眠れぬままに朝を迎えた。おはよ! (^O^)
禍福のあざなえること、縄のごとし。勿怪の幸い、瓢箪から独楽としよう。
昨日、谷崎潤一郎『武州公秘話・聞書抄』(中公文庫)を読了。
「聞書抄」は石田三成が関が原で敗戦後、その姫と乳母が京都に逃れ、いまの川端通あたりに晒された父の首級をこっそり拝んでいたら乞食坊主が寄ってきて・・・といふ物語。
でも瞠目したは、前者。「武州公秘話」。
三成(・秀次)譚が史実を基にしたのに対し、「武州公」は、ほとんど創作。その冒頭はあたかも
♪レディース&ジェントルメン、ウェルカム!♪ 漢文だけどね。
「伝曰。上杉謙信。居常愛少童。又曰。福島正則。夙有断袖之癖。老而倍〃太甚。終至失家亡身失。雖然是豈一謙信一正則而已乎」
武州公こと武蔵守輝勝は幼くして隣国筑摩家の牡鹿城へ人質に。そこで養育された13の歳に戦争勃発。城は敵に包囲される。
女子供はひとところに居住し、輝勝もまた、その広間に避難させられる。
子どもといへども13歳、しかも男児。なれば輝勝、リアルの戦を見たいと欲するが養育係の青山主膳は「なりませぬ」。
やむかたなく輝勝は、広間の片隅で談笑していた女どもに訊ねる。「いくさを見たことがあるか。死人を見たことはあるか」。すると老女が「もちろん、ございます」。
輝勝は、見たい見たいと。断っていた老女も、彼のあまりの懇願に負け、その夜、蔵の2階へ輝勝を連れて行く。そこで彼が見たものは・・・
・・・。
・・・討ち取られた敵の生首を洗い、髪を結いなおし、耳たぶに穴を開けて名札をつける、美しき女たち。
輝勝は、得も言われぬ快感を覚える。イッちゃう。
以後、武州公こと輝勝の、被虐的変態性欲の物語が展開する。
末尾で佐伯彰一は解説する。
「(聞書抄は)率直にいわせてもらえば、語りの伸びやかさにおいても、主題の追求度においても、『武州公秘話』よりは見劣りすることは否み難い。というのは、ここでは、物語の素材と作者の内的関心の間に、微妙なずれが生じたのではあるまいか」
「石田三成の娘の行末といった、いわば戦国哀話、武将たる父親の運命の変転にまきこまれた女の一生の物語と、三成がいわば敵役、摘発者役を演じたかつての関白秀次の行状と没落の経緯という筋立てとが、必ずしもしっくりと融け合っていない」
「どうやら、この作者の内には、秀次の明らかに嗜虐的、サディスト的な異常行動に対する興味がつよく働いていながら、この小説の語りの構造では、それを十分に展開させることが出来なかった」
まったく同意、激しく同意。そのとおりだ。
いっぽう(加えていうなら)、「武州公秘話」に対して文句もある。というのは、いかにも竜頭蛇尾。
生首事件を継承しつつ、これを超え・・・もっと逸話を「長々と読みたかった!」。
かように思うたのは、ドストエフスキイ『罪と罰』@相州三浦の浜 − 以来ではないか。
嗜虐でやさしい桔梗の方、やさしく嗜虐で ー そしてそれを悔い改める − 松雪院。ソーニャはどっちだ。
「聞書抄」「武州公」いずれも1930(昭和5)年の作品。ただし後者の初出が、例の『新青年』:
*怪奇文学・探偵小説で爆発的にヒットした、戦前の雑誌
とは、さもありなん。
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