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2016年02月28日05:25

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初めて知る事実には驚くが、わざと時間軸をずらした構成にはとまどう。「ノンフィクションW ハリウッドを救った歌声 〜史上最強のゴーストシンガーと呼ばれた女〜」(WOWOWで放送)。

ちょっとした映画ファンなら、マーニ・ニクソンの名前を知らない人はいないでしょう。いや、彼女の名前を全く知らない映画ファンがいても、時代の流れではあるけれど、少なくともコースト・シンガーというものがハリウッドに存在したという事実は知っておくべきだと思います。

1952年のハリウッド・ミュージカルに「雨に唄えば」という作品があり、その中でデビー・レイノルズが人気女優のゴースト歌手として起用されるエピソードがあります。この時点でハリウッドでは、主演俳優の歌を吹き替えるという事実が、当然のように行われていたという証明です。

マーニ・ニクソンは、「王様と私」でデボラ・カー(写真3、右がニクソン)の歌声を担当し、ニクソンは“守秘義務”を守って沈黙していたのに、デボラ・カーがその事実を新聞記者に語ったことから、マーニ・ニクソンというゴースト歌手の存在が明らかになりました。これが1956年のこと。だから「ウエスト・サイド物語」のナタリー・ウッドの声が、マーニ・ニクソンによるものだというのは公開当時から知られていました。

さらに、舞台でジュリー・アンドリュースが演じてロングランを記録した「マイ・フェア・レディ」がワーナーで映画化されるとき、主役はジュリー・アンドリュースではなくオードリー・ヘプバーンとなり、歌声の高音部はマーニ・ニクソンの吹き替えとなったわけです。ジュリー・アンドリュースは「メリー・ポピンズ」に主演してアカデミー主演女優賞を獲得、“ジャック・L・ワーナーに感謝します”と皮肉な謝辞を述べました。

そしてそのジュリー・アンドリュース主演の「サウンド・オブ・ミュージック」に、マーニ・ニクソンは尼僧ソフィア役で出演します(写真1中央)。撮影現場で初めてジュリー・アンドリュースと会うことになったマーニ・ニクソンは、どう話しかけようかと心配だったのですが、ジュリーの方から寄ってきて“ハイ、マーニ”と声をかけ、二人は一気に打ち解けたそうです。そんな話も、DVDの特典映像などで知っていました。

しかし、マーニ・ニクソンが「紳士は金髪がお好き」のマリリン・モンローの声(高域の一部)を吹き替えていたというあたりは初めて知りました。そして最近はニューヨークに住んで、まだブロードウェーなどで活躍しているということも初めて。僕はせいぜい、「LAW&ORDER 性犯罪特捜班」にゲスト出演した姿を記憶している程度です。“死ぬまで現役よ”と語るニクソンの姿が神々しい。

ということで45分程度のドキュメンタリーを、感慨を持って見終わりました。しかし腑に落ちない部分があります。ニクソンが「ウエスト・サイド物語」の“ロイヤリティを要求した”と語る場面の後、デボラ・カーが事実を新聞にばらした話になる部分です。なぜわざわざ5〜6年の歳月をひっくり返す必要があったのか。

思うに、このドキュメンタリー制作者たちは、ニクソンが要求した“ロイヤリティ”をレコードの歌唱印税のことだと気づかなかったのではないか。あのころ記録的なセールスとなったLPについて、ニクソンが“歌唱印税を要求した初めてのゴースト歌手”だったと、僕は近年耳にしていたわけです。だから、その顛末を知りたかったのに結論に触れず、話を「王様と私」に戻してしまっています。

そもそも「ウエスト・サイド物語」では、リチャード・ベイマーもラス・タンブリンも歌声を吹き替えられているし、リタ・モレノだってすべてを彼女が歌ったわけではありません。「王様と私」ではリタ・モレノの歌声さえゴースティングです。とはいえ、デボラ・カーとマーニ・ニクソンは祖先が同郷だったとかで、細かいイントネーションが似ていたそうな。だから「めぐり逢い」の歌声もマーニ・ニクソンが吹き替えたわけですね。

とても興味深いドキュメンタリーだし、マーニ・ニクソンがご健在だと知り本当にうれしい。imdbにも未記載の、ニクソンの三度目の夫が鬼籍に入った事実など、この番組で初めて知ることがいろいろありました。それは貴重でありがたいけど、もう一歩踏み込んで“事実を検証する”姿勢を貫いてほしかったと思います。
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