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2017年10月18日10:45

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デジタルオーディオ最新技術MQAの秘密。ボブ・スチュワートにロングインタビューを実施(前)

下記記事と関連しているのかわかりませんが、現用のESOTERIC Grandioso D1はフィルターを選べるようになっています。

聞き比べした結果、フィルターはオフ。拙宅ではデジタル高域カットフィルターはかけていません。

MQAはかく開発された

9月に開催されたIFAの取材後、麻倉怜士さんは英国に渡り、ロンドン北西にあるHuntingdon(ハンティンドン)駅から車で約5分の位置にあるMQA(Master Quality Authenticated)本社を訪れた。そして新ロスレスコーデックMQAの秘密を、開発者であるボブ・スチュウァート氏にインタビューを実施した。まずは前編をお届けする。(編集部)

 イギリスの音響技術開発企業、MQA社が開発した新ロスレスコーデック、MQA(Master Quality Authentication)が、いま世界を席巻している。コンテンツ側の世界のレコード会社、再生側の多くのオーディオメーカーが、競って採用を表明。ハイレゾ音源の大手配信サイトのe-onkyo musicでは、9月から世界のワーナー・ミュージックのMQA音源配信がスタート。年内には3000タイトルに増える。その後、ユニバーサル・ミュージック、ソニー・ミュージックと続く。

 筆者は、9月にロンドン北西に向かって約一時間の列車を旅し、ハイティンドン駅から車で約5分の位置にあるMQA本社を訪れ、MQAの開発者のボブ・スチュウァート氏と、午後いっぱいを使い、インタビューを行った。これまで謎だった、MQAの原理が初めて明かされた。

−−話題のMQAですが、そもそもどのようなところから発想し、組み立てていったのでしょうか。

ボブ 私は十代の頃から、熱烈なオーディオマニアでした。それも良い音を聴くということだけでなく、人はどのようなメカニズムで音を聴いているのだろうと、聴覚心理学(Psychoacoustics)に当時からたいへん興味を持ち、大学はバーミンガム大学の工学部に進みました。

−−ボブさんはケンブリッジの人なのに、地元のケンブリッジ大学には行かなかったのですか。

ボブ 当時は聴覚心理学と工学部の両方が揃っているのはバーミンガム大学しかなかったからです。そこで学んだ聴覚心理学とエンジニアリングの知識は、その後、77年にオーディオメーカーのメリディアンを創業する基礎になったと思います。MQAにつながる流れとしては、聴覚心理学に熱心に取り組んだことです。人が周波数帯域やダイナミックレンジをどう聴くのかということは、その時代から、私の主要な興味の対象でした。

−−なるほど、デジタルの音を改革しようというMQAの発想は、まずは、音響心理の探求から始まっていたといえますね。

ボブ 問題はCDです。登場当時は、レコードのようなパチパチノイズが無い、低域が痩せない、左右のセパレーションが良い、頭出しができる......と、良いことだらけでした。しかし、肝心の音が問題。「ナチュラル」でないのです。私は音楽再生でもっとも大切なのは、ナチュラルさだと思います。音楽が自然に発せられ、自然に聴く人の耳に届く。そのプロセスが感じられることがとても大事だと思います。アナログはナチュラルでした。でもCDはその点で問題がありました。


−−確かに。CDの音を改良することが、その後の、オーディオシーンのトレンドでした。

ボブ デジタルの音を改良するに当たって、とても参考になったことがあります。固定ヘッドによるデジタルレコーダー「DASH」の音が、CDに比較して、なかなかナチュラルだったのです。

−−ほう。

ボブ それは何故かというと、アナログ・フィルターの遮断特性が、CDより浅かったのです。そのことが、音の自然さ、ジェントルさ、位相回転の少なさにつながっていたのですね。ここからフィルターは音のために、とても大事であることが分かりました。

−−なるほど。フィルターの重要性ですね。これはMQAに結びつきそうです。

ボブ そのお話は後ほどですが、それからハイレゾが導入され、CDの音からは飛躍的に良くなったのですが、そしたらまた問題が出てきました。ひとつがフォーマットがもの凄くたくさん乱立してきたことです。リニアPCM、DSD、しかも44kHz、88kHZ、192kHz……。圧縮側も、ロスレスのWAV、FLAC、ロッシーでもAACと、際限なく出てきました。もうひとつの問題は88kHz、176kHz、352kHz……と、情報のサイズが増えると共に音質がリニアに上がっていくわけではないことです。

−−確かに44kHzから96kHzでは、凄く音質が向上しますが、その後の向上カーブは寝ていきます。

ボブ そう、右肩上がりがフラットに近づくのですね。換言すると、データが大きくなるのに、その恩恵は相対的に小さくなっていくのです。これらの問題がなぜ発生するかというと、私に言わせると、CD以来、デジタルの世界ではまったく根本的な改良が成されていなかったからなのです。基礎研究を怠り、学術的にはまったく進んでいなかった。CDを境にハイレゾでは単純にデータ量が増加し、一方、圧縮方向では単にデータ量が減るのですが、基礎研究のほうは停滞していました。


−−派手に提案されましたが、基本的なところが欠けていたのですね。

ボブ われわれも、CDの音をなんとか良くしようと、色々な工夫をしていました。アップサンプリングし、時間軸変動(BLUR)を少なくするようにしましたが、でも当然、CDを出発点にしているので、限界がありました。スタジオへ行って、新しく作った試作のシステムで、その場でA/D、D/Aして聴いてみるのですが、いつもアナログテープで録再したナチュラルな音の前には、あまりの違いにひれ伏すしかないような状態でした。

−−オープンリールはアナログの最高峰ですからね。

ボブ でも、そうこうしている間に、オーディオ以外のところで、事態が大きく動き始めたのです。

−−と、言いますと。

ボブ まず、サンプリング理論が急速に進みました。舞台はオーディオではなく、映像です。医療の世界では画像分析技術が飛躍的に進歩しています。もうひとつ、ニューロ・サイエンスが登場したのです。

−−ニューロ・サイエンスとは?

ボブ Psychoacousticsは「聴覚心理」です。人間の聴覚に関する学問で「何を聴くのか」が興味の対象です。エンジニアリングとわれわれが聴く経験を橋渡しする古典的な学問ですね。一方、Neuroscienceは、「いかに人は聴くのか」の学問です。

−−日本語では「神経工学」と訳されています。

ボブ Psychoacousticsは、耳から入った後の脳内の反応はブラックボックスとしています。Neuroscienceは、まさにそれをターゲットとする学問なのです。人が耳から聴いた音を、いかに電気信号に変換して脳が知覚するのかという聴覚メカニズムの研究です。自然界では、風や水、動物の声……など、さまざまな音が発せられ、それらが総合されて耳に入りまず。人の脳はそれらをどう「聞き分ける」かのメカニズムを探るのが、Neuroscienceの役割なのです。
 Psychoacousticsでは聴覚は20KHZ以上の音は聴けないということになっていますが、人間はそんなに単純ではないのです。聴覚はリニア(直線)ではなく、ノンリニア(非直線)の動作です。音の強さ/弱さ、ピッチ、レスポンス、歪み、マスキング……などのさまざまな事象の影響を受け、ノンリニアになります。

−−なるほど。


ボブ もうひとつ人の耳の優秀さは、距離の判別能力ですね。コンサートでは、違う位置にある2つのヴァイオリンの場所も耳は判別できますね。脳の中での判別プロセスはひじょうに複雑で、スーパーコンピューターでも、なかなか解明できないのです。

−−その知見を導入したのがMQAというわけですね。

ボブ まさしくそうなのですが、その前に言わなければならないのが、2012年にニューロ・サイエンティストのLewickiが、2013年に同じくOppenheimがデジタル信号処理に関する論文を発表し、人の時間軸の解像度……つまり人がどれくらい細かい時間の変化を認識できるかの能力……が、以前に思われていたより遙かに高いという、衝撃の事実を明らかにしたのです。それまでは、人は50マイクロ秒の解像度までしか認識できないとされていたのですが、彼らの研究で、実はその5倍細かい10マイクロ秒であることが、分かりました。

−−なんと! 大発見ですね。マイクロ秒は、ミリ秒の1000分の1ですから、いかに細かい時間解像度なのかがうかがえますね。

ボブ まさしく。我々の聴覚メカニズムは、以前から考えていたものより、遙かに時間に対して精巧で精密、そして高感度ということです。この時間の刻みの違いは端的に言って、音の到達距離が、かつて考えられていた尺度の5倍の細かさで認識できるということに他なりません。音は1ミリ秒に1フィート=約34cm進みます。CDフォーマットの時間解像度は4ミリ秒ですから、その4倍の4フィート=1mの単位でしか、距離が認識できないのです。ところが、人は10マイクロ秒単位で分かるのですから、本当は、(1フィート÷1000)×10=0.3cmの単位で位置を認識できるのです。

−−そんなに細かいのですか。驚きです。なぜ人の聴覚はそれほど敏感なのですか?

ボブ 森林に暮らしていた原始時代の人間は、周りにいる野獣から、自分の身を守らなければなりませんでした。月明かりもない真っ暗な夜で唯一、頼りになるのは聴覚のみです。オオカミが近づいてくる気配がした場合、それが右からなのか、後ろからか、距離が近いのか遠いのかを、瞬時に判断しなければ、逃げる方向を誤ってしまい、命が危険にさらされます。だから、ひじょうに繊細な方向、距離感覚を人は持ったのです。時間軸を細かく認識し聞こる音から距離や方向情報を読み解く能力があるからこそ、人類は現代まで生き延びたと言えるのです。

(後編に続く)※10月19日(木)公開予定

http://www.stereosound.co.jp/column/av_trends/article/2017/10/17/61690.html
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