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2018年04月20日02:59

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迷いの森で5

わたしはベッドから起き上がり自分の手を眺めていた。
夢の中の出来事は大抵目が冷めたら忘れている物であるが、今回ははっきりと覚えている。
・・・・やけにリアルな夢だった、たまにはそういう事もあるだろう・・・・
わたしはそう考え窓の外を見る。
外は明るいが生憎の雨・・・・今日の調査は出来そうにない。
わたしは服を着替え部屋を後にする。
左右にランプが付いている若干薄暗い廊下を歩いているとウインナーの良い匂いがしてくる。キルドが朝食を作ってくれているのだろう。
わたしも手伝いたいが手伝おうとしたら何故か追い出されてしまう。
「おはよう。ミリエル・・・さん・・・」
ディザードが突然現れ顔を赤くさせながらそう挨拶してくる。
・・・・さんって・・・・突然さんづけって・・・・絶対昨日の事でわたしとどう接しようかモヤモヤしてた感じよね・・・
「おはよう。ディザード・・・昨日は眠れた?あんなおじさん蹴飛ばしとけば良いのよ。なんだったらわたしがやっとこうか?『あらゴメン!態とじゃないから!』って言いながら・・・」
真面目に言ったわたしの言葉に彼は笑い出す。
人は表面では分からない・・・か・・・最初出会った時の印象は『顔に笑顔が張り付いてる様な胡散臭い奴』だったけど・・・それはどうも彼の置かれた状況がそうさせていたらしい。
そしてわたしの心にある不安が浮上した。
彼は今はキルドがいるから一人ではないが、もしキルドがいなくなってしまったらどうなるのだろう?一人になって・・・あの術者の様な奴に追い回されて実験として殺されてしまうんじゃないだろうか?・・・・と・・・
キルドの手前あの男の暴言を黙って聞いていたがディザードの力は術者より勝るのだろうか?もし弱ければ奴等の格好の餌食・・・・
そんな事を考えているとわたしは突然スッゴイ可哀想になって来て目から涙が溢れ出す。
「何で君が泣いてるんだ!?大丈夫か!?」
わたしの様子を見つつ彼は困り顔でオロオロしだす。
その様子を見て彼の背中をバシッと叩き。
「何でもないわよ!気にしない気にしない!!」
そう言うとわたしは走り出した。
非力なわたしには彼の置かれた立場をどうする事も出来ないのだ。

朝食が始まり、パンの上にハチミツをペタペタと付け、わたしは口に頬張る。
わたしの右横にディザード、前にはキルドが座っている。
「ディザードさん・・・昨日言ってたお薬、さっき完成しましたので街に行って貰えますか?雨が降ってて悪いんですが・・・」
ディザードの突然の話しにウインナーをフォークで突きつつ聞き耳を立てる。
「行っても良いけどまた徹夜だったのか?無理するなよ・・・」
ディザードはキルドの事を心配する。
・・・・・ちょっ!!やめて!!今、その言葉NG・・・・・
 急にまたさっきの事を思い出し、目から涙が溢れ出す。
 キルドはまともにわたしの顔を見たせいでギョッとした表情を見せ・・・・
「ミリエルさんは・・・また何で泣いてるんです?」
 彼の言葉にディザードもわたしの顔を覗き込み・・・
「また・・・泣いて・・本当に何があったんだよ・・・」
彼もまたわたしの顔を覗き込んだ。
・・・・あ〜・・・・この状況どうしたら・・・恥ずかしい・・・・でも何か言わないと・・・
「家族の事思い出して・・・わたしってお兄さんが二人いるんだけど・・・こんな感じだったなぁ〜・・・って・・・」
概ね合っている。
わたしの言葉に二人は顔を見合わせて、何となく分かった的な表情で、再度わたしの顔を見た。
わたしは今の状況にピッタリなホームシックを咄嗟に演出したのだ。これで当分はわたしが感情的になってもホームシックという事で治まるはず・・・・
「大丈夫だから・・・君がここから出れるまで僕達がいるから・・・その間は僕達が君のお兄さんになってあげるよ。」
ディザードはわたしの頭をポンポンと軽く叩く。
キルドは一瞬戸惑ったが・・・
「僕もあなたのお兄さんだと思ってくれて結構です。」
言われわたしは涙を拭い・・・
「ありがとう・・・」
そう言ってわたしは紅茶を飲み干し足早にその場を後にした。
・・・・罪悪感・・・何か分からんがスッゴイ罪悪感・・・・恥ずかしいのもあるし・・・あ〜・・・・!!!
わたしは自分の部屋まで顔を赤くさせ走って行った。

昼過ぎて雨脚が更に一層強くなる。
わたしは部屋の中で椅子に座り机の上の地図を見ながら考えていた。
・・・・この結界はキルドが張った物、そして何故か人間であるはずのわたしだけは外に出られない。何故?一つ目はわたしに何か特殊な力があってそれに反応して・・・・ってそれは無いな・・・生まれてこの方そんな兆候っていうかわたしの知ってる人にもそんな人間はいなかった。二つ目は外部からの干渉。・・・・それも無いな・・・そもそもわたしを閉じ込めて何の益があるのやら・・・残るは後一つ・・・キルドがわたしを出さないようにしている。・・・それも無いか・・・キルドのあの様子じゃ原因が分からないって感じだったし・・・あ〜・・・・駄目だ・・・
 暫く考えることをやめようと、隣のベッドに倒れ込む。
・・・・ディザード・・・・もう街に行ったかな・・・
窓の外から突然白い光が部屋中を照らし出し、驚く間もなく・・・
ドーン!!!
けたたましい音が炸裂する。何処かに雷が落ちたのだ。
一瞬の出来事で枕を強く抱きしめ布団に潜り込む。
・・・近かった・・・
わたしは雷の音が昔から大嫌いなのだ、いつもなら家族の誰かが守ってくれた。けど今はわたし一人・・・
・・・・恐い・・・
ドーン!!!
また何処かに雷が落ちる。
動けない・・・誰か・・・お父さん・・・お兄ちゃん・・・
わたしは必死で鳴り続ける雷の音に耐えていた。
「大丈夫ですよ。収まるまで僕はここにいますから・・・」
 優しい声がする。そしてわたしのいるベッドの上に座り本を無言で読み出した。
フォト
「キルド?」
わたしはそっと布団から顔を出し彼かどうかを確認する。
「はい。」
言って彼はニッコリ笑みを浮かべた。紛れもなくキルド本人だった。
「今日のキルド・・・なんか・・・優しい・・・」
わたしの呟きに彼は笑みを絶やさず・・
「いつも優しく接してるつもりだったんですが・・・・」
・・・・そうだったんだ。わたしが何か手伝おうとしたら嫌な顔するし、ディザードと何か話してたら何かちょっとやっぱり嫌そうな顔するし・・・わたしの事やや嫌い?って思いかけてたけど・・・いやいやいや・・・まだ真意は分からないか・・・
ドーン!!!
「!!!!」
雷の音にベッドの上で飛び上がる。
・・・・それ所ではなかった・・・・
もう恐怖のあまり涙ボロボロでわたしはキルドの方を見た。
すると彼はそっとわたしの体を抱き寄せた。
「大丈夫ですから・・・」
言って彼はわたしの背中に手を伸ばしポンポンと子供でもあやすかのようにゆっくりと叩いた。
 わたしの胸の鼓動が早くなる・・・何これ?・・・全身が暑い・・・?
わたしはその場で身動きが取れずそして気づけば雨が止んでいた。
「ほら・・・大丈夫だった。」
言って彼は本を手に持ちわたしから離れ部屋から何事もなかったように出て行った。
「あ゛ぁぁぁっ・・・・」
声にならない声を上げながらわたしは恥ずかしいのかなんなのか分からない感情に振り回されそのまま布団の中で悶続けた。
【終わり】
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