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2014年03月30日00:00
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ドイツ第三帝國軍人シリーズ41 Franz Halder陸軍上級大将
フランツ=ハルダーは、ドイツ第三帝國の第二代陸軍参謀総長で、ヒトラー政権打倒クーデタを計画した人物です。
ハルダーは、 1884年６月30日にバイエルン王国ヴュルツブルクにて、300年以上も同王国の陸軍将校を歴代輩出していた敬虔なカトリックの家系に生まれました。父マクシミリアン=ハルダー(1853〜1912)の最終階級は陸軍少将でした。
数学と植物学を得意としていたハルダー少年は王都ミュンヘンの人文ギムナジウムへ進学し、大学入学資格たるアビトゥーア合格後の1902年７月14日に士官候補生としてアンベルクの第３王立バイエルン砲兵連隊プリンツ=レオポルトに配属されました。当時の連隊長は父マクシミリアン大佐でした。ハルダー候補生は1904年に格別優秀な成績で少尉に任官し、1906年から１年間砲兵学校で砲術を学んでいます。ハルダー少尉は1907年に軍人の娘ゲルトルート=エルルと結婚し、後に夫妻は三人の娘を得ています。
ハルダー少尉は1911年に中尉へ昇進してバイエルン王国陸軍大学へ入学、優秀な成績で参謀課程を終え、1914年春に首席卒業を果たしています。
同年８月１日、ドイツ第二帝國が第一次世界大戦に参戦すると、ハルダー中尉はバイエルン第３軍団の砲兵将校として西部戦線へ出陣、ロートリンゲン州での激戦に参加して危険な偵察任務を果たしたため、９月14日に第二級鉄十字章を授与されました。
1915年１月６日、ハルダー中尉はバイエルン王国陸軍第６歩兵師団参謀に転じ、同年８月９日には大尉へ昇進、バイエルン王国のループレヒト王太子が司令官を務めるバイエルン王太子軍集団が東部戦線に移動したのに伴ってロシア帝国領ポーランドへ赴きました。ハルダー大尉は同年12月22日に第一級鉄十字章を授与されています。
1916年にハルダー大尉はドイツ第２軍麾下のバイエルン王国第５歩兵師団参謀に転じ、1917年にはループレヒト王太子が総司令官を務める東方総軍総司令部に短期間ながら勤務、卓越した戦術家である総参謀長マックス=ホフマン少将の薫陶を受けました。
続いてハルダー大尉はレムス=フォン=ヴォイリッシュ上級大将麾下のバイエルン王太子軍集団傘下の第２軍・第４軍参謀を歴任し、ロシアで1918年11月11日の休戦協定発効を迎えたのです。
ハルダー大尉は休戦と革命による混乱の中でミュンヘンに戻り、バイエルン共和国参謀本部で副官を務めた後、1919年６月のヴェルサイユ条約で100000人体制に縮小されたヴァイマール共和国陸軍への残留が認められて、ベルリンの国防省教育局勤務となりました。
ハルダー大尉は1923年４月１日に少佐へ昇進すると同時にバイエルン州ランツベルク=アム=レヒ駐屯の第７砲兵連隊戦術教官に移動しています。その暫く後の同年11月、アドルフ=ヒトラー伍長がミュンヘン一揆を起しており、第７砲兵連隊は直接鎮圧には関わらなかったものの、ハルダー少佐の脳裏にヒトラーの名はマイナスイメージで深く刻印される事となったのです。
ハルダー少佐は1925年からはミュンヘンの第７師団参謀へ転じて、1929年２月に中佐へ昇進後、同年10月に国防省教育局勤務となり、1931年12月には大佐に昇進してプロイセン州ヴェストファーレン郡ミュンスター駐屯の第６師団参謀長に就任しました。
1933年１月にヒトラー内閣が成立しますが、ハルダー大佐はナチス党による国防軍への容喙には批判的で、特にミュンスター市街でも乱暴狼藉を恣にする突撃隊に手を焼き、強い不快感を抱いていました。しかし、1934年６月にヒトラー首相が突撃隊粛清に踏み切ったため、ハルダー大佐はナチス党への嫌悪感を軽減させ、同年８月の第三帝國成立後は軍人として総統に忠誠を誓う事となります。
1934年10月１日、ハルダー大佐は少将に昇進し、同月15日にミュンヘン駐屯の第７歩兵師団長に就任しました。そして1935年３月にヒトラー総統の再軍備宣言で大軍拡が開始されると、ハルダー少将は順調に出世を遂げ、1936年８月１日には中将へ昇進して陸軍参謀本部第二部長となったのです。プロイセン=ユンカー閥が幅を利かせる陸軍参謀本部に於いてバイエルンの平民であるハルダー中将は異色の存在でした。
ハルダー中将はその結果、職掌で担当した軍事演習に於いてヒトラー総統から作戦能力を高く評価され、国防軍大改編のあった1938年２月１日に砲兵大将へ昇進、同月８日には左遷されたエーリッヒ=フォン=マンシュタイン少将に変わって第一参謀次長に任命されたのです。ハルダー大将の栄進は、当時の陸軍最高首脳が陸軍総司令官ヴェルナー=フォン=ブラウヒッチュ上級大将《http://
同年３月、強引なオーストリア併合に成功して気を良くしたヒトラー総統は、続いて同年４月にズデーテン地方奪取のためチェコスロヴァキア共和国に侵攻するグリューン作戦の準備を陸軍参謀本部に命じます。これに対し参謀総長ベック大将は、チェコと開戦すれば英仏両国に加えて、場合によるとアメリカ合衆国までもが参戦してドイツは滅亡しかねないと憂慮し、７月16日、作戦発動の場合は命令を拒否する旨の私信をブラウヒッチュ上級大将に送ります。
ベック大将は全国の軍司令官を集めてクーデタを提案する事をブラウヒッチュ上級大将に要求し、８月４日に非公式な将官会合がブラウヒッチュ上級大将の私邸で開催されました。しかしブラウヒッチュ上級大将は日和見を決め込んでクーデタ提案を行なわず、この会合は無意味な茶話会に終わってしまいました。
この結果、ベック大将は８月18日に参謀総長の辞表を提出、同月27日、後任参謀総長にハルダー大将が任命されたのです。しかし、この人事はブラウヒッチュ上級大将を見限ったベック大将が、自らクーデタを決行する事を考慮して、自由に動ける立場と実働部隊を麾下に持つための深慮遠謀であり、実際、ベック大将は最精鋭部隊の第１軍司令官に任命されて、強力な実働部隊を手にしたのでした。
さて、グリューン作戦に関し、ヒトラー総統は装甲部隊を一挙にチェコスロヴァキアの首都プラハに吶喊させて一撃で勝敗を決する作戦を主張、OKWも同意しますが、伝統的用兵を重視するブラウヒッチュ上級大将とハルダー大将はこれに猛反対します。そこで、ヒトラーは９月上旬にニュルンベルクで開催されたナチス党大会にブラウヒッチュ上級大将とハルダー大将を呼びつ付けて吊るし上げる事で、二人を作戦に同意させてしまったのです。
この恥辱に激怒したハルダー大将はベック大将と謀ってクーデタ決行を決意、第３軍団長エルヴィン=フォン=ヴィッツレーベン歩兵大将・第１軽快師団長エーリヒ=ヘプナー中将・第23歩兵師団長ヴァルター=フォン=ブロックドルフアーレフェルト伯爵中将・OKW情報局長ヴィルヘルム=カナリス海軍中将・ベルリン警視総監ヴォルフ=ハインリヒ=フォン=ヘルドルフSS中将・帝國銀行総裁ヒャルマル=シャハト博士・カール=ゲルデラー元ライプツィヒ市長等が計画に加担しました。計画を打ち明けられたブラウヒッチュ上級大将は「クーデタ準備には反対しない」と日和見を決め込みましたが、グリューン作戦発動が命じられれば第３軍団がベルリンを制圧する準備が整ったのです。
一方、ヒトラー総統は、同年９月12日、チェコ政府に対してズデーテン割譲を正式に要求し、欧州情勢は一挙に風雲急を告げて来ました。９月27日1330時、ヒトラーは遂にハルダー大将に対してグリューン作戦発動を指令、翌朝、ハルダー大将はクーデタ指令を発する事となりました。
本来のクーデタ計画では、ベック大将がベルリンの総統官邸に乗り込んでヒトラー陸軍伍長に退陣を迫り、それを拒否すれば逮捕して裁判又は精神鑑定にかける段取りでしたが、開戦回避のため、計画はいきなり実戦部隊が総統官邸を急襲してヒトラー伍長を誅殺する強硬策に変更されました。
ところが、そこへイタリアのムッソリーニ首相の仲介でチェンバレン英首相とダレディエ仏首相がミュンヘンでヒトラーと会談する事になったとの急報が飛び込んだため、グリューン作戦は中止され、ハルダー大将は伝統的規律と国家元首への忠誠に従ってクーデタ計画も中止したのでした。
かくして、目標を失ったベック大将は、同年11月１日に上級大将に昇進の上で陸軍を退役しましたが、その後も同志との連絡を取り合ってリーダー格となり、このグループは後にゲシュタポから「黒いオーケストラ」と呼ばれる事になります。 しかし、ハルダー大将は最早そのグループとは関わろうとせず、参謀総長としての任務に邁進して行く事となります。
但し、第三帝國国防軍に於いては、陸軍参謀本部とOKW統帥局の二つの軍令機関が並立する状況が続いており、権限と管轄を明瞭にする事が重要な課題となっていました。ハルダー大将以下陸軍参謀本部の面々はOKW統帥局を「ヒトラー伍長の事務所」と嘲笑していましたが、総統の直接指揮下にあるOKWは日々政治的重みを増していたのです。
ポーランド回廊問題で欧州情勢が再び風雲急を告げて来た1939年３月、ハルダー大将の具申を受けた陸軍総司令官ブラウヒッチュ上級大将は陸軍参謀本部を海軍・空軍にも軍令を下せる最上級幕僚本部として位置付けるべきだとの意見書を総統に提出します。これに対し、OKW長官カイテル上級大将は前OKW統帥局長代行で、大ヴィーン帝國大管区の第44歩兵師団砲兵連隊長に転じていたアルフレート=ヨードル大佐《http://
この両意見書を受けてヒトラー総統は同年５月23日、総統官邸に帝國議会議長兼航空大臣兼空軍総司令官ヘルマン=ゲーリング元帥・海軍総司令官エーリッヒ=レーダー元帥《http://
しかし、結局、ヒトラー総統はポーランド侵攻計画「ヴァイス作戦」の立案を伝統ある陸軍参謀本部に委ね、OKW統帥局はフランス国境防備等の副次的な任務のみを任される事となりました。
こうしてハルダー大将が中心となって立案したヴァイス作戦は９月１日に発動され、ドイツ軍は電撃戦で目覚ましい勝利を獲得したのでした。
ハルダー大将はこれを嘉されて10月27日に騎士十字章を授与されています。
続いてハルダー大将は西方侵攻計画「ゲルブ作戦」の策定も委ねられましたが、当初ハルダー大将が用意したプランは第一次世界大戦時のシュリーフェン作戦の焼き直しに過ぎず、オランダ・ベルギーの海岸線から主力部隊をフランスへ突入させ、急旋回してパリに迫るとの内容でした。これに対し、同年11月、Ａ軍集団参謀長マンシュタイン中将がベルギー南部アルデンヌ高原を戦車部隊で突破して英仏軍の背後を突くという画期的な作戦を参謀本部に提案します。対英仏戦を望んでいなかったブラウヒッチュ上級大将はマンシュタイン中将をポンメルン大管区シュテッチンに新設された第38軍団長に左遷しますが、２月27日に新任軍団長として総統に接見したマンシュタイン中将は自分のプランを直訴、ヒトラーはこの作戦案に跳び付いたのでした。
この頃、ベック上級大将はドイツの破滅を回避するためハルダー大将に再びクーデタ決行を持ち掛けていますが、ハルダー大将は成功の可能性は少ないと見て断念しています。
こうして５月10日にマンシュタイン計画に基づいて開始された西方電撃戦でドイツ軍は大勝利、６月22日にフランスを降伏に追い込む事に成功したのでした。 この結果、７月19日にハルダー大将は上級大将へ昇進しています。
バトル=オヴ=ブリテン最中の同年８月、ソ連軍の動静に疑念を抱いたヒトラー総統はOKWへ対ソ戦準備の指令を発しますが、対ソ開進計画の策定は陸軍参謀本部に委ねられる事となり、ハルダー上級大将は新任の第一参謀次長フリードリッヒ=パウルス中将に作戦計画立案を命じました。本来、ハルダー上級大将は対英戦を終結させないままの対ソ戦には消極的でしたが、ヒトラーに無謀な英本土上陸作戦を断念させる意味から対ソ開戦を強く推進する立場に転じました。そして、同年12月18日、総統司令第21号に於いてこの計画はバルバロッサ作戦と命名されたのです。
しかし、1941年２月３日にヒトラー総統・陸軍総司令官ブラウヒッチュ元帥・陸軍参謀総長ハルダー上級大将が行ったバルバロッサ作戦準備会議に於いて、総統の考えと陸軍参謀本部案の間に大きな隔たりがある事が明らかになりました。ハルダー上級大将は「敵国の首都こそ最大の戦略目標」との常道に従ってモスクワを第一目標とし、更に邪悪な共産主義体制からのロシア国民の解放を大義名分とすべきと主張しましたが、総統はウクライナの農業・地下資源確保こそが最大の戦略目標であり、またロシアは大ドイツ帝國の植民地とされるべきであって、愚鈍な劣等人種に過ぎぬロシア人如きは大英帝国におけるインド人と同様に扱えば良いと主張したのです。
この結果、更に多くの検討が行われましたが、総統もモスクワをキエフ・レニングラードと並ぶ戦略目標の一つとする事には同意していたため、ドイツ陸軍が有する４個装甲集団の内二つをモスクワ攻略を目指す中央軍集団に配備し、レニングラード攻略を目指す北方軍集団とキエフ攻略を目指す南方軍集団に１個ずつ装甲集団を配す事で調整が着きました。
かくして1941年６月22日、バルバロッサ作戦は発動され、ヒトラー総統はオストプロイセン大管区ラステンブルク近郊に設けられた総統大本営ヴォルフスシャンツェで総指揮を執り、OKW統帥局も同居する事となりました。一方、陸軍参謀本部はヴォルフスシャンツェから車で約１時間程度の場所にマウエルヴァルトと称する本拠を設け、ハルダー上級大将は作戦課・編成課・訓練課・外国軍課の面々と共にここへ常駐する事となったのです。
さて、バルバロッサ作戦は順調に進展し、フェヨドール=フォン=ボック元帥麾下の中央軍集団は７月３日にミンスク、16日にスモレンスクを攻略して驀進、ヴィルヘルム=リッター=フォン=レープ元帥麾下の北方軍集団もバルト三国を席巻して７月14日にレニングラード最終防衛線のルガ川に迫りました。ところが、ゲルト=フォン=ルントシュテット元帥麾下の南方軍集団が侵攻したウクライナ共和国に於いては、ヒトラー同様に経済資源を重視していたスターリン書記長が大軍を配備していたため、首都キエフへの進撃は容易では無かったのです。
この結果、ウクライナ制圧を重視するヒトラー総統はモスクワ攻略は後回しにして中央軍集団もキエフ攻略へ参加させろと主張、冬の訪れまでにモスクワを攻略すべきだと主張するハルダー上級大将との間で侃々諤々と議論が続いて貴重な時間が一ヶ月も無為に過ぎて行く事となってしまいました。
そして結局、ヒトラーは８月21日の総統指令第34号で「冬の到来前の最重点攻略目標はモスクワでは無く、ウクライナである」と言明、強引に中央軍集団所属の第２装甲集団(司令官；ハインツ=グデーリアン上級大将)をキエフ攻略に差し向ける事としてしまったのです。
この結果、９月14日にキエフ大包囲網が完成、９月26日にキエフは陥落して、ドイツ軍は捕虜665000人・鹵獲戦車800輌以上と言う空前の大戦果を挙げましたが、この間にスターリンはモスクワ前面へ強力な防御ラインを構築してしまったのでした。
こうして漸く10月２日、モスクワ攻略を目指すタイフーン作戦が発動されました。ハルダー上級大将は「更なる大戦果が来ようとしている」との楽観的見通しを示し、実際、10月７日には中央軍集団がモスクワ西方の要衝ヴィヤジマを攻略してソ連４個軍を包囲するなど、作戦は順調に進展していました。ところが、この肝心な時に、ヴォルフスシャンツェを訪れていたハルダー上級大将は朝の乗馬中に振り落とされて鎖骨を骨折する負傷をしてしまい、入院を余儀なくされてしまったのです。この結果、以後の作戦策定は第一参謀次長パウルス中将が代行する事となります。
しかし、ハルダー上級大将が入院していた数週間の間に情勢は一挙に暗転してしまいました。ラスポウティツァと呼ばれる長雨の泥濘期に突入したロシアに於いて、ドイツ軍の装輪車輛は身動きが取れなくなり、進撃も補給も極めて困難な状況が出現したのです。ドイツとロシアでは線路規格が異なるため鉄道輸送も不可能でした。皮肉な事に幹線国道すら未舗装の低劣なソ連のインフラがモスクワ防衛の最大の戦力となったのでした。
ハルダー上級大将が職務に復帰した11月になると、例年より早い冬の訪れのお蔭で道路が凍結、再び進撃が可能となりましたが、今度は充分な寒冷装備を持たないドイツ軍将兵は極寒の荒野で凍える事となり、遂には車輛のガソリンまでもが凍結してしまう事態となってしまったのです。
こうした重苦しい雰囲気の中、11月30日に陸軍総司令官ブラウヒッチュ元帥が心臓発作を起こして倒れ、12月７日に辞表を提出、その翌日ヒトラー総統は遂にモスクワ攻略断念を決定して、ドイツ軍はクレムリンまであと８�卉賄世泙杷�りながら敗退を余儀無くされたのでした。やはり、夏の一ヶ月間、総統とハルダー上級大将が無意味な議論を続けて進撃が中止されていたのが致命傷だったのです。
続いて、12月19日にブラウヒッチュ元帥の辞表を正式に受理したヒトラーは、一介の陸軍伍長の分際で自ら陸軍総司令官を兼任すると発表、東部戦線全体を統轄する東方総軍総司令官職も新設されて、これもヒトラーが兼任しました。この結果、以後、東部戦線の作戦は総統直轄の陸軍参謀本部が担当、他戦線はＯＫＷが担当する分業体制が成立したのです。
そして、ヒトラーはモスクワ攻略失敗の責任を前線の将軍達に擦り付け、有能な部隊指揮官が次々に更迭される事となりました。1942年１月16日にはハルダー上級大将と親交のあった北方軍集団司令官レープ元帥も解任されてしまったため、ハルダー上級大将は抗議の意味で自らも辞表を提出しようとしましたが、レープ元帥に説得されて翻意しています。
さて、モスクワ前面から後退したドイツ中央軍集団は総統の死守命令を順守してソ連軍の冬季大攻勢凌ぐ事に成功、春になってからも戦力の補充に努め、新たな大攻勢開始に備えました。
今度の大攻勢でも資源確保に拘るヒトラーは、モスクワでは無くコーカサスの油田を戦略目標とする事とし、モスクワ防衛網が強化されている事を把握していたハルダー上級大将も今回はモスクワ攻略の主張を引っ込めて総統に同調しました。ヒトラーは西ウクライナのヴィニッツァ近郊に前線大本営ヴェアヴォルフを設置したため、ハルダー上級大将以下参謀本部スタッフもここに移動しています。
かくして1942年６月28日、コーカサス攻略を目指すブラウ作戦が発動され、８月９日にはヴィルヘルム=リスト元帥麾下のＡ軍集団がコーカサス山脈北麓のマイコープ油田占領に成功しました。しかし、カスピ海岸への進出は峻嶮なコーカサス山脈に阻まれて困難を極めたため、ヒトラーは９月10日にリスト元帥を解任、自らＡ軍集団司令官をも兼任(〜11月22日)する無茶ぶりを発揮しています。
一方、東方のドン・ヴォルガ川方面への助攻を担当していたＢ軍集団(司令官；マクシミリアン=フォン=ヴァイクス男爵上級大将)麾下の第６軍(司令官；パウルス装甲兵大将)は、８月29日にスターリングラード市街に突入していましたが、兵力不足から脆弱なイタリア王国軍やルーマニア王国軍に側面防御を委ねざるを得ない状況でした。
このためハルダー上級大将は、ソ連軍が大反攻を開始した場合、戦線が崩壊しかねないと危惧し、総統にスターリングラード攻略断念を具申します。当然、ヒトラーは激怒して罵詈雑言を浴びせかけましたが、ハルダー上級大将は自説を曲げなかったため、９月24日に至り、遂に解任されて予備役に編入されてしまいました。後任の参謀総長にはフランス駐屯のＤ軍集団参謀長クルト=ツァイツラー少将が抜擢され、歩兵大将に昇進の上で就任しています。
そして、ハルダー上級大将の予想通り、11月23日にスターリングラードの第６軍はソ連軍によって包囲されてしまったのでした。
かくしてハルダー上級大将は郷里で逼塞する事となりましたが、1943年８月12日に大日本帝國政府から勲一等瑞宝章を授与されています。
1944年７月20日、ベック上級大将・シュタウフェンベルク伯爵大佐等によるヒトラー暗殺未遂事件が発生すると、国防軍の将官がゲシュタポによって大量に逮捕され拷問を受けた結果、1938年のクーデター計画も発覚してしまい、ハルダー上級大将も妻や長女と共に逮捕され、バイロイト大管区のフロッセンビュルク強制収容所に投獄されてしまいました。
ハルダー上級大将は1945年１月31日に公式に軍籍を剥奪された後、ミュンヘン=オーベルバイエルン大管区のダッハウ強制収容所に移されました。
しかし、４月に入ってアメリカ軍がダッハウに迫って来ると、ハルダーはシュタウフェンベルク拍の家族等と共にドイツ軍占領下のイタリア社会共和国領南チロル地方に移され、親衛隊員により隠密裏に処刑される事になりましたが、５月４日に至りアメリカ軍が迫ったため監視の親衛隊員が逃亡、ハルダー達はアメリカ軍の捕虜になりました。こうしてハルダーらは「敵軍」によって解放されたのです。
アメリカ軍は「絶対悪たるヒトラーに敵対した者は正義の使徒である」との短絡的妄想を抱いていたため、ヒトラー打倒クーデタを企画し、強制収容所に収監されていたハルダーは英雄として破格の厚遇を受ける事となりました。
ハルダーはイタリアに設けられたアメリカ軍捕虜収容所で1945年夏迄過ごした後、特に戦争犯罪で訴追される事も無く、あっさり釈放されました。
ハルダーは、ニュルンベルク裁判に証人として出廷した後、1946年から1961年迄アメリカ陸軍戦史研究部ドイツ支所の所長としてバーデンヴュルテンベルク州カールスルーエで働きました。
現在の一般的な第二次世界大戦の戦史記述は、ハルダーの著作による影響が甚大ですが、1995年に至って戦史研究家ベルント=ヴェグナー(1949〜)が、ハルダーの著作は誤謬や自己弁護に満ちた不正確な物だと厳しく批判、見直しが進んでいます。
ハルダーは退職時の1961年にアメリカ陸軍から、一般市民に対する最高の勲章である市民功労勲章(Meritorious Civilian Service Award)を授与されています。
その後、ハルダーは郷里バイエルン州のアッシャウイムキームガウで隠棲し、1972年４月２日に死去しました。享年87。
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ハルダーは、 1884年６月30日にバイエルン王国ヴュルツブルクにて、300年以上も同王国の陸軍将校を歴代輩出していた敬虔なカトリックの家系に生まれました。父マクシミリアン=ハルダー(1853〜1912)の最終階級は陸軍少将でした。
数学と植物学を得意としていたハルダー少年は王都ミュンヘンの人文ギムナジウムへ進学し、大学入学資格たるアビトゥーア合格後の1902年７月14日に士官候補生としてアンベルクの第３王立バイエルン砲兵連隊プリンツ=レオポルトに配属されました。当時の連隊長は父マクシミリアン大佐でした。ハルダー候補生は1904年に格別優秀な成績で少尉に任官し、1906年から１年間砲兵学校で砲術を学んでいます。ハルダー少尉は1907年に軍人の娘ゲルトルート=エルルと結婚し、後に夫妻は三人の娘を得ています。
ハルダー少尉は1911年に中尉へ昇進してバイエルン王国陸軍大学へ入学、優秀な成績で参謀課程を終え、1914年春に首席卒業を果たしています。
同年８月１日、ドイツ第二帝國が第一次世界大戦に参戦すると、ハルダー中尉はバイエルン第３軍団の砲兵将校として西部戦線へ出陣、ロートリンゲン州での激戦に参加して危険な偵察任務を果たしたため、９月14日に第二級鉄十字章を授与されました。
1915年１月６日、ハルダー中尉はバイエルン王国陸軍第６歩兵師団参謀に転じ、同年８月９日には大尉へ昇進、バイエルン王国のループレヒト王太子が司令官を務めるバイエルン王太子軍集団が東部戦線に移動したのに伴ってロシア帝国領ポーランドへ赴きました。ハルダー大尉は同年12月22日に第一級鉄十字章を授与されています。
1916年にハルダー大尉はドイツ第２軍麾下のバイエルン王国第５歩兵師団参謀に転じ、1917年にはループレヒト王太子が総司令官を務める東方総軍総司令部に短期間ながら勤務、卓越した戦術家である総参謀長マックス=ホフマン少将の薫陶を受けました。
続いてハルダー大尉はレムス=フォン=ヴォイリッシュ上級大将麾下のバイエルン王太子軍集団傘下の第２軍・第４軍参謀を歴任し、ロシアで1918年11月11日の休戦協定発効を迎えたのです。
ハルダー大尉は休戦と革命による混乱の中でミュンヘンに戻り、バイエルン共和国参謀本部で副官を務めた後、1919年６月のヴェルサイユ条約で100000人体制に縮小されたヴァイマール共和国陸軍への残留が認められて、ベルリンの国防省教育局勤務となりました。
ハルダー大尉は1923年４月１日に少佐へ昇進すると同時にバイエルン州ランツベルク=アム=レヒ駐屯の第７砲兵連隊戦術教官に移動しています。その暫く後の同年11月、アドルフ=ヒトラー伍長がミュンヘン一揆を起しており、第７砲兵連隊は直接鎮圧には関わらなかったものの、ハルダー少佐の脳裏にヒトラーの名はマイナスイメージで深く刻印される事となったのです。
ハルダー少佐は1925年からはミュンヘンの第７師団参謀へ転じて、1929年２月に中佐へ昇進後、同年10月に国防省教育局勤務となり、1931年12月には大佐に昇進してプロイセン州ヴェストファーレン郡ミュンスター駐屯の第６師団参謀長に就任しました。
1933年１月にヒトラー内閣が成立しますが、ハルダー大佐はナチス党による国防軍への容喙には批判的で、特にミュンスター市街でも乱暴狼藉を恣にする突撃隊に手を焼き、強い不快感を抱いていました。しかし、1934年６月にヒトラー首相が突撃隊粛清に踏み切ったため、ハルダー大佐はナチス党への嫌悪感を軽減させ、同年８月の第三帝國成立後は軍人として総統に忠誠を誓う事となります。
1934年10月１日、ハルダー大佐は少将に昇進し、同月15日にミュンヘン駐屯の第７歩兵師団長に就任しました。そして1935年３月にヒトラー総統の再軍備宣言で大軍拡が開始されると、ハルダー少将は順調に出世を遂げ、1936年８月１日には中将へ昇進して陸軍参謀本部第二部長となったのです。プロイセン=ユンカー閥が幅を利かせる陸軍参謀本部に於いてバイエルンの平民であるハルダー中将は異色の存在でした。
ハルダー中将はその結果、職掌で担当した軍事演習に於いてヒトラー総統から作戦能力を高く評価され、国防軍大改編のあった1938年２月１日に砲兵大将へ昇進、同月８日には左遷されたエーリッヒ=フォン=マンシュタイン少将に変わって第一参謀次長に任命されたのです。ハルダー大将の栄進は、当時の陸軍最高首脳が陸軍総司令官ヴェルナー=フォン=ブラウヒッチュ上級大将《http://
同年３月、強引なオーストリア併合に成功して気を良くしたヒトラー総統は、続いて同年４月にズデーテン地方奪取のためチェコスロヴァキア共和国に侵攻するグリューン作戦の準備を陸軍参謀本部に命じます。これに対し参謀総長ベック大将は、チェコと開戦すれば英仏両国に加えて、場合によるとアメリカ合衆国までもが参戦してドイツは滅亡しかねないと憂慮し、７月16日、作戦発動の場合は命令を拒否する旨の私信をブラウヒッチュ上級大将に送ります。
ベック大将は全国の軍司令官を集めてクーデタを提案する事をブラウヒッチュ上級大将に要求し、８月４日に非公式な将官会合がブラウヒッチュ上級大将の私邸で開催されました。しかしブラウヒッチュ上級大将は日和見を決め込んでクーデタ提案を行なわず、この会合は無意味な茶話会に終わってしまいました。
この結果、ベック大将は８月18日に参謀総長の辞表を提出、同月27日、後任参謀総長にハルダー大将が任命されたのです。しかし、この人事はブラウヒッチュ上級大将を見限ったベック大将が、自らクーデタを決行する事を考慮して、自由に動ける立場と実働部隊を麾下に持つための深慮遠謀であり、実際、ベック大将は最精鋭部隊の第１軍司令官に任命されて、強力な実働部隊を手にしたのでした。
さて、グリューン作戦に関し、ヒトラー総統は装甲部隊を一挙にチェコスロヴァキアの首都プラハに吶喊させて一撃で勝敗を決する作戦を主張、OKWも同意しますが、伝統的用兵を重視するブラウヒッチュ上級大将とハルダー大将はこれに猛反対します。そこで、ヒトラーは９月上旬にニュルンベルクで開催されたナチス党大会にブラウヒッチュ上級大将とハルダー大将を呼びつ付けて吊るし上げる事で、二人を作戦に同意させてしまったのです。
この恥辱に激怒したハルダー大将はベック大将と謀ってクーデタ決行を決意、第３軍団長エルヴィン=フォン=ヴィッツレーベン歩兵大将・第１軽快師団長エーリヒ=ヘプナー中将・第23歩兵師団長ヴァルター=フォン=ブロックドルフアーレフェルト伯爵中将・OKW情報局長ヴィルヘルム=カナリス海軍中将・ベルリン警視総監ヴォルフ=ハインリヒ=フォン=ヘルドルフSS中将・帝國銀行総裁ヒャルマル=シャハト博士・カール=ゲルデラー元ライプツィヒ市長等が計画に加担しました。計画を打ち明けられたブラウヒッチュ上級大将は「クーデタ準備には反対しない」と日和見を決め込みましたが、グリューン作戦発動が命じられれば第３軍団がベルリンを制圧する準備が整ったのです。
一方、ヒトラー総統は、同年９月12日、チェコ政府に対してズデーテン割譲を正式に要求し、欧州情勢は一挙に風雲急を告げて来ました。９月27日1330時、ヒトラーは遂にハルダー大将に対してグリューン作戦発動を指令、翌朝、ハルダー大将はクーデタ指令を発する事となりました。
本来のクーデタ計画では、ベック大将がベルリンの総統官邸に乗り込んでヒトラー陸軍伍長に退陣を迫り、それを拒否すれば逮捕して裁判又は精神鑑定にかける段取りでしたが、開戦回避のため、計画はいきなり実戦部隊が総統官邸を急襲してヒトラー伍長を誅殺する強硬策に変更されました。
ところが、そこへイタリアのムッソリーニ首相の仲介でチェンバレン英首相とダレディエ仏首相がミュンヘンでヒトラーと会談する事になったとの急報が飛び込んだため、グリューン作戦は中止され、ハルダー大将は伝統的規律と国家元首への忠誠に従ってクーデタ計画も中止したのでした。
かくして、目標を失ったベック大将は、同年11月１日に上級大将に昇進の上で陸軍を退役しましたが、その後も同志との連絡を取り合ってリーダー格となり、このグループは後にゲシュタポから「黒いオーケストラ」と呼ばれる事になります。 しかし、ハルダー大将は最早そのグループとは関わろうとせず、参謀総長としての任務に邁進して行く事となります。
但し、第三帝國国防軍に於いては、陸軍参謀本部とOKW統帥局の二つの軍令機関が並立する状況が続いており、権限と管轄を明瞭にする事が重要な課題となっていました。ハルダー大将以下陸軍参謀本部の面々はOKW統帥局を「ヒトラー伍長の事務所」と嘲笑していましたが、総統の直接指揮下にあるOKWは日々政治的重みを増していたのです。
ポーランド回廊問題で欧州情勢が再び風雲急を告げて来た1939年３月、ハルダー大将の具申を受けた陸軍総司令官ブラウヒッチュ上級大将は陸軍参謀本部を海軍・空軍にも軍令を下せる最上級幕僚本部として位置付けるべきだとの意見書を総統に提出します。これに対し、OKW長官カイテル上級大将は前OKW統帥局長代行で、大ヴィーン帝國大管区の第44歩兵師団砲兵連隊長に転じていたアルフレート=ヨードル大佐《http://
この両意見書を受けてヒトラー総統は同年５月23日、総統官邸に帝國議会議長兼航空大臣兼空軍総司令官ヘルマン=ゲーリング元帥・海軍総司令官エーリッヒ=レーダー元帥《http://
しかし、結局、ヒトラー総統はポーランド侵攻計画「ヴァイス作戦」の立案を伝統ある陸軍参謀本部に委ね、OKW統帥局はフランス国境防備等の副次的な任務のみを任される事となりました。
こうしてハルダー大将が中心となって立案したヴァイス作戦は９月１日に発動され、ドイツ軍は電撃戦で目覚ましい勝利を獲得したのでした。
ハルダー大将はこれを嘉されて10月27日に騎士十字章を授与されています。
続いてハルダー大将は西方侵攻計画「ゲルブ作戦」の策定も委ねられましたが、当初ハルダー大将が用意したプランは第一次世界大戦時のシュリーフェン作戦の焼き直しに過ぎず、オランダ・ベルギーの海岸線から主力部隊をフランスへ突入させ、急旋回してパリに迫るとの内容でした。これに対し、同年11月、Ａ軍集団参謀長マンシュタイン中将がベルギー南部アルデンヌ高原を戦車部隊で突破して英仏軍の背後を突くという画期的な作戦を参謀本部に提案します。対英仏戦を望んでいなかったブラウヒッチュ上級大将はマンシュタイン中将をポンメルン大管区シュテッチンに新設された第38軍団長に左遷しますが、２月27日に新任軍団長として総統に接見したマンシュタイン中将は自分のプランを直訴、ヒトラーはこの作戦案に跳び付いたのでした。
この頃、ベック上級大将はドイツの破滅を回避するためハルダー大将に再びクーデタ決行を持ち掛けていますが、ハルダー大将は成功の可能性は少ないと見て断念しています。
こうして５月10日にマンシュタイン計画に基づいて開始された西方電撃戦でドイツ軍は大勝利、６月22日にフランスを降伏に追い込む事に成功したのでした。 この結果、７月19日にハルダー大将は上級大将へ昇進しています。
バトル=オヴ=ブリテン最中の同年８月、ソ連軍の動静に疑念を抱いたヒトラー総統はOKWへ対ソ戦準備の指令を発しますが、対ソ開進計画の策定は陸軍参謀本部に委ねられる事となり、ハルダー上級大将は新任の第一参謀次長フリードリッヒ=パウルス中将に作戦計画立案を命じました。本来、ハルダー上級大将は対英戦を終結させないままの対ソ戦には消極的でしたが、ヒトラーに無謀な英本土上陸作戦を断念させる意味から対ソ開戦を強く推進する立場に転じました。そして、同年12月18日、総統司令第21号に於いてこの計画はバルバロッサ作戦と命名されたのです。
しかし、1941年２月３日にヒトラー総統・陸軍総司令官ブラウヒッチュ元帥・陸軍参謀総長ハルダー上級大将が行ったバルバロッサ作戦準備会議に於いて、総統の考えと陸軍参謀本部案の間に大きな隔たりがある事が明らかになりました。ハルダー上級大将は「敵国の首都こそ最大の戦略目標」との常道に従ってモスクワを第一目標とし、更に邪悪な共産主義体制からのロシア国民の解放を大義名分とすべきと主張しましたが、総統はウクライナの農業・地下資源確保こそが最大の戦略目標であり、またロシアは大ドイツ帝國の植民地とされるべきであって、愚鈍な劣等人種に過ぎぬロシア人如きは大英帝国におけるインド人と同様に扱えば良いと主張したのです。
この結果、更に多くの検討が行われましたが、総統もモスクワをキエフ・レニングラードと並ぶ戦略目標の一つとする事には同意していたため、ドイツ陸軍が有する４個装甲集団の内二つをモスクワ攻略を目指す中央軍集団に配備し、レニングラード攻略を目指す北方軍集団とキエフ攻略を目指す南方軍集団に１個ずつ装甲集団を配す事で調整が着きました。
かくして1941年６月22日、バルバロッサ作戦は発動され、ヒトラー総統はオストプロイセン大管区ラステンブルク近郊に設けられた総統大本営ヴォルフスシャンツェで総指揮を執り、OKW統帥局も同居する事となりました。一方、陸軍参謀本部はヴォルフスシャンツェから車で約１時間程度の場所にマウエルヴァルトと称する本拠を設け、ハルダー上級大将は作戦課・編成課・訓練課・外国軍課の面々と共にここへ常駐する事となったのです。
さて、バルバロッサ作戦は順調に進展し、フェヨドール=フォン=ボック元帥麾下の中央軍集団は７月３日にミンスク、16日にスモレンスクを攻略して驀進、ヴィルヘルム=リッター=フォン=レープ元帥麾下の北方軍集団もバルト三国を席巻して７月14日にレニングラード最終防衛線のルガ川に迫りました。ところが、ゲルト=フォン=ルントシュテット元帥麾下の南方軍集団が侵攻したウクライナ共和国に於いては、ヒトラー同様に経済資源を重視していたスターリン書記長が大軍を配備していたため、首都キエフへの進撃は容易では無かったのです。
この結果、ウクライナ制圧を重視するヒトラー総統はモスクワ攻略は後回しにして中央軍集団もキエフ攻略へ参加させろと主張、冬の訪れまでにモスクワを攻略すべきだと主張するハルダー上級大将との間で侃々諤々と議論が続いて貴重な時間が一ヶ月も無為に過ぎて行く事となってしまいました。
そして結局、ヒトラーは８月21日の総統指令第34号で「冬の到来前の最重点攻略目標はモスクワでは無く、ウクライナである」と言明、強引に中央軍集団所属の第２装甲集団(司令官；ハインツ=グデーリアン上級大将)をキエフ攻略に差し向ける事としてしまったのです。
この結果、９月14日にキエフ大包囲網が完成、９月26日にキエフは陥落して、ドイツ軍は捕虜665000人・鹵獲戦車800輌以上と言う空前の大戦果を挙げましたが、この間にスターリンはモスクワ前面へ強力な防御ラインを構築してしまったのでした。
こうして漸く10月２日、モスクワ攻略を目指すタイフーン作戦が発動されました。ハルダー上級大将は「更なる大戦果が来ようとしている」との楽観的見通しを示し、実際、10月７日には中央軍集団がモスクワ西方の要衝ヴィヤジマを攻略してソ連４個軍を包囲するなど、作戦は順調に進展していました。ところが、この肝心な時に、ヴォルフスシャンツェを訪れていたハルダー上級大将は朝の乗馬中に振り落とされて鎖骨を骨折する負傷をしてしまい、入院を余儀なくされてしまったのです。この結果、以後の作戦策定は第一参謀次長パウルス中将が代行する事となります。
しかし、ハルダー上級大将が入院していた数週間の間に情勢は一挙に暗転してしまいました。ラスポウティツァと呼ばれる長雨の泥濘期に突入したロシアに於いて、ドイツ軍の装輪車輛は身動きが取れなくなり、進撃も補給も極めて困難な状況が出現したのです。ドイツとロシアでは線路規格が異なるため鉄道輸送も不可能でした。皮肉な事に幹線国道すら未舗装の低劣なソ連のインフラがモスクワ防衛の最大の戦力となったのでした。
ハルダー上級大将が職務に復帰した11月になると、例年より早い冬の訪れのお蔭で道路が凍結、再び進撃が可能となりましたが、今度は充分な寒冷装備を持たないドイツ軍将兵は極寒の荒野で凍える事となり、遂には車輛のガソリンまでもが凍結してしまう事態となってしまったのです。
こうした重苦しい雰囲気の中、11月30日に陸軍総司令官ブラウヒッチュ元帥が心臓発作を起こして倒れ、12月７日に辞表を提出、その翌日ヒトラー総統は遂にモスクワ攻略断念を決定して、ドイツ軍はクレムリンまであと８�卉賄世泙杷�りながら敗退を余儀無くされたのでした。やはり、夏の一ヶ月間、総統とハルダー上級大将が無意味な議論を続けて進撃が中止されていたのが致命傷だったのです。
続いて、12月19日にブラウヒッチュ元帥の辞表を正式に受理したヒトラーは、一介の陸軍伍長の分際で自ら陸軍総司令官を兼任すると発表、東部戦線全体を統轄する東方総軍総司令官職も新設されて、これもヒトラーが兼任しました。この結果、以後、東部戦線の作戦は総統直轄の陸軍参謀本部が担当、他戦線はＯＫＷが担当する分業体制が成立したのです。
そして、ヒトラーはモスクワ攻略失敗の責任を前線の将軍達に擦り付け、有能な部隊指揮官が次々に更迭される事となりました。1942年１月16日にはハルダー上級大将と親交のあった北方軍集団司令官レープ元帥も解任されてしまったため、ハルダー上級大将は抗議の意味で自らも辞表を提出しようとしましたが、レープ元帥に説得されて翻意しています。
さて、モスクワ前面から後退したドイツ中央軍集団は総統の死守命令を順守してソ連軍の冬季大攻勢凌ぐ事に成功、春になってからも戦力の補充に努め、新たな大攻勢開始に備えました。
今度の大攻勢でも資源確保に拘るヒトラーは、モスクワでは無くコーカサスの油田を戦略目標とする事とし、モスクワ防衛網が強化されている事を把握していたハルダー上級大将も今回はモスクワ攻略の主張を引っ込めて総統に同調しました。ヒトラーは西ウクライナのヴィニッツァ近郊に前線大本営ヴェアヴォルフを設置したため、ハルダー上級大将以下参謀本部スタッフもここに移動しています。
かくして1942年６月28日、コーカサス攻略を目指すブラウ作戦が発動され、８月９日にはヴィルヘルム=リスト元帥麾下のＡ軍集団がコーカサス山脈北麓のマイコープ油田占領に成功しました。しかし、カスピ海岸への進出は峻嶮なコーカサス山脈に阻まれて困難を極めたため、ヒトラーは９月10日にリスト元帥を解任、自らＡ軍集団司令官をも兼任(〜11月22日)する無茶ぶりを発揮しています。
一方、東方のドン・ヴォルガ川方面への助攻を担当していたＢ軍集団(司令官；マクシミリアン=フォン=ヴァイクス男爵上級大将)麾下の第６軍(司令官；パウルス装甲兵大将)は、８月29日にスターリングラード市街に突入していましたが、兵力不足から脆弱なイタリア王国軍やルーマニア王国軍に側面防御を委ねざるを得ない状況でした。
このためハルダー上級大将は、ソ連軍が大反攻を開始した場合、戦線が崩壊しかねないと危惧し、総統にスターリングラード攻略断念を具申します。当然、ヒトラーは激怒して罵詈雑言を浴びせかけましたが、ハルダー上級大将は自説を曲げなかったため、９月24日に至り、遂に解任されて予備役に編入されてしまいました。後任の参謀総長にはフランス駐屯のＤ軍集団参謀長クルト=ツァイツラー少将が抜擢され、歩兵大将に昇進の上で就任しています。
そして、ハルダー上級大将の予想通り、11月23日にスターリングラードの第６軍はソ連軍によって包囲されてしまったのでした。
かくしてハルダー上級大将は郷里で逼塞する事となりましたが、1943年８月12日に大日本帝國政府から勲一等瑞宝章を授与されています。
1944年７月20日、ベック上級大将・シュタウフェンベルク伯爵大佐等によるヒトラー暗殺未遂事件が発生すると、国防軍の将官がゲシュタポによって大量に逮捕され拷問を受けた結果、1938年のクーデター計画も発覚してしまい、ハルダー上級大将も妻や長女と共に逮捕され、バイロイト大管区のフロッセンビュルク強制収容所に投獄されてしまいました。
ハルダー上級大将は1945年１月31日に公式に軍籍を剥奪された後、ミュンヘン=オーベルバイエルン大管区のダッハウ強制収容所に移されました。
しかし、４月に入ってアメリカ軍がダッハウに迫って来ると、ハルダーはシュタウフェンベルク拍の家族等と共にドイツ軍占領下のイタリア社会共和国領南チロル地方に移され、親衛隊員により隠密裏に処刑される事になりましたが、５月４日に至りアメリカ軍が迫ったため監視の親衛隊員が逃亡、ハルダー達はアメリカ軍の捕虜になりました。こうしてハルダーらは「敵軍」によって解放されたのです。
アメリカ軍は「絶対悪たるヒトラーに敵対した者は正義の使徒である」との短絡的妄想を抱いていたため、ヒトラー打倒クーデタを企画し、強制収容所に収監されていたハルダーは英雄として破格の厚遇を受ける事となりました。
ハルダーはイタリアに設けられたアメリカ軍捕虜収容所で1945年夏迄過ごした後、特に戦争犯罪で訴追される事も無く、あっさり釈放されました。
ハルダーは、ニュルンベルク裁判に証人として出廷した後、1946年から1961年迄アメリカ陸軍戦史研究部ドイツ支所の所長としてバーデンヴュルテンベルク州カールスルーエで働きました。
現在の一般的な第二次世界大戦の戦史記述は、ハルダーの著作による影響が甚大ですが、1995年に至って戦史研究家ベルント=ヴェグナー(1949〜)が、ハルダーの著作は誤謬や自己弁護に満ちた不正確な物だと厳しく批判、見直しが進んでいます。
ハルダーは退職時の1961年にアメリカ陸軍から、一般市民に対する最高の勲章である市民功労勲章(Meritorious Civilian Service Award)を授与されています。
その後、ハルダーは郷里バイエルン州のアッシャウイムキームガウで隠棲し、1972年４月２日に死去しました。享年87。
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