mixiユーザー(id:809109)
2007年08月24日19:35
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『牡丹燈籠』 惨劇の場。“幸手堤” とはどこだろう？
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▲鏑木清方による圓朝像。 ▲権現堂川の土手。
上流から見た利根川と江戸川の分岐▲
〓アタクシ、渋谷で映画のレイトショーを見ますと、帰りは渋谷から 「地下鉄 半蔵門線→東武鉄道直通」 の電車に乗ります。
「南栗橋行き」
が多いですね。
〓以前から、なぜ栗橋で、しかも南なのか、と若干フシギに思っていましたが、ホッタラカシにしておりました。ただ、この電車は、見たことのない町 「南栗橋」 の夜中の寂寞 （しじま） にスベリ込んで停まるんだ、と思うと、アッシを降ろして、日曜の深夜０時の闇に走り去って行く電車が、この世のものとは思えないような錯覚をいだきます。
〓ナントナク、潜在意識下で 「南栗橋」 という地名に、ブキミなものを感じていたんですね。
〓つい数日前に、ＴＢＳチャンネルの 「落語特選会」 で、
六代目 三遊亭圓生 口演
『牡丹燈籠』 より 『栗橋宿』
を見ました。ああそうだった。圓生の栗橋宿の最後の
“鮮やかにして凄惨なる、
闇夜の土手下の殺人”
が、いつも栗橋という地名の裏にチラついていたんだ、ということを思い出しました。
【 「落語研究会」 】
〓『落語研究会』 というのは、なんせ古い番組です。『栗橋宿』 は、おそらく、1980年代に地上波のＴＢＳの深夜ワクで放送されたものの再放送です。今は亡き、演芸評論家・劇作家の
榎本滋民 （えのもと しげたみ） さん
と、1994年にＴＢＳを退職されたフリーアナウンサーの “ブンさん” こと
山本文�� （ふみお） さん
が、チャブ台を挟んで、その日、オンエアする落語についての解説やヨモヤマ話をするところから始まります。
〓この２人のコンビネーションはゼツミョーでした。榎本滋民さんは、落語という観点から、江戸時代の 「庶民の暮らしや武士のナンタルカ」 を鮮やかに謎解きしてみせてくれました。今でこそ、江戸時代の庶民の生活にスポットをあてるのが流行っていますが、当時は、教科書にも歴史書にも書いていないようなことが、榎本さんの口から鮮やかに語られて、目からウロコがポロッポロ落ちたもんでした。
〓今、『落語研究会』 は、ＢＳ-ｉ、ＴＢＳチャンネル、地上波ＴＢＳの三波で放送されています。ＴＢＳの竹内香苗 （かなえ） アナウンサーと、当時のＣＢＳソニーのプロデューサーで、『圓生百席』 の制作を取り仕切った京須偕充 （きょうす ともみつ） さんが、やはり、チャブ台を挟んで落語のハナシをします。
〓で、ですね、数日前に見た 『栗橋宿』 は、1977年８月の国立劇場・小劇場において収録された 「落語研究会」 の口演でした。圓生師の亡くなる２年前の高座です。
【 「栗橋宿」 と 「幸手堤」 】
〓『栗橋宿』 （くりはしじゅく） というクダリは、映画や芝居などで有名な 『牡丹燈籠』 のずっとずっと後のハナシです。カラ〜ン、コロンのお露 （おつゆ） の幽霊は、すでに成仏して久しく、この場面では、お露の幽霊が現れた新三郎 （しんざぶろう） の長屋の、いわゆる管理人であった、
伴蔵 （ともぞう）、おみね
という夫婦が主人公です。
〓この夫婦、実は、幽霊騒ぎにかこつけて、
人ひとりを殺し、
百両というカネ （１千万円〜750万円） をせしめ、
あまつさえ、
金無垢 （きんむく） の
如来像 （にょらいぞう） までネコババ
していました。
〓江戸を逐電し、伴蔵の知るべのある 「栗橋」 まで逃げてきて、ここで 「江戸荒物」 ──江戸で仕入れた雑貨を売る店── の店を開きます。これが大繁盛で、伴蔵は左ウチワ。笹屋 （ささや） という料理屋の酌婦──若くてベッピンの 「おくに」 というのに懸想 （けそう） して、カネにあかせて浮気をします。
〓それを女房のおみねがケドッて、亭主の伴蔵 （ともぞう） を激しくナジリます。ノラリクラリとした返答に、激昂 （げっこう） したおみねは、江戸の一件をぶちまける、と言い出します。あわてた伴蔵は、
今の店は売っぱらって、おまえと二人で、
よその土地でイチから出直したい
なんて殊勝気 （しゅしょうげ） なことを言って、おみねをなだめます。
〓折りから、幸手で夏祭りがあり、伴蔵とおみねは、それこそ、手に手を取るようにして仲むつまじく出かけます。その帰り道……
真っ暗な “幸手堤” （さってづつみ）
〓幸手の土手、ということですね。伴蔵は、この土手に、金の如来像を埋めてある、とウソをついて、かねて隠し持った脇差しで、おみねを背後から切り殺します……
【 栗橋と幸手 】
〓まあ、アッシが文字にしたところで大したことはありません。圓生師匠の口演をお聴きなすってください。
〓でね、地図を広げてみると、南栗橋には、東武の車両基地があるんですね。それで、「南栗橋行き」 なんだ。
〓しかしね、ひとつヤッカイな問題が浮上しました。幸手から栗橋に帰るあいだに、幸手堤を通らないのです。圓生師は、ハッキリと “かたえは新利根 （しんとね） の流れ” と言っているし、三遊亭圓朝の速記でも “側 （かた） えは新利根大利根 （しんとね おおとね） の流にて” となっている。
〓ここで、少し江戸の治水事業の勉強をば、いたしましょう。
〓利根川 （とねがわ） というのは、そもそも、栗橋のあたりで、
現在の “権現堂川”
へと南下していました。この川は、さらに、庄内古川 （しょうないふるかわ） と名を変えて、現在の野田のあたりで、現在の江戸川となり、さらに古い時代の荒川の川筋と合流して江戸湾に注いでいました。
〓この利根川により、江戸は、たびたび洪水に見舞われたようで、徳川家康の命による河川改修工事を発端として、以後、利根川が、徐々に東に流れを変えられ、現在の銚子に至る河川と変じます。
〓利根川の東遷 （とうせん） 事業は、1641年 （寛永18年） より断続的に始まりました。現状に至るような、理路整然たる計画があったわけではなく、その時代々々に行った河川改修の結果、今のような流れになったようです。
▲利根川 東遷のようす
http://
より拝借しました。
〓利根川を栗橋あたりで東に向きを変え、現在の境町・関宿町 （せきやどまち） あたりに発していた 「常陸川」 につなげ、
現在の銚子に注ぐ利根川が人工的につくられた
のでした。そして、その際に、
現在の江戸川の
利根川から分岐して
野田に至るまでの部分
が人の手で掘ってつくられたのです。
〓ところでですね、『牡丹燈籠』 に登場する “新利根” が何を指しているか、地図を見てもチョイとわからないんです。そういう川はない。おそらく、地元での俗称のようなものだったのではないか。
〓実際、三遊亭圓朝 （えんちょう） は、明治９年 （速記本の出版は明治17年） に幸手に一泊し、現地を取材しています。
〓現在、「新利根川」 とはナンゾヤ、とネットで調べますと、
茨城県 利根町で分岐し、
利根川の北側を並行して流れ、
霞ヶ浦に至る人工河川
を指していることがわかります。しかし、これではどうにもならない。ヨソの土地の川の名前です。
〓しかし、どうやら、江戸時代の一時期、
利根川から分岐して野田に至るまでの
新しく掘られた江戸川の上流部を、
新利根川
と呼んでいたことがある
らしいのです。だとすれば、殺人の現場は、
現在の江戸川最上流部の土手
となります。「新利根」 という地名が作品に出てくる以上、圓朝は、地元の人からその名前を聞いたのではないでしょうか。明治時代に、当地に 「新利根川」 という正式な地名が残っているはずはないのです。というのも、1666年 （寛文６年） に完成した、霞ヶ浦に流れ込む 「新利根川」 と名前がカブッてしまうからです。
〓以上のことがわかって、やっと、『牡丹燈籠〜栗橋宿』 の疑問が解けました。何が疑問だったかというと、
幸手は利根川と接していない
のです。つまり、利根川の幸手堤などというものも存在しません。しかし、
新利根川 ＝ 江戸川 最上流部
だとすると、まさしく、この川は幸手を流れています。しかも、その範囲はきわめて限られていて、
関宿橋 （せきやどばし）〜中島〜
中新田〜花島〜槇野地
という距離にして３キロほどのエリアです。
▲幸手、栗橋、江戸川の位置関係。
▲幸手堤と思われる箇所。江戸川最上流部。
〓三遊亭圓朝は、実際にこの土手を訪れて、兇行にピッタリだと感じたんでしょうか。また、印象的な三叉路というのが実在したんでしょうか。
〓ただしですね、この土手は、幸手から栗橋に帰るにしてはアサッテの方向にあたります。伴蔵 （ともぞう） は 「金無垢の如来像」 を掘り出す、と称して、おみねをここまで引っぱってきたことになります。
〓しかし、これだと、またナゾが増えてしまう。幸手から新利根の土手まで来ると、あいだに、権現堂川が入ってしまうのです。もとの利根川の流れです。地図で見ると細い川ですが、そこは、やはりかつての利根川です。それなりの川幅はある。また、低いなりに土手もあり、今では、桜並木の名所になっている。
〓今のように、ほうぼうに橋のあった時代じゃなし、夜中に、そうやすやすと川は渡れなかったのが当たり前です。
〓じゃあ、幸手堤というのは、権現堂川の土手のことなのか？ だとすると、「かたえの新利根」 というひと言のツジツマが合わなくなってしまう。
〓三遊亭圓朝は、いったい、どのような風景を思い描いていたんだろうか？ 権現堂川を 「新利根」 とまちがえたのか。夜中に権現堂川を渡れないという “理屈” を無視して、文学的効果を優先したのか。
〓などと、けっきょく、解決がつかず、また 「南栗橋行き」 の電車を見るたびに、このことを考えるんだろうなあ、と思ったりするんですね。
上流から見た利根川と江戸川の分岐▲
〓アタクシ、渋谷で映画のレイトショーを見ますと、帰りは渋谷から 「地下鉄 半蔵門線→東武鉄道直通」 の電車に乗ります。
「南栗橋行き」
が多いですね。
〓以前から、なぜ栗橋で、しかも南なのか、と若干フシギに思っていましたが、ホッタラカシにしておりました。ただ、この電車は、見たことのない町 「南栗橋」 の夜中の寂寞 （しじま） にスベリ込んで停まるんだ、と思うと、アッシを降ろして、日曜の深夜０時の闇に走り去って行く電車が、この世のものとは思えないような錯覚をいだきます。
〓ナントナク、潜在意識下で 「南栗橋」 という地名に、ブキミなものを感じていたんですね。
〓つい数日前に、ＴＢＳチャンネルの 「落語特選会」 で、
六代目 三遊亭圓生 口演
『牡丹燈籠』 より 『栗橋宿』
を見ました。ああそうだった。圓生の栗橋宿の最後の
“鮮やかにして凄惨なる、
闇夜の土手下の殺人”
が、いつも栗橋という地名の裏にチラついていたんだ、ということを思い出しました。
【 「落語研究会」 】
〓『落語研究会』 というのは、なんせ古い番組です。『栗橋宿』 は、おそらく、1980年代に地上波のＴＢＳの深夜ワクで放送されたものの再放送です。今は亡き、演芸評論家・劇作家の
榎本滋民 （えのもと しげたみ） さん
と、1994年にＴＢＳを退職されたフリーアナウンサーの “ブンさん” こと
山本文�� （ふみお） さん
が、チャブ台を挟んで、その日、オンエアする落語についての解説やヨモヤマ話をするところから始まります。
〓この２人のコンビネーションはゼツミョーでした。榎本滋民さんは、落語という観点から、江戸時代の 「庶民の暮らしや武士のナンタルカ」 を鮮やかに謎解きしてみせてくれました。今でこそ、江戸時代の庶民の生活にスポットをあてるのが流行っていますが、当時は、教科書にも歴史書にも書いていないようなことが、榎本さんの口から鮮やかに語られて、目からウロコがポロッポロ落ちたもんでした。
〓今、『落語研究会』 は、ＢＳ-ｉ、ＴＢＳチャンネル、地上波ＴＢＳの三波で放送されています。ＴＢＳの竹内香苗 （かなえ） アナウンサーと、当時のＣＢＳソニーのプロデューサーで、『圓生百席』 の制作を取り仕切った京須偕充 （きょうす ともみつ） さんが、やはり、チャブ台を挟んで落語のハナシをします。
〓で、ですね、数日前に見た 『栗橋宿』 は、1977年８月の国立劇場・小劇場において収録された 「落語研究会」 の口演でした。圓生師の亡くなる２年前の高座です。
【 「栗橋宿」 と 「幸手堤」 】
〓『栗橋宿』 （くりはしじゅく） というクダリは、映画や芝居などで有名な 『牡丹燈籠』 のずっとずっと後のハナシです。カラ〜ン、コロンのお露 （おつゆ） の幽霊は、すでに成仏して久しく、この場面では、お露の幽霊が現れた新三郎 （しんざぶろう） の長屋の、いわゆる管理人であった、
伴蔵 （ともぞう）、おみね
という夫婦が主人公です。
〓この夫婦、実は、幽霊騒ぎにかこつけて、
人ひとりを殺し、
百両というカネ （１千万円〜750万円） をせしめ、
あまつさえ、
金無垢 （きんむく） の
如来像 （にょらいぞう） までネコババ
していました。
〓江戸を逐電し、伴蔵の知るべのある 「栗橋」 まで逃げてきて、ここで 「江戸荒物」 ──江戸で仕入れた雑貨を売る店── の店を開きます。これが大繁盛で、伴蔵は左ウチワ。笹屋 （ささや） という料理屋の酌婦──若くてベッピンの 「おくに」 というのに懸想 （けそう） して、カネにあかせて浮気をします。
〓それを女房のおみねがケドッて、亭主の伴蔵 （ともぞう） を激しくナジリます。ノラリクラリとした返答に、激昂 （げっこう） したおみねは、江戸の一件をぶちまける、と言い出します。あわてた伴蔵は、
今の店は売っぱらって、おまえと二人で、
よその土地でイチから出直したい
なんて殊勝気 （しゅしょうげ） なことを言って、おみねをなだめます。
〓折りから、幸手で夏祭りがあり、伴蔵とおみねは、それこそ、手に手を取るようにして仲むつまじく出かけます。その帰り道……
真っ暗な “幸手堤” （さってづつみ）
〓幸手の土手、ということですね。伴蔵は、この土手に、金の如来像を埋めてある、とウソをついて、かねて隠し持った脇差しで、おみねを背後から切り殺します……
【 栗橋と幸手 】
〓まあ、アッシが文字にしたところで大したことはありません。圓生師匠の口演をお聴きなすってください。
〓でね、地図を広げてみると、南栗橋には、東武の車両基地があるんですね。それで、「南栗橋行き」 なんだ。
〓しかしね、ひとつヤッカイな問題が浮上しました。幸手から栗橋に帰るあいだに、幸手堤を通らないのです。圓生師は、ハッキリと “かたえは新利根 （しんとね） の流れ” と言っているし、三遊亭圓朝の速記でも “側 （かた） えは新利根大利根 （しんとね おおとね） の流にて” となっている。
〓ここで、少し江戸の治水事業の勉強をば、いたしましょう。
〓利根川 （とねがわ） というのは、そもそも、栗橋のあたりで、
現在の “権現堂川”
へと南下していました。この川は、さらに、庄内古川 （しょうないふるかわ） と名を変えて、現在の野田のあたりで、現在の江戸川となり、さらに古い時代の荒川の川筋と合流して江戸湾に注いでいました。
〓この利根川により、江戸は、たびたび洪水に見舞われたようで、徳川家康の命による河川改修工事を発端として、以後、利根川が、徐々に東に流れを変えられ、現在の銚子に至る河川と変じます。
〓利根川の東遷 （とうせん） 事業は、1641年 （寛永18年） より断続的に始まりました。現状に至るような、理路整然たる計画があったわけではなく、その時代々々に行った河川改修の結果、今のような流れになったようです。
▲利根川 東遷のようす
http://
より拝借しました。
〓利根川を栗橋あたりで東に向きを変え、現在の境町・関宿町 （せきやどまち） あたりに発していた 「常陸川」 につなげ、
現在の銚子に注ぐ利根川が人工的につくられた
のでした。そして、その際に、
現在の江戸川の
利根川から分岐して
野田に至るまでの部分
が人の手で掘ってつくられたのです。
〓ところでですね、『牡丹燈籠』 に登場する “新利根” が何を指しているか、地図を見てもチョイとわからないんです。そういう川はない。おそらく、地元での俗称のようなものだったのではないか。
〓実際、三遊亭圓朝 （えんちょう） は、明治９年 （速記本の出版は明治17年） に幸手に一泊し、現地を取材しています。
〓現在、「新利根川」 とはナンゾヤ、とネットで調べますと、
茨城県 利根町で分岐し、
利根川の北側を並行して流れ、
霞ヶ浦に至る人工河川
を指していることがわかります。しかし、これではどうにもならない。ヨソの土地の川の名前です。
〓しかし、どうやら、江戸時代の一時期、
利根川から分岐して野田に至るまでの
新しく掘られた江戸川の上流部を、
新利根川
と呼んでいたことがある
らしいのです。だとすれば、殺人の現場は、
現在の江戸川最上流部の土手
となります。「新利根」 という地名が作品に出てくる以上、圓朝は、地元の人からその名前を聞いたのではないでしょうか。明治時代に、当地に 「新利根川」 という正式な地名が残っているはずはないのです。というのも、1666年 （寛文６年） に完成した、霞ヶ浦に流れ込む 「新利根川」 と名前がカブッてしまうからです。
〓以上のことがわかって、やっと、『牡丹燈籠〜栗橋宿』 の疑問が解けました。何が疑問だったかというと、
幸手は利根川と接していない
のです。つまり、利根川の幸手堤などというものも存在しません。しかし、
新利根川 ＝ 江戸川 最上流部
だとすると、まさしく、この川は幸手を流れています。しかも、その範囲はきわめて限られていて、
関宿橋 （せきやどばし）〜中島〜
中新田〜花島〜槇野地
という距離にして３キロほどのエリアです。
▲幸手、栗橋、江戸川の位置関係。
▲幸手堤と思われる箇所。江戸川最上流部。
〓三遊亭圓朝は、実際にこの土手を訪れて、兇行にピッタリだと感じたんでしょうか。また、印象的な三叉路というのが実在したんでしょうか。
〓ただしですね、この土手は、幸手から栗橋に帰るにしてはアサッテの方向にあたります。伴蔵 （ともぞう） は 「金無垢の如来像」 を掘り出す、と称して、おみねをここまで引っぱってきたことになります。
〓しかし、これだと、またナゾが増えてしまう。幸手から新利根の土手まで来ると、あいだに、権現堂川が入ってしまうのです。もとの利根川の流れです。地図で見ると細い川ですが、そこは、やはりかつての利根川です。それなりの川幅はある。また、低いなりに土手もあり、今では、桜並木の名所になっている。
〓今のように、ほうぼうに橋のあった時代じゃなし、夜中に、そうやすやすと川は渡れなかったのが当たり前です。
〓じゃあ、幸手堤というのは、権現堂川の土手のことなのか？ だとすると、「かたえの新利根」 というひと言のツジツマが合わなくなってしまう。
〓三遊亭圓朝は、いったい、どのような風景を思い描いていたんだろうか？ 権現堂川を 「新利根」 とまちがえたのか。夜中に権現堂川を渡れないという “理屈” を無視して、文学的効果を優先したのか。
〓などと、けっきょく、解決がつかず、また 「南栗橋行き」 の電車を見るたびに、このことを考えるんだろうなあ、と思ったりするんですね。
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