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2016年05月17日11:39

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蓮實重彦 三島賞受賞 記者会見

受賞記念の記者会見という、いわば儀礼的なものを
「質問をするとは何か」という教育の場にしてしまう蓮實氏。
生徒たち、いや、記者たちはさぞ緊張したことでしょう。
読んでいる分にはたっぷり笑えますが。

――最初に伺いますが、ご受賞が決まったお知らせを受けてのご心境をお願いします。
「ご心境という言葉は私の中には存在しておりません。ですからお答えしません」

――蓮實さんはどちらでお待ちになっていて、連絡を受けたときはどのような感想を持たれたでしょうか。
「それも個人的なことなので申しあげません」

――今回、候補になったとき、事務局から連絡があったと思いますが、新人賞である三島賞の候補になることをお受けになったのは?
「それもお答えいたしません」

――町田康さんの講評によると、さまざまな議論があった中で、「言葉で織り上げる世界が充実していて、小説としての出来は群を抜く」という評価があったと。その評価についての思いは何かありますか。
「ありません」

――司会 他に質問は?
「ないことを期待します」

――通常こういう場ですと、受賞が決まった方に「おめでとうございます」という言葉を投げかけてから質問するのが通例なのですが、ためらってしまう。受賞について喜んでいらっしゃるんでしょうか。
「まったく喜んではおりません。はた迷惑なことだと思っています。80歳の人間にこのような賞を与えるという事態が起こってしまったことは、日本の文化にとって非常に嘆かわしいことだと思っております。もっともっと若い方、私は、順当であればいしいしんじさんがおとりになるべきだと思っていましたが、今回の作品が必ずしもそれにふさわしいものではないということで、選考委員の方がいわば、蓮實を選ぶという暴挙に出られたわけであり、その暴挙そのものは非常に迷惑な話であると思っています」

――いまの文化の状況に対して嘆かわしいとのこと。今の文学の状況に対して、何かものたりなさを感じるようなことがあり、ご自身が作品を発表される背景にもそういうお考えがあるのでしょうか。
「いえ、それはありません」

――蓮實さんは早稲田文学新人賞で黒田夏子さんを選ばれて、黒田さんはのちに芥川賞をとっています。必ずしも80歳ということなのか、別の理由なのか。暴挙といわれる理由についてもう少し具体的にお答え頂ければ。
「黒田さんは若い方ですのでいっさい問題ないと思います。文学としても若々しいものであると。従って、若者的な若々しさとは違う若々しさがあったので私は選ばせていただきました」

――しかし今回の作品も舞台が戦争の始まる前、映画が好きな青年が主人公でして、なにか蓮實さんの若い青春期を思い起こさせるようなのですが。
「それは全くありません。馬鹿な質問はやめていただけますか」

――黒田さんの作品には若々しさはあるけれども、ご自身の作品には若々しさはないということですか。
「黒田さんはこれは傑作であり、私の書いたものは傑作と言えるものではありません。あの程度のものは、私のように散文のフィクションを研究している者であればいつでも書けるものでありますから、あの程度のものはすなわち、相対的に優れたものでしかないということだと思っております」

――受賞作は小説としては3作目ということになると思いますが、今回執筆しようと思ったきっかけを教えてください。
「全くありません。向こうからやってきたということです」

――依頼があったから?
「違います」

――小説が向こうからやってきた?
「そういうことです」

――研究者の目で相対的に優れたものでしかないとおっしゃりながら、小説というものが書けるものなんでしょうか。やはり、何か情熱やパッションというものはあるんじゃないかなと。
「情熱やパッションはありません。もっぱら知的な操作によるものです」

――戦争に向かう今の時代の危うさとか、ひわいなイメージで読者を揺すぶってみたいとか、そういう意図というのはないのでしょうか。
「申し訳ありません。おっしゃることの意図がわかりません」

――小説が向こうからやってきた、ということですが、「『ボヴァリー夫人』論」を書かれたことも大きかったんでしょうか。
「それは非常に大きいものであったことは確かです。『ボヴァリー夫人』論に費やした労力の、100分の1もこの小説には費やしておりません」

――さきほど、選考委員が三島賞を与えたことは暴挙とおっしゃった。それならば、候補を断ることはしなかったのでしょうか。
「なぜかについては一切お答えしません。お答えする必要ないでしょう」

――講評の中で、「作品として一つの時代の完結した世界を描いている」という評価でした。この作品を現代で書く理由は蓮實さんの中にあったのでしょうか。
「全くありません。向こうからやってきたものを受け止めて、好きな風に好きなことを書いたというだけなんです。それでいけませんか。何をお聞きになりたかったんでしょうか」

――80歳になられるところ。今年の執筆予定などを教えてください。
「何についてでしょうか。小説を書くということですか」

――何でも。
「小説を書くという予定はありません。書いてしまうかもしれません。なんせ小説というのは向こうからやってくるものですから。あと、ジョン・フォード論は完結しなければいけないと思っております。この作品についてどなたか聞いて下さる方はおられないんでしょうか」

――何がやってきて、何について書かれたものであり、これを第三者だとしたらどのように評価されますか。
「評価については先ほど申しあげた通りです。相対的に優れたものであり、あんなものはいつでも書けるということです。それから、最初の質問はなんでしょうか」

――何が来たんでしょうか。
「向こうから来たというのは、いくつかのきっかけがあったことはお話ししておいたほうがいいと思います。現在93歳になられる日本の優れたジャズ評論家がおられますけれども、その方が12月8日の夜、あるジャズのレコードを聞きまくっていたという話があるんですね。『今晩だけはジャズのレコードを大きくかけるのはやめてくれ』と両親に言われたという話があり、その話を読んだときに、私はその方に対するおおいな羨望(せんぼう)を抱きまして、結局、1941年12月8日の話を書きたいなと思っていたんですが、それが『伯爵夫人』という形で私の元に訪れたのかどうかは、私の中ではっきりしません」

――書きたいと思われたのはいつ頃でしょうか。
「書きたいなとは一度も思っておりません」

――何について書かれた作品なんですか。この中で、自分は何を書いたと。
「まったく何も書いていません。あの、お読みになって下さったんでしょうか。そしたら何が書かれていましたか」「この小説は、私が書いたものの中で一番女性に評判がいいものなんです。細かいことは分かりませんが、たぶん今日の選考委員の方々の中でも女性が推してくださったと信じています」

――今回、場所は日本ですけれども、海外もでてくる。歴史的な背景も出てきます。改めて小説的なディテールを書くときに、お調べになったのですか。
「私の想像の中だけで書き進めたわけですけれども、同時に読んでいた書物の中から、これは面白いと拾ったケースもあります」

――伯爵夫人と若い青年との出会いというのが、蓮實さんが読んだり映画でご覧になったものが知らずに来たのか。それとも最初に伯爵夫人のような女性が先に来たのか、あるいは青年が先に来たのでしょうか。
「私を不機嫌にさせる限りの質問ですのでお答えしません」

――冒頭の一文に「ばふりばふり」という変わった擬音語など、おもしろい日本語、言葉が多いのですが。どういうふうに使われたか伺いたいと思います。
「戦前に中村書店という漫画を出している書店がありました。その中で2人の少年が東南アジアに旅する話がありまして、その中で、東南アジアの天井に張ったカーテンを冷房のために揺らすわけです。そのときに『ばふりばふり』という言葉を使っていたので、私が今からほぼ70年前に読んだ言葉がそこにそのまま出てきたものとお考えになっていただければと思います」

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