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mixiユーザー(id:2312860)

2012年10月28日15:01

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二千円札の源氏物語

「十五夜の夕暮に、仏の御前に宮おはして、端近う眺めたまひつつ念誦したまふ。若き尼君たち二、三人、花奉るとて鳴らす閼伽坏の音、水のけはひなど聞こゆる、さま変はりたるいとなみに、そそきあへる、いとあはれなるに、例の渡りたまひて、『虫の音いとしげう乱るる夕べかな』」

源氏物語「鈴虫」より
http://www.sainet.or.jp/~eshibuya/text38.html

「十五夜の夕暮、女三の宮は仏の御前にいらっしゃって、端近くで外を眺めながら念誦なさっていた。二、三人の若い尼君たちが花を奉ろうとして閼伽(あか)の坏(はい)の水の音などが聞こえる。今までとはありさまが変った生活に、忙しく働いている。まことに感慨無量なので、『虫(まつむし)の音がとてもうるさく鳴き乱れている夕方ですね』と歌いながらいつものようにお越しになった。」
(拙訳)

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図書館で伊藤鉄也氏の『「源氏物語」の異本を読む−「鈴虫」の場合』(臨川書店)という本を見つけたので手に取ってみた。平成12年(2000年)8月に国文学研究資料館で行われた「原典講読セミナー」を活字化してものとのことで、その第一講は「新二千円札と『源氏物語』」と題されている。

僕は手元に1枚持っているけれど、2000年のミレニアムに出された「二千円札」については、多くの人の記憶から遠ざかりつつあるかも知れない。

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伊藤氏によれば、ここに描かれた画は『源氏物語絵巻』の「鈴虫」から採ったもので「冷泉院と光る源氏の対面」を描いている。しかし、この画に重ねられている詞の文字は、この場面に対応するものではなく、「鈴虫」のほかの部分から採られている。それが冒頭に引用し訳してみたものだ。
具体的には、「絵巻詞書」から以下の「/」よりも前の部分が写されている。

「十五夜のゆふ/くれに仏のおまへ
に宮おはしては/しちかくなかめ
たまひつゝ念珠/したまふわかき
あまきみたち二/三人はなたてま
つるとてならす/あかつきのおとみつ
のけはひなとき/こゆさまかはりたる
いとなみにいそき/あへるいとあはれな
るにれいのわ/たりたまひてむしの
いとしけく/みたるるゆうへかなと」

「変体仮名」文字が使われている部分を字母で記すと次のようになる。

「すゝむし
十五夜農遊不
二宮於盤してハ
堂万ひつゝ念珠
あ万支三多ち二
徒るとてなら須
のけはひなとき
いと那三にいそき
流二連いのわ
いとしけく」

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「冷泉院」は、系図上は光る源氏の弟に当たるが、実は源氏と藤壺(源氏の父親の妻、源氏の義母)との間に出来た不義密通の子。
「女三の宮」は、源氏の妻であるにもかかわらず柏木と密通し、不義の子「薫」を産む。彼女はその罪の意識から出家をする。

つまり二千円札は、画と詞の両方で、異なる「不義密通」を描いている。
このことで、新札はあまり評判がよくなかったようだ。そのためか、今では見ることも稀になってしまった。

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伊藤氏がこの本で論じていることは、源氏物語における本文(ほんもん)研究の重要性だ。本文研究は文学における基礎研究だが、労が多い割りに短期に成果を挙げることが難しく、研究が立ち遅れているとのことだ。
この欠を補うべく、『源氏物語別本集成』という事業が進められたが、これも第二期の途中で中断しているようだ。
■『源氏物語別本集成』中断の弁
http://genjiito.blog.eonet.jp/default/2010/06/post-644f.html

伊藤氏のブログを見つけた。折を見て拝見し、勉強させてもらおうと思っている。
■「鷺水亭 より」
http://genjiito.blog.eonet.jp/default/

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コメント

  • mixiユーザー

    mixiユーザー2012年10月29日 21:42
    ひよこ2千円札にそんなドラマがあったとは!正直びっくりしました(笑)
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2013年06月18日 09:25
    > はとっち様

    お国がやることとしては、結構、大胆な内容ですよね。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2013年06月28日 20:26
    はじめまして。足跡から参りました。

    そうなんですよね、二千円札。五島美術館所蔵の国宝源氏物語絵巻と紫式部日記絵巻からの借用で、どうしても「すすむし」の言葉を入れたかったらしいのですって。
    だから詞書は女三宮の女房が描かれている鈴虫一からとっていて、しかも下の部分は消えていて・・・。絵のほうは鈴虫ニの方で。多分、物語の内容について左程深くはわからずに採用したのではないでしょうか。
    つまり、不義の子である冷泉帝と光源氏対面の場という認識があったかどうか・・・。

    ただし、文字の点から見ると、隷書(れいしょ)であるとか篆書(てんしょ)であるとか、文字の歴史を語る上ではカタカナ以外のすべて(数字もアルファベットも)含まれているということです。
    一般の不評は、内容よりもひとえに使い勝手の悪さのような気がしますあせあせ
    個人的にはとても綺麗なお札だと思っていますが。
  • mixiユーザー

    mixiユーザー2013年06月29日 03:02
    > ぶたふぃーぬ様

    お越しいただき、コメントをいただき、ありがとうございます。
    時々、「源氏物語を原文で鑑賞しよう」コミュニティを覗いています。

    先日、ニュージーランド人と「日本のシンボル」について話をする機会があり、「"Tales of Genji"は、日本のシンボルだ」と主張しました。「女性が書いたノベルとしては世界最古のものであり、内容も素晴らしい。バンク・オブ・ジャパンは、ゲンジのイラストレーデッド・スクロール(絵巻)の絵を2000円札にプリントした」と。そのニュージーランド人からは「その札はメモリアル用(記念紙幣)か?」と訊かれてしまいましたが(笑)。

    このお札が流通しなくなった理由は、色々とあるのだと思います。上に記したのは、そのうちのひとつにしか過ぎないかも知れません。個人的には、源氏のことだけではなく、沖縄が描かれてることも含めて、とても残念に思っています。

    今、若菜から幻までを原文で読んでいます。このあたりを中心にして、コミュニティの方にも参加したいと思っています。

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