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2017年08月16日16:08

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「彼女の人生は間違いじゃない」@ヒューマントラストシネマ渋谷

廣木隆一監督の最新作ぴかぴか(新しい)しかも、故郷の福島を舞台に自ら書き下ろした初小説を映画化したとの情報。あらすじから結構重い内容なのは覚悟して、金曜会員デーに鑑賞。

市役所に務める金沢みゆき(瀧内公美)は震災で母親を亡くし、今は仮設住宅で父親(光石研)と2人暮らし。農家の父親は土壌汚染で仕事ができず、生きる目的を失ったまま、補償金をパチンコにつぎ込む日々を送っていた。一方、みゆきの同僚・新田(柄本時生)は、被災地の現状を卒論にしたいという東京の女子大生の取材を受け、当時の状況についての屈託ない質問に言葉を詰まらせてしまう。そんな中、週末になると高速バスで東京に向かい、デリヘルのバイトをしているみゆきだったが…。

こじんまりとした仮設住宅で父と娘の2人暮らし。みゆきは母の遺影の前にきちんとお供えをして手を合わせるのが習慣のよう。仏壇がないのは津波で流された母の遺体が発見されていないからか、と思うと冒頭から胸が痛い。

その上、6年経った今も父は母の話題を口にしては、だらだらと酒を呑んでいる。土壌汚染で農業の仕事ができないのは仕方がないが、補償金をパチンコに使う日々に娘は辟易し、親子関係もギスギスしている。突然妻を失った悲しみは計り知れないし、故人を懐かしみ話をするのは決して悪いことじゃない。だけど、娘からしたらいつまでも前を向いてくれないようで苛立つのだろう。どっちの気持ちもわかるな、と。

父には英会話教室に通っていると嘘をつき、週末は高速バスで東京へ行き、渋谷でデリヘル嬢をしているみゆき。市役所務めの地味で堅実な雰囲気からは想像できないが、東京駅のトイレで着替えて化粧すると都会の街にも馴染んでいる。なぜデリヘルなのか?たまたまスカウトされたからなんとなく、では説明がつかない。わざわざ高速バスで毎週末通うのは大変だし、仕事はしているのだから、そこまで経済的に切羽詰まっているわけじゃない。明確な答えは示されないし、彼女自身もきっと言えないだろう。

観客も安易にその答えを出せないと思う。震災やその後の原発事故で家族や家を失い、取り巻く環境など、あらゆるものが一変してしまった人の心情を当事者でない者が真に推し量れることはできないから。同じ目に遭った者同士でも、それぞれの抱える事情は違うし、時には妬みや憎悪の対象にもなり得る。辛いけれどこれが現実なんだなと。

被災地の現状を卒論にしようと無遠慮な質問を投げかける女子大生、精神的に弱っている被災者たちに近づく霊感商法、東電務めで今は除染作業をしている夫、その妻のいる仮設住宅に嫌がらせをする悪意、被災地や人々を撮るカメラマン、汚染地域内は墓参りにも行けず、墓を移す許可も下りない。みゆきと父以外にも被災者たちやその周りのあれこれが描かれている。

主人公のみゆきを演じた瀧内さん。設定上ハードなシーンももちろんあるし、みゆきの内面を想像して演じるのはとても難しかったと思う。でも、憂いや迷い、悲しみや苛立ち、様々な心情を繊細に演じていて素晴らしかった指でOK主演女優賞をあげたいexclamation ×2間違いなく彼女の代表作になったはずで、今後の活躍もぜひ見ていきたいと思った。

これは絶対に観る価値のある作品だと力説したいっダッシュ(走り出す様)嫌なことや都合の悪いことからはつい目を背け、忘れたフリしたり、時には本当に忘れてしまったり。人ってそんなものだよね。もちろん自分も含め。ガツンとくるけど、色々思うことのある記憶に残る濃い作品。
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