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2018年07月18日11:31

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大豆貿易に意外な事実、貿易戦争は米国の勝利が濃厚

 下記は、2018.7.18 付の JBpress に寄稿した、川島 博之 氏の記事です。

                       記

 米国と中国の貿易戦争が激化している。それに関連して、大豆貿易について書いてみたい。

 日本人は世界の食料事情について、農水省や農学部の先生から誤った情報を聞かされ続けてきた。彼らは、食料を輸出している国が干ばつなどによる不作や政治的な理由によって食料を輸出しなくなる事態を語っていた。日本は多くの食料を輸入している。食料を輸出している国が食料を輸出してくれなくなると飢えてしまう。だから、食料自給率を高めなければならない──。皆さんはこんな話を聞かされてきたはずだ。


輸入国が輸出国を恫喝している


 しかし、その延長上で今回の米中貿易戦争を理解することはできない。

 図1に中国の大豆の自給率を示す。現在、中国は8000万トンを超える大豆を輸入しており、自給率は12%にまで低下している。わが国の食料自給率は約3割だから、個別品目とは言っても、中国の大豆自給率は極端に低い。


図1 中国の大豆自給率(データ:FAO)コピーライト Japan Business Press Co., Ltd. 提供 図1 中国の大豆自給率(データ:FAO)

(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53552

 この低い自給率を中国は武器として使おうとしている。米国が中国の工業製品の関税をアップすると、中国はその報復として大豆に対する関税をアップすると言い出した。それは、「米国から大豆を買いません」というメッセージに他ならない。

 これは農水省や農学部の先生がこれまで言って来たこととの真逆である。政治的理由で、輸入している国が輸出している国を恫喝しているのだ。


中国が買うから大豆の生産量が増えた


 図2に世界の大豆貿易量を示す。21世紀に入って中国の大豆輸入量が急増している。現在、わが国の輸入量は300万トン程度に過ぎず、中国と比べると問題にならない水準になってしまった。日本が世界の食料を買いあさると言われた時代は、とっくの昔に終わっている。


図2 世界の大豆輸入量(単位:100万トン、データ:FAO)コピーライト Japan Business Press Co., Ltd. 提供 図2 世界の大豆輸入量(単位:100万トン、データ:FAO)

 中国は世界で取引される大豆の6割強を輸入している。その大豆は、油を搾るとともに、絞り粕を豚など家畜の飼料として使用している。

「中国が経済発展すると食肉の消費量が増える。人口の多い中国は食肉を生産するために大量の飼料を輸入するようになる。それは世界の穀物市場を混乱させる」 これは1995年にレスター・ブラウン氏がその著書『だれが中国を養うのか』の中で主張したことであり、覚えておられる方も多いと思う。

 中国は飼料として用いるトウモロコシについてはほほ自給しているが、大豆についてはまさにレスター・ブラウン氏の予測は的中した。

 しかし、問題はその次である。中国が大量に大豆を輸入するようになったことで、世界の大豆市場は混乱したのであろうか? 答えは明らかにノーである。中国が米国から輸入する大豆の関税をアップすると言い始めるまで、大豆貿易が話題なることなどなかった。

 その理由が図3にある。


図3 世界の大豆輸出量(単位:100万トン、データ:FAO)コピーライト Japan Business Press Co., Ltd. 提供 図3 世界の大豆輸出量(単位:100万トン、データ:FAO)

 これは世界の大豆生産量を示したものだ。21世紀に入って大豆の生産量が大きく伸びている。特にブラジルで増加している。そして、米国でも増加している。その理由は、中国が大量に買ってくれるからである。

 世界には大量の食料生産余力が存在する。中国が「もっと買います」と言えば、米国やブラジルがその注文を受けてくれるのだ。

 このことは、中国が米国を恫喝できる理由になっている。つまり、中国はブラジルからの輸入量を増やして、米国からの輸入量を減らすことができるというわけだ。


中国は大豆の輸入を減らせない


 この中国の戦術は成功するのであろうか。貿易戦争であるから、一方だけが被害を受けることはない。大豆の関税をアップさせれば、中国にも被害が出る。その被害を予測してみよう。

 先ほど述べたように、中国はブラジルからの輸入量を増やしたいが、農作物であるからブラジルが急に生産量をアップさせることは難しい。そのために、すぐに全量をブラジル産に置き換えることはできない。また、北半球にある米国と南半球にあるブラジルでは大豆の収穫期が異なる。そのために、ブラジル産だけを輸入するとなれば、大豆を保存する倉庫を拡張しなければならない。それには費用がかかる。このような事情があるために、大豆の関税をアップしても米国からの輸入が止まることはないだろう。

 ただし大豆は品薄になり、また関税を上げた分だけ中国の国内の大豆価格が上昇することになる。それは豚肉や鶏肉の価格に跳ね返る。

 しかしながら、豚肉や鶏肉の価格上昇位を習近平政権は容認できない。それは、庶民が食料品の価格アップに敏感であるからだ。特に、豚肉は中国人の生活にとって欠かせないものであり、その価格がアップするとなれば庶民は政権に対して批判的になる。

 そもそも今回の貿易戦争は、習近平が国内の政治的な事情を考えて「2035年に中国が米国を上回るような大国になる」と言い始めたたことがきっかけになった。情報統制が行われていると言っても、庶民はこの程度のことは理解している。

 庶民は、豚肉の価格がアップすれば「習近平が余計なことを言ったために自分たちの生活が苦しくなった」と思う。これは習近平にとって最悪の事態である。

 習近平はかなり無理をして独裁的な地位を維持している。しなくても良かった貿易戦争をトランプ政権と行う羽目になり、その結果として豚肉価格がアップしたとなれば、その失政を対立派閥(共産党青年団と江沢民派)に突かれることになろう。

 そんな背景があるために、中国政府は関税をアップして、その差額を業者に補填すると言い出した。しかし、差額を補てんするために価格が上昇しないのであれば、豚肉の需要は減らない。その結果、これまでと同じ量の飼料が必要になるから、大豆の輸入量は変わらない。短期間にブラジルからの輸入量を増やすことは難しいから、今後2〜3年は米国から同程度の大豆を輸入することになる。

 しかし、それでは武器にはならない。報復関税の対象として大豆が真っ先に上がったことから考えても、米中貿易戦争において中国が持つ武器は限られている。米国はその辺りを冷静に見極めて、貿易戦争を仕掛けたと思われる。

 報復関税を政府が補てんするなどという“ドタバタ”を見れば、中国政府の慌てぶりがよく分かる。この辺りのことから考えても、米中貿易戦争は米国の勝利に終わると踏んでおいた方がよいだろう。

 https://www.msn.com/ja-jp/news/money/%e5%a4%a7%e8%b1%86%e8%b2%bf%e6%98%93%e3%81%ab%e6%84%8f%e5%a4%96%e3%81%aa%e4%ba%8b%e5%ae%9f%e3%80%81%e8%b2%bf%e6%98%93%e6%88%a6%e4%ba%89%e3%81%af%e7%b1%b3%e5%9b%bd%e3%81%ae%e5%8b%9d%e5%88%a9%e3%81%8c%e6%bf%83%e5%8e%9a/ar-AAAdRBj#page=2
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