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2018年02月18日05:39

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小説を作成しました!「男子と女子の、小さな戦い」

「男子と女子の、小さな戦い」



 
※ こちらの作品は小説ですが、朗読台本としても使用可能です。

金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※



朗読台本として使ってくださるのもツイッターのフォロワーさんであれば歓迎ですし、
そうでなくとも許可申請してくだされば基本的には許可を出します。その際多少言い換え等する必要があれば、少しくらい言い換え等大丈夫です。
因みにその場合、読み切るまでの目安は22分程度です。


※ 過激な描写は特にありませんが、一応R-15くらいの指定は入るかもです。





登場人物


古村 なお(こむら なお)…中学三年生男子。

坂口 しづる(さかぐち しづる)…中学三年生女子。







本編


 今、俺―――古村なお(こむら なお)―――は幼馴染である、坂口しづるの部屋に居る。共働きの坂口の両親はまだ仕事から帰ってきていない。この部屋は勿論、この家に現在、二人きりだ。

 そして、今、その坂口の口から出た言葉は、俺が冷静に受け止める事のできるようなものでは到底なかった。

「ねえ…なお君さ。私のおっぱい、見たい?」

 俺はまだ15年間しか生きてきていないけど、少なくともその15年間では今が一番、『頭が爆発しそう』という表現がぴったり来る時だろう。焦り、期待、自己嫌悪、緊張。それら以外にも沢山…。様々な思いが頭の中を駆け巡っている。

 こいつは間違いなく同い年だ。同じ学校の同じクラスに所属してる以上間違えようがない。しかし、とてもそれが信じられないと思う事がある。それがこのおっぱい。ネットの中ですら中学生でここまでのは殆ど見た事がない。

 そんな坂口が自らの襟元に手をやりながら、おっぱいが見たいかと質問をしてきた。もし見たいと答えたら…見せてくれるのだろうか。



 見たい。勿論見たい。単純におっぱいが見たいし、大きなおっぱいは余計見たい。同年代のおっぱいは余計見たい。…でも、何より、坂口のおっぱいが…一番見たい。







 ただ、この問いに答えるためには色々と、思い返し考えなければならない事が沢山ある。







 俺と坂口は、親同士の仲が良く、物心ついた時からの仲だった。小学生時代においては、お互い引っ込み思案なところがあって、お互い他に友達ができず、お互いにとってお互いが唯一の友達だった。別のクラスになってもいつも休みの度にお互い会いに行って…だから周りからはからかわれたりもしていた。

 それもずっと気にしてなかったし、むしろ無駄に勘違いされるのが少し楽しかったりもしていた。『馬鹿め、お前らには俺達がそんな関係に見えるか?違うんだな、ふふん』って感じ。そうだったのに…なぜだろうか。中学に入って以来、なぜか別のクラスになった坂口のところに…話しかけに行く事ができなくなってしまったんだ。

 アニメや漫画の中で『幼馴染』という存在が強い縁で結ばれていて、恋愛だのそういった俗なもの抜きでもお互いがお互いを支え合っている姿をよく見て来た。そういうものに憧れてもいたし、自分達もそうだと思っていたから、こんな風にあっさり心の距離が離れてしまったのはあまりにも予想外だった。

 自分の中で坂口を蔑ろにする理由が何かあったのだろうか。さっぱり分からない。ただただ…何となく。そう、本当に何となく…あいつに会いに行くのに、息苦しさを感じてしまったんだ。



 その後は友達が居ない人間何人かを引っ張ってつるみ出して、俺は少ないながらも友達ができていった。坂口をたまに廊下で見かけたりすると、あいつはいつも一人だった。そこに胸が苦しくなるものもあって、話しかけたい気持ちもあったのに。俺は一年生の間、あいつに結局一度も話しかける事ができなかった。

 二年生に上がってしばらくした時、またしても別のクラスになったあいつの、廊下で友達と仲良さげに話している姿を偶然見かけた時は何となく心が澄むような感じがした。そしてその時、何となく違和感に気づいた。一年生の頃にも少しだけ感じていたが、二年生になって明らかにおっぱいが大きくなってきていた。それも、他の女子生徒と比べて明らかに突出して。同じクラスの女子生徒同士で『なんとかちゃんのおっぱい大きい』などとはしゃいでいる姿をたまに見かけるものの、その『大きい』と言われてる『なんとかちゃん』と比べても何段階も坂口の方が大きい。

 それを意識した時、背筋がぞわぞわする感覚に襲われた。俺は小学五年生の頃から毎日のようにインターネットの中から、あるいは保存したフォルダの中から十八禁の画像を漁っている。その、見ず知らずの誰かの画像に向けている気持ちと同じ気持ちが坂口に向いた事を自覚すると、余計に寒気が増した気がした。

 次の日から、俺は意識して坂口を避けるようになった。あいつのクラスの前をなるべく通らないように移動したし、あいつが早めに登下校する事を知っていたから、遅刻ギリギリに登校して、特段用事がない日も図書室で居残って勉強してから帰宅する生活をした。

 コートが解禁される冬場は少しだけ楽だった。分厚い格好をするために、偶然あいつを目の端に捉えてしまってもおっぱいが強調されなくて、そこばかりに注意が行って罪悪感にかられる事にならなくて済んだからだ。とは言えコートを着て良いのは登下校の時だけで、特にクリスマスイベントの際に皆体操着になって学年合同作業をした際には、深い自己嫌悪に苛まれることとなってしまった。

 そんなこんなで三年生に上がった時、なんという事か、俺は坂口とついに同じクラスになってしまった。毎日が下衆な好奇心と罪悪感との戦い。そしてその戦いにはいつも負けていたような気がしていた。

 そんな自分が情けなくなるとともに、クラスメイト達が坂口に『すごい、何そのおっぱい』とか『相変わらず坂口のおっぱいマジでかいよな』とか『俺の姉ちゃんの倍くらいあるんじゃね』とか、そんな風に言っているのを見ては苛立ちを募らせていた。違うんだよ。違うんだ。イライラする。

 坂口がうつぶせ寝しているのを見てもおっぱい。坂口が走ってるのを見てもおっぱい。坂口がジャンプしてもおっぱい。梅雨に入って、湿気で制服が透けておっぱい。夏になって、水着姿になっておっぱい。体育祭シーズンに入って、いつも以上に気合を入れて走っておっぱい。

 お前らも、俺も。違うだろ。違う筈だろ…。いい加減飽きろよ。いつ、何をしても、何につけても、おっぱいおっぱい…。違う筈なんだ。その、坂口しづるは…いつの間にか明るい性格になってたけど、俺がよく知ってた時点では暗くて、人見知りで…でも、俺は確かにそれはそれで、こいつとは、その。話すのが楽しかったし、遊ぶのも楽しかったし…。そんなのじゃなくて、確かにこいつの事が、その、そうじゃなくて、大好きだった筈なんだ。



 坂口を見るといつもおっぱいにばかり目が行って、こいつを思い出す時、必ずそのおっぱいを好き勝手に揉みしだいている自分をセットで想像するのが嫌だった。…正直、さすがに…そろそろ懺悔室にでも行きたくなってきていた。そうでなければ魔法で石にでもなりたい気分だった。『俺は最低な奴なんです』って、誰かに向かって全てを告白して、それに対して『そんな事ないですよ。その年ごろの男の子はみんなそうなんです』とか言って全てを許してもらいたかった。



 虫が良い。ほんっと…。なんで俺はこんなんなんだ。最低だ。最低だ。もう放っておいてくれ。毎日が罪悪感にまみれていた。

 

 そんな風に、段々と自尊心とともにあらゆる気力が消え失せて行った秋のある日…それが今日。今日、坂口が学校を休んだ。思えばあいつが学校を休んだのは、少なくとも三年生になってからは初めてな気がした。

 そう言えば小学生の頃は家が近い上に友達が俺しか居なかったから、あいつが休んだ時は必ず俺がプリントとか持って行って、あと、その日使ったノートを見せて写させてやったりもしていた。反対に俺が休んだ時はあいつが同じ事をしてくれてた筈だ。それを思い出した俺は、どうにか少しでも小学生時代の自分に戻りたい一心で、あいつの分のプリントを受け取って、届ける係りを名乗り出た。その際、変にからかわれもしたものの、それを気にしないのもまた、少しでも自分が小学生の頃の自分に戻るために必要な事だった。

 今にして思えば、ちょっと感覚が狂ってしまっていたのかも知れない。焦って、変な行動をしていたという事だろう。ただ、自分ではその事に気づく事ができず、俺は授業後プリントを届けにあいつの家に向かった。

 インターホンを鳴らすと、休んだにしては元気そうなジャージ姿の坂口が玄関口に現れ、俺からプリントを受け取った。先生としてもクラスメイトとしても、玄関口でプリントを渡してそれで終わると思っていただろうが、俺は、―――きっとあえてそういう事を言う事で、自分が坂口を欲のはけ口として見ていないという事を自分に納得させたかったのだろう。―――坂口に『思ったより元気そうだな。今日の分のノート見せて写させてやるから中に入れてくれ』と言い放っていた。

 流石に自分でもそれを言った直後、いくらかの後悔をしたものの、坂口は少し驚いた様子を見せた後、意外にも『良いよ。入って』と俺を招き入れた。

 部屋の綺麗さに自信があったのか、俺だったら部屋に上げる前に必ず掃除をしなければといったところだが、こいつは普通にそのまま俺を部屋に上げた。そしてその自信は確かなもので、三年ぶりに入る坂口の部屋は、内装自体は大分変わってはいたもののとても綺麗だった。

 俺が部屋に入り、その日使ったノートを広げると坂口は、俺のノートを写しながら『なお君の字ぃ汚すぎだよ。ぜんぜん読めない』などと言って口をとがらせていた。考えてみれば、小学生の頃と違って今なら、携帯電話をはじめカメラ機能のついたものをいくらか持っている以上、別にそれを使えば良い話だったものの、俺はそれに気づかないふりをすることにした。

 中学に入ってしばらくしてから、坂口はよく笑うようになっていた。でも、俺の欲目なのかも知れないけど、いつもの笑顔と今の笑顔は違うもののように見えた。今の笑顔は、なんていうか…小学生の頃を思い出す。

 そう言えば、小学生の頃もよく字が汚くて読めないって言われた気がする。それでその度俺は『なんで読めないんだよ』って言って、逐一何て書いてあるのかを教えてたんだ。なんだか本当に懐かしい。

 色々思い出す度に連鎖的に昔の事がもっと思い出された。久しぶりに、思い出の中にしかなかったような…とてもきらきらした時間を過ごしている気がしたんだ。

 でも、そんな楽しい時間は突然終わってしまった。坂口は…ノートを一通り写し終わった時、達成感からかひときわ大きく伸びをした。その大きなおっぱいがぐぐっと上に引っ張られ、その後すとんと落ちた。その光景はあまりにもなまめかしくて…俺は普通で居られなくなってしまった。

 露骨に気にして、恥ずかしがって坂口の方をまともに見る事ができなくなってしまった俺のその様子の変わりように、坂口もすぐに気づいた。すると坂口は、すごく悲しそうな顔をした後、何か…全てを諦めたような、加えて極めて自嘲的な表情で、言ったんだ。



「ねえ…なお君さ。私のおっぱい、見たい?」



 俺の答えは決まっていた。それを言うのにはあまりにも大きな勇気が必要だったが、でもしなければならない事はしなければならないし、言わなければならない事は言わなければならない。

「見たくない」

 脳内ではきわめてクールに言い放つシミュレーションをしていたものの、実際には随分と声が震えてしまっていた。格好悪い。恥ずかしさといたたまれなさに顔を覆い、下を向いていると、坂口が肩をぽんぽんと叩いてきた。それに反応し、手をどかして顔を上げると

「ありがと」

 と、にまにま笑う坂口の顔が近くにあった。その笑顔は、先ほどまでのものとも違っていたし、中学で見て来たものとも違っていた、初めて見るものだった。



 その後、坂口は自分が今日学校を休んだ理由を教えてくれた。どうやら、一昨日に同じクラスの男子に告白されて、その時は真剣さを感じたためその告白を一旦受けたものの、昨日学校に行くとそいつがその事を自慢して『これからあのおっぱいを好きにするの楽しみだ』などと友達に言っていたのを見てなんだか嫌に思って、すぐさま別れを切り出したところ、その男子と仲の良い者を中心に女子から反感を買って嫌がらせのメールが大量に届いて嫌気が差した。とのことだ。

 俺が全く知らないうちに起きていた事が、俺の中では漫画やアニメの中の出来事のように思えてしまって『そんな絵に描いたような腐った出来事が現実にあるんだな…』などと、現実感が湧かないでいた。

「嫌だって言ってるのにこの前までずっと人のことおっぱいおっぱい言ってきてたクセして、なんか勝手に『おっぱい大きいからって調子に乗ってる』とか『おっぱい大きいと顔も性格もダメでもモテて良いよね』とか酷い言われようでさ」

 正直、そのおっぱいばかり見て来た事については俺自身にも心当たりがあったため、罪悪感が普段に増して重くのしかかった。

「そもそも、これでも明るくなったつもりだし、勉強も頑張ってるし…なのにさ。そんな事いくら頑張っても全然友達できなかったのに、おっぱい大きくなり始めてから、なんかみんなおっぱいおっぱい言って近づいて来て…正直、その時からずっと空しかったよ。私の努力は全部おっぱいに負けるんだなーって」

 罪悪感が更に大きく重くのしかかる。坂口は他の同級生への愚痴のつもりで言っているのだろうが、俺は俺で心当たりがあったから。どんなに拒絶したくても拒絶できないでいた自分が居るから。

「だから、さっきちょっとヤケになっちゃって。変な事言ってごめんね。…でも、見たくないって言ってくれて本当に嬉しかったよ」

 ああ、その笑顔。その、心底安心しきった笑顔。小学生の頃よく見て来たものに似てはいるけど少し違う、その素敵な笑顔。罪悪感が破裂してしまいそうだ。俺だって大差ないんだよ。俺だってお前を思い出す時、その…いや、だから。言ってしまいたい。俺が本当はこんな奴なんだって。それで、その上で『でも我慢してくれたんだから、やっぱりありがと』とか言われたい。

「坂口」

「なあに?」

「もし嫌がらせとか続いたらさ。できる事は協力する。ハブられたりしたら…良かったらだけど、休み時間とか俺と話そ」

 言えるかよ。今のこいつにとって『自分のおっぱいばかりに注目しない同級生』がどれだけ大事な存在だろうか。今は俺の、自分の楽になりたい気持ちを優先して良い時じゃないだろ。

「うん!ありがとう。…なんか、中学に入ってから、その。変に意識しちゃって今まであんまり仲良くできなくて…ごめんね」



 願わくば、こいつの心が安らいで、『正直そのおっぱいは俺にとって目の毒だったよ』なんて俺が言ってそれを二人で笑い飛ばせるような未来が訪れるまで、こんな睦まじい仲が続いてくれますように。

 だから今はとりあえず、この言葉を。

「俺の方こそな。変に意識して避けてきてごめん。…なあ坂口。お前どこの高校行くの?できれば同じとこ行きたいから」

 願わくば、俺の中で坂口への下心と大好きって思いとの間に、きちんと折り合いがつけられて、坂口に罪悪感なく接する事ができるまで、この睦まじい仲が続いてくれますように。





完。
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