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2018年09月19日11:03

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木下恵介 新・喜びも悲しみも幾歳月(1986) (新文芸坐)

 新文芸坐、加藤剛追悼特集。1本目。

 Movie Walker https://movie.walkerplus.com/mv17518/

 私は、旧作の「喜びも悲しみも幾歳月」が大好きなので、「新」のほう
は、比較してしまって失望するかも、と思っていたが、全然そんなことは
なく、新たに生まれ変わった作品として、観賞後とても暖かい気持ちに
なった。

 旧作は、そもそも主人公、新婚の有沢夫婦が観音崎灯台に赴任する
年が、上海事変勃発の年であり、夫婦の生活史はそのまま、日本の
太平洋戦争への歩みと重なっている。そのため、旧作は、灯台守の
家族の生活を通じて、日本全体の大きな歴史を語っているといって
よい。それがまた、旧作が「灯台守」という一般の人にはあまり
身近でない職業の家族をあつかいながら、大ヒットした理由といえる
だろう。

 新作は、昭和48年からはじまる。私が昭和38年生まれなので、
この家族がたどった歴史はほぼ、自分の歴史とも重なる。
 旧作との大きな違いは、まず「笑い」が多いこと。
 「喜び」「悲しみ」旧作はなんといっても「悲しみ」の色が濃い。
それは先に述べたような時代の影が大きいだろう。
 新作はまず、「家族の笑い」それが全編にあふれている。
 主人公夫婦にずっと視点が当てられていた旧作と違い、新作は、
舅である植木等が参加し、その最期までを描ききることで、一つ
の家族が、子供達が育ち、親世代は年老い、やがて死ぬ、という
「家族の歴史」を体現する。

 田中健&紺野美沙子の、若い灯台守夫婦のロマンスと結婚が、
家族の外から吹き抜ける一陣のそよ風のような効果をあげており、
灯台守の仲間の人々との心の交流も暖かく描かれる。
 紺野美沙子がとても美しい。

 加藤剛追悼特集ではあるが、私は、この映画のキモは、妻の
大原麗子だと思った。元看護師で、人のためにつくす仕事であった
この女性は、灯台守の厳しい暮らしの中にありながら、決して、
疲れた、すり減った顔を見せない。怒り方までなんとなく、
かわいらしく、この妻あってこその夫の暮らしなのだろうと
思わせる。

 夫の加藤剛も、子として、夫として、父として、の人生の3つの
立場を誠実に生き、父の最期を看取り、子供の旅立ちを見送る、
という筋の通った生き方を示してさすがに好演である。

 大原麗子が子供の船を見送りながらいう台詞「戦争にいく船で
なくてよかった」が、単なるハッピーエンドに終わらない深みを
この映画に与えている。昭和の終盤に作られたこの映画も、
やはり昭和の子なのである。

 
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