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2018年04月15日03:06

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 【質問】 『慰安婦』は存在したが『従軍慰安婦』は存在しなかった,というのは本当?(下書き)

 【質問 kérdés】
「日本兵のための『慰安婦』は確かに存在しましたが,歴史上,『従軍慰安婦』は存在しませんでした」
「未だに『従軍慰安婦』という言葉を平気で使う人は,プロパガンダに踊らされていると自覚してください」
(ケント・ギルバート『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』⦅講談社,2017⦆,p.48)
というのは本当?

 【回答 válasz】
 厳密に言えば,確かに「慰安婦」という言葉は日本軍で使われていたが,「従軍慰安婦」という言葉は使われていない.
 「従軍慰安婦」という言葉は戦後の造語.

 ただ,「従軍慰安婦」という言葉がプロパガンダ性を帯びているかどうかは明言できない.
 むしろそうでない可能性のほうが高い.

 一般的に言って,それまで使われていなかった新しい言葉を作り出し,その新語によって「レッテルを貼る」行為は,広告業者から国の政治家まで広い範囲で用いられてきた.

 アメリカのもっとも著名な心理学者の一人,エリオット・アロンソンは,カリフォルニア大学サンタクルス校の心理学教授,アンソニー・プラトカニスとの共著,
『Age of Propaganda』(邦訳:『プロパガンダ』)
の中で,次のように述べる.

------------
 新しいレッテルを考え出すという宣伝方法は,広告業者の専売特許ではない.
 初期のアメリカの愛国者たちは,イギリスとのちょっとした小競り合いを「ボストン虐殺事件」と呼ぶことによって革命フィーバーを高めることができた.
 アドルフ・ヒトラーが「共産主義の脅威」や「ユダヤ人問題」によってドイツの経済的困窮を説明し,それによってドイツ国民を動員したのも同じテクニックである.
 妊娠中絶合法化に反対する人々は,自分達の立場を「生命優先」と呼ぶが,中絶を選択する女性の権利に賛成する人々は,その立場を「選択優先」と呼ぶ.
 国防省(かつて戦争省と呼ばれた)は,1980年代に合衆国がニカラグアやエルサルバドルを援助した戦争を「小規模の紛争」という語で表現した.
 しかしニカラグアで5万人,エルサルバドルで7万人もの罪のない市民が一斉射撃に晒され,彼らにとってこれが非常に強烈な経験であったことを知ると,この言葉は実に奇妙に聞こえる.
 同様にイラクとの戦争に反対する人々が,「息子や娘を遺体袋に入れて家に連れて帰ること」について話をする一方で,軍人たちは「付随的な民間人死傷者」とか「砲撃ダメージ計画」(BDA)のような,健全に見せかけるような言葉を使っている.
 政治家は「冷戦」「忍び寄る共産主義のドミノ理論」「ペレストレイカとグラスノスチ」「麻薬との戦い」「日本の保護主義」,そして最近では「新しい世界秩序」といった言葉を使って社会問題を解釈し,国家的なアジェンダ(議題)を作り出す.
 このような言葉があまりによく使われるので,ウィリアム・ラッツは,著名人が使ういわゆる「ごまかし言葉」をたくさん集め,最も欺瞞的かt自己矛盾的な言葉の使用に対して毎年賞を送っている」

------------p.53-54

 よって,造語や造語をする人に対しては,まず最初に一応,プロパガンダの意図があるのでは?と疑ったほうがいい.

 さて,では当時の日本軍は,慰安所に従事する女性たちをどのように呼んでいたのか?
 秦郁彦が吉見義明『従軍慰安婦資料集』から採取した事例によれば,呼び方は
「接客婦」
「酌婦」
「慰安婦」
「従業婦」
「特要員」
「特用倉庫員」
「軍隊慰安婦」
「妓婦」
「妓女」
「売淫婦」
などまちまちだったという.
 慰安婦という呼び方は「特種慰安婦」を含め,1939〜40年頃から登場するものの,『従軍慰安婦資料集』が収集した100点余のうち15点しかなく,そのうち11点は1942年以降だという.
 1944年春には公文書にも「慰安婦」という言葉が登場するが,公式用語として定着したとまでは言えない,と秦は述べている.

 ちなみに水木しげるは漫画で,慰安婦を「ピー」と呼んでいる.
(『カランコロン漂泊記』小学館)
 兵隊の間の隠語と思われるが,どこまで普及していた言葉なのかは不明.

 一方,「従軍慰安婦」という言葉が登場したのは,秦によれば現在分かっている範囲では,『週刊実話』1971.8.23号が初だとされている.
 朝日新聞による慰安婦キャンペーンが始まったのは1991年からであるから,このキャンペーンのために「従軍慰安婦」という造語が作られたわけではないのは確実である.
 1973年に千田夏光『従軍慰安婦』(双葉社)がベストセラーになっており,想像するに,慰安婦キャンペーンを始める前の準備段階で同書を参考資料の一つとしたのだろう.

 いずれにせよ,「慰安婦」なのか「従軍慰安婦」なのかについては,秦も吉見義明も
「必要以上にこだわる必要はない」
という意見で一致している.

 【参考ページ Referencia Oldal】
プラトカニス,アロンゾ『プロパガンダ』(誠信書房,1998)
秦郁彦『慰安婦と戦場の性』(新潮社,1999)
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