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2015年09月09日23:09

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プロパラを振り返る(141)

 今日は、12th Japanese Sake tourneyの受賞作を紹介しよう。このTourneyはいつもヘンテコなフェアリールールを採用しているが、今回はDouble-Step Chessというもの。定義は以下のようになっています。

Double-Step Chess:白黒双方とも、自分の手番で同じ駒を2度連続して動かせる。駒取りは連続着手の2手目でのみ可能。次に自分の手番になったとき、連続着手の2手目でKを取れるような手のことをチェックと呼ぶ。チェックをかけられた側は、連続着手の1手目でそれを回避しなくてはならない。又、連続着手の1手目であっても、Kが自らチェックをかけられるのは禁手とする。castlingは、連続着手の初手として可能である。そして2手目ではcastlingしたK又はRを動かさなくてはならない。en passant captureは、相手のPが初手でdouble stepしていれば認められる。

(271)Thomas Maeder(Kobe 2012 Sake Tourney, 2nd Prize)
フォト
H#1 b)Bg5→R (5+7)
Double-Step Chess

a)1.Bd2/Bb4 Kc2/Kc3#
b)1.Rg3/Rxa3 Ka2/Kb3#

 まず、初形で白Kがいなければどうなるかを考えてみよう。そうすると黒Kにはチェックがかかっているが、それはBc1/Bh6などで防げる。(ちなみに、黒Kを動かそうとするとルールからKg8と指すしかないが、そうすると次にどう動いてもまたチェックのかかる場所に動くことになる(self-check)ので不可)
 すると、この黒Bを取ってしまえばよいと思うのだが、b2,c3,d2にはいずれも黒Sa5又はPb5の利きがあるので、これもまた無理。ではどうやってこの黒Bを封じ込めればよいのだろうか?
 1.Bd2/Bb4としておいて白Kc3と蓋をするというのが、作者の示した解決策だ。(ルールから初手での駒取りは禁じられているから、このKc3はself checkではない!)Bb4がPb5のself-blockにもなっているのにも注目願いたい。b)も、この解と鮮やかな対照をなしている。
 ちなみに、発表時に話題となっていたが、白Pa3は厳密にはillegal position。レトロ派としては気になるところである。

(272)Michel Caillaud(Kobe 2012 Sake Tourney, Special Prize)
フォト
#1 b)-Bc8 (10+12)
Double-Step Chess

a)1.Sc6/Se5#(1.0-0?? illegal)
b)1.0-0/Re1#(1.Sc6?? selfcheck)

 Caillaudによるフェアリーレトロの世界。早速解析してみよう。
 まずはなくなった駒から。白がQRBBSPの6枚で、黒はRSPPの4枚。又、a5,a6,b5,c5の各Pにより駒取りがなされているのも明らか。特に、白の駒取りはこれで尽きている。それだけではない。ルールの特性から、白Pa5/a6がそれぞれb2-b4xa5/c2-c3xb4-b5xa6と動いたことも判明してしまうのだ!(特に、駒取りの場所がa5,b4,a6であり、このうち白枡はa6のみであることを覚えておいてほしい)更に、黒Pはいずれも成っていることも分かる。

 さて、白Kが不動だったと仮定しよう。そうすると、黒の2枚のPはいずれもd1かf1のどちらかで成ることになるが、Qに成ると白Kが不動ではいられないし、BやSに成るとこれらは白枡にしかいられないから、白Pによる白枡での駒取りが1度しかないことと矛盾する。従って、唯一の可能性はexd1=Rである!(このとき例えばBc1があれば、これはチェックではない)以上より、白Pは3枚の黒Rを取ったことになる。
 では、これら黒Pの移動経路を考えてみよう。するとそれぞれ、g7-g6xf5-f4xe3(e.p.!)-e2xd1=Rとe7-e6-e5-e4-e3-e2xd1=Rだと分かる。これで合わせて4回の駒取りがあり、これにPb5とPg5の各1回を加えると黒側の駒取りもこれで尽きている。特に黒枡での駒取りはe3とg5だけであり、このうちe3はen passantだから、Pg5が取った駒は白Bである。en passantをする際のe筋の白Pはe2-e4-e5と動いた筈だから、e筋の黒Pが動いたのはこのen passant captureの後である。

 ここで状況を整理してみよう。
(1)左上の白Pはいずれも駒取りをしている。(逆に言うと、駒取りができる
配置になるまでは動けない)
(2)これらのPはいずれも最初に黒Rを取っている。
(3)黒Pg5が取った駒は白Bc1である。
 en passantのことも加味すると、結局g筋の黒Pが動くまでは他のどのPも初形位置にいるということが分かった。

 いよいよ結論が近付いてきた。黒Pg7-g6xf5として取った白駒はSb1しかないが、このときに黒Kはe8にいるので、Pg7-g6はillegal(self-check)である!
従って白Kは不動ではあり得ず、1.0-0もまた不可能であることが証明できた。

b)なら、白SがまずBc8を取っておけば黒Kをc8に逃がしておくことができるので、(チェック防止の為にSd6を配置しておけば)Pg7-g6xSf5も可能となる。


 何という重厚なロジックであろうか!どんなフェアリールールに対しても即座にその特性を見抜き、優れたレトロ作品に仕上げて見せる創作力には感嘆する他ない。
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