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2016年12月06日09:45

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トランプ時代の始まり〜暴走か変革か2

●異端児・暴言王の勝因は何か

 トランプは、米国政界の異端児であり、選挙期間中、共和党内でも反発が多く上がった。暴言王であり、セクハラの常習者であり、大統領に品格を求める米国民の顰蹙を買った。だが、そのトランプが大統領選を制した。ヒラリーよりはましという選択をした人々も多かったようである。超大国・米国は長期的な衰退を続け、社会は混迷し、人心は荒廃している。それとともに明らかに指導者の質も低下している。
 どうしてこのような人物が、大統領選に勝てたのか。

 トランプは、米国人口の約35%を占める高卒以下の低学歴の白人労働者に目をつけた。オバマ政権下で、彼らは、不法移民を含む有色人種の移民に仕事を奪われたり、移民の存在によって給与が下がったりしている。そのことに対する不満が鬱積しているのを、トランプ陣営は読み取った。
 本来共和党は富裕層に支持者が多く、主に大企業・軍需産業・キリスト教右派・中南部の保守的な白人層などを支持層とする。民主党は労働者や貧困層に支持者が多く、主に東海岸・西海岸および五大湖周辺の大都市の市民、ヒスパニック(ラティーノ)、アフリカ系・アジア系など人種的マイノリティに支持者が多い。ユダヤ系には民主党支持者が多い。民主党にはニューヨークのユダヤ系の金融資本家から多額の資金を得ているという別の一面がある。またロックフェラー家が民主党最大のスポンサーとなっている。
 貧困層に支持を訴えるのは民主党の定石だが、トランプは共和党でありながら貧困層に訴えた。白人と有色人種の人種的な対立を刺激し、白人の支持を獲得しようとしたのである。トランプは、低学歴の白人労働者の鬱憤を代弁し、また煽り立てた。君たちの生活が苦しいのは、君たちが悪いのではない、悪いのはあいつらだ、と敵を作って大衆に示す。それによって大衆の怒り、不満、憎悪等の感情を描き立て、その感情の波に乗って権力を採るという手法を取った。マスメディアを信用せず、批判を繰り返し、直接大衆に訴えた。一種のポピュリズム(大衆訴求主義)である。そうすることによって、トランプは白人と黒人、ヒスパニック等の有色人種、キリスト教徒とイスラーム教徒等の間を分断し、自分の支持者を獲得していった。
 民主党の候補者ヒラリー・クリントンは、大統領夫人、上院議員、国務長官等を歴任し、米国の支配層を象徴する人物と大衆から見られている。民主党の指名選挙では、貧困層に社会民主主義的な政策を説いたユダヤ系のサンダースが善戦したが、サンダースの支持者にすれば、ヒラリーこそ批判すべき支配者集団の一員である。政界で巨額の富を築き上げただけでなく、クリントン財団への不正献金が追求された。だが、ヒラリーは高い知名度と、豊富な資金力によってサンダースを打ち破った。
 ヒラリーが民主党の候補者となっても、民主党支持者の中にヒラリーは受け入れられないという者が多数いた。また、当然共和党支持者の多くは、ヒラリーを支持しない。だが、アメリカのマスメディアは、選挙期間中、ヒラリーがトランプより優位という予想を流し続けた。マスメディアの関係者には民主党支持者が多く、メディアの大半が民主党寄りである。またメディアの多くはユダヤ系または親ユダヤである。投票日直前の段階で、ニューヨーク・タイムス紙は、ヒラリーが勝つ可能性は80%以上と予想した。投票当日にもABCテレビは、開票1時間後にヒラリーが勝つ可能性は71%、トランプのそれは28%と予想した。それが開票が進むにつれ、全く予想と逆の展開となり、開票5時間後には、ABCテレビはトランプ78%、ヒラリー20%と真逆の予想を流す羽目になった。

 米国大統領選挙は直接選挙ではなく、勝者は州ごとの選挙人団をどれだけ確保できるかで決まる。支持率で下回っても、選挙人団を多く獲得すれば勝利する。逆に支持率で上回っても、獲得する選挙人団が少なければ、破れる。勝利に必要なのは、選挙人数539人の過半数となる270人の獲得である。総得票数を伸ばすよりも、各州の選挙人を獲得する戦術が重要になる。特にスイングステーツと呼ばれ、選挙の度に、共和党が勝ったり、民主党が勝ったりする州で勝つことが、勝敗を大きく左右する。
 トランプ陣営は、それまで大統領選挙の投票にあまり行かなかった約白人500万人の票に狙いを定めて、選挙運動を行った。彼らの多くは、新自由主義とグローバリズムによって、職を失ったり、収入が激減したりして、既成の体制に最も強い不満を持っている人たちである。もともと投票に行かなかった集団ゆえ、従来の選挙予測の方法では行動が読みにくい。マスメディアは、彼らの動向をとらえることが出来ていなかった。世論調査では出てこない「隠れトランプ支持者」が多数伏在していた。激戦州では、彼らの票が勝敗に大きく影響したと見られる。
 ただし、トランプが306人の選挙人を獲得したと言っても、ヒラリーに圧勝したとは言えない。得票数では、ヒラリーが200万票以上、上回っているからである。トランプは、得票数で負けて選挙人数で勝った5人目の大統領となる。だが、ヒラリーへの票がトランプへの票を上回ったということは、投票した過半数の有権者はトランプに反対しているということである。彼らが選挙結果に対して抱く不満は、容易に鎮静しないだろう。
 また、低学歴の白人労働者の票がトランプに投じられ、勝敗を左右したと見られる一方、ABCニュースが投票日当日行った出口調査では、世帯年収3万ドル以下の世帯のうちトランプに投じたのは41%、ヒラリーに投じたのは53%だった。また、世帯年収5万ドル以上の世帯では、すべての層でトランプが上回った。大卒でもトランプが49%、ヒラリーが45%だったという。この調査結果がどの程度正確なものかわからないが、この数字に拠る限り、伝統的に共和党の支持者は富裕層に多く、民主党の支持者は貧困層に多いという基本的な傾向は変わっていないことになる。過去の大統領選挙の時の調査と比較対象する詳細な分析結果を待つ必要があるだろう。
 もう一つは、11月8日に同時に行われたほかの選挙の結果と合わせてとらえることである。4年に1回の米国大統領選挙は、連邦議会の上下両院の選挙を伴う。大統領と連邦議会議員が同時に全部選び直される。今回の選挙では大統領に共和党のトランプが選ばれるとともに、連邦議会では上下両院とも共和党が多数を占めた。共和党が権力を掌握し、政策を強力に進めることが可能な状況となった。州知事や州議会でも、共和党が躍進した。
 オバマ大統領自身は2期8年の最後に至っても、50%以上の支持率を維持している。しかし、彼が率いる民主党は、国民多数の支持を失ってきた。それが今回の結果にはっきり出た。ヒラリー・クリントンの敗北は、彼女の敗北だけでない。民主党が大統領選挙でも連邦議会選挙でも州議会選挙でも、大敗北を喫した。ヒラリーが嫌われただけでなく、民主党離れが起こっていたのである。これから、トランプ大統領のもとで、オバマ政権時代に実施された多くの政策が否定され、米国の政府は正反対の方向に政策を転換するに違いない。民主主義社会の大衆は、長く一つの政権が続くと不満が蓄積し、とにかくいままでと違う政治を望み、変化を求める傾向がある。特に米国は二大政党の間で政権交代が起こりやすい社会ゆえ、その傾向が強い。

●分断による勝利のため統合は困難

 トランプは共和党の異端者で、主流ではなく非主流ですらない特異な存在だった。もとは民主党の支持者でクリントン夫妻を支援していた。共和党は選挙期間中、この異端者をめぐってトランプ支持と不支持に分かれ、有力者多数がヒラリーを支持すると公言したことにより、分裂のモーメントをはらんでいる。こうした共和党のとりまとめは、トランプ政権の大きな課題の一つである。
 また、トランプVSヒラリーの選挙戦は、互いに相手を激しく罵り合い、米国は大きく二つに分かれた。米国の大統領選挙ではいつものことだが、今回は史上最低の選挙戦といわれる中で、かつてなく対立が激しく、熱くなった。トランプは、意図的に白人と有色人種、キリスト教徒とイスラーム教徒等を分断した。この分断は、米国社会全体の分断である。人種差別や性差別等をなくし、社会の統合を図ってきた米国の長年の取り組みを、逆方向に戻すような分断である。米国社会を分断し、主に白人労働者の不満をエネルギーとすることで、権力を握ったと見られる大統領が、米国を一つの国家に統合していくのは、容易なことではないだろう。自分が国民を分裂させて対立感情に火をつけ、煽った人間が、大統領の座を手に入れると、大衆に向かって、選挙は終わった、一つになろうと訴えても説得力がないだろう。
 トランプの熱心な支持者の一部は、トランプをただの破壊者ではなく、アメリカ社会の変革者だと仰ぐ。トランプは言う。「Make America great again(アメリカを再び偉大にしよう)」と。彼らは、トランプは、ヒラリーが象徴する既成の支配者集団(エスタブリッシュメント)に挑み、これまでの体制を変革してくれる指導者だと信じているようである。だが、トランプは、ゴールドマン・サックス幹部出身者のスティーブン・ムニューチンを財務長官に指名したり、資産家で著名投資家ウィルバー・ロスを商務長官に指名するなどの閣僚人事において、エスタブリッシュメントとの関係保持を示している。トランプは、新たなメンバーとして、支配者集団に迎え入れられたのである。
 アメリカ合衆国には、国王がいない。君主制国家の英国から独立した国だからである。だが、人間には国王のような象徴的で権威的な存在を、集団の中心として求める心理傾向がある。米国の大統領は、平等な個人の中から選ばれた政治的指導者だが、国王の心理的な代替物のような性格を持つ。政治の実務を担う首相と、国家・国民統合の象徴性を担う大統領の両方を定めている国が少なくない中で、米国では、大統領の一身に政治的指導者と象徴的指導者の両面を凝集している。それゆえ、4年に一度の大統領選挙は、選挙によって国王の代替者を選ぶのに似た機能を持つ。民主的に合法的に国王が交代し、王朝が交替するようなものである。トランプ大統領の誕生は、いわばトランプ王朝の誕生であり、トランプ家は、アメリカの新たな王家に成り上がる。オバマ家の黒人王朝から、トランプ家の白人王朝への交替である。政治家である大統領が国王のごとき存在となる証に、その妻が「ファースト・レデイ」という名の王妃のごとき存在となり、その子たちが大統領夫妻とともに、大衆の前に姿を現す。子らは、国王と王妃を取り巻く王子や姫君のような存在となる。そのため、新たな王家のごとき集団は、おのずと支配者集団(エスタブリッシュメント)の一角を占める存在となっていく。ドナルド・トランプを変革者と仰ぐ支持者たちの期待は、やがて裏切られることになるだろう。

 次回に続く。
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