今日は「アルカナ」を分析してみることにしよう。
橋本孝治「アルカナ」
(詰パラ 平成11年8月号)
22龍、イ25成桂、48角、35玉、37飛、ロ26玉、39飛、27玉、37飛、28玉、
38飛、29玉、39飛、28玉
(14手目の局面)
イ25成香は48角以下作意通り進めて、27玉に対し38角、36玉、47角、27玉、
36角、28玉、25龍以下。
ロ36成桂は同飛、同玉、18角、35玉、36歩、44玉、42龍以下。
ここまでが序。ここからと金剥がしが始まる。
「29歩、27玉、37飛、26玉、34飛、ハ37角、同角、27玉、45角、38玉、
A56角、49玉、38角、同玉、48角、ニ29玉、39飛、28玉」
(32手目の局面)
ハ27玉は25龍、同成香、39桂迄。
A48角は47玉で逃れ。
ニ35角は同飛、同成桂、39歩、47玉、38角、46玉、42龍以下。
ニ47玉は58銀以下収束に入る。
まず1枚目は簡単に剥がせる。持駒に1歩ないと48角に対して47玉で逃れる為、手順も完全に限定されている。問題はここからだ。
『29歩、27玉、37飛、26玉、34飛、37角、同角、27玉、54角、45歩、
同角、38玉、48角、29玉、56角、同歩、39飛、28玉』
(50手目の局面)
56とを消去し、次の目標は65とだ。ところが54角に対しては45歩と中合されてしまう。やむなく同角とし、29玉に対し56角と捨てると、55歩が56歩となった局面が得られる。この歩を剥がすのは簡単だ。
「29歩、27玉…39飛、28玉」
(68手目の局面)
ここまでの手順が、65とを剥がすときにも利用できることは明らかだろう。これで、この作品におけると金群の剥がし方が明らかになった。
つまり、剥がしたいと金に当てて角を打つと一つ右の筋に歩を中合されるが、その角を捨てることでと金を徐々に56に引きずり込むことができる。そして45角に対しては歩中合が利かないので、ここで最終的に剥がすことができるという訳。所謂「呼び出し剥がし」というものだ。
また、どのと金を剥がす手順も、その一つ右の筋にいたと金を剥がす際の手順を完全に内包している。即ち、本作は数学で言う「再帰構造」を持っていることになるのだ。その点において、本作にはかなりの希少価値がある。
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と上…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同と引…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同と上…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…72角、63歩…74馬、同と引…39飛、28玉』
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…72角、63歩…74馬、同と上…39飛、28玉』
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…81角、72歩…83馬、同と引…39飛、28玉』
『29歩、27玉…72角、63歩…74馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…81角、72歩…83馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…72角、63歩…74馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同と…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同と…39飛、28玉』
「29歩、27玉…39飛、28玉」
『29歩、27玉…81角、72歩…83馬、同成香…39飛、28玉』
『29歩、27玉…72角、63歩…74馬、同成香…39飛、28玉』
『29歩、27玉…63角、54歩…65馬、同成香…39飛、28玉』
『29歩、27玉…54角、45歩…56角、同成香…39飛、28玉』
29歩、27玉、37飛、26玉、34飛、37角、同角、27玉、45角、38玉、
56角、49玉、38角、同玉、48角、47玉、58銀、同玉、69金、同玉、
39飛、78玉、88金、同玉、89香、98玉、99香、同玉、88銀、98玉、
99金迄639手詰。
完全な再帰構造を持つ詰将棋の一号局は「天月舞」だが、あちらは飛型であった。こちらは角型にすることで剥がせる駒の枚数を大幅に増やし、結果として「天月舞」の倍近く迄手数を伸ばすことにも成功している。看寿賞こそ逃したものの、「極光第45番」型の剥がしを極限にまで突き詰めた作として、そして再帰構造を持つ詰将棋の二号局として、「アルカナ」の名は私の記憶に今もしっかりと刻まれている。
伝統詰将棋の範疇で「再帰手順」を実現することは相当難しいが、フェアリーの世界では既に「寿限無」という偉大な先例があり、また呼び出し剥がしも作例がいくつもある。上で挙げた作品も含め、以下に参考図として引用しておこう。
(参考図1)
上田吉一「極光第45番」
(詰パラ 昭和51年12月号、修正図)
(参考図2)
加藤 徹「寿限無」
バカ詰 19447手(詰パラ 昭和50年9月号、修正図)
(参考図3)
飯田岳一
バカ自殺詰 1114手(詰パラ 昭和57年10月号、修正図)
(参考図4)
今村 修「天月舞」
(近代将棋 平成7年12月号、第86期塚田賞)
(参考図5)
田島秀男「まだら」
(詰棋めいと 平成13年4月、第40期看寿賞)
これらの詰手順は省略する。詳細については、以下のURLで確認して欲しい。
加藤 徹「寿限無」
http://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/kato/fbaka4.htm
飯田岳一
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1264540948&owner_id=10857363
今村 修「天月舞」
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1877177077&owner_id=10857363
田島秀男「まだら」
http://park6.wakwak.com/~k-oohasi/zentumeren/kanju/kaisen122.html
また、再帰手順については、以下の文献も参考になる。
「再帰的手順」についての考察
http://park6.wakwak.com/~k-oohasi/zentumeren/kanju/yomsaiki.html
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