上野オークラで池島ゆたか監督の新作「変態おやじ ラブ・ミー・イッてんだぁ〜」を観る。失業した中年男の話、なかみつせいじさん主演なので、「おやじ男優Z」を思わせる。しかしあちらは家族が去る場面から始まるり、生活に窮した男がAV男優として生きることで他者との繋がりができる。こちらは淫夢から始まり、主人公は生活費に困ることはなく、いきなり恋愛講座に通うことで他者と繋がろうとする。似た話だがアプローチが違う。
恋愛講座の女性講師はとにかく厳しくて、主人公らは早々にへこむ。おやじたちもMe Too運動の時代にしては、アナクロな女性観であり仕方ないのだが。辞める相談をしていたところ、若い女性アシスタントが現れ、さっそく翻意するのがおかしい。最初の淫夢の相手であり、主人公がこの女性と付き合うようになると思ったが、これが意外な方向へ。
この女性が実は風俗で働いていたり、女性講師が暴力夫に悩まされていたり、登場人物たちが多層的に描かれているのがいい。
また話に絡んでこないと見えた息子の妻が、主人公の失業をいち早く察し、気遣う様子を見せる展開が意外。2人が川辺で弁当を食べ、公園でブランコに乗る。ここでファーストシーンから何度も流れていた「ゴンドラの唄」を妻が歌うのだ。明らかに「生きる」を意識した場面だが、2人の感情が繋がる場面であり、黒澤とは違った効果がある。
どうしようもない息子も、最後に感謝の気持ちを伝える。介護士の資格を持つ女性と結婚したのも、妻の言う通り独身の父親のことを考えたのかも知れない。暴力夫のみ悪役だが、「昔はまともな人だった」の台詞もあるし、やはり多層的だ。
これら登場人物と関わることでおやじたちが変わっていく面白さ。幕切れも「おやじ男優Z」同様気持ちがいい。いつもやる気のないオークラのお客さんも「ゴンドラの唄」を一緒に歌ったり、熱心に映画を観ている雰囲気が感じられた。今週のオークラは楽しかった。
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