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2015年12月09日22:27

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【第41回現代歌人集会賞・選考経過】

【第41回現代歌人集会賞・選考経過】

★土曜の秋季大会で読み上げた元原稿です。(文責・大辻)
★このままお蔵入りするのも惜しいので、ここに貼り付けます。

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 第41回現代歌人集会賞の選考過程について、簡単に報告いたします。 この賞の選考は、集会理事12名による2回の選考委員会によって決定されました。


★第1回選考委員会

 第1回の選考委員会は去る9月25日金曜日、メルパルク京都において行われました。この席上では、会員から募りましたアンケートをもとに委員で議論を重ね、以下の歌集を候補作とすることを決定いたしました。 

 武富純一『鯨の祖先』、
 田丸まひる『硝子のポレット』、
 三島麻亜子『水庭』、
 土岐友浩『Bootleg』

 この4冊の候補作を各委員が熟読の上、最終選考を行うことを確認し、第一回目の選考会は終了しました。


★第2回選考委員会

 第2回の選考会は10月23日金曜日、同じくメルパルク京都で開催しました。出席した委員は10名、欠席の2名につきましては、書面をもって意見を提出しました。
 この選考会では、各委員が4冊の歌集を熟読の上、それぞれの意見を持ち合って、討議を重ねました。以下、それぞれの候補歌集について、選考会で提出された主だった意見を紹介いたします。

●武富純一『鯨の祖先』
「大阪的な明るいユーモアがある」「身めぐりのものから、題材を拾い上げ、それをもてなしの心でもって読者に差し出している」「自分の境涯をエンターテイメントとして差し出している」「照れを含んだユーモアが共感を呼ぶ」という歌集全体の雰囲気を評価する意見がありました。また、「あくまでも具体に即して読んでいる」という作歌姿勢に対する評価の声もありました。
 が、その一方で、「題材がやや俗に流れすぎる」「文法的に危うさがある」という批判も提出されました。
 話題に上がった歌としては、ラーメンのどんぶりを細かな視点で描いた「磨り減りし龍あらわれて尾も四肢も溶け込んでいるスープ飲み干す」、義母の死を歌った「死がひとつ知らされてゆくその中で書き換えらるる無数の予定」などが上がりました。

●田丸まひる『硝子のボレット』
 好意的な意見としては「なりふりかまわない痛ましさに共感を覚える」「前向きの強い意志を感じる」という若い直向さを評価する声があがりました。
 また、口語の韻律に対しては「思いがそのまま韻律になっている」「言葉の勢いがそのまま主題に直結している」と評価する声がある一方、「言葉がつまりすぎて韻律に乗れない」という批判もあり、評価が分かれました。
 また、「一冊の歌集のなかの作者像が分裂していて統一的な像が結べない」という批判がある一方で「その分裂にこそ主体が引き裂かれている実感がある」と評価する声があがりました。
 集中目立つ性愛の歌に関しても「精神と身体がうまくマッチしていないアンバランスさ」を評価する意見がある一方で、「あまりにも冷静に分析されていて知的処理が過ぎる感じがする」という批判もありました。
 話題に上がった歌としては、主体がひきさかれるせっぱつまった情感を描いた「透きとおる部屋、透きとおるわたしたち眠れる眠れないどちらかが」、生きている瞬間の断絶感を歌った「夜ひとつ越えてもいつか死ぬくせに足は絡めたままにしといて」、遂げられないことが分かっている諦念を描いた「小糠雨のようなセックスずっとずっとずっときれいなからだでいたい」などが上がりました。全体として好意的な意見と批判的な意見が相半ばしました。

●三島麻亜子『水庭』
 評価する意見としては「一首一首の完成度が高く採れる歌が多い」「題材と表現のバランスがうまくとれている」「作者の故郷である郡上の歌の風土性がよい」などといった意見があがり、全体として完成度の高い詠風が高く評価されました。
 しかしながら、その一方で「その高い美意識が表面に出すぎている」「相聞の歌が物語性に寄りかかりすぎている」などという批判的な意見も出されました。
 話題となった歌としては、現代性と歴史性が重層的に描かれた「あさゆふに月のひかりを吸い込みて高層ビルの屋上(うへ)の隠し田」、大人の恋を成熟した視線で描いた「手のわざと多しと言へど君の背にまはした十指で拝む観音」「ふるさとに二度の大火を見しといふ君よ歯並がうつくしきひと」、郡上踊りを題材にした「朝明まで踊れば切れる鼻緒ゆゑ夜通し商ふ下駄屋のありぬ」などがありました。

●土岐友浩『Bootleg』
 口語短歌の可能性をあらたに切り開く歌集として評価があつまりました。「ことばをつめこまない余裕がいい」「口語の表現が多彩で単調さを回避している」「良質の文語短歌を読むような韻律の快楽を感じる」「時間の溜めを感じさせる言葉の斡旋が新鮮」「副詞の使い方が繊細でうまい」といった意見が多くだされました。
 また歌集の作品世界については「生きにくさを歌うのではなく、私はいまこういうものを大切にしたいのだという主張がある」「根本的にはひそかな諦念があるのだが、それを奥行きの深い表現でもって滲み出すところでとどめている」「世界に対してしっくり来ていない感じを歌の奥から滲み出て来るように表現している」という意見がありました。
 批判的な意見としては「作品世界があまりに甘すぎて水のような歌が多い」「ロマンチックな歌が甘すぎる」などがありました。
 話題となった歌としては、良質な抒情を感じさせる「勧めようとしている本を読み返す傘とかばんを近くに置いて」、はかないものへのかすかな思いを描いた「習作のようにたなびく秋雲を見ているうすく色が注すまで」、ひそかな諦念を感じさせる「いまはもうそんなに欲しいものはない冬のきれいな木にふれてみる」、確かなモノへの視線を感じさせる「発泡スチロールの箱をしずかにかたむけて魚屋が水を捨てるゆうぐれ」などがあがりました。

 このように4冊の歌集の批評をしたのち、集会賞を決定するための議論に入りました。各人が自分が1位から3位までの歌集を選び投票をしました。この予備的な投票で、1位に押した委員がいた歌集は、『水庭』と『Bootleg』の二冊でした。『鯨の祖先』と『硝子のボレット』は残念ながら一位に推した委員がいませんでしたので、この時点で『水庭』と『Bootleg』に絞って議論をすることにしました。
 
 この2冊のうち、短歌的な完成度の高い『水庭』を押す委員と、新しい口語短歌の可能性を感じさせる『Bootleg』を推す委員の間で激しい議論が展開されました。魅力的な歌集が多く出された前年の集会賞と比べ、本年度は相対的に優れた歌集が少なく、低調であったので、集会賞は「該当者なし」とすべきだという意見もありました。が、最終的に、未知な部分や作風の淡さに一抹の危惧を感じながらも『Bootleg』の新たな可能性に賭けたいという議論が多勢を占め、最終的には出席委員の全員の賛同を得て、『Bootleg』に第41回の現代歌人集会賞を授与することに決定いたしました。
 
 以上、はなはだ簡単ですが選考委員会の報告とさせていただきます。アンケートで意見をお寄せくださった会員のみなさまに心より感謝申し上げます。今年も優れた歌集を選定できたこと、委員一同、ほっとしているところです。

選考委員・大辻隆弘

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