品は詰将棋の趣向詰に似て、作者の構想を反復により美しく表現するのであるが、詰将棋の様に長手数化で同一手順を繰り返すのではななく、変化で反復を行うのがチェスプロブレムの行き方である。詰将棋で趣向や構想のない長編がないように、今日コンクールなどで入賞する作品(modelmateを除く)で構想の反復や二つ以上の組み合わせなど構想を深める工夫をしていない作品はまずないと云ってよい。但し本稿では「構成」という言葉を使ったが、英語ではmodelmate以外はStrategic(戦術)problemと呼ばれる。
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