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2017年09月25日23:35

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イングリッシュ・ナショナル・バレエ アクラム・カーンのジゼル

Giselle

Direction and choreography Akram Khan
Music by Vincenzo Lamagna after the original score of Adolfe Adam
Orchestration by Gavin Sutherland

2017/9/22金 19:30- 

Giselle Tamara Rojo
Albrecht James Streeter
Hilarion Cesar Corrales
Myrtha Stina Quagebeur
Conductor Gavin Sutherland

2017/9/23土 14:30-

Giselle Fernanda Oliveira
Albrecht Aitor Arietta
Hilarion Jeffrey Cirio
Myrtha Sarah Kundi
Conductor Gavin Sutherland

2017/9/23土 19:30-

Giselle Erina Takahashi
Albrecht Isaac Hernandez
Hilarion Oscar Chacon
Myrtha Stina Quagebeur
Conductor Gerry Cornelius

サドラーズ・ウェルズ劇場

アクラム・カーンのジゼルがどうしても観たくて、ロンドン弾丸遠征をしてきました。9月のロンドン公演は7回、そのすべてがチケット完売という現地でも人気の演目。チケットは基本的に発売日におさえたのですが、1枚は直前のリターンです。

期待に違わぬ傑作、そしてダンサーのパフォーマンスも見事でした!とても分かり易いし、ショー的な要素も十分。個人的には、分かり易さと芸術性のバランスや演劇的なところがマシュー・ボーン作品と共通するように思いました、マシュー・ボーンは日本にファンが多いし、これも日本でウケるだろうなあ。返す返すも、先日のENB来日公演でこの作品を持ってこなかったことは残念でなりません。

ストーリーは基本的に古典バレエのジゼルですが敢えて書き下すと下記の通り(プログラムに書かれてる内容に私の主観が混じってます)。

一幕

ジゼルは、縫製工場で働く女性。縫製工場は高い塀に囲まれていて、ジゼル達労働者はその外に出ることができない。
そこにやってきたアルブレヒトとジゼルは恋仲になり、アルブレヒトの子を宿している。労働者の中のフィクサー、ヒラリオンはそれが気に入らず、彼らの間を邪魔しようとする。
ある日、サイレンとともに壁が開き、雅な服装の工場の経営者一族が労働者の元を訪れる。ジゼルは女性の衣装の一部が自分が作ったものであることに気づく。
ヒラリオンは彼らとも通じており、経営者の求めに応じて労働者の踊りを見せる。
経営者一族はアルブレヒトの姿に気がつき、婚約者のバチルダが彼のもとにやってくる。ジゼルは愕然とし、アルブレヒトに彼の子を宿している自分のもとに留まるようすがるが、アルブレヒトは父親(?)のプレッシャーもあって彼女を振り払ってバチルダの手を取る。ジゼルは半狂乱となり、アルブレヒトの父とその従者、そしてヒラリオンに囲まれて息絶える。

二幕

アルブレヒトはジゼルを死に追いやった自分の一族を責める。バチルダは荒れる彼を最後まで見ているが、アルブレヒトは彼女を拒絶する。
ジゼルの遺体を抱いたミルタが現れ、彼女をウィリとして蘇らせる。彼女は長い槍(裁縫の針を巨大化したイメージなのではと思った)の使い方をジゼルに教える。
ウィリ達が現れ、槍を鳴らしながら踊る。そこに、ジゼルを失って悲しむヒラリオンがやってくる。ジゼルの姿を認めて彼女を抱きしめるがジゼルは彼の腕の中でもがく。それを見ていたウィリ達が槍を鳴らしながらヒラリオンを取り囲み、彼を槍でなぶり殺す。
そこにアルブレヒトも現れる。ミルタはジゼルに彼を槍で刺し殺すように指示し、アルブレヒトはそれを受け入れようとするが、ジゼルはそれを拒否して彼と会えたことを喜ぶ。ミルタ自身が彼を殺そうとするのもジゼルは止め、ミルタとともに去っていく。
アルブレヒトは、一人、壁の中に残される。


ジゼル達労働者は男女ともに質素な服と活力に溢れる野性的な踊り、活き活きした感情で表現されます。一方、経営者一族は装飾的な衣装、形式的な感情表現(そして踊らない)。古典の領主と民の関係をより普遍的な階層問題に読み替えているのが流石。また、アルブレヒトは活き活きした人間らしい感情への憧れからジゼルに惹かれたことが納得でき、その結果、ジゼルを失った後も彼の本来属する世界にいられなくなるラストに説得力がありました。

音楽はアダンではなくこの作品用に創られたオリジナル。どこか東洋的な響きもあり打楽器や効果音を多用していますが、随所でアダンの音楽からメロディを取り入れているのが面白い!ちなみに公演では効果音の録音音源とオケが共演しますがオケの音もPAから聞こえるので生な実感は少なかったな。

音楽同様、振付やフォーメーションも古典ジゼルからの引用がたくさん。村人の踊りの放射状に回転するやつとか、ウィリではアラベスクで交差するシーンも出てきます!アクラム、古典を音楽も振付も、凄く研究したのだなあ。あ、でも、踊り自体はクラシックではないです。クラシックのパを使ってるところは無くはないし、2幕のウィリはボワントですけど、基本はコンテ。

舞台装置は、奥にある「壁」のみ。片面は労働者を取り囲む手形のついたグレーの面。もう片面はレンガ色で上り下りできる突手状のものが付いていて、これは、外の世界から見た壁の姿なのかなと思いました。最初のシーンがとても印象的。ジゼル達労働者がこのグレーの壁を手前から奥に向かって押していくのです。抑圧に対する抵抗の姿に見えました。また、この壁は真ん中を軸にオモテウラに回転するようになってて、一幕終わりではジゼルを抱いたヒラリオンの後ろで壁がぐるぐる回り、世界が崩壊する感を演出していました。

さて、人物の造形について。

アクラム版ジゼルでは、ヒラリオンの設定がとてもユニークで重要です。労働者の中にありながら経営者とつながり自身も利益を受けている設定で、一言で言えばヤクザ的に労働者達を統率してる黒幕。ジゼルに対しても高圧的で、特に一幕では、なんでオレの女にならねーんだ、的な態度です。

ヒラリオン役は、今回観た3キャストでは、セザール・コラレス、ABTプリンシパルのシリオ、そして元BBLのオスカー・シャコンと、いずれもテクニックと表現力を兼ね備えたダンサーで見応えがありました。
中でも、初演ファーストキャストのセザールのヒラリオンが衝撃的!先日の来日公演でアリを踊ってた彼、コンテ踊ってもキレキレ、演技も上手いし、何より悪の色気が凄くてクラっとするくらい魅力的!彼が出てくると目が釘付けでした。めっちゃかっこよかったー、もう一度観たい…!このキャラクター自体、彼の個性からインスパイアされてるのでは、とにかくはまり役です。
そして、オスカー。こちらもセザールと甲乙つけがたい素晴らしさ!オールバックで髪をぴっちり後ろで結ったオスカー、見た目もシャープで縫製工場労働者の中で一人違うレベルでモノを見てるフィクサーとしての迫力満点。踊りも野獣のようなしなやかさ。ベジャールバレエという他のダンサーと全く違うバックグラウンドが、どこかはぐれもののヒラリオンに活きてました。うーん、オスカーにこの役をオファーしたタマラ凄いなあと舌を巻きました。
シリオもとてもよかったです!彼もほんとに踊れるダンサー。東洋系のルックスなので、個人的には香港マフィアみたいな印象を受けて、それがまたこのヒラリオンを面白くしていたな。

ヒラリオンに比べると役としては大人しいアルブレヒト。今回観た3人はいずれもよかったですが、流石だなと思ったのはイサック。彼のアルブレヒトは、悲しみ、怒り、愛情、など感情が伝わってくる、強いアルブレヒトでした。あの個性的なヒラリオンに対して、アルブレヒトも強い方が、ドラマは面白かった。この作品、演技ではヒラリオンよりアルブレヒトのほうがむしろ難しいのかもしれない。

実は土曜日のマチネはアルブレヒト役はブッファラの予定でした。日本公演の海賊のビルバント役で演技力を気に入ったので彼を観られるのを楽しみにしていたのですが、始まって約10分ほどで突然幕が降り、負傷のためアルブレヒトはアリエタが踊るとのアナウンスが。公演は5分ほどで最初からやり直しになり、アリエタも甘いアルブレヒトでよかったのですが、ブッファラの怪我がひどくありませんように。

ジゼル役も、どれもよかったです。ファーストのタマラ、踊りの強さやキレはほんと流石だなあと。ウィリになるとトゥで立ったまま舞台で立ち尽くすシーンが多いのですが、彼女はこのとき微動だにしません。タマラは舞台で存在感の強いダンサーだと思いますが、このジゼルは健気さと同時に野性的なまでの活力も持ち合わせるキャラクターなので彼女によく合ってました。そして高橋さんのジゼルもよかったなー。踊りは強くキレよく、でも演技は繊細で。

ジゼルの死に方なんですが、この作品では、狂乱して倒れ込む彼女を最後はアルブレヒトの父の二人の従者が父の前に連れてきて、3人+ヒラリオンで取り囲む形になり、父と従者がすっと離れるとヒラリオンの腕の中で彼女が息絶えているという演出。その際、背景の壁が真っ赤に染まるのです。彼女の死は、狂気だけが原因ではなく、アルブレヒトの父の従者が手を下したのかも、ともとれました。妊娠を強調する演出もあったので、流産や堕胎も示唆しているのかも。

ウィリになったジゼルが槍を自分やミルタのお腹に刺すシーンもあり、ウィリも子供を堕胎や流産した女性達なのかも、とも。そしてアルブレヒトがミルタに許されたのは、ジゼルのお腹の子が身代わりになったのかも…

と、分かり易いながらも考えさせられる要素もある、ほんとによくできた作品でした。毎回スタオベで、地元のファンからも本当に高い評価を受けてるようです。あ、最終日はカルロス・アコスタが客席に!

最後に、サドラーズ劇場について。小さな劇場でどこも見易いです。1列目でもオケが入れば足元が見えるつくりですが、今回は床を40cmくらい上げていたため、1列目(A)だと足首まで隠れてしまいました。1階平土間(stalls)は4列目(D)から段差が大きくなります。また、1階最後方のブロックは、視界の上の方が2階席でかなり邪魔されるみたいでした。ここは客席に飲み物食べ物持ち込みOKですが、さすがに上演中に食べてる人はいなかったような。あと、ステージドアから中に入ったところに、アシュトンとかフォンティーンとかクランコとかの頭像が並んでます。さらに奥に行くとカフェがあって、ここはだれでも入れるのですが、ダンサーの姿も見かけました。

アクラムのジゼル、日本に持ってきてくれないかなあ。日本の呼び屋なら、愛芸やさい芸主催が、客層も、そして規模も似つかわしいかも(文化会館はこの作品には大きすぎると思う)。ぜひ、この話題作の招聘、ご検討いただきたいです!
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