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2015年10月10日23:44

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メスクリンの地図を考える(7)緯度と重力の関係(未完……)

 今回はメスクリンの重力の問題を考えていく。
 作中には緯度や経度の情報が全くなく、書かれているのは限られた距離と方位、それに事件の起きた場所の重力だけである。場所を知るには重力が最大の手がかりなので、緯度について重力を求める必要がある。
 この問題を真面目に考えると手に負えないほど難しくなるので、ここでは手抜きして最も簡単な方法で考えてみる。

 まずはクレメントがどのようなモデルで考えていたのかを知らなければならない。では、「メスクリン創世記」をもう一度見てみよう。
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「一つの回答が見つかったのは、まだ手元においてあった大学一年当時の天文学の教科書だった。ここで思い知らされたのは、惑星の質量の内部分布を計算に入れなければならないということだった。つまり、質量が均等な密度であるか、それともコアにほとんど全部が集中しているのか、ということである。この惑星のコアが巨大な密度を持っているにちがいないこと、圧力の低い外殻がおそらく通常の物質でできていると考えられることから、わたしは後者を選んだ」(「メスクリン創世記」『重力の使命』p305)。

「白状すると、極での重力の正確な値はわからない。この惑星はひどく扁平なため、通常の球体に当てはまる法則、つまり、表面重力の計算にあたって、すべての質量が中心に集中しているという考え方では、この惑星の密度が均等だと仮定した場合、近似値すら出てこないのだ。質量が中心に大きく集中していると考えれば、ずいぶん助かる。この小説で使った地球重力の700倍という概算も、それほど的外れではないと思う(教えられたときにはもう手遅れで使えなかった別の公式によると、わたしの見積もりは二倍ほど大きすぎたらしい。しかし、どちらの公式がより大まかな概算なのか、わたしには見当がつかない)(前掲・p306)

 そこで最も簡単な考え方、メスクリンの質量が一点に集中していて、形状による質量の偏りは無視する考えで計算してみよう。質点でなく質量が大きさを持っていても、メスクリンの中心部で球対称の固まりになっていると考えれば同じ結果になる。この場合は地球のまわりの空間に回転楕円体の曲面をとって、その表面に働く重力を考えるのと同じことだ。周知のニュートン力学で、結果は質点による重力と同じになる。
 引用を見るとクレメントもそうやって計算したように見える。当時はまともなコンピューターもなく、しがない高校教師のクレメントに利用できたツールが計算尺と数表しかなかったことを考えると、できるだけ簡単なモデルを使って計算したと想定するのはもっともらしい。

 まず、普通の公式を確認。遠心力で重力が弱められるわけだから重力を正、遠心力を負とする。
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遠心力の式ではrは自転軸からの距離なので、緯度θについての式は
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となる。
計算するにはいろいろの定数を決定しなければならない。まずメスクリンの自転周期を確かめてみる。赤道上では重力が3Gになる。rをメスクリンの赤道半径とし、地球重力をgとすると、
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だから、
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となる。角速度ωが出れば、あとは
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を使ってメスクリンの自転周期が得られる。

 では具体的な数値を入れてみよう。地球の重力加速度がだいたいg=9.81m/s^2で、メスクリンの赤道半径はr=2.4万マイル=3.84×10^7m。そしてG=6.67408×10^-11[m^3kg^-1s^-2]を入れる。

 あとは質量だが、これには若干の問題がある。クレメントによるとメスクリンの質量は、「太陽の約千分の十六」であり、「木星の約十六倍」でもある(前掲・p301)というが、実はこの二つの数値は微妙に違う。
 Wikipediaによると太陽質量:M☉=1.9884×1030 kg、木星質量:1.899×1027 kg なので、
太陽質量=2×10^30
木星質量=1.9×10^27
としておく。するとメスクリンの質量は3.2×10^28圈並斥杣僧未0.016倍)もしくは3.04×10^28圈別收閏僧未16倍)となるが、クレメントが使った数値はどちらかが問題だ。きちんと計算するには、ここをはっきりさせる必要がある。

 手がかりはある。クレメントはストランドの観測にもとづいてメスクリンをデザインした。ではストランドが求めた値はどうなっていたか。
 そこでSFマガジンの石原藤夫連載「光世紀世界と特殊相対論」に当たってみた。1980年3月号にバーナード星とはくちょう座61番星の惑星の話題がある。どちらも今では否定的とされているが、いまはクレメントの時代にどう考えられていたのかを知りたいので、情報が古いことはかえって好都合だ。
 で、1980年3月号101ページによると……
 公転の平均距離2.4天文単位、周期4.8年、質量は木星の8.4倍。
 え?
 クレメントの設定の半分しかない。何だこれは。

 同ページには「現代天文学事典」が出典とある。荒木俊馬の『現代天文学事典』なら持っているので確認してみた。478ページ「惑星的暗黒伴星」の項目に観測値から不可視伴星の質量を求める計算が書いてあり、その結果は周期4.9年、軌道長半径2.4AU、質量は0.016太陽質量。たぶんこれがストランドの報告した数値だろう。同じページには「木星質量の約16倍に過ぎない」とも書いてあるが、計算で出した値はあくまでも「太陽の0.016倍」である。

 ということはクレメントが採用した値も3.2×10^28圓隼廚錣譴襪、しかし石原博士はどうして出典の『現代天文学事典』と全然違う値にしたのだろう。わけが分からない。ともかくM=3.2×10^28圓箸靴討澆襦
 エクセルで計算するとω=0.006079ラジアン毎秒となり、自転周期はP=1033.627秒、すなわち17分13.62秒。
 クレメントの設定した自転周期は「17分と四分の三」で、17分45秒くらいということだ。これは1065秒になるので計算と30秒ほど食い違っている。
 同じ重力にするのに必要な自転速度が速くなったということは、質量を大きめに見積もっていたことになる。M=3.2×10^28圓茲蠑し小さくして、3×10^28圓任呂匹Δ。するとP=1068.264秒になる。17分48秒。おお、どんぴしゃりではないか!

 計算誤差の問題もあるので断定はできないが、メスクリンの質量は3×10^28圓塙佑┐椴匹気修Δ澄クレメントが計算しやすいようにきりのいい数値を選んだとすれば理屈に合う。

 これでメスクリンの質量と自転周期が決定できた。これで任意の緯度における重力を求めることができそうだ。

 しかし、この考え方で正しいかどうか、確かめるべきことがあと一つある。極点の重力はどうなるか。(m4)式でθ=90度にすると遠心力の項が消えて引力だけになる。そこで半径を1万マイル(正確には、9870マイルだが)にとればいい。計算すると、
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 地球の重力加速度9.81で割ると、約797.15G(9870マイルとして計算すると、821G)
 クレメントの計算では665g。1.2倍ほど大きいか……うーむ……

 ということはクレメントは質量が中心に集中しているモデルで計算していないのだろうか。ではどんな計算なのか。これは困ったことになった。
 しかし、先ほどの自転周期の計算結果がほとんど一致していることを考えると、完全に的外れとも思えない。どう考えたらいいのだろう。
 クレメントの使った「大学一年の天文学の教科書」が分かればなあ……

 しかし、ここで一つ気がついたことがある。
 1976年という早い時点で、クレメントの求めたメスクリンの形状には誤りがあるという指摘がされてきた(大川誠「メスクリンは平たすぎる!」SFマガジン1976年2月号)。
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 このことは以前に少し触れたが、ここでより詳しく紹介する。クレメントのいうように惑星の質量の大部分が中心に集中している場合、回転による扁平度には限界があり、大川氏によると長半径は短半径の1.5倍が限度である。それ以上になると赤道上が0Gになってしまう。しかもそのときの惑星の形は単純な楕円体ではなく、赤道部が尖ったレンズ状になる、というものだ。これは天文学のテキストにも書かれていることがある。荒木俊馬『天体力学』p375の「ロシュの臨界形状」がこれであるらしい。
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『天体力学』p375

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『現代天文学講座6 恒星の世界』p112

 しかし大川氏の指摘は「質量が中心に集中していると仮定すれば」の話で、ここまで検討した結果、クレメントはその仮定を採用していなかった疑いがある。先ほどやった極点の重力の計算はあまりに単純なので、クレメントがこんなところで計算ミスをするとは考えにくいからだ。(もし単純な計算ミスならそれまでだが、だとしたら先に進む手がかりがなくなってしまう。それはあんまり考えたくない)

 作中の重力が計算の80パーセント程度になるということは、メスクリンが扁平になった分、質量が赤道方向にいくらか移動しているからなのかもしれない。つまり質量の集中が質点もしくは球形ではなく、メスクリンの中心に楕円体が埋まっているようなモデルにして、そこからの引力を計算したかもしれないということだ。『天体力学』にはそのような場合も示されている(377ページ)。

 しかし楕円体からの引力はどうなるのか。つまり遠心力の影響とは無関係の、楕円体から離れた場所が受ける引力である。こんな問題は見たことがない。『プリンキピア』にそういう計算があるらしいので、和田純夫『プリンキピアを読む』でも当たってみるか。さもなければ、もっと本格的に『天体力学』もしくは『ラプラスの天体力学論』第2巻か。
 どちらにしてもこれまでよりかなり難しい数学が出てくること必定なので、勉強に多大の時間を要するだろう。しばらく先へは進めそうにない。

 ここから先は宿題としておくしかなさそうだ。(俺たちの戦いはこれからだ!?)


 尻切れトンボではあんまりなので、以下おまけ。

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 参照した「光世紀世界と特殊相対論」掲載のSFマガジン1980年3月号と、現在のところ唯一の書籍化『光世紀の世界 総合解説』(1984年)。両方調べたら、前者が「木星の8.4倍」、後者が「木星の8倍」だった。(ずいぶん念のいった間違い方もあったものだ……)

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 石原博士の出典、荒木俊馬『現代天文学事典』(初版1956年。これは1971年の4訂版)。データは古いが、ここにしか載っていない情報も多い。

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「メスクリンは平たすぎる!」掲載のSFマガジン1976年2月号。クレメントの短編も載っている。


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