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2016年10月18日22:22

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前にみていた患者さんの話

遠い北の街に勤務していたころの話だ。
卵巣がんの患者さんで、手術したとき40代なかばくらいだった。
がんは腹膜まで広がっていたので、抗がん剤治療を追加した。
手術したあとしばらくは腫瘍マーカーも正常値だったが、
抗がん剤3クール終了して定期健診になって、
術後1年ちょっとたったころから、マーカーが上昇しはじめた。
抗がん剤を再開した。
マーカーは「ちょっと」下がった。
4週間に一度の抗がん剤を続けた。
マーカーは上昇を続け、抗がん剤で「ちょっと」下がったが
結果的には手術直後の数字からどんどん上昇して、手術前より上がってしまった。
わたくしはその患者さんにそういうことを全部話をして、
患者さんが「治らないのになんで治療するんですか?」に対して
「治療しているからこのくらいで済んでいるんだと思います」と答えた。
おそらく抗がん剤をやめるとマーカーは急上昇して、
あっという間に全身症状がでて入院継続になって…となるだろう、と
自分が予想できる話をした。
患者さんは「じゃあ仕方ないですね」と言ったが、ある日
「抗がん剤をしていると何もできないんです」と言った。
白血球が下がるから遠くにお出かけできないし、
温泉も感染の危険あって入れないし、何より具合悪くて動きたくない。
やっと少し元気になったかな、と思うころに次の治療の時期が来る、と。
わたくしは「治療継続するかどうかはご自分で選ぶことができますよ」と言った。
抗がん剤はあくまでも「延命」のためであり、「完治」はしない。
死ぬまでの時間を少しでも伸ばすもの。
だからただ延命してどこにも行けないことよりも、
抗がん剤をストップして、体調のいいときに好きなことするのもいいと思う。
このままだと治療を続けても病気の勢いが止められなくなる時期が来るし、
そのときに「あそこに行きたかったあれをしたかった」ってなってももうできないから、と。
患者さんは「そうですよね」と言って、次の抗がん剤をやめるといった。
「でも、もしまた治療したくなったら来ていいですよね」と言うので
「もちろんです。治療はしなくても定期検査はしますしね」と答えた。
結果的に患者さんはそのあとは抗がん剤を希望せず、定期検査だけやった。
どうにもこうにも動けなくなったのは1年半くらいあとだったと思う。
そのころわたくしは弟の脳腫瘍がわかって実家近くに転勤することになり、
しばらくその患者さんの顔を見に行けなかった。
転勤する直前に病室にお見舞いに行って
「ごめんね、このあともうみてあげられない」と言った。
患者さんはちょっと泣いて「先生、今までありがとう」と言った。
部屋にいたご家族は黙ってわたくしに頭を下げた。
あとは知らない。

麻央ちゃん、悔いのないように
やりたいことは全部やってね。
来年の今日があると限らないんだから。

小林麻央、抗がん剤投与を「お休み」 変化を報告
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=137&from=diary&id=4247098
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