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2018年02月24日18:18

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藤村実穂子メゾソプラノ・リサイタル

【プログラム】
シューベルト
  ガニュメート D544
  糸を紡ぐグレートヒェン D118
  ギリシャの神々 D677
  湖上にて D543
  憩いなき愛 D138

ワーグナー
  ”マチルデ・ヴェーゼンドンクの詩による歌曲”
   天使 /止まれ!/温室で/痛み/夢

  ***** 休 憩 *****

ブラームス
  セレナーデ Op.106-7
  日曜日 Op.47-3
  五月の夜 Op.43-2
  永遠の愛 Op.43-1
  私の愛は緑 Op.63-5

マーラー
  ”フリードリッヒ・リュッケルトの詩による5つの歌曲”
   美しさゆえに愛するなら/私の歌を見ないで/私は優しい香りを吸い込んだ/
   真夜中に/私はこの世から姿を消した

(アンコール)
  マーラー:「原初の光」”子供の不思議な角笛”より
  R.シュトラウス:「明日」Op.27-4

 藤村 実穂子(メゾソプラノ)
 ヴォルフラム・リーガー(ピアノ)

2018年2月15日(木),19:00開演,札幌コンサートホール


藤村実穂子のリサイタルへ行ってきた。ワーグナー(ヴェーゼンドンクの詩による歌曲)とマーラー(リュッケルトの詩による歌曲)がお目当である。それに藤村クラスのリサイタルを地元で聴く機会にそれほど恵まれないという事情もある。

彼女のリサイタルは以前聴いたことがある。バイロイトで歌ったワーグナー歌手という触れ込みだが,かなりユニークなワーグナー歌手だという印象を一層強めた。そう感じる最も大きな要因は声の質。メゾソプラノにしては声の質が硬い。声に伸びが足りないこともあって,歌に広がりやふくよかさが感じられず,かなり窮屈な歌唱にきこえる。当然,深みやスケール感は望むべくもない。クリスティーネ・シェーファーがワーグナーに挑んだような感がなきにしもあらず。ただし,音程は正確無比に近く,発声も徹底的に鍛え抜かれていて,歌手としての技術的な基礎は備わっているという一面はある。

ゆえにワーグナーの「ヴェーゼンドンク歌曲集」を歌っても,密やかさや艶めかしさ,そして陶酔感に欠ける。この曲集の第3曲「温室で」と第5曲「夢」では,それぞれ「トリスタンとイゾルデ」第3幕の前奏曲と第2幕の二重唱の旋律がほとんど形を変えずに用いられている。藤村の「ヴェーゼンドンク歌曲集」を聴いていると,技術的な問題はないとしても,NHKホールの3階席の最後列で「トリスタンとイゾルデ」を聴くときのような苛立ちが募る。声の質が後期ドイツ・ロマン派の爛熟しきった甘美な音楽に馴染まず,歌唱技術の面で声質の弱点をカバーすることを試みた様子もうかがえない。これではまるで,氷のような姫君,トゥーランドットではないか。

「ヴェーゼンドンク歌曲集」は,死の気配が濃厚に漂う伝説の世界におけるお姫様と王子様のややこしい愛ありようを描いている。一方マーラーは,「リュッケルト歌曲集」に限らず,市民的な日常にぽっかりと口を開けた死をテーマに創作活動を続けた作曲家だろう。この歌曲集は,リュッケルトが2人の子供を亡くした後に書いたテクストに,のちにアルマとの間にもうけたアンナを失うことになるマーラーが音楽つけた作品である。世紀末ウィーンの不安を甘美さで包み込んだような歌曲である。大理石のような質感をもつ藤村の声では,はかり知れない人間存在の深淵を表現するのは至難である。ワーグナーの場合と同じく,メカニカルな正確さだけが異様に目立つ。無機的な素材で有機的な事象を表現する無謀な試みに付き合わされているような気持ちになる。

シューベルトやブラームスを歌うときも,ワーグナーやマーラーの場合と事情に変わりはない。リート歌手としても,率直にいってどうなのかと首を傾げたくなる。この人の持ち味について,別の異なる評価もあるのだろうが。

だから,2002年のバイロイト・デビュー以来,リングのフリッカやパルシファルのクンドリの役で9年間の連続出演を果たした経緯がよく呑み込めない。ただ,「この20年間のワーグナー界に存在しなかった歌手」(当日,会場で配布されたプログラムに掲載されたプロフィール)という評は納得できる。全ての不純物を徹底的に除去した無味無臭な水を思わせるユニーク極まりないワーグナー歌手であることは理解できる。これもひとえに多様性を受け入れるバイロイトの懐の深さなゆえなのか,魑魅魍魎が跳梁跋扈する劇場特有の現象なのか定かではないが,リサイタルを聴いてもあまり面白とは感じなかったというのが率直な感想だ。

リサイタルが開かれたのは450席余りの小ホール。歌曲の演奏会にしては珍しく,ほぼ満席の状態だった。技術的な水準の高いリサイタルに飢えた音楽好きにアピールしたという面はあるのだろう。そうした側面に限ると,個人的にもある程度満足したことは事実である
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