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2014年12月19日04:32

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宮下眞二 『英語文法批判』 (VIII) 5C

       5C

 言語は認識を直接の基盤とするから、当然この人間精神のあり方を反映するが、反映の仕方はさまざまである。今日われわれが個々の言語とみなす、日本語、英語、ドイツ語・・・それぞれに、特有の癖(見方)があり、その言語の話し手である個人のものの見方を規定するといふのは、よく知られた事実である。「上部構造」に属するはずの言語(言語規範)が個人の生活を規定してゐるといふ意味では、これは「土台(下部構造=物質的関係)が上部構造を決定する」といふ「唯物史観」の考へに反してゐるやうに思はれる。しかし、対象、認識、表現の間にあるダイナミックな関係に目を向ければ、こんなことは当り前であつて、土台の「究極的な規定」を認めさへすれば、あとは何でもありなのである。

 ともあれ、代名詞の本質は、話し手と実体との関係を表現するといふ結論に落ち着いた。人称代名詞においては、この実体が「話し手」「聞き手」「話題の事物」といふやうになる。

 この後で宮下は、他の種類の代名詞がどういふ関係を表現するか、さらには従来代名詞とされてきたものが本当に代名詞と言へるのか、いはゆる疑問代名詞と関係代名詞の多くは同じ形をしてゐるが、これらは別の語なのか、等々の疑問にひとつひとつ答へて行く。

 その過程は着実であるが、やや詳細にすぎると思われるので、ここでは最も優れた成果と思はれるものだけを紹介する。

 それは、「9節 不特定代名詞」「10節 疑問代名詞説批判」「11節関係代名詞説批判」である。宮下はまづ、「話手が具体的に認識して居らず,従つて話手との特定の空間的又は時間的関係では捉へられない対象を,話手との不特定の関係に於て捉へる代名詞」として、what, who, which, whether, why, where, when, how, any を挙げる。

   「what は実体を話手との不特定関係で捉へる代名詞である。例――
(1) What happened? 何が起つたのか。
(2) What is he? 彼の職業は何か。(以下略)
 
   who はwhatより特殊で,人間を話手との不特定関係で捉へる代名詞である。
  例――
(5) I wonder who those people are? あの人たちは一体誰なんだらう。
(6) Whom did you see? 君は誰に遇つたのか。
   (7) Whose house is that? あれは誰の家か。 」(103-104頁)

 これらは通例、疑問の意味を含むと解釈されて疑問代名詞と呼ばれるが、宮下はその説を否定する。

   「しかし,英語では疑問の表現は一般に形式を持たず零記号として表現されるから.不特定代名詞が疑問をも意味すると解釈されてゐる場合にも疑問が零記号として伴ふのであつて,不特定代名詞自体が疑問を内容としてゐるのではない。その証拠に,不特定代名詞は平叙文にも用ゐられるし感嘆文にも用ゐられるのである。」(107頁)

 同様に、宮下はいはゆる関係代名詞説を批判する。

   「9節で述べたやうに,不特定代名詞の本質は対象を話手との不特定関係に於て捉へる所にある。実体や属性をも立体的内容の一部として含むが,疑問や感嘆の意味は持たない。不特定代名詞は実体や属性を不特定関係に於て捉へるから,あらゆる実体や属性をその具体的認識が有つても無くても捉へ得ることになる。このために不特定代名詞は所謂関係代名詞や関係副詞として用ゐられるのである。不特定代名詞what, who, which と特定代名詞 that とはいづれも実体を抽象的に表すから,実体の具体的なあり方を表す節を率ゐて所謂関係代名詞として用ゐられ,不特定代名詞 where, when, why, how はそれぞれ場所・時・理由・様態を抽象的に表すから,場所・時・理由・様態の具体的なあり方を表す節を率ゐて所謂関係副詞として用ゐられるのである。

(1) This is the man who wanted to see you. この方があなたに会ひたいといふ方です。
(2) The letter that came from this morning is from my father. 今朝届いた手紙は父からのだ。
   (3) Take the book which is lying on that table. あのテーブルに在る本を取れ。
 
 (4) His car, for which he paid £800, is a five-seater saloon. 彼の自動車は八百ポンドしたのだが,座席が五つあるセダンだ。
(5) It was raining hard, which kept us indoors. 雨が強かつたので,私達は外に出られなかつた。
(6) That’s the place where the accident happened. そこが事故の起きた場所だ。
(7) Sunday is the day when I least busy. 日曜日は私の一番忙しくない日です。
(8) The reasons why he did it are obscure. 彼がそれをやつた理由ははつきりしない。
(1)〜(8)では先に具体的に表現した実体や属性を抽象的に話手との不特定関係や特定関係で再把握してゐる。」 (111-112頁)

   「関係代名詞や関係副詞といふ独自の内容を持つ代名詞があるのではない。再把握・再表現のために又は単独ないし先駆的抽象的把握のために,特定代名詞 that や不特定代名詞が用いられるのである。」(115頁)

 「関係代名詞」など、機能主義に毒された不純な名称であり、内容主義を貫けば、すべてが「不特定代名詞」だから可能な用法に過ぎないといふのが、言語過程説の見方なのである。


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