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2016年09月13日20:09

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フルアナログなのに非・減算方式シンセ:Make Noise "0-Coast"(後編)

前編はこちら↓
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1955454686&owner_id=498257

(承前)


●エディットの自由度と可能性


見慣れないシンセシスなので、まずは、内部結線されている音声信号経路の順番に、各セクションを紹介する。

おおざっぱに概要説明するなら:

・まず VCO1基で三角波と矩形波とを出力
・次にオーバートーンとマルチプライとによる2つのセクションで倍音増大
・バランスセクションで基音と倍音とのミックス比を決定
・ダイナミクスセクションで、それまでに生成した倍音の量を調節して出力

.....となる。

この内部結線されている様子は、フロントパネルにおいて金色の矢印で表現されているので分かりやすい。ただ、おおむねフロントパネルの左から右へと信号が流れるようになっているものの、この矢印線をたどると、かなり蛇行して進むため、最初はめんくらうが、ひとたび覚えて慣れてしまえば楽。


まず最初に、VCO からは三角波と矩形波との二つが同時に発生し、おのおの個別に並列で出力される。つまり音源波形は選択式では無く、両方の波形が同時に個別に出る。音源波形は、下流のセクションへ内部結線されているだけでなく、三角波のみを出力する端子と、矩形波のみを出力する端子と、二つのパッチポイント端子が並んで存在するので、二つ同時に出力できる。
この VCO はトライアングルベースの VCO であり、すなわちまず三角波を生成し、それをアナログ回路で変形して矩形波を創りだしている。アナログシンセには、よくある形式であり、三角波に波形が近いサイン波を生み出しやすいことから、澄んだ音色などを得意とする。
これに対するものとしてはソウベース(Saw base)すなわち鋸歯状波ベースのオシレーターというものもあるが、本機種では使用されていない。
なお、VCO には、リニア FM 変調のキャリアとしても動作できるよう、モジュレーターとなる信号を入力できるパッチポイント端子が装備されている。

VCO からの音源波形は、まずオーバートーンというセクションへ送られる。オーバートーンとは「倍音」を意味する英単語で、ハーモニクスと同義と考えて良い。このセクションでは、音源波形に高次倍音を付加するため、音源波形はブライトな音に生まれ変わる。しかも、ノブひとつまわすだけで、波形が形の崩れたサイン波っぽいものから、三角波を経て、そこから三角波の頂点にスパイクが伸び、やがてスパイクのみがパルス波として残るという、不思議な聴いたことも無い変化をする。
Dave Smith Instumrnts OB-6 などにある、音源波形が連続可変する VCO のように使うといい。

次に音声信号は、マルチプライというセクションへ送られ、倍音の数が、さらに乗算的に増大する。ノブをひねったときの音色変化は、ハードシンクに似て非なるもので、今までに聴いたことが無い斬新なもの。波形を見ると、どうやらここでウェーヴフォールドを行っているらしい。


なお、このオーバートーンとマルチプライとの二つのセクションは、今までの Make Noise 社からは出てこなかった、新開発の機能であり、単独のユーロラック・モジュールとしての発売が期待されている。

そこから音声信号はバランスと呼ばれるセクションへ送られ、これは VCO から分流した三角波、それもオーバートーンもマルチプライもバイパスしてきたピュアな三角波と、オーバートーンやマルチプライで増加された倍音群とのミックスバランスを、単一のノブで可変できる。ノブをひねれば丸い音から倍音豊かな音色まで変化するさまは、あたかも東海岸モーグ流派シンセのローパス型 VCF のカットオフを操作しているようでもあり、原理はまるで違うながら、このような倍音変化を生み出すあたり、東西どちらのシンセシスでもないところがノーコーストたるゆえんのひとつでもある。
むろん、ミックス比を変えているだけなので、レゾナンスは無い。それでも、もともとかなり奇抜な倍音群を制御できるので、表現力もかなり大きい。

さらに音声信号は、ダイナミクスと呼ばれる最終セクションへ送り込まれる。
これは広義のローパスゲート(Low Pass Gate)であり、東海岸モーグ流派でいう VCF と VCA とを兼ね備えた働きをする。具体的には、ノブをひねると、音量が増すと同時に倍音が増える。オーバートーンとマルチプライによって生成された倍音群を、ここで調節するのである。やはりレゾナンスこそ無いが、これは西海岸ブックラ流派に独特のセクションであり、現にローパスゲートを初めて開発したのはブックラであった。

ここで「広義の」ローパスゲートと書いたのには、わけがある。
すなわち狭義のローパスゲートは、バクトロール(vactrol)と呼ばれる光学式アイソレーターを用いているが、0-Coast では、それが意図的に使われていないからである。
バクトロールとは、LED とアナログ式の光センサーとで構成されたもので、LED で電気信号をいったん光信号に変え、それを光センサーで再び電気信号に戻す仕組みのもの。その構造上、信号のレスポンスに遅れが生じ、しかも減衰時に周波数特性が刻々と変化することから、それが西海岸ブックラ流派シンセでは、独特の味のある音色変化をもたらすものとして重宝された。実際には、まず往年のブックラ 292 ローパスゲートモジュールに使われ、こんにちでもその復刻版や、他の西海岸流派シンセに使われている。そしてそのレスポンスの遅れと周波数特性のせいで、マリンバのようなディケイ感とピッチ感あるパーカッション音色や、撥弦楽器の音色などをつくるのを得意とし、特にボンゴを真似た音色は「ブックラ・ボンゴ」などと呼ばれたりもする。
バクトロールには、いろんな種類があり、おのおの持ち味がことなるので、それもまたメーカーの腕のみせどころとなっている。

なお、バクトロールはフォトカプラーとも呼ばれ、MIDI 端子を絶縁するのに使われてもいる。多数の MIDI シンセを直列に MIDI 接続したときに、反応に遅れが生じるのは、このフォトカプラーのせいなのだが、これが無いと、MIDI 接続時に余分な電流が流れ、シンセ内部の電子回路を破壊しかねないので、安全のため不可避の設計となっている。すなわち光学式アイソレーターとして MIDI 端子を電気的に絶縁すべく、フォトカプラーが使われているのである。

しかし、0-Coast ではローパスゲートにバクトロールを使わず、あえて東海岸モーグ流派シンセと同じようにトランジスターで構成し、そのため、まさに VCF と VCA とを合体させたような回路設計となり、反応速度も速く、おかげで今どきのクラブ音楽などで重宝される立ち上がりがするどく終わりもスパッと切れるように速い音色が創れるようになった。
バクトロールを排したローパスゲートを組み込んだのは、その西海岸ブックラ流派の伝統を考えると、英断とも言える。Make Noise 社の、とらわれなさ、発想の柔軟さを物語るところでもある。そして、ここに採用されたトランジスターベースのローパスゲートもまた、東西流派の合作とも言える、ノーコーストたるところなのであろう。

このローパスゲートによるダイナミクス・セクションを経て、音声信号は外へ出る。
出力端子は、ライン出力とヘッドフォン出力との両方に対応したミニジャックであり、モノラルだがステレオ出力にも対応している。
これに加えてもうひとつ、ラインミキサー用の高レベル出力端子もあり、これは 10V の出力を出すので、ここに間違えてスピーカーやヘッドフォンをつながないように!!

以上が、音声信号系の各セクション。


いっぽう、変調系セクションとしては、まず最初にクロック出力とランダム出力とがある。
クロック出力には、テンポ入力端子とタップテンポ機能があり、さまざまなクロックソースになる。裏モードで MIDI 同期するよう設定も可能。
裏ワザとして、テンポ入力端子に可聴域の周波数をもった信号をぶちこむことで、クロック出力をデジタル・パルス波オシレーターとして発振させることができる。
ランダム出力は S/H 波を出力し、その速さはクロック出力に同じ。
これも裏ワザとして、S/H 波をパッチングで可聴域でぶんまわすと、さまざまなスペクトルを連続可変できるノイズジェネレーターになる。

次に、電圧演算セクションがあり、これは特殊な2チャンネルミキサーになっている。
チャンネル1は、なにもせず単純にミックスされるが、チャンネル2には、信号を増幅するアッテネーターと、その極性を反転させるインバーターとが共存して存在し、和製英語でいうアッテインバーター、英語ではアッテヌバーター(Attenuverter)と呼ばれる機能を有している。なんの入力も無い場合は、この設定がそのまま電圧オフセットとして機能する。
この電圧演算セクションは、2つの CV をさまざまなあんばいに加算したり、2チャンネルのオーディオミキサーとして使えたり、いろいろ使いみちがあるセクションである。オーディオをインバーターで逆相にするのも、面白いかもしれない。

それから画期的なのが、スロープというセクション。
これは関数ジェネレーターであり、この廉価版シンセにして関数ジェネレーターを装備しているのが画期的。しかもこれが、同社の人気機種 Maths というユーロラック関数ジェネレーターモジュールを簡略化したようにつくられ、わかりやすく構成されている。
スロープは、簡易 EG にも LFO にも、さらにはパッチング次第で他の存在にもなりうる、自由な CV ソースである。
ライズ(Rise)すなわち上昇と、フォール(Fall)すなわち下降の二つのノブがあり、これでアタックとディケイのみの EG にしたり、可聴域までぶん回せるリピート機能を使って LFO に、それも上昇鋸歯状波から三角波から下降鋸歯状波まで連続可変できる LFO としても使える。さらには指数関数から対数関数カーヴまで連続可変できるノブまであり、上に凸から下に凸までの曲線や直線など、さまざまな CV カーヴを連続可変して出力する。

裏ワザとして、スロープを VCO とパッチングすることでモロに可聴域で駆動すると、第2の VCO となり、三角波や鋸歯状波まで連続可変させながら、しかも同じ波形でもパラメーターを変えることで倍音構成を連続可変させながら出力できる。これを外部からの独立した CV で周期を制御すれば、擬似的に2音ポリシンセにもなる。あるいはパッチングによりスロープをサブオシとして発振させ、それを VCO のリニア FM 入力へパッチングすれば、アナログ回路による2オペの FM 音源になる。

なお、スロープは、倍音を増大させるオーバートーンとマルチプライとに内部結線され、ウェーヴフォールディング的な音色変化を自動的にもたらすようできている。

変調系の最後にあるのが、コントゥアーと呼ばれる、いわゆる ADSR 型の EG。しかしパラメーター構成は、やや変則で、オンセット(Onset)がアタック・ノブ、次にサステイン・ノブ、そしてディケイとリリースとを兼ね備えたディケイ・ノブ、最後にカーヴをリニアから指数関数カーヴまで連続可変できるノブとなっている。
出力される CV は、東海岸モーグ流派の ADSR 型でありながら、パラメーター構成がやや変則的なところが、東西どちらでもないノーコーストたるゆえんのひとつでもある。
なおコントゥアーは、ローパスゲートたるダイナミクスに、内部結線されている。
これもまた裏ワザとして、パッチングにより可聴域で周期的にトリガーさせることで、自在に波形が可変するオシレーターとして発振させられる。つまり EG を可聴域で周期的にトリガーさせることで、オシレーターにするという、常識破りなことが可能。ただしそのためには全体へのゲート入力へ可聴域の信号を突っ込む必要があり、音の出方が、かなりややこしいことになるので、変態なお遊び向けかもしれない。


上記が、ひとしきり内部結線されている順番での紹介だが、これに加え、さまざまなパッチングが可能なパッチンポイント端子が多数装備されている。モジュレーションマトリクス風に言えば、13 ソース・14 デスティネーションだが、各パッチポイントが、非常にツボを得たところに設けられており、廉価でありながら普通に考えられる限界を余裕で超える、それどころか東海岸モーグ流派シンセでは想像もつかない、とんでもない裏ワザの宝庫である。
市販されているスタッカブル・ケーブルを使えば、単一のソースから複数のデスティネーションへパラったり、複数うソースから単一デスティネーションへ集約したりもできる。
パッチポイントには、見慣れないものもあり、たとえば EOC(End of Cycle)というパッチポイントは、スロープが1サイクル終わるごとに信号を発する。スロープを連続サイクルモードにすれば、第2のクロックソースとして使える。クロックが2つもあるシンセなんて、そうそうない。パッチングすれば、コントゥア―によるエンベロープカーヴでもって、クロック周期を時間軸上で変えることもできる。
こういう見慣れない機能や見慣れないパッチポイントが多いこともあって、パッチングを含む音創りは試行錯誤の連続となり、英文取扱説明書だけでは分からないことも多く、手探りで音をつくりあげていく、まさにモーグモジュラーを手にしたばかりのころの冨田勲さんの苦労をしのび、追体験することになるのが、またチャレンジングでいい。歴史は繰り返す。
特に私の個体は初期ロットのせいなのか、はたまたいい加減なアナログ回路のせいなのかわからないが、電圧演算セクションをはじめ、あちこちにて理解不能な挙動を示すことがたびたびあり、それらをまた理解したり経験則で把握したりしていくのも、謎解きで楽しい。
前述の裏ワザシリーズをまとめれば、VCO 以外にも、クロック出力、スロープ、コントゥア―、そしてランダム出力とで、合計4基のオシレーターと1基のノイズジェネレーターを創りだすことができるなど、すべてが電圧で制御されているだけに、柔軟なパッチシステムのおかげで、シンセへの固定観念をぶち破ってくれておもしろいことこの上ない。
そしてこれら4オシレーターをモノフォニックで駆動するも良し、外部 CV/Gate から個別駆動してポリフォニックだかパラフォニックだかにするのもいいだろう。工夫すればパッチング次第で FM のみならず、実はハードシンクもできるから、スペック上は1VCOシンセなのに、とてもそうとは思えない幅広い音創りができる。


加えて、隠しモードでアルペジエイターや MIDI 設定、じつは隠れて存在する三角波 LFO と矩形波 LFO の設定などができるのだが、なんせ LCD や有機 EL のような文字表示板を持たないので、英文の取扱説明書をじっくり読まないと、まるでアクセスできないにひとしい。こればかりは、非常に落差を感じる部分。さすがにメーカーも使いにくいと思ったか、本体の裏側に、そのショートカットがびっしり印刷されている。

そのかわり、随所に LED を使用したインジケーターが配置されており、どこがトリガーされているのかなど現状が一目で把握できる工夫がされているのは、たいへん分かりやすい。
しかも電圧の高さなどを LED の輝度で表現してくれるので、スロープ・カーヴなどを LED の明かりによるフェードイン/フェードアウトなどで表してくれるため、視覚情報が多くて助かる。これは明らかにブックラ・シンセにあるのと同じ特徴である。まるでシンセが生き物のように、それこそ呼吸したりしているように明滅するさまは、見ていて飽きない。


じっさいに音創りしてみると、まじめな音色も出るが、圧倒的にふまじめな音色が出ることが多く、Make Noise という社名にふさわしいだけでなく、なぜ西海岸ブックラ流派がメジャーになれなかったのかが分かる気がして笑える。
しかし、じっくり取り組んでみれば、西海岸ブックラ流派ならではの変態音色のみならず、音楽的な美しい音色も得られる。特にパーカッションや、撥弦楽器のエミュレーションは、アナログシンセとは思えない自然なサウンドがすることがある。
また、MIDI 駆動もできるが、CV/Gate 駆動するか、あるいは音を出しっぱなしにしてドローン音を出し、それを操作子やパッチングでリアルタイムにどんどん音色変化させるのが、よくある使い方である。クロック出力などをうまく使えば、外部コントローラ無しで、シーケンスフレーズみたいなものも、単独で自己完結してつくれる。まるで、ちょっとおだてれば、シンセが勝手に作曲して演奏してくれているかのようだ。
おおざっぱに言えば、レゾナント・フィルターを持たず、基本的には変調系で音創りするせいか、乾いた音がすることが多い。

ネット上にて、タブラの音色と奏法とを、設定とパッチングとだけでシミュレーションしている人がいた。フルアナログとは思えない、非常にリアルな作品であった。
またスーパーボールが跳ね飛ぶように、だんだん周期が短くなる連打音をつくる設定とパッチングとが紹介されており、これが普通のシンセにおいてモジュレーションマトリクスを使うと不自然な結果になったりするのだが、0-Coast では非常に自然なリアルな音がつくれるのも、おもしろい。これは基本的には、クロック出力のテンポを、コントゥアーによって減衰カーヴにするようパッチングすることで創り、それに肉付けして音創りしていた。クロックテンポそのものを変調できるところが、さすがモジュラーである。


●拡張性

MIDI IN 端子装備。隠しモードで MIDI 同期するよう設定も可能。
CV/Gate 駆動可能。
MIDI to CV/Gate コンバーターにもなる。
知人に教えてもらったが、コルグ SQ-1 と組み合わせれば、ステレオミニジャック・シールド1本で MIDI 接続できる。これを応用すると、DAW からの同期信号を USB で SQ-1 へ送り、そこからステレオミニジャック・シールドによる MIDI で 0-Coast へ送ることもできる。むろん、SQ-1 で CV/Gate 変換して 0-Coast へ送ってもいい。
外部音声入力端子装備、ただし、外部音声が通るのは、バランスとダイナミクスのみ。
なによりも各種パッチポイントで、拡張性はほぼ無限にあると言って良い。


●あなたにとっての長所

あまりにも世間に普及した東海岸モーグ流派のシンセでは想像もつかない独自の音色変化の世界。
薄型軽量コンパクトだが、ずっしりとした堅牢なメタルボディなのも良い。
パッチングで縦横無尽に音が創れる。Dave Smith Instruments の PRO2と組合せれば、PRO2には CV/Gate 入出力が4系統もあるから、相性抜群。
安価で入手しやすい。
ACアダプターが全世界電圧対応なだけでも驚きなのに、またプラグ形状が全世界対応できるように、プラグ変換アダプターがそろっているのも驚き。日本、米国、豪州、欧州大陸、英国とそろっている。
まるで映画「フィフス・エレメント」なんかに出てきそうなルックス、それも古代文字が書いてある石板みたいな感じでいい。


●あなたにとっての短所

フォントが未来的というか、古代文字みたいというか、はたまたエスノ文字みたいというか、とにかく変なフォントすぎて読みづらい、慣れが必要。これは Make Noise 社の全機種に言えることである。
AC アダプター駆動なのが、めんどくさい上に断線がこわい。まぁここまで小型化、薄型化するためには、電源トランス内蔵するわけにはいかなかったのだろうけれども。
隠しモードのアルペジエイターや MIDI 設定は、取扱説明書が無いとほぼアクセスできず、インジケーターも限られているため、なかなか使いにくい。
やっぱオーバートーンとマルチプライで、外部音声を加工してみたかったなぁ、たぶんただの汚いノイズになるだけなんだろうけど。でも外部音声が、バランスとダイナミクスでしか加工できないというのは、とんがった 0-Coast の中にあって、ここだけはちょっと珍しくトラッドな東海岸流ではないかと。
ただし、転んでもただでは起きないのが 0-Coast のすげーところで、バランスやダイナミクスをスロープやランダム出力などで変調するよう変態なパッチングすると、外部音声も楽しく加工できる。やはりアタマの柔軟性が問われるのが、この機種、まさに冨田勲御大状態。
まるでテロリストの爆弾みたいなルックス、これでは絶対に飛行機の中へ手荷物として入れられない、スーツケースに詰めて預けるしかない。


●その他特記事項

アナログシンセにおける:

・東海岸モーグ流派こと、イーストコースト・シンセシス
・西海岸ブックラ流派こと、ウェストコースト・シンセシス

それらが誕生して以来、半世紀以上がたった。


ドイプファーが、ユーロラック・モジュラーシンセ A-100 シリーズを作り始めたのが、'95年。
それはゼロ年代あたりから、急速に他社の参入をまねき、おおきなブームとなって欧米で広がった。'10 年代には日本にもその波がやってきており、特に '15 年以降は大きなうねりとなって盛り上がっている。よもや私が生きているうちに、再度モジュラーシンセが流行するとは、思いもよらなかった。

聞くところでは、日本では YMO やモーグの呪縛が強すぎるあまり、モジュラーシンセに走るのはおっさんが多いのだが、ヨーロッパではアンダーグラウンドながらにアナログシンセ文化が根付いており、若者が個性を出そうとしてモジュラーシンセに走ることが多いらしい。
それにこたえるように、メーカー側もアナログばかりでなく、デジタルモジュールやサンプラーモジュールなどを出すようになってきた。

そして、モジュラーシンセメーカーが、入門機として、あるいはプロのサブマシンとして、小型の一体型セミモジュラーシンセを出すことは、ドイプファー社が 2010 年ごろに出した Dark Energy 以来、少しずつ増えてきた。特に 2015 年に発表されたモーグの mother-32 は、ユーロラック・フォーマットでありながら、卓上型にも使える点もあり、なによりもあこがれのモーグのタンスをミニサイズで誰でも自分の机の上に再現できるかわいらしさもあって、大ブレイクした。
アプローチは違うが、現代の一体型のシンセをつくってきたメーカーが、より大きな拡張性をもとめてセミモジュラーシンセを出してきた例に、コルグ MS-20 復刻シリーズや、ローランドの System-1m 音源モジュールといった機種もある。
こうして、コンパクトなセミモジュラーシンセは、今やあたらしい種族として着々と増えつつある。

これら現代のセミモジュラーハードシンセの中にあって、0-Coast は非常に独特のシンセシスを搭載した個性派な変わり種と言える。ノーコースト・シンセシスを名乗っているが、その実態はウェストコースト・シンセシスの色彩が濃い。つまり、イーストコースト・シンセシスの決定版モーグ mother-32 の対極を行く存在であり、価格的にも好敵手と言っていい。フルアナログシンセでありながら、VCF を持たず、非・減算方式で音創りする、しかもセミモジュラーなので配線も自由に変えられ、他のモジュラーシンセなどともつながる CV/Gate ネットワークの中で、ひときわ異彩を放つ、自由なシンセ。おまけに物理操作子やパッチングで音創りできるので、FM 変調するにしても、ヤマハ DX やソフトシンセと違って非常に直感的。
これは、今までモーグを始祖とするイーストコースト・シンセシスにほぼ世界征服され、ひたすら日影の存在だったウェストコースト・シンセシスの逆襲であり、そしてまるでシーラカンスのよう人知れず細々と生きのびてきたその世界への、あたらしい入口である。すでにユーロラック世界では、Make Noise の DPO と呼ばれるウェーヴフォールディングを使用した斬新なツイン・オシレーターモジュールが人気。それらの魅惑的な世界へ通じるあらたなる歓迎のしるしが、0-Coast であろう。

減算方式による膨大な機種のシンセに飽きてきたら、これは自分のアタマの柔軟性を試すまたとないチャンス。私もじつにひさびさに、セミモジュラーハードシンセを入手したことになるわけだが、もう目からウロコな日々。
そして西寄りとはいえ、東西どちらでもない、斬新でスタイルにとらわれないスタイリッシュなスタンスという逆説的な存在、それが 0-Coast である。


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