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2018年01月18日20:30

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平成期の日本政治 改革の果実と課題

 清水真人『平成デモクラシー史』(ちくま新書、2018年)読了。400ページにも及ぶ、新書としては大著だけれども、平成の三十年間、日本の政治に起きた出来事を構造的に解き明かしている。

 ちょうど昭和から平成に代わる1980年代後半から、日本の政治は大きな転機を迎えた。選挙制度や省庁再編など、それからの三十年の変化の土台がこの時期に築かれた。
 表面的には、自民党の分裂と新党ブーム、五十五年体制の終焉として記憶されている。バブル期の絶頂、冷戦の崩壊という出来事もあった。それに比べると、国政選挙の制度改革は政治の変化を直ちに可視化できたわけではなかった。省庁再編は、大蔵省が財務省となるなど、目に見える変化はあったものの、政官関係が今後どのようになるのかは、まだはっきりしていなかった。
 現在から眺めると、選挙制度改革及び省庁再編は、実質的に憲法改正と同様の、政治のかたちを大きく変えた。他方で、同時期に議論されていた地方政治改革は、一部を除いて現状維持のまま続いている。変わったものと変わらなかったもの。しかしそれがかえって、政治のかたちにさまざまな矛盾を来す結果にもなっている。

 国政選挙の制度改革は、衆院の小選挙区比例代表並立制によって、得票が相対的に多い政党に議席をより増やす仕組みができた。これによって、二大政党制と政権交代が起こりやすい環境が整いつつあった。また副次的効果として、党執行部の権限が強化され、逆に党内派閥は衰退していく。
 省庁再編もまた、人事権の確保を通じて首相や内閣主導の政官関係が形づくられていった。


 政治改革は、ある意味においてソフトウェアの仕様変更に似たところがある。仕様そのものは、何らかの意図をもって作られているけれども、利用者が試行錯誤を繰り返すなかで思わぬ効果を確認できたり、意図を超えた結果が得られたりする。

 その仕様変更を巧みに利用できた最初の人物が、小泉純一郎であった。

 小泉政権の党内基盤は脆弱そのものであったから、世論の支持を調達してこれに対抗した。しがたって、この段階における政治改革の効果は、首相個人の資質に多くを依存するものだった。誰でも小泉のような政権運営ができるわけでもなく、その前後は短命内閣が続く。

 次に、民主党が政権交代を果たして、政治改革の構造部分に手を入れようとする。しかしそれはうまくいかなかった。内閣と党の一元化や政治主導のかたちも、党内のまとまりを欠いた結果、空中分解してしまう。

 そして再び政権を奪取した安倍内閣は、小泉のような強烈な個性に依存するわけでもなく、政治の枠組みにさらなる改造を加えるのでもなく、政局を巧みに読みながら長期政権を実現させている。その方向性について、有権者の間には好悪が大きく分かれているけれども、衆参の国政選挙を勝利に導き、党内における政治基盤も強化させた。
 ある意味で、安倍政権の出現はこの三十年間の帰結であったともいえそうだ。

 しかし改革後、課題も浮き彫りになってきている。

 ひとつは、冒頭でも触れたように、地方政治に改革のメスを十分に入れなかったことで、国と地方の政治バランスが揺らいだままであるということ。選挙制度もバラバラであり、そのことは民意のくみ取り方にもバラつきを生んでいる。

 ふたつめに、政治主導の理念が必要以上に首相に対する権力集中をもたらしてしまっているのではないかという懸念である。確かに、それまでの政治は首相よりも党内派閥の指導者たちの意向のほうが重要で、それゆえに政治が利益誘導の温床となりやすかった。
 そのため、首相や党首らの指導力を向上させる流れになったものの、その歯止めとなるものを制度的に保障できているとはいいがたい。首相に解散権があるからといって、それを恣意的に運用し続けることがいいのか。

 みっつめに、政権交代の可能性があるからといって、政権奪取のみを目的としたかのような与野党の国会運営が、将来的な政治の瑕疵につながることはないのかという点だ。このことは世論やメディアの役割も、同時に問われてくることになる。


 改革の果実だけでなく、課題も出てきているなかで、本来であれば超党派での制度見直しもあってしかるべきである。しかし、政治的成果を求めて試行錯誤することを「改革」としてきた結果、世論にも飽きがきているようにも思われる。

 平成の世もまもなく終わりが近づくなかで、日本の政治はどこに向かっていくのか。政権や与野党のみに焦点を当てるのではなく、政治全体がこの間、どのような転換を遂げ、どこに課題を残しているのか。『平成デモクラシー史』は、そうした視点を提供してくれる格好のテキストだった。一流ジャーナリストによる「生きた政治史」といえよう。
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