消さなくても通じないアドレス

10年前、私が16で彼が28

逢うのは日曜日か祭日のそれも18時まで。

朝の9時にいつもの待ち合わせ場所に、

必ず先に自動車で待ってくれてる。

最初の見た目は普通の人

緊張して殆ど喋らなかった私

ドライブが好きだった。

本物を見たい、風や香りも感じたい。

まだ幼い私はそんな思いでいっぱい　　　　　　　　　　

当初はそれだけの理由で会っていた
　
それがいつの間にか…

私の家は理髪店で私の学校が休みの日は母が朝からオシャレな編み込みをしてくれてた。

あの人はそれを知らず、お前いつも器用に編み込みするなぁ、可愛いぃよ、と誉めてくれた。

本とのことは内緒にしてた

でも、いつも頭をいじるから、帰りは決まって三編みにして帰る

大変だったんだぞ、いつも家で言い訳するの。

ある日私は寝坊して待ち合わせに2時間も遅れた

もう居ないだろうと走って行った

彼はいた。

もくもくと彼は車を磨いていた

ご免なさい、寝坊したぁ

そうか、今日は白さぎ海岸に行くぞ

少しも怒らずに彼は笑ってる

早く乗れよ

でも、あわてて来た私はパジャマのままです。

うっ、これ、とパジャマ姿を見せる私。

ありゃ、そうか、待ってるから着替えてこいよ、と彼。

そしてつかの間の安らぎの時間、

必ず夕方の6時の門限には送りとどけてくれる。

大きなミッキーとミニーちゃんのぬいぐるみも誕生日にくれた。

捨てられないぬいぐるみ。　

私のささいな嘘を信じて彼の連絡は途絶えた

2年間待って、耐えられず私から電話した

只今この電話は使われておりません。だって

1年少しの彼との想いで

不思議と雨の日は一度もなかった。

夜にデートしたのは花火大会の一度だけ。

仕事が終わったばかりなのに、車の中でスーツから私服に着替えてた

景色、香り、音楽、映画、そして笑声にいたずら。

美しい想いでしかない

だから消えない

時間は止まったままです

これから先、誰と逢って何が起こるのか想像もつかないけど

一生消えないだろう素敵な想いでをのこしてくれて

私は幸せです。

意味のない消せないアドレス。

便利だから暗証番号に使ってる

私も当時の貴方の年齢に近くなり、当時の貴方の気持ちが分かるように成りました。
　
まだ子どもの私に合わせてくれた

酷いこと言ったね私。

もし結婚してたら、ちょっと悔しいけど

お幸せに

忘れられない貴方へ。