mixiユーザー(id:64329543)

2018年09月22日08:30

63 view

ニュートンによる世界観の革新と対称性

<古典力学>
 ニュートンの時代の自然研究は自然哲学(Natural Philosophy)と自然史(Natural History)に分かれていた。自然哲学は現在の物理学、化学に、自然史は生物学、地学におよそ対応している。1686年に出されたニュートンの『プリンキピア(Philosophiae Naturalis Principia Mathematica)』はそれまでの伝統を打ち破り、自然学の内容だけでなく、方法さえも革新した画期的な著作だった。『プリンキピア』は、コペルニクスからニュートンに至る一連の物理学、天文学の研究成果の集大成であり、この新しい研究活動はニュートン革命(Newtonian Revolution)と呼ばれ、科学史上の典型的なパラダイム転換の例として取り上げられてきた。ニュートンの『プリンキピア』は4部からなっている。

1部:目的、定義と公理
2部:(book 1)力に従う物体の運動に関するさまざまな数学的形式の定理、それらの導出はユークリッドの『原論』と同じ形式
3部:(book 2)流体の中での物体の運動と波の運動
4部:(book 3)万有引力の法則と天体運動の観測結果の組み合わせ

この構成は数学的な公理の提示と、それを運動の説明に適用するという二段階からなっている。さて、私たちが観察するのは現象としての運動である。自然に見られる結果は幾つかの異なる原因や力の複合的な結果である。現象としての運動は見かけの運動に過ぎなく、その背後には絶対空間に関しての真の運動がある。ニュートンはこのように考え、見かけの運動や原因から出発して、真なる運動や原因をどのように推論できるかを『プリンキピア』で数学的に示そうとした。
 ユークリッド幾何学の公理に対応するのが、慣性の法則、運動量保存の法則、作用反作用の法則という運動の3法則である。ニュートンは天体の運動の秩序を観測し、その秩序と運動、そして運動の3法則の論理的な帰結から、天体間に働いている力がなければならないことを導き出す。これらの前提から、二つの物体M、M’が互いに引き合い、それがF = GMM’/r2という式によって与えられることを巧みに示した(Gは重力定数、rは物体間の距離)。そして、宇宙に存在するどのような二つの物体の間にもそのような力Fが働いていることを帰納的に推論した。このニュートンの新しい物理学は古典力学と呼ばれ、18,19世紀の物理学のパラダイムとなった。
 では、ニュートンに始まる古典物理学のパラダイムはどのような世界観を私たちに提示するのだろうか。運動の法則も重力の法則も普遍的に成立している。つまり、いつでもどこでも必ず成立している。すると、自然には始まりや終わりはないのだろうか。運動方程式による物理システムの記述や説明が数学的、演繹的になされることは何を含意するのだろうか。このような問題を力学のパラダイム内で解決するのが対称性の原理とラプラス(Pierre-Simon Laplace, 1749-1827)の普遍的な決定論である。以下にこれら二つの主張を見てみよう。
<対称性>
 昔から対称性は私たちが世界を理解しようとする場合に大きな役割を演じてきた。均整がとれ、秩序をもった対象や変化はアリストテレスやガリレオ(1564-1642)の審美眼を満足させただけでなく、真理の基準の一つと受け取られ、真と美の両方を担ってきた。しかし、世界のもつ性質としての対称性は物理学の展開とともに自然法則や物理理論のもつ基本的な性質として捉え直され、時代とともに物理学の中で益々重要な役割を果たすようになってきた。
 対称性(Symmetry)という言葉は線対称や点対称の一般的な表現である。それらが図形を移動あるいは回転しても同じ形が保存されることを意味していたように、変化や運動がいつ、どこで起ころうとそれに同じ法則が適用され、同じ結果が得られることを保証するのが対称性の原理である。いつ、どこで、何に対しても同じことが成り立つことは普遍命題の「すべて」が物理世界で成立することの別の表現になっている。自然の中で変化が生じ、その変化の中で不変に保たれるものが対称的なものである。

(問)「すべてのAはBである」という自然法則の命題を帰納的に考える場合と対称性を使って考える場合の違いはどこにあるのだろうか。使われる論理や数学の違いをヒントにしてみよう。

<変換群>
 物理的な変化の代表は運動であり、運動とは対象の移動である。ある位置の対象が別の位置に移動することは対象を置き換えることであるが、それらを対象の変換(transformation)と呼ぶことにすると、逆の変換が元の状態を復元する場合、すべてのそのような変換は群をつくる。そのような群は変換群と呼ばれる。物理的な運動変化は変換で表現されるから、変換群は物理的な運動変化の集まりを数学的に表現していることになる。以上が力学的な運動変化を群によって数学的に表現する概略である。
 最も単純な力学システムは1個の粒子が1点として表されるものである。粒子は内部をもたないとすれば、空間内に延長をもたない質点(point particle、幾何学的な点)として表現される。粒子は空間内の位置、そして質量、電荷等の物理量の値が与えられれば、空間内で表現でき、それら物理量は一定である。また、私たちは観測者としてそのシステムを外から眺めるが、観測者から物理学的に不必要なものは一切取り除かれる。単純化された観測者の測定だけが座標系の形で残される。座標系はデカルト(1596-1650)によって空間に導入されたが、観測者と観測結果がそこに集約されることになった。粒子と観測者の複雑な関係は点と座標系の関係に還元されて、単純化されて残っている。この座標系についても対称性の原理が成立する。古典力学の場合、どのような座標系を選んでも運動は同じように表現されることが原理によって保証されている。

(問)古典力学の座標系がどのような役割を果たしているか要約しなさい。

<対称的な自然法則>
 このような説明から自然法則の特徴をまとめると次のようになるだろう。

自然法則の普遍性は対称性概念によって物理化される。自然法則を述べた普遍命題を確証する必要があるとき、直接に確かめることはできない(なぜか)。しかし、対称性とその数学的表現である群を用いることによって、数学的な意味で確証を得ることができる。
物理システムの認識論的特徴づけは座標系と対称性概念によってなされる。これは観測者と物理システムの間にある認識論的関係の物理化である。

 では、非対称的な法則はないのだろうか。その例は熱力学の第2法則、いわゆる、エントロピー増大の法則である。対称的でない法則が何を意味しているかは時間の向きなどと関連して、それほど明確ではない。
 物理法則における対称性の再認識は1905年にアインシュタインが相対性の原理(Principle of Relativity)を述べたことに始まる。互いに対して一定の速度で動いている二人の観測者にとって物理学の法則は正確に同じというのが相対性の原理である。異なる視点の同等性というアインシュタインの考えはすべての可能な観測者に対して物理法則が同一であるという考えをさらに追求させることになった。あらゆる運動への同等性を述べるという考えは、それを普遍法則に高め、等値性の原理(Principle of Equivalence)が得られた。この原理は、重力は見かけの力と区別できない、あるいは加速度の効果は重力の効果と全く区別できない、と言うものである。これら二つの原理は対称性原理の具体的な形である。

<ネーターの定理とその発展>
 対称性原理の次の段階はネーター(Emmy Nöther, 1882-1935)の定理(1918)である。この定理によると、物理法則の対称性にはそれに対応する保存則が存在する。この定理の逆も真である。つまり、どんな保存則にもそれに対応する対称性が存在する。対称性と保存則の関係は次のように分類できる。

1空間的対称性は空間の均質性であり、線運動量の保存を含意する。
2回転的対称性は空間の等方性であり、対称軸についての角運動量の保存を含意する。
3時間的対称性は時間の均質性であり、エネルギーの保存を含意する。

対称性と保存性の同等性は、物理システムのある物理量が保存されて時間発展する場合は、それについての法則も普遍的であること、そしてその逆も成立することを意味している。

(問)エネルギーが保存されている対象について、過去から未来を予測することと、未来から過去を推測することはどのような関係になっているのだろうか。
(問)女性研究者としてのネーターの研究活動を調べ、現在の女性研究者の地位と比較してみなさい。

 三番目の段階はこの35年間くらいの間の発見で、ゲージ場と呼ばれる特別の場ですべての物理法則は生まれ、その構造と振舞いは局所的対称性(local symmetry)によって完全に述べることができるというものである。時空のどのような点に視点を取っても等値性が主張できるというのが、法則が局所的に対称的ということである。
 こうして、ニュートン以来の物理学は対称性概念によってその普遍的妥当性を拡大し、それが現在も維持されていることがわかる。少々込み入った話になったが、ニュートンに始まる力学は時間的変化を対称性の原理によって数学的に処理し、数学を使った推論によって自然現象を理解することに成果を上げたことが述べたかったことである。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する