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2018年07月17日01:26

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映画日記 『晩春』

2018年7月16日(月)

『晩春』(1949年)
監督:小津安二郎
名駅・ミッドランドスクエアシネマ2

見るのは3度目になろうか。
小津安二郎監督の名作。
何度見ても発見があり、飽きることがない。

戦争が終わって4年後に製作された作品だ。
今回、『晩春』には戦争の暗い影がはっきりと見えた。

主人公の紀子(原節子)は早くに母親をなくし、大学教授の父親・周吉(笠智衆)と鎌倉でふたり暮らしをしている。
彼女は東京で久しぶりに会った父親の友人・小野寺(三島雅夫)から、「しばらく見ないうちに、太ったねえ」と言われる。
また、通っている病院からは血沈の値が良くなったと知らされた。
戦中は耐乏生活を続け、敗戦直後は生活能力のない父親を支えるためにリュックを背負って買い出しにも出かけたという。
そんな無理がたたって体調を崩していたようだ。
血沈というから結核のおそれがあったのかもしれない。

紀子の家に友人でバツイチのあや(月丘夢路)が遊びにきた。
少し前にあった女学校の同窓会の様子を紀子に話して聞かせる。
誰それは結婚し、誰それはすでの4人目の子どもができ、誰それはしょうもない男に騙されてしまったと、最後はひそひそ話になった。
きっとそんな会話の中に入りたくなかったのだろう、紀子は同窓会を欠席していた。

父親の助手をしている服部(宇佐美淳)とはいっしょにサイクリングに出かけるほど親しい。周囲もお似合いのカップルと噂してたが、服部は紀子とは別の女性と結婚することになった。
きっと服部は紀子に“ほの字”だったのだろうが、彼女は友だち以上のものを求めなかったのだろう。
結婚を間近にしたある日、服部が意を決して紀子をコンサートに誘う。
しかし、彼女は逃げるようにその誘いを断った。

再婚した小野寺に「不潔!」と暴言をはき、叔母(杉村春子)が持ってきた父親の再婚話に露骨に嫌な顔をする。
父親といっしょに出かけた能の会場で、相手の女性(三宅邦子)を見かけたとたん、紀子は顔を憎しみで歪め伏せてしまう。

ところで原節子演じる紀子は27歳という設定だった。
そのうえで、さきに挙げたいくつかのエピソードから、彼女は処女なんだ、と思った。
“27歳で処女”を、とやかく言いたいわけではない。
たとえば10年前、彼女が溌剌とした17歳だったのは1939年になる。
ノモンハン事件が起こり、ヨーロッパではナチスドイツがポーランド侵攻を始め第二次世界大戦が勃発した。
真珠湾攻撃は2年後の1941年だ。
戦争が始まれば恋愛どころでない。
“のりこ”と言っても茨木のり子の詩

わたしが一番きれいだったとき 誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて・・・・

ようやく戦争が終わったら、今度は病気が待ち受けていた。
他の映画で知ったことだが、戦死や抑留などでそもそも若い男がいない。
ヒロイン紀子がたんなる恋愛に奥手な女性というより、戦争に翻弄されたあげくに男性とふれ合うきっかけを失ってしまった女性に見えた。

まあ、父と娘の情愛という本筋とはまったく関係ない思いつきの感想だ。

京都の宿で、思いあまった原節子が「いつまでも、お父さんのそばにいたい」と懇願すると、笠智衆が「そうじゃない」と、きっぱりと拒絶し、そのあと「自分の人生を生きなさい」と、諄々と諭すシーンは素直に素晴らしい。




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